超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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遅くなって申し訳ありません!リアルで教習所の試験を受けていたため、ごたついていました。
余り長話するのも難ですから、早速本編をどうぞ。


30話 邂逅の時

「ベリアルエッジッ!」

 

「おっと!」

 

俺はテルミの頭上を陣取り、剣に黒い炎のようなものを纏わせながら、術式の応用による空中制御でそのままテルミに突っこんでいく。

対するテルミは特に迎撃をすることはせず、避けたところを攻めるつもりなのだろうか、後ろに飛びのいて攻撃を避けた。

攻撃を外した隙を突く為にテルミは一度距離を詰め直してから墜衝牙を放ち、俺は剣を下から上に振り上げ、テルミの攻撃にぶつけることで防いだ。

そこから即座にテルミは右足に碧い炎のようなものを纏わせた蹴りを放ち、俺も同じタイミングで黒い炎のようなものを纏わせた剣を上から縦に振り下ろす。

 

 

蛇烙(じゃらく)・・・閻獄穿(えんごくせん)ッ!」

 

「シードオブタルタロスッ!」

 

俺は剣を鎌に変形させて刃の付け根部の先端から血の色をしたエネルギーの刃を発生させ、それを左から水平に思いっきり振るう。

テルミはそれに合わせて、地面から、蛇の頭を形どった碧い炎のようなものを自分の眼前に入るように飛ばす。

俺が鎌を振るったことで出てきた三つの三日月状の刃と、テルミが放った蛇の頭が激突し、俺たちの間で小さい爆発を起こし、それによって発生した煙が俺とテルミの視界を覆った。

そして、煙が晴れるとお互いに無傷な相手を確認することができた。

 

「テメェ・・・『イデア機関』はぶっ壊れてたんじゃねえのかよ?」

 

「突貫工事で直したよ・・・テメェをブッ飛ばして、あいつらを助ける為にな」

 

イラつきながら訊いてくるテルミに、俺はニヤリ顔で答える。

何発か飛ばし気味に打ち合ってみたが、体の方は全く問題ない。寧ろもう少し飛ばしてくらいだった。

 

「・・・突貫工事だぁ?どういうことだテメェ・・・。こっちにココノエはいねぇだろうが・・・」

 

「あら?私を忘れたのかしら?『イデア機関(それ)』はココノエが作った模倣事象兵器。なら、その元になった事象兵器(アークエネミー)を作った私が直せてもおかしくは無いでしょう?」

 

「・・・あ~マジか。そういやそうだったわ・・・めんどくせえことしてくれやがったな・・・!」

 

テルミの持った疑問にはナインがニヤリとした笑みを浮かべて答え、それを聞いたテルミは舌打ちをしてイラつきを露わにする。

 

「・・・ん?貴様・・・魔女の見た目では私とキャラが被るではないか・・・」

 

「よく分からない言いがかりね・・・まあいいわ。ご指名されたのならお相手しましょうか」

 

ナインの見た目と、変身をする前のマジェコンヌの見た目はどちらも魔女のようなものであり、確かに外見だけだったら被るだろうな。

そして、当然ながらこの世界に来てから日が浅いナインがマジェコンヌのノリを理解できるわけはないが、挑まれたからには全力で追い返す事をナインは選択した。

 

「あなたたち、加勢するわよ」

 

「すみません、ありがとうございます!」

 

「五人でかかれば、流石に何とかなるでしょっ!」

 

ナインの加勢宣言に対し、ネプギアは例を言ってラムは希望を見出す。

 

「一人増えたか・・・まあいい。増えたところで捻り潰すまでだからなッ!」

 

マジェコンヌは武器を構え直してからネプギアたちの方へと向かって行く。

対するネプギアたちが武器を構えて迎撃の体制を整えたことで、向こうも戦いが始まった。

 

「さて・・・直った『イデア機関(こいつ)』の勝手も分かってきたし、そろそろ行くか・・・!ブラッドカインッ!」

 

俺は両腕を一度腰辺りで交差させ、そこから一気に両腕を外側へ振る。

この時、俺の体の中心辺りから黒い炎のようなものが小爆発したかのように飛び散った。

 

「さあテルミ・・・覚悟はできてんな?さっきまでの借りを倍にして返してやるぜッ!」

 

「冗談も体外にしやがれッ!『エンブリオ』の時とはワケが違う・・・今度こそ勝つのは俺様だァッ!」

 

俺とテルミはそれぞれの武器を構え、互いに相手へ距離を詰めていった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「予定通りっちゅかね。後はオバハンたちが上手くやれるといいっちゅが・・・」

 

ワレチューは手に持っていたデジタル時計で時間を確認してから一度懐にしまい、そのまま術式通信の端末を取り出そうとして止めた。

今までの不調が治った万全のラグナがテルミと一対一で対決、レリウスがハクメンとナオトという少年を相手に凌ぎきる戦い、極めつけにはマジェコンヌが候補生の四人とナインを相手に大立ち回りをしているのが見え、邪魔することになると判断したからだ。

そのため、ワレチューは通信を諦め、念のためにとレリウスが用意してくれた異常感知用の端末を取り出して確認する。

 

「反応は無し・・・ちゃんと動いてるか不安っちゅねえ・・・」

 

これはレリウスやテルミのように、別の世界から誰かが来たら反応するように作ってはいるが、如何せん情報不足で作った急造品だから期待するなよとは言われていた。

そのため、ワレチューは動いてるかどうかが分からず首を傾げることになっていた。

 

「まあ、動いたら動いたで良しとして・・・退散の準備を始めておくっちゅかね」

 

ワレチューは一度端末をしまい、荷物を纏め始める。彼らは元々、それぞれが目的を果たしたら。または万が一のことがあったら各々の判断で退散するように決めてあり、ワレチューは依頼分を果たすという目的を終えている為、前者の理由で退散を決めたのだ。

そうしてワレチューが荷物を纏めている最中に、アイエフたちはワレチューから一番近い物陰に隠れることができた。

しかも運のいいことに、ワレチューから見たらアイエフたちは背後を陣取ることができ、奇襲してワレチューを無力化するもよし、またはワレチューを無視して回り込むこともよしという状況を作れた。

 

「とりあえず後ろ向いててくれて良かったわね・・・」

 

ワレチューがこっちに気づいてないことにアイエフは心底安堵した。イストワールの伝言を伝えてる最中にテルミたちを呼ばれたりでもしたら堪ったものではないからだ。

 

「これからどうするですか?」

 

「そうね・・・」

 

コンパに訊かれてアイエフは顎に手を当てて考える。

一つは思いついたのだが、それは確証が得られないので実行しようか迷うものだった。

 

「一つ思いついたんだけど、どうしても決め手に欠けるの。あのネズミをそれで止められる保証がなくてね・・・」

 

「アイちゃん。それはどんな方法ですか?」

 

顎に手を当てながら自分の心境を伝えると、コンパは迷いなく訊いてきた。

どうやら悩むくらいなら教えて欲しいようだ。コンパの意を理解したアイエフは決意してコンパに話すことを選んだ。

 

「実は・・・コンパには、あのネズミに話しかけて注意を引いて欲しいの」

 

「えっ?そんなことだけで大丈夫ですか?」

 

真剣な表情なアイエフから予想以上に簡単な事を頼まれたので、コンパは拍子抜けしたような驚きをして訊き返した。

 

「それだけだけど、思った以上に重要なことよ?何せ私がみんなに伝え終わるまで持たせなきゃいけないんだから・・・」

 

戸惑っているコンパにアイエフは事の重要性を話すと、コンパはそこでハッとする。

確かに聞いただけであればとても簡単な事ではあるが、いざ実行しようとなれば非常に難しいものに変わる。

しかも失敗すればアイエフの身に危険が及んだり、ネプテューヌたちを本当に助けられなくなる危険性が出てくるので、失敗は許されない。

 

「わかったです。それなら、私も頑張るです・・・でも何を話せばいいです?」

 

「そうね・・・とにかく、あいつと長く話せる内容がいいわね。コンパが医療系の仕事してるんだから、それを使ってもいいし・・・」

 

《或いは、あのネズミからあの同盟結成の流れを訊いてみるのもいいかもしれないわね》

 

重要さがよく分かったコンパは柔らかい笑みを見せて承諾するが、具体案が無かった為アイエフに訊いてみた。

素で訊いて来ているのが分かったアイエフは一つ案を出し、そこにラケルがもう一つ案を出す。それを聞いたコンパは「なるほど」と呟きながら頷いた。とにかく話が続けられるように話題を見つければよさそうだ。

 

「それなら大丈夫そうです」

 

「なら良かった・・・それじゃあお願いね」

 

「はいです。ちょっと行ってくるです」

 

話が決まり、コンパは崖から身を出して前に出て、一度深呼吸をする。

 

「あ、あの・・・ネズミさん」

 

「んぢゅーっ!?」

 

―自分のことを呼ぶ天使は誰だ!?ワレチューが思わず声のする方を振り向くと、そこにはコンパがいた。

コンパ自身は何やら緊張している様子だが、声をかけられて舞い上がっているワレチューには一切関係がなかった。

 

「い、一緒に・・・いっぱい、お話ししないですか?・・・あっちで」

 

「おっぱ・・・!?おっぱいい話しっちゅかっ!?」

 

「はいですっ♪」

 

コンパはアイエフたちから引き離せる場所の方を指さす。

わざわざそんなことの為だけに来たのが信じられないワレチューは思わず空耳混じりで聞き返すものの、コンパはそんなことを気にも留めず満面の笑みで肯定した。

それからコンパは回れ右をし、「じゃあ、こっちです」と指さしながら歩いて行く。

 

「こっ・・・コンパちゅわぁ~んっ!」

 

コンパとお話ができると言う嬉しさのあまり、完全に舞い上がったワレチューは周りの警戒など一切せず、荷物を積めたリュックを背負ってコンパを追いかけた。

そのため、すぐそばにいたアイエフとラケルは、いともあっさりワレチューのマークをクリアしてしまったのだった。

 

「拍子抜けするけど・・・行きましょうか」

 

《ええ。急ぎましょう》

 

呆れ半分にワレチューを見送ったが、今はそれどころでは無いので、アイエフとラケルは急いで四人の元へと走った。

近づいてみると、結界の底から黒い水が溜まっているのがよく分かった。

 

「昨日はあんなの無かったわよね?」

 

《ええ。昨日は何もなかったわね・・・ということは、これが奴らの本命と見ていいわね》

 

アイエフの問いに肯定しながら、ラケルは自分の考えを示した。

もしラケルの予想通りであれば近いうちに手遅れになるのは目に見えていた。

であれば急ぐしかない・・・。アイエフはそのまま結界に密着して中の様子を確認すると、昨日と同じ姿勢のまま女神たちが拘束されているのが確認できた。

 

「ネプ子っ!」

 

「・・・アイちゃんっ!」

 

自分の声が聞こえるかどうかを確認するため、中にいるネプテューヌを呼んでみると、自分のことに気づいて喜びの声を上げた。

また、他の女神たちもアイエフの方を振り向いているため、全員に聞こえることが分かった。

 

「イストワール様から伝言を預かってるの・・・聞いてもらえる?」

 

アイエフの問いに、ネプテューヌが真剣な表情になって迷わず頷いた。

それによって問題ないと判断したアイエフは、携帯端末を操作してホログラフィックのイストワールを映し出した。

 

『皆さん。大変なことがわかりました・・・アンチクリスタルの力は、シェアクリスタルから皆さんのリンクを邪魔するだけではないようです』

 

『・・・!?』

 

イストワールの言葉に四人は衝撃を受ける。こちらの力を無力化するだけじゃなく、他にもあると言う事実が、彼女たちの不安を煽ったのだった。

 

『アンチクリスタルは、行き場の失ったシェアエナジーをアンチエナジーと言うものに変える働きもあるようで・・・密度の濃いアンチエナジーは、女神の命を奪うと言われています』

 

映し出されているイストワールが言葉を続けている最中に変化は起きた。

結界の底に溜まった黒い水が一定以上の量を溜めこんだのか、その水の中から黒い腕のようなものが幾つか現れ、彼女たちの体を掴んだ。

 

「えっ?ちょっと・・・何これ!?」

 

「わかりません・・・冷たい?」

 

その腕に掴まれたノワールとベールが困惑した声を上げる。

その腕の異様な冷たさに、彼女たちの体温は急激に奪われ始めていた。

 

「ね、ねえ・・・考えたくないんだけどさ、これがいーすんの言ってた女神を殺す・・・ってやつじゃないのかな?」

 

「・・・その可能性が高いわね。密度の高いアンチエナジーだなんて、これしか考えられない」

 

ひきつった笑みを見せながら訊くネプテューヌに、ブランは苦し紛れな顔で肯定する。

ブランの推察があっていれば、このままではいずれ死ぬ。しかし、身動きを取ろうにも一切取れない。そんな絶望的な状況が彼女たちに更なる恐怖感を与えてしまうことになった。

 

「ど・・・どうすればいいのいーす~んっ!?」

 

イストワールから聞いた話と、まるで狙っていたかのようなタイミングで現れた黒い腕。

更にそれらが次々に水の中から現れて彼女たちの体をを掴んで行くため、迫りくる死への恐怖感は更に増していく。

そんな最悪なタイミングでこうなってしまった為、ネプテューヌも涙目で叫び気味になっていた。

 

『わかりません・・・せめて、三日あれば・・・』

 

こんな時にまでいつも通りなイストワールの言葉は安心など一つもなく、「それじゃあ遅すぎるよぉっ!」とネプテューヌは思わず言いそうになるが、それをもう一つの声が遮った。

 

『お前ら気を付けろッ!こんな時に限ってまた誰か来やがるぞ!』

 

「噓でしょ・・・?ラグナ、場所はどこか分かる!?」

 

ラグナから予想外過ぎる言葉が術式通信で飛んできたので、応答だけは即時にできるアイエフがそのまま応答した。

 

「ネズミ、私がそちらに回した装置は動いているか?」

 

『動いてるっちゅよ。いきなりビービーデカい音がしたからビックリしたっちゅよ・・・』

 

念のために周りを見て見れば、レリウスやテルミも術式通信を行っており、異様な勢いの停滞に困惑したマジェコンヌですら攻撃の手を止めていた。

ネズミから動いていると言うことを聞けたレリウスは「それは良かったと」一言残した。

 

『ちょっと待ってろ・・・これさえ消えちまえばすぐに・・・!?オイオイ・・・そんなのアリかよ?』

 

「・・・?どうしたの?ハッキリ答えてっ!」

 

まるで信じられない。そんな声を発したラグナに対し、非常事態なので急いでいたアイエフ思わず強い言葉で急かした。

それを聞いたラグナは一度落ち着かせ、その位置を話すことにした。

 

『アイエフ・・・お前のほぼ真上だ』

 

『・・・!?』

 

「・・・何ですって?」

 

ラグナから告げられる緊急事態に、アイエフは耳を疑ってしまった。

―いくら何でも真上は無いだろう。今のアイエフはそんな気持ちでいっぱいだった。

ましてや昨日、ナオトが高空から落ちてきたばかりだと言うのに、これ以上誰が上から来るというのだろうか?正直なところ信じたくは無かった。

 

「ところで、凄い慌ててたけど、これから来る奴が誰だか分かってるってことなの?」

 

『ああ・・・前に外的要因が無い限りはもう平気だって、俺が言ってたのを覚えてるか?』

 

「確かに覚えているけど・・・。ちょっと待って?まさかだけど・・・!」

 

アイエフに問われたラグナが答えると、そこで気づいたアイエフは額から嫌な汗が垂れた。

ラグナの言葉で誰が来るかを予想できたナインとナオトは焦り、ハクメンは己の中からこみ上げてものをどうにか抑える。

レリウスとテルミは大方話の内容に察しを付けてニヤリとし、状況がわからないワレチューと、言いようのない何かを感じるネプギアは不安を抱えたまま警戒の体制に入った。

 

『今回来たのは・・・その外的要因だ』

 

ラグナは重々しい口を開いてアイエフの考えていたことを肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに机、それから物入れ用の棚が置かれている簡素な部屋で、少女はそのベッドの上で横になっていた。

傷を負って見えなくなってしまったのか、包帯で右目を覆い、白い髪と左目から紅い瞳を覗かせている少女は、大切な何かを失ってしまったかのように虚ろな瞳で、ただただ目の前を見ていた。

自分がここに来る前まではあったと思うのだが、少女は何も思い出せない。思い出そうとすれば、途端に(もや)がかかって解らなくなる。

そんな風に何も得られないまま、無情にも時間が過ぎていった。その間、心に大きな穴が開いてしまった少女は、無為に時間を過ごしていった。

 

「うわ~、試食は・・・」

 

「・・・だからぁっ!」

 

窓の向こうからこの場所で自分を養ってくれている人と、その友人であろう人達の話し声が聞こえてくるが、少女は別段興味を持たなかった。

直後に開いている窓から自分の顔に風が吹き付けてくるが、まるでどうでもいいとでも言うかのように少女は動じない。

 

「(・・・何だったっけ?あんなに大切だったものは・・・)」

 

もう一度思い出そうとしたが、やはりすぐに靄がかかってしまい、今回も空振りで終わってしまった。

―また今日もこのままなのだろう。そう思っていた少女の眼前に、突如として蒼い球状の何かが現れた。

それを見たところで少女は特に驚いたりはしなかったが、蒼い球を見た瞬間に少女は大切なものを思い出し、瞳に光を取り戻す。

 

「(思い出せる・・・自分がどう思っているかも、どうしたいのかも・・・)」

 

少女は思い出した・・・いや、思い出してしまった。

自分があれだけ求めていた人のことを。そして、自分がその人とあってどうしたいかも。

狂った望みを取り戻し、ここにいるべきではないと思った少女は蒼い球に向けて、殆ど寝たきりだったせいで上手く動かない右腕を伸ばす。全ては自身の願いの為に・・・。

 

「さあラグナ・・・ニューと一つになろう・・・」

 

少女、『ν-13(ニュー・サーティーン)』はその蒼い球の先にいるであろうラグナに声をかける。

するとその言葉に呼応するかのように、蒼い球は光り始め、広がった蒼い光がニューの体を包んだ。

 

 

 

 

その光が消えた時、その部屋にニューの姿は無く、再び吹き付けた風に晒されるのは彼女が乗っていたベッドだけだった。

そしてこれは、一人の男が奮闘して創り上げた、『全ての悪夢』が消し去られた可能性に溢れる世界に起きた、確かなる異変だった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

アイエフのほぼ真上から、水色の一風変わったボディスーツの上に白が基調の薄い布を羽織っている白い髪をした少女が降りてきていた。

その少女が地面に降り立った時、アイエフとその近くにいた女神たちは少女の姿を見て息を吞んだ。

 

「っ!う、噓でしょ・・・?」

 

「・・・ネプギア・・・なの・・・?」

 

彼女たちは降りてきた少女を見てそう思わずにはいられなかった。

姿が完全に似ているわけではないのだが、纏っている雰囲気があまりにもネプギアと似すぎていたのだ。

特に、ネプギアと接する機会が多かったアイエフとネプテューヌは、その場にいた人たちの中でも大きく驚いており、思わず声に出してしまうほどだった。

少女はそんな彼女たちの声をよそに、ゆっくりと目を開ける。右目は眼帯のようなもので塞がれているので見えないが、左目はラグナによく似た紅い目をしていた。

 

「・・・・・・?」

 

自分の姿を確認した少女は戸惑いを見せた。

無理もない事だった。これは少女しか知らない事だが、彼女は先程まで白い簡素なワンピースを着ていて、右目を覆っていたのは今のように機械のものではなく、包帯だったからだ。

一通り自分の身なりの確認を終えた少女は、自分に望みを叶える力が戻ってきたことを再確認した。

そして、すぐに行動を移そうとしたが、流石に何も判らないまま動くのは良くないと判断し、周囲の状況の確認を始める。

 

「情報・・・検索・・・照合・・・ゲイムギョウ界・・・該当データ無し」

 

少女はまるで機械のように周囲の状況を探り始める。その場から一歩も動かず、首を回すこともなく、ゲイムギョウ界と自身の置かれた状況の理解に務めた。

 

「ねえ・・・なんかあの子の様子変じゃない?」

 

「そうね・・・まるで人形みたいな感じ・・・何なのかしら?」

 

ネプテューヌの持った疑問にノワールは肯定するものの、どうしてそう感じたかが分からず、考え込んだ。

 

「周辺人物確認・・・該当データと一致する存在有り。ユウキ=テルミ・・・創造主レリウス=クローバー・・・大魔導士ナイン・・・。・・・フフッそして・・・」

 

一人、また一人と機械のように無感情な声で彼女は人物の名を呟く。やがて、自分の求めていたものを口にする時が来た瞬間、少女の口元は緩み、声色は媚びるようなものに変わる。

 

「・・・ラグナ・・・。フフッ・・・」

 

「あの子もラグナが狙いなの?」

 

「一体・・・どれだけの因縁を・・・ラグナさんは抱えていらっしゃいますの?」

 

ハクメンといい、テルミといい・・・元の世界でラグナはどうしてそうなってしまったのか。予想よりも因縁を持つ相手が多すぎることにブランとベールはこれ以上考えたくないと言わんばかりに呟いた。

そして、考えている最中に、先程ノワールの持った疑問にヒントが舞い込むかのように、少女へ術式通信が入った。

 

『おい人形(・・)第十三素体(・・・・・)ッ!』

 

「・・・なに?」

 

テルミの呼びかけに、さっきまで嬉しそうにしていた少女は、一瞬で非常に不機嫌な表情になり、嫌悪感を剥き出しにして答えた。それもまるで大切なものの敵とでも言わんばかりにだった。

『人形』。そして『素体』。その呼び方の真意が分からず、ノワールたちは困惑した。

 

『テメェの愛しのラグナちゃんはこっちにいるぞぉッ!今から頼むことやってくれたら、テメェの思う存分ラグナちゃんと()り合わせてやるからよぉ・・・条件をきいてくんねえかな?』

 

「いいよ。どうすればいいの?」

 

先程まで嫌悪感が剥き出しだった声はどこへ行ったことやら。再び『第十三素体』と呼ばれた少女は嬉しそうな声を出してテルミに訊いた。

どうやらよっぽどラグナに執着しているらしい。この短時間の会話を聞いただけなのに、それが分ってしまう程少女が持つラグナへの執着心は凄まじいものであった。

 

『そりゃ話が早い・・・そんじゃあさ、その結界の中にいる四人は無視していい。すぐそばに一人いるだろ?そいつを潰しておいてくれや。終わったらそん時こそ交代だ・・・』

 

「・・・フフッ。了解」

 

テルミが出した条件を聞き、それならば容易いと判断した少女はすぐに嬉しそうな声で答えた。

そうして、やることをすぐに纏め終えた少女はアイエフの方に向き直る。

するとその直後、まるで少女に呼応するかのように彼女の背後に何かが急降下してきた。

 

「うぅ・・・っ!?」

 

その勢い良く、その何かが地面に激突したので、それによって発生する土煙に目をやられないようにアイエフは両腕で顔を覆った。

煙が晴れると、彼女の背後に降ってきたものの正体が露になっていく。

彼女の背後に降ってきたものは、白の巨大な剣のようなもの・・・だった。それを見た時、ラケルの息を吞む音が聞こえた。

 

《そんな・・・あの子も持っているの!?》

 

「何か知っているの?」

 

《ええ。以前あの子と同じものを使っている人がいたの・・・。そして、その子はナオトにご執心だったわ》

 

「・・・何の因果よそれ・・・頭が痛くなるわ・・・」

 

ラケルの話を聞いたアイエフは苦い顔をした。

確かにナオトがラグナと間違えるくらい似ているのはあったが、よもや違う世界から全く同じものが来るとは思わないだろう。

ラケルの驚き方から、それだけ想定外だったことが伺えた。

 

「・・・?アンタ、コレ知ってるの?まあいいや」

 

少女はラケルが自身の『ムラクモユニット』を知っていることに疑問を持ったが、興味が無いのでその考えをすぐに捨てた。

少女は敵を排除するために、自身の体と背後の剣のようなものを光に包んだ。

女神たちの変身とは違い、彼女を光に包んでいた時間は僅かに数瞬のみで、爆発するように光は消えた。

光が消えると、少女の背後にあった剣のようなものは姿を消していて、代わりに白い布ではなく、手足に刃物付きの鎧を纏い、目元をバイザーで覆って、自身の背後に浮遊する八枚の刃を携えてる姿の少女がそこにいた。

その姿を変えた少女が放つ、危険なものを感じたアイエフは思わず目を見開いた。

 

「アンタには悪いけど・・・ニューがラグナと一つになるのに邪魔だから、ここで死んでもらうね」

 

「っ!」

 

ニューと名乗った少女は八枚の刃の内一枚を自分の右肩辺りまで動かし、アイエフを指さすことでその刃をアイエフへと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?お、おいッ!大丈夫だよな!?生きてるよなッ!?」

 

先程のラグナが言っていた方から何かが地面を抉った音と、そこから巻き起こる土煙が見え、不安になったナオトは真っ先に術式通信でアイエフを呼んだ。

ラグナたちとは別の世界から来ているナオトではあるが、『ムラクモユニット』の能力を知らないわけではなかった。

ナオトとラケルは自分たちのいた世界で、『御剣機関』と言う場所に所属している緋鏡(ひかがみ)キイロと言う女性が『ムラクモユニット』を使用している姿を目の前で見ていたからである。

また、不思議なことにナオトとキイロの心臓の鼓動は全く同じであり、彼女は『分かれた欠片同士』である自分とナオトの『二人で初めて一つになるため』にナオトを求めている。

テルミの通信から聞こえてきた少女の声は、ラグナのことになると病的なまでに執着しているように見えることから、ナオトは自分とキイロのようだと感じていた。

 

『だ、大丈夫!まだ生きてるわ・・・。けど、このままだとヤバいから、誰か一人こっちに・・・きゃあっ!?』

 

「・・・アイエフさん!?お、おいッ!」

 

幸いにも応答こそしてくれたものの、まともに話ができる状態では無かったようで、アイエフの短い悲鳴の直後に再び地面を抉る音が聞こえ、土煙がまた一つ発生した。

それによって通信も途切れてしまい、慌ててナオトはもう一度呼びかけるが、反応は無かった。

 

「これなら、向こうは気にする必要がなさそうだな」

 

「ヒヒッ。予想通りのご執心っぷりだなァ・・・。ホラ、早くしねえとあいつが死んじまうぞ?ケヒヒ・・・」

 

その様子を見てマジェコンヌは安心した笑みを、テルミはさも愉しそうな笑みを見せた。

向こうは邪魔を排除できるからそれでいいのだろうが、こちらからすれば早くしないとアイエフがやられる危険性が高いので急がねばならなかった。

 

「ニュー・・・あいつ・・・」

 

ラグナは今すぐにでも行きたかった。アイエフを見捨てるつもりなど元よりなく、元の世界で結局助けることのできなかった彼女を、今度こそ助け出してやりたかったからだ。

 

「・・・少年よ。レリウスを一人で相手することは可能か?」

 

「レリウスを?そうだな・・・倒さねえでいいんなら、まだやりようはあると思う」

 

ラグナの意図に気づいたハクメンはナオトに訊いてみた。ナオトは一瞬考えるが、拮抗まで持って行けばいいのなら十分やれると判断して肯定した。

いくらレリウスが並みの人より強いとは言え、元々普段から戦闘行動をしない研究者である為、限界はあるのだ。

 

「ならば決まりだ・・・。頼むぞ」

 

「・・・ああ!」

 

話を決めた二人は早速行動に移す。ハクメンは『斬魔・鳴神』を構えてからテルミの方へ駆け出し、ナオトは一度目を閉じて集中を高めた。

そして、ナオトは女神たちを助けようとした時と同じように、白い髪と鮮血のような目を持った状態に変わった。

 

「あの二人が大丈夫かどうかは気掛かりだが、今はあいつを信じて、ここを乗り切るだけだッ!」

 

「ほう・・・お前が来るか。丁度いい。『蒼の男』とお前の類似点も確認しておきたかったところだからな」

 

レリウスはハクメンを逃がしても対して気にしておらず、そのままナオトと対峙することを選択した。

その意図を何も言わずとも理解できるイグニスは、すぐにレリウスの隣まで移動し、まっすぐな姿勢でナオトを見据えていた。

イグニスは戦闘態勢の時と、平時の時の姿勢に殆ど変化がなく、パッと見ではわかりづらいものの、向こうの世界で一度だけナオトは見ていた為、もうイグニスが戦える状態なのを理解していた。

 

「頼んだぜラグナ・・・!絶対に助け出せよッ!」

 

「さあ。お前の魂の輝きを、改めて私に見せてみろ・・・」

 

ナオトがレリウスの方へ走り出し、レリウスがイグニスを自身の前に立たせたことによって、彼らの戦いが始まった。

また、ハクメンの方も、戦闘が一時的に中断していたことでニューの方を見ていて無防備も同然になっていたテルミへ肉薄する。

 

「ッ!?」

 

「ズェアッ!」

 

テルミはその殺気に気づき、急いで振り向くとそこには『斬魔・鳴神』を振りかぶっているハクメンの姿があった。

ハクメンは見たら最後だと言わんばかりに、『斬魔・鳴神』を上から縦に振り下ろす。テルミは反射的に横へ飛びのくことによってそれをどうにか避ける。

 

「あ、危ねえ・・・!いきなり何しやがんだテメェ・・・!」

 

「ラグナよ・・・行くならば早く行くが良い」

 

「ハクメン・・・本当にいいのか?」

 

恨みを持ったように怒気の籠った声で自分に問いかけるテルミをよそに、ハクメンはラグナへ促しをかけた。

この時、ラグナが戸惑った理由として、ハクメンもまたニューによって大切な人を多く失っていることにあった。

特に、ツバキ=ヤヨイを目の前で殺されてしまったことは、彼の揺るぎないニューへの憎悪だったこともあり、それを理解しているラグナはすぐに走って行くことができなかった。

 

「私も以前ならば他者の意見など省みることはしなかっただろう・・・。他に手段があるのならば、それを試しても良い・・・今はそう思えている私がいる。あの時から、御前の戦いはただ敵を倒す為のものから変わった・・・そうであろう?」

 

「ハクメン・・・お前・・・」

 

ハクメンから発せられた予想外の言葉にラグナは驚きを隠せなかった。

口にした通り、以前のハクメンであれば、他者の言葉に殆ど耳を貸さず、我が道を突き進み続けるところだった。

しかし、ハクメンはこの世界に来てから女神たちと触れ合い、ラグナとの腹を割っての話をして自分を見直す時間ができていた。

最終的に『正義』を貫く道こそ変わらなかったものの、知らず知らずのうちに、共に秩序を護る者たちが持つ正義に耳を傾けても良いと言う考えを持つようになっていた。

 

「御前のやり方で不可能だと判断したときは私に言え。私のやり方であの哀れな少女に幕を引くのは、其の時とする」

 

「ラグナが行くなら私も異論は無いわ。あんたが行けば、あいつも少しは動きを止めるはずよ」

 

ハクメンが『斬魔・鳴神』を構え直しながらテルミの方へ振り向いて言った言葉に、ナインが賛同を示した。

現状、ニューの介入によって一時的に戦闘が停止していたため、ナインはそのままラグナに話しかけていた。

 

「それに・・・せっかくのチャンスじゃない。その口ぶりからすると、まだ助けきれてないんでしょう?」

 

問いかけるナインの表情が笑みに変わった。どうやら、ナインもラグナがニューに救いを与えることは賛成のようだ。

恐らく、彼女も『エンブリオ』にいた頃であればこの事には・・・否、そもそもラグナの行動一つ一つを否定していただろう。

ナインが賛成するに至ったのは、セリカが今ある世界を好きだと言ったこと。そして、ラグナが揺るぎない意思を持ったまま行動し、事を成し遂げて見せたことにある。

 

「ほら、早く行ってきなさい。こっちは私たちでどうにでもして見せるから」

 

「大丈夫、体が重くても、何とかして見せるからっ!」

 

「ラグナさん・・・お願い・・・」

 

「アイエフさんのこと・・・お願いします!」

 

「できればお姉ちゃんたちも頼みますっ!」

 

ナインに続いて候補生の四人が次々に背中を押すように言葉をかけてくる。

彼女たちはアイエフを助ける為にラグナに行ってもらうことを選んだのだった。

 

「お前ら・・・」

 

ラグナはそれにありがたいものを感じて少しだけ目を閉じる。

そして、意識を固めたラグナはゆっくりと目を開けた。

 

「悪いな・・・それなら行ってくる!そっちは頼んだぞッ!」

 

「テメェ・・・行かせるかよッ!」

 

ラグナが自分に目もくれずに走り過ぎていったのを見たテルミは、ラグナの足を止める為に『ウロボロス』を伸ばすべく手を回した。

 

「そうはさせんぞッ!」

 

「ぐおぉッ!?」

 

しかし、それは自分の正面に回り込んできたハクメンが、左足で自身を蹴り飛ばしたことによって阻止され、テルミは『ウロボロス』を一度引っ込めることになった。

 

「ハクメンちゃん・・・二度も俺様の邪魔してくれやがったなァ・・・!この落とし前はたたじゃ済まさねえぞッ!つか、前々思ってたがテメェそんな奴じゃなかっただろ?なんだって急にあの第十三素体を真っ先に殺しに行こうとしなくなったんだ?」

 

怒りに震えながらも、テルミはハクメンに自分が持った疑問を投げかけることを忘れない。

彼らの事情を詳しくまでは分からないテルミからすれば、今のナインはともかく、ハクメンは明らかに異常だった。

ナインの方はセリカがいた以上、彼女を護る為の行動だと理解できる。

しかし、ハクメンの方はそうも行かなかった。あれ程『悪』の集約点のラグナとニューを前にすれば、何事も無い限りハクメンは問答無用で滅しにかかる。そういう男だった。

そうだと言うのに、彼の口ぶりからしてラグナとは今や無条件で共闘している状態で、極めつけにはニューを前にしたというのに彼は自分が倒しに行こうとせず、ラグナの意思を尊重し、彼を先に行かせた。

昔のハクメンを知って今のハクメンを知らぬテルミからすれば、疑うなという方が無理な話であった。

 

「そうか・・・貴様は知らぬのだったな・・・ラグナは此の世界における『正義』の力を得て、今や『正義の代行者』となった。故に私が斬る必要はない。そして、ラグナが奴に集まる『悪』を取り払えるのならば、その時も私が斬る必要は無くなる・・・。憎しみが無いと言えば嘘にはなるが、その根底にあるものが消えるのならば、抱え続ける必要もないからだ」

 

テルミの疑問に、ハクメンは一切の迷いなく答える。

その迷いなき姿勢こそ暗黒大戦時代に『黒き獣』を屠る為に剣を振るったハクメンと同じだったが、そこから感じさせるものは明らかに違い、ただ己の『正義』を貫くだけの修羅から、皆と共に歩み、それぞれの『正義』を理解し、『秩序』護ろうとする・・・ラグナとは違う意味で不器用ながらも真っ直ぐな男の姿があった。

 

「確かに、我が剣は全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅する為にある・・・。だが、仮に『悪』を消し去り、『善』を残せるならば、それもまた『悪』を滅する一つの道だ」

 

「・・・その調子なら、もう一人で勝手な事をするなんてなさそうね」

 

「あの時は非礼を働いたな・・・」

 

リーンボックスの教会で薄々と変化に気づいてはいたものの、この場で改めてハクメンの変化を実感できたナインは安堵の笑みを見せていた。

事実、ハクメンは暗黒大戦時代の時には殆ど自分本位で動いていた。この時間に集合だと言われても時間を守らず、調べたい場所があると言うから、着いていったら「着いて来いとは言っていない」の一言で一蹴しようとしたこともあった。

そのハクメンは今、ゲイムギョウ界で時を過ごしていく内に、まともに話は聞くようになり、他人がついてきても余程のことでなければ拒否したりはしなくなっていた。

これらはこの世界で心の余裕や、仲間意識といったものを取り戻したハクメンならではのものだった。現に今もナインに対して謝罪を返すことから、自分の非もしっかりと反省するくらいになっていた。

 

「いえ、いいわ。あんたが少しはまともになったのが分かっただけ十分。それなら早速テルミの撃退を頼むけど、構わないわね?」

 

「何も問題は無い。引き受けさせて貰おう・・・」

 

二人は短く会話を終えて、互いの敵の方へと向き直った。

一度は馬が合わないながらも共闘し、一度は世界の在り方を見て出した考えの違いから敵対したが、三度目に渡る今回は互いに信頼関係を持った共闘だった。それを嫌と思うはずも無かった。

 

「さて・・・待たせたなテルミよ。此処からは私が貴様の相手を務めよう」

 

「・・・ハッ。言ってくれるなハクメンちゃんよォ・・・。散々コケにしてくれた分、この借りは倍にして返してやるよ・・・」

 

「ならば、私は其れを打ち払うまでの事だ」

 

見るからに余裕そうな態度を見せるハクメンを前に、テルミは憤慨するものの、ハクメンは全く気にする様子が無かった。

ハクメンの中には今、ラグナたちと協力して四人の女神を助け、目の前の『悪』を滅することだけがあった。

 

「ハクメンさんっ!いつもの前口上、言っちゃおうよっ!」

 

「言っちゃおう・・・」

 

「・・・そうだな。ならば行くとしよう」

 

ロムとラムに促され、ハクメンは頷いてから『斬魔・鳴神』を腰辺りに持ってきた。

 

「我は『空』、我は『鋼』、我は『刃』!我は一振りの剣にて、全ての『罪』を刈り取り、『悪』を滅するッ!」

 

ハクメンが言葉を紡ぐたびに、揺れの感覚は短くなり、揺れが止むと同時に、ハクメンの後頭部から伸びている髪が一瞬だけ扇状に広がる。

 

「何だ!?地震・・・?」

 

その揺れを感じ取ったナオトは初めてみたものだったため、思わずそちらを振り向いてしまった。

幸いにもレリウスが戦闘を目的としていなかったことと、お互いに距離を離して体制を立て直す最中だった為、攻撃を受けることは無かった。

 

「我が名は『ハクメン』・・・推して参るッ!」

 

「俺様が持ってた躰を好き放題に使いやがって・・・こうなったら力づくで奪い返すまでだッ!」

 

ハクメンとテルミは同じタイミングで互いの方へ飛び込んでいく。

こうして二つ目の戦闘が始まり、残すはマジェコンヌと候補生の四人、ナインのいる六人となった。

 

「奴らも始めたか・・・。ならばこちらも始めるか?私はこのままでもいいが」

 

四人を見たマジェコンヌは自分から仕掛けようとはしなかった。

何しろ力の方は自分が有利で、状況も彼女たちが女神を助けられなければいいため、自分から仕掛けて返り討ちになるくらいなら待っていた方が目的を達成しやすいからだ。

勿論、ただ待っているだけでは性に合わないため、こうやって軽く煽ってみたりはしているが、来ないならそれでもいいとでもマジェコンヌは考えていた。

 

「いいわけ無いでしょっ!アンタの好きになんてさせないわよっ!」

 

「私たちはあなたを倒して、お姉ちゃんたちを助けます・・・絶対に!」

 

「・・・フフ。そうだ。やはりそうでないとな・・・。良いだろう。先程の攻撃を見ても立ち向かうのなら来るが良い。私は正面から踏み潰してやろう・・・」

 

真っ先にランチャーを向けながら反論するユニに、M.P.B.Lを構えながらネプギアが同意する。

マジェコンヌとしては、どちらかと言えばこうして立ち向かってくることを望んでいたため、両腕を広げて歓迎を示した。

 

「言われなくてもやってやるわよっ!」

 

「好きにはさせない・・・!」

 

ロムとラムも、マジェコンヌに言い返しながら杖を構えた。勿論、ナインもこのまま終わらせるつもりは無かった為、五人とも戦う選択肢を取ったことになる。

 

「無論、貴様も来るのだろう?そうでなければ、ここまで来た意味がなかろう?」

 

「ええ、当然よ。ついでに、再戦の火蓋を切ってやろうじゃない・・・激昂のルベライトッ!」

 

「・・・っ!?」

 

マジェコンヌの問いに答えながら、ナインは一度両腕を振りかぶってから下に振り下ろす。

するとその直後、嫌な予感がしたマジェコンヌは即座に右へ体一つ分移動した。

マジェコンヌが移動したとほぼ同時に、マジェコンヌの足の裏があった辺りであろう場所から、爆炎が一瞬だけ吹き上がった。

 

「・・・良いだろう。そうまで望むのなら、徹底的に叩きのめしてやろうじゃないかッ!」

 

マジェコンヌが五人の元へ飛び込むように距離を詰め始め、対する五人が迎撃の構えを取る。

こうして第二戦の幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「シックルストーム・・・ルミナススレイブ」

 

「くっ・・・」

 

ニューは地面に回転する黒い刃を走らせ、その間に自分の頭上に黒い剣を呼び寄せ、それをアイエフに向けて放つ。

連続で襲いかかって来る二段構えの攻撃は流石に避けるしかなく、アイエフは必死に横に飛んで避ける。

アイエフが攻撃を避けたのを見て、ニューは少し鬱陶しく思った。早くラグナのところに行きたいのに何故こいつはしぶとい?それはニューにとって非常に目障りな事だった。

 

「・・・風よっ!」

 

「カラミティソード」

 

避けてからすぐにアイエフは右手に持つ暗器を軸にし、ニューに向けて風を放ったが、ニューは自身の頭上から巨大な黒い剣を呼び出し、それを振り下ろして風を切り裂くことで無効化してしまった。

一日の練習で制度が上がっているとは言えど、たった一日ではドライブの力自体はそれほど変わるものでは無く、結果としてニューに対して有効打をことごとく潰されてしまっていた。

ラケルの方も、凌ぐくらいならできるかもしれないと思っていたが、流石にナオトのドライブの上昇速度と与えた身体能力を持っていない以上そこまでの無理はできなかった。

しかし、そんな不十分な状況であっても、まだ被弾をしていないのは元々の運動神経が生み出した賜物だろうと言える。

ただ、ニューはまだ望んだ通りの結果を得られておらず、それでも足搔き続けるアイエフを前に、ニューはもう我慢の限界がきていた。

 

「鬱陶しいなぁ・・・グラビティシード」

 

「・・・えっ?あうっ!」

 

ニューはアイエフの足元に重力が強くなる足場を作り出す。

それを攻撃だと思って避けようとしたアイエフは自分の足元に現れたことに驚き、そのまま増加した重力に耐えられず、顎から地面にぶつかることとなった。

アイエフは次に備えないと不味いと判断し、どうにか起き上がって避けようとするが、増えた重力を前に上手く起き上がれないでいた。

 

《・・・!アイエフ、早く逃げるわよっ!》

 

「分かってる・・・!でもこんな状態でどうやって・・・!?」

 

まさか重力まで操るとは思ってもみなかったので、ラケルは一瞬動揺するものの、即座に切り替えてアイエフを促す。

本当ならばすぐに代わってあげたいところだが、重力で叩き落とされてやり直すため、余計に時間がかかってしまうから、それは不可能だった。

 

「やっと捕まえた・・・もう。どうしてニューの邪魔をするのかな?」

 

「あの子・・・正気なの?」

 

不機嫌そうに言うニューを見て、結界の中で動けないでいるネプテューヌが思わず呟いた。

ネプテューヌだけでなく、捕らわれている女神たちは全員がそう思っていた。彼女はあまりにも危険だと。

アイエフが上手く起き上がれない今であれば、楽にとどめを刺せる。それを分かっているニューの表情は笑みに変わった。

それは確かに、嬉しさを表すものだったが、極めて危険な笑みだった。

 

「まあいっか。これでニューはラグナのところに行ける・・・今度こそニューはラグナと一つになる・・・。フフッ」

 

ラグナと何かをできるのがよっぽど嬉しいのか、ニューは狂いかけた笑いをしながら、背にある刃の一つを再び自分の右肩辺りに持ってくる。

 

「じゃあ、そういうことだから・・・アンタとはお別れ」

 

「・・・!」

 

ニューは無慈悲にアイエフを指差して刃を彼女へ飛ばす。

それを見たとき、女神四人と、ラケルには何もできない無力感が襲いかかり、身動きが取れないアイエフは思わず目をつぶる。

しかし、その刃は何者かの手によって弾かれた。それと同時に重力が元に戻ったため、勢いが余ったアイエフは思わず尻餅をついてしまった。

 

「・・・アレ?私、生きてる・・・?」

 

「危ねえ・・・どうにか間に合ったな」

 

「・・・ラグナ!?」

 

目の前に現れていた人物にアイエフは驚きを隠せなかった。誰か一人と確かに頼みはしたが、まさかニューの執着しているラグナが来るとは思わなかったからだ。

 

《ラグナ、残りの人たちはどうなってるの?》

 

「今は向こうで戦ってる。ニューと皆のことを俺に任せてな・・・」

 

ラケルに訊かれたラグナは簡潔に答える。向こうを見てみれば、確かに戦いが繰り広げられていた。

しかし、ハクメンとナオト、ナインの三人はまだ平気なようだが、候補生の四人はテルミが起動している『碧の魔導書』の影響で幾分か弱体化されているため、五人がかりでも厳しい面があるようだ。

 

「あ~っ!ラグナ、来てくれたの~!?本当に久しぶりだねっ!えーっと・・・何回目だっけ?」

 

まるで恋する少女になったかのような声を出して楽しそうに話しかけるニューを見て、その場に居合わせたラグナ以外の六人が絶句する。

確かに時折感情らしいものを見せてはいたが、それも全てこれほどまでに明るいものは無かったからだ。

 

「そうだな・・・『エンブリオ』を入れていいなら五回目じゃねえのか?それにしちゃ今までと様子が違う気もするが・・・」

 

立ち直りきれてない彼女たちとは対照に、ラグナはそこまで動じる事無く答え、自身の持った疑問をニューに問いかける。

 

「やっぱり?それもしょうがないよ。だって・・・今までニューにとっては何にもない世界にいたんだから・・・」

 

「・・・何にもない?」

 

ニューの答えにラグナはその意図が分からず問い返した。それを聞いたニューの口元は少し悲しそうになる。

 

「だって・・・ラグナがいないんだよ?ニューはいつまでもラグナと一つになれない・・・。望みを失って無気力に過ごしてたら・・・ほら、何にも無いでしょ?」

 

「(・・・まさかだけどな・・・)」

 

ニューの答えを聞いて、ラグナは一つの可能性を思考に入れた。

ゲイムギョウ界へ来る前に、ラグナは自分のいた世界で『全ての悪夢』を消し去った為、その後にでき上がった世界からニューが来てしまったかもしれないと言う可能性だ。

 

「でも、もうそんなことはいいの・・・。ラグナと一つになって、溶け合えればそれでいいの・・・」

 

「・・・全く。どの世界でもそれかよ・・・」

 

その悲しき選択をしたニューを見ながら呟いたラグナは、「新しい生き方だって、いくらでもあっただろうに」と嘆いた。

ラグナとしては、ニューがこれ以上戦ったりしないで済む世界だった為、自由に生き方を探して欲しかったのだが、彼女はそれができなかったようだ。

 

「良いぜ。テメェのわがままに付き合ってやる・・・」

 

「っ!ホントッ!?いいよ!殺り合おうッ!」

 

ラグナが剣を引き抜きながら告げると、ニューは嬉しそうに宙で一瞬だけ舞い、戦闘が行える姿勢を作った。

 

「ただ、前にも言ったが俺はテメェを『殺し』はしねえ・・・『壊し』たりもだ」

 

「・・・何それ?何でそうなるの?だって、ラグナとニューは互いに殺し合うんじゃないの?」

 

ラグナの言ったことを理解できず、ニューは戦闘態勢を解きながらラグナに訊いた。

ラグナは『エンブリオ』を彷徨う直前から『奪う』戦いを止めていて、『タケミカヅチ』の中でもニューはラグナの『救う』戦いを目の当たりにしているのだが、意図は理解できていなかったのである。

 

「俺が暗黒大戦時代に行く前だったらな・・・。けど今は違う。もう一度言うぜ、ニュー・・・」

 

事実、ラグナも明確な答えを出せていなかったときはそうだったことを肯定した。

確かに暗黒大戦時代に行く前まで・・・正確にはカグラに捕まる前まで、ラグナは基本的に邪魔な奴は潰し、倒すべき敵は問答無用で倒すような方針だったからだ。

 

「俺はお前を『助け』に来た・・・『エンブリオ(あっち)』では助けきれなかったからな・・・今度こそ助け出してやるよ」

 

だが、今のラグナは違った。自身が力を求めた理由を再確認し、大切なものを『護る』為に使うことを決めたラグナは今までの『奪う』戦いをしない。

それを決めた時、当然ニューに対する認識も変わっており、今の彼には『助けるべき一人』と映っていた。

 

「ラグナ・・・どうしてそうなっちゃったの?どうしてニューを拒絶するの・・・?」

 

「完全に拒絶しているわけじゃねえよ・・・俺が否定してんのは、今のお前の在り方だ。せっかくなんだから別の生き方をしようぜ?俺だって少しは変えてるんだ」

 

ラグナの生き方は以前と大きく変わっていた。

ゲイムギョウ界に来てからというものの、ギルドでクエストを受けては真っ当に仕事をこなし、国内で人に声をかけられては応じると、以前の世界とはほぼ真逆の生き方をしていた。

だからこそ、ニューにも変わることが悪いわけではないと伝えたかったのだが、聞き入れてくれそうには無かった。

 

「アイエフ、ラケル、一先ずどっか物陰に隠れててくれねえか?あいつのことだ・・・俺との戦いを邪魔されたら即刻殺しに来るぞ・・・」

 

「ラグナ・・・本気で言ってるの?」

 

「ああ・・・本気だ」

 

ラグナは以前も同じことがあったからこそ、アイエフの疑問を迷わず肯定した。

ニューの様子を見ていたラケルはラグナが言っていることは強ち間違っていないということを、薄々と感じていた。

 

《私たちは隠れてた方が良さそうね・・・行きましょう》

 

「ラケルまで・・・。分かった。みんなのこと、頼んだわよっ!」

 

ラケルがあっさりと肯定したことから、アイエフは従ったことが良さそうだと判断を下し、足に青い風を集め、それを使って物陰の方へ飛んで退避した。

 

「わざわざ邪魔ものをどけてくれたんだ・・・優しいねラグナ。あいつら嫌いだから殺しちゃうとこだった」

 

ニューから何の躊躇いもなく発せられる言葉に四人は衝撃を受けた。余りにも平然と放たれる言葉に驚きを隠せなかったのだ。

 

「・・・やっぱりそうだったか。けどなニュー・・・俺らの『悪夢』はこれ以上持ってきちゃいけねえ・・・。ここで終わりにするぞ」

 

舌打ち混じりに愚痴をこぼすものの、決意を決めたラグナは剣を構え直した。

 

「いいよ・・・そこまで言うなら本気で殺して上げるッ!」

 

「上等だ・・・おら来いよ。この大バカ野郎が・・・今度こそ助けてやる」

 

ニューが殺意を全開にしてラグナへ向かって行き、ラグナもそれに合わせてニューへ走っていくことで戦いに幕が上がった。

それは、この二人の間にある因縁の再会とも呼べるものだった。




そんなことでニューも無事に登場させられました。
ニューをどうやって出すかに迷ったのも遅くなった原因となります・・・。私の頭の回転の悪さを呪いたい・・・(泣)。

今更ながらかもしれませんが、BBDWの方で事前登録が始まっていますね。
毎度思うことなのですが、ああいう事前登録の数によって貰える配布キャラのイラストは非常に気合いが入ってると感じるのは私だけでしょうか?

最後に今後の投稿ですが、翌年度から仕事に就く関係上リアルが忙しくなってきているので、これからは毎週日曜日に投稿できるようにしたいと思います。
僅かながらのペースダウンですが、早く読みたいと思っている方には申し訳ございません。
それでもお付き合いしていただけたら幸いです。
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