超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER- 作:ブリガンディ
まずは敵側サイドからです。
「さて、そろそろ本題に入るとしようか」
ラステイションの廃工場で、マジェコンヌが三人に向けて話を振った。
ラグナたちが洞窟の調査をしていたり、突如として現れた子供を保護している間、四人は傷を治すのに割いた時間が多く、出遅れていたのだ。
その為、女神とラグナたちを打倒するのに新しい手立てを考え直したり、レリウスの言っていた洞窟を調査したりと、数ある事を急いでやらなければならなくなっていた。
「数ある案件の中で、特に気になったものはコレだ」
マジェコンヌが指したのはラグナたちが保護した子供だった。
「ああ・・・其の事については私も同感だ・・・其の少女は私たちも知らぬ存在。だが、あの一行の内二人を知っているそうだな」
「考えたくないっちゅけど・・・そいつは別ゲイムギョウ界から来たんじゃないっちゅか?」
「うわぁ・・・それだったらめんどくせえなぁ・・・。んで、仮にそうだったらどうすんだよ?」
当然の如くレリウスもその存在は気にかけており、その子供の分かっている情報を全て整理した。
それを聞いたワレチューが一つの可能性を示唆すると、テルミは面倒そうにぼやく。
しかし、テルミ自身もその存在は気になっているので、そうであることを仮定して問いかけた。今回ばかりは答えるのが誰であろうと、どうするかが訊ければそれで良かった。
「私としては、是非とも調査をしてみたいところだな・・・其の子供からは妙な反応が出ている」
「・・・お前は言うと思ったよ・・・相変わらずだな」
レリウスが仮面のずれを直しながらニヤリとするのが見えたテルミは若干呆れ気味だった。
―こいつはいつでもこうだもんな・・・。また面倒ごとが増えると思うだけで少し気が重くなる。
妙な反応と言うのは気になる事なので、特に反対したりはしない辺り、テルミも退屈が好きでは無かった。ここ暫くまともに動けてないから尚更だった。
「レリウス、お前は連れ帰るつもりか?」
「可能ならばな・・・その為にも前準備は必要だ」
マジェコンヌの問いにレリウスは肯定した。口調は何ら躊躇いがないのではないかと思えるくらい淡々とだった。
目の前にいる男は正気かとマジェコンヌは一瞬疑ったが、そうも言ってられないし、そんなことを考える必要はない。
何せ自分たちは目的のためならば手段を選ばない悪党だから。人道など考慮する同盟ではないのだから、躊躇う理由などない。そう考えたら気が楽になった。
「ちなみに、準備は何が必要っちゅか?現地での調べ物くらいなら融通が利かせられるっちゅよ」
「そうだな・・・おびき出せる釣り餌になれる人物。それと、あの子供を何の違和感なく連れていける人材だな・・・記憶の操作くらいなら私の手でも十分に可能だ」
ワレチューが自分にできる事を提示してみると、レリウスが予想以上に本気である回答をしてきたので、問いかけたワレチュー自身がビビッてしまう。
流石にそこまで本格的なものとは思っていなかったのである。認識の違いがどれ程恐ろしいのか、ワレチューは改めて理解したのだった。
「なるほど・・・釣り餌になれそうな人物と違和感なく連れていける人材っちゅか・・・。誰が言いっちゅかねぇ・・・」
しかし、自分から言い出した以上はやるつもりであり、ワレチューは己の知っている人材を頭の中でリストアップしていく。
―あの子供は多分単独で行動はしないから、そこが問題っちゅね・・・ワレチューは早速一つの問題点を潰すことにした。
「レリウス、存在が確認できれば良いっちゅよね?」
「ああ。其れで良い」
「了解っちゅ」
レリウスの回答が肯定だった為、ワレチューはすぐに選定をやり直す。
―ああ・・・そう言えば一人、ラステイションの女神にご執心な奴がいたっちゅよね・・・。テルミとは違って、純粋な追っかけみたいな感じっちゅけどね。
ワレチューの中で、今回の目的にこれ程最適な釣り餌候補は他に存在しなかった。
そうして、問題は違和感なく連れていけそうな人材だった。こっちに関しては中々存在していない。正直なところ、一人グレーな存在がいる程度だ。
「・・・オバハン。以前に女神の反対運動やってたリーダーの所在って知ってるっちゅか?」
「ん?そう言えば全く聞かんな・・・。そいつがどうかしたのか?」
女神に対する反対運動を行っていたリーダーはキセイジョウ・レイと言う。
その人物は以前までチラシ配りなどをして細々と活動を行っていたのだが、ある日を境にめっきり見なくなっていた。
大体、ラグナがゲイムギョウ界に来てから一か月経った位から活動が突然としてなくなっていた。そのせいで全く足取りを掴めないでいるのだ。
「釣り餌候補は絞り上げたからいいっちゅけど、違和感なく連れていける候補がそいつしか上がってこないっちゅよ・・・」
「・・・こう言うところが私たちの弱い点だな・・・」
この四人の中で、違和感なく人々の生活に紛れ込める人間はいない。
極論を出すならマジェコンヌが変身を活用して潜伏すれば良いのだが、それでも限度はあるのでずっとやっているわけにもいかない。
四人は平凡性が圧倒的に欠けている。無論、それが必ずしも悪い事では無いのだが、今回のようなケースではそれもまた問題となってしまっていた。
「そのリーダーとやらを検索すれば、案外出るやも知れんな・・・」
「ああ・・・そういやここなら調べも多少は効くんだったな」
レリウスがコンソールを操作し始めたのを見て、テルミは思い出したかのように呟いた。今までゆっくり休んでいたのもあり、完全に忘れていたのである。
そして、暫くすると規則的な速度で繰り返す電子音と同時に、地図上に赤い点が表示される。
「どうやら此処にいるようだな・・・」
「なるほど・・・じゃあそいつは俺が連れて来ようか?脅しが効くなら楽勝だし、体も動かしてえしな」
場所がわかるや否、テルミは早速自分から立候補する。暫く体を動かしていない為、道中でモンスターを殲滅していけば鉛も解消できると踏んでいた。
実際のところ、キセイジョウ・レイがかなり気が弱いと聞いたので、自分の得意分野でもあったからそのついでで行こうと考えていた。
「ああ。それはありがたいっちゅ。じゃあ、おいらは釣り餌の方に交渉を掛けに行くっちゅかね。オバハン、そいつへの報酬はどれくらい出せるっちゅか?」
「おいおい、いきなりそれか・・・。まあ、女神を釣ってくれるのだから、これくらいは出してやらねばな」
テルミが自ら名乗り出てくれたことはありがたいので、ワレチューは素直に礼を言う。
いきなり現金なことを言われたマジェコンヌは呆れ半分になりながら、出せそうな額を書いた紙をワレチューに渡し、それを受け取ったワレチューは早速確認して見る。
「おお・・・これなら受け入れてもらえるっちゅね。ちなみに、クライアントはおいらの方がいいっちゅかね?」
「いや、私の名義で構わん。連絡はこれを使うように頼む。お前に渡した物の改良型だ」
ワレチューの質問に対し、レリウスがワレチューへ小さな物体を投げ渡しながら答えた。
ワレチューが受け取った物を見てみると、それは術式通信用の装置だった。
「これは中々ありがたいっちゅ・・・じゃあ、そうさせてもらうっちゅよ」
レリウスが改良したのであれば性能が問題無いのは確実。そう確信したワレチューは素直に礼を言いながら受け取る。
「じゃあ、おいらは交渉に行くから一足先に失礼するっちゅよ?」
「ああ、待て待て。どうせなら途中まで一緒に行こうぜ?俺も行くんだしよ・・・。つぅ訳で俺も行かせてもらうわ」
「分かった。ではまた後でな」
交渉と連行へ向かう二人にマジェコンヌは頷き、それをみたワレチューとテルミは部屋を後にした。
「さて、私たちもやるべきことを始めるか」
「ああ・・・まずは情報の整理からだな」
マジェコンヌとレリウスは二人が去ってすぐに、今までに集めた情報の整理を始めるのだった。
* * *
「さてと、おいらが行くのはこの奥っちゅね」
「おうおう。こりゃまた辛気臭え場所だなぁ・・・俺はプラネテューヌだからここで一旦お別れだな」
方針を決めた夜。ワレチューとテルミはラステイションの近くにある廃墟施設の前にやって来ていた。
自分たちが住処にしている廃工場とは予想以上に近く、廃工場を出てからすぐに辿り着けたのである。
しかし、テルミはこれからプラネテューヌに向かわねばならないので、案の定長旅となる。
「長旅お疲れ様っちゅよ。じゃあ、また後でっちゅ」
「おう。またな・・・。よっとッ!」
互いに一時的に別れを告げると、テルミは『ウロボロス』を使ってプラネテューヌに飛んでいき、ワレチューはその廃墟の扉を開けて奥に進んだ。
ある程度進んで行くと、一つだけ明かりの漏れている部屋があり、ワレチューはそこへ入ることにする。
幸いにも部屋のロックは掛かっておらず、ワレチューはあっさりと入ることができたのだった。
「あらあら?こんな時間にお客さんだなんて珍しいわね・・・どんなご用件かしら?」
その部屋の中にいたのはピンク色を基調とした機会の体をした・・・もとい、全身パワードスーツを身に纏った・・・男であろう声をしている存在がいた。
ワレチューは正直なところ、こいつに頼むのは少し抵抗があった。こいつの興味を引くのが難しいのが最大の原因だ。
実力こそ相当な物を持つのだが、何しろこいつは自分が面白いと思わないなら仕事を受け入れないのだ。
ワレチューは一度こいつの興味を引けずに断られた経験がある為、少しだけ自信がそがれていた。
「こんな時間に頼むのもどうかと思うっちゅが、依頼をしに来たっちゅよ」
「依頼ねぇ・・・どんな感じのものかしら?」
ワレチューの言葉に反応し、興味を向けてパワードスーツの者は促した。
「とある子供の居場所を探るための釣り餌になって欲しいっちゅ。そいつは女神たちと一緒にいるから、女神がお前のところに来るしかないような状況を作ってくれれば良いっちゅよ。方法は問わないっちゅ」
「・・・あら!?何をやってもいいのね!?ノワールちゃんを眺めながらお仕事してもいいのよね!?ね!?」
「お、おう・・・大丈夫っちゅよ・・・」
方法は問わない。その言葉に食いついたそいつは恐らくパワードスーツの中で目をキラキラと輝かせていることだろう。それくらいに興味を引けていた。
上手く行ったのは良いものの、その食いつきっぷりにワレチューは思わず引いていた。そして、この後嫌な被害に遭うであろうラステイションの女神に、少しだけ同情してしまったワレチューは悪くないだろう。
「あらら~・・・それは良かったわぁ~。それじゃあ、報酬とかいつやるかとか・・・その辺を教えて頂戴」
「わかったっちゅ。取りあえずこれが前金っちゅ。成功したらまた追加で払うっちゅよ。・・・それから、通信はこれで頼むっちゅ。コレで繋げば今回の依頼主が出てくるっちゅよ」
「なるほど。じゃあ、アナタはその代役ね」
投げ渡された通信機を受け取りながら、ワレチューの話を聞いたこいつは痛いところを突いてきた。
さっきまでワレチュー自身が依頼をしに来たと思っていたので、こいつ自身は少し拍子抜けした感じだった。
「・・・まあ、そうなるっちゅよ。取りあえずは一度でいいから実行前に繋いで欲しいっちゅ」
「了解よ。それじゃあ後で繋いで見るわね」
その突かれたところに嫌な思いをしながらも、意地で平静を保ちながらワレチューは必要なことを話していく。
こいつに通信機の使い方を一切説明しなかったのは、すぐに理解できる。もしくは構造をすぐに把握してしまうからだ。
「それで頼むっちゅ。ああそれと、実行は三週間後っちゅ。ゴタゴタが片付いてからの方がいいみたいっちゅよ」
「ふむふむ。それなら、アタシは暫くノワールちゃんのあんな姿やこんな姿を堪能しておかないと・・・」
「そ、そうっちゅか・・・」
ワレチューが必要なことを話していて、話しこそちゃんと聞いているものの、ノワールに関する時間が増えるのがわかる度にこんな調子なので、ワレチューは困惑していた。
―はて?こいつはいつからこうだったっちゅかね?ワレチューは首を捻って思い返して見るが、こいつと初対面するときからこうだった気がしてならないので、思い出すのを止めた。
「じゃあ、依頼内容も伝えたし、今日も遅いっちゅから、おいらはここいらで帰るっちゅよ」
「はいはーい。それじゃあまた今度ね」
ワレチューが去っていくのを、パワードスーツの者は手を振りながら見送る。
「さぁーてっ!依頼を受けたとあらば、アノネデスだけのノワールちゃんコレクションを増やさないとっ!」
パワードスーツを着込んだ存在・・・アノネデスはドアが閉まるや否、そう言って自分の私事に火をつけるのだった。
ゲイムギョウ界のスーパーハッカー・アノネデス・・・その性別こそ男なものの、心は誰よりも乙女であると思っている人物である。
* * *
「(あぁ・・・今日もダメでしたね・・・)」
黒を基調とした制服のような格好をし、メガネを掛けている薄い水色の髪をしている女性・・・キセイジョウ・レイは落ち込みながら夜の街を歩いていた。
幾らか前までは女神反対運動を行う集団のリーダーをやっていたが、専らビラ配りしかできなかった。この辺りは彼女の臆病にも見える気の弱さが災いしていた。
ラグナがゲイムギョウ界に来てから一か月した頃には突如として失踪。以後はその反対運動に参加していたメンバーもいつの間にか解散していた。
その為もう一度メンバーを集めようとしたのだが、一度失踪したのが影響で全く応じてもらえないでいた。
諦めずに今日も今日とてメンバーを集めようと動いたのだが、一人も集まってくれなかったのである。
「はぁ・・・私・・・何がいけないんでしょう?」
「何もかもなんじゃねえの?良く知らねえけど」
「・・・っ!?だ、誰?」
自分の呟きを拾った声に驚いたレイは怯えながら周囲を見回す。
彼女が少しの間見回していると、正面から黄色いフードを被った細身の男がこちらへ歩いて来るのが見えた。
「ようやく見つけたぜェ・・・。相も変わらずメンバー集めてんだってな?そんな弱っちぃ心持ちで良くやろうと思ったな?」
「ゆ、ユウキ=テルミ・・・!?どうしてこんなところに・・・?」
目の前にテルミがやってきていた事実にレイは動揺を隠せない。
テルミは女神を快く思ってない人たちの間で知名度が上がっており、反対運動を行ったレイの耳にもその名は届いていた。
レイと違い、テルミはマジェコンヌらと協力し、実力を持って女神を排除しようと行動していて、反対運動に参加していた人たちもできるのならああやりたかったと、一部の過激派も言っていたくらいだった。
そんな風に女神たちを倒そうとして、独自にでも行動を起こせる彼が、ビラ配りで精々であるひ弱な自分の所に来るとは思ってもいなかったのだ。
「どうしても何も、テメェに用があって来たんだよ。連れてくるように頼まれててな・・・とにかく俺と来てもらうぜ」
「え?私を・・・?何かの冗談ですよね?私なんて連れて行ったところで何の役にも・・・」
「だぁぁ・・・いちいちめんどくせえなテメェは。いいから行くぞ」
レイのどこまでも自分を卑下する姿勢にイラついたテルミは舌打ち混じりに吐き捨て、強引にレイの腕を掴んだ。
「えっ!?あ、あの・・・本当に、本当に何もありませんよ!?」
「キャンキャンうるせぇぞ・・・!あんまり耳元で騒ぐんじゃねぇよ時間考えろや」
「ぅ・・・はい・・・」
レイが喚きだそうとしたので、テルミは怒気の籠った声で黙らせる。
その気弱な性格もあって、レイには非常に脅しがききやすく、簡単に効果が出る分まだマシだった。
声だけの脅しが効かないなら、一度バタフライナイフを首筋に押し当ててやろうかとテルミは考えていたので、反応しただけレイはまだ幸運だっただろう。
「ったく。ようやく黙り込んだな・・・んじゃあ行くぞ。騒ぐんじゃねぇぞ?」
「・・・やれやれ、ようやく静かになったか」
もしかしたら殺されるかもしれない。そんな恐怖感がレイを無言でうなずかせる。
それを見たテルミはこれで一件落着だと感じた。
「よし、んじゃあ行くぞ。少なくともプラネテューヌから出るまでは静かにしてろよ?」
「あ、はい・・・ってひゃあっ!?」
レイが返事するや否、テルミは『ウロボロス』を使ってレイを連れてプラネテューヌから移動を始める。
その際、心の準備のできていなかったレイから小さな悲鳴が聞こえるが、テルミはそれ一回くらいならいいやと大して気にしていなかった。
「あ、あの~!どうしてこんな強引なんですかぁ~っ!?」
レイの悲鳴には構うことなく、テルミはそのまま『ウロボロス』を使って戻っていくのだった。
* * *
「ところで、テルミの言っていた本来の躰とやらはどうする?」
「其の事か。それについては女神の細かなデータさえあれば現実味を帯びて来る。詳しくはテルミたちが戻ってきたら話そう」
マジェコンヌたちは一通りの調べが終わったので、待機をしていた。
その際、余りにも暇だったのでマジェコンヌはレリウスにテルミの事を訊いてみたのだった。
その話は長いのか、ややこしいのか。レリウスは全員が戻ってきたら話すことに決めていた。もしかしたらかなり重要になるかもしれないので、マジェコンヌは素直に受け入れることにした。
「ゲイムギョウ界の人間は興味深い物を持つ存在が多いな・・・それぞれが独自の魂を形作っているから、一度に多くを研究できる」
「お前がそういうのなら、元の世界ではそれだけ平凡な存在が多かったのか?」
「そうだな・・・お前の観点で見ればその通りだろう。私の観点だった場合、此の世界は独自性に富んだ存在が余りにも多いのだ」
レリウスは自分の元居た世界と、ゲイムギョウ界にいる人たちを比較して改めてそう呟いた。
ゲイムギョウ界の人は特徴的な人が予想外に多かった。この世界であったからこそ、レリウスはこの格好で堂々と歩いても「そう言う人」で済ませることができてしまうのだった。
「後はあの子供を連れてくる日だが・・・いつ頃にする?」
「そうだな・・・手を打つにせよ準備はかなりかかるだろう。どれだけ早くとも一か月以上は掛かる・・・。早くできたとしても、お前たちの負担を考慮すれば少なくとも一ヶ月は待つ必要がある」
「ほう・・・お前にしては珍しいな」
正直なところ、レリウスがこちらのコンディションをここまでしっかりと把握しているとは思っていなかった。
テルミ曰く、レリウスは以前まで超が付くほどの他人を全く考慮しない人間で、セリカの所在を確認する時は詳しい理由を説明せずにテルミを向かわせたと言っていた。
それに対して今はどうだろうか?現在のレリウスは相変わらず自分の欲望に正直ではあるが、他人の考慮もしっかりとしている。
環境が変われば人も変わると言われることもあるが、今のレリウスは正にそれを体現しているだろう。
「私も人なのでな・・・最近になって頼みごとをする時は人のことを考えると学び直したものだ」
「・・・!フッハッハッハッハ・・・!まさかお前からそんな言葉を聞ける日が来るとはな・・・!」
余りにも予想外過ぎる回答に、マジェコンヌは思わず噴き出して爆笑してしまった。
それだけ今までのレリウスからは考えられない程の衝撃的な返答と言動であった。
「はぁ・・・すまんな。思わず笑ってしまった」
「構わん。私でも予想外だと自覚している・・・。それより、洞窟の事だが、アレは余裕のある時に改めて調査しよう。今はあの子供を連れてくるのと、本来の目的が優先だ」
「分かった。それは後で伝えよう」
しかし、そこまで長い時間嗤うことはなく、すぐに立ち直って新たに話を進める。
洞窟のことはレリウスの最大の研究対象と言う訳でもない為、無理に進める必要はない。本来の目的を優先することをレリウスは選んだのだった。
「さて・・・後はテルミの躰だったが、アレはどうする?」
「其のことか・・・其れについては私に考えがある。詳しいことは全員が戻って来たら話そう」
「分かった。それならば一度・・・」
「二人共、今戻ったっちゅよ」
―ここで小休止とするか。そう言いかけたところでワレチューが帰ってきた。
「戻ったか。首尾はどうだ?」
「成功っちゅ。・・・相変わらずラステイションの女神のことになると食いつき早かったっちゅ・・・」
「まあ、成功ならば良いじゃないか。・・・まあ、面倒であったろうがな」
マジェコンヌの問いに答えながらワレチューは脱力気味だった。
ワレチューがこうなった理由もしっかりと理解しているマジェコンヌは、簡単に労いと同情をかけた。
「おお。ネズミはもう戻ってきてたのか」
「今戻って来たっちゅよ。テルミの方はどうだったっちゅか?」
「おう。成功したぜ。その証拠にこいつだ」
「あ、ひゃあぁ!?」
ワレチューの問いに答えながら、テルミは部屋の中へレイを雑に放り込む。
いきなりだったこともあり、運動神経がそこまで良くないレイは勢い余って、顔から思いっきり地面のタイルにぶつかってしまった。
「あ痛たたた・・・うぅ・・・何で今日はこんな目に遭ってばかり・・・」
「感謝するぞ。さて・・・早速お前にやって貰いたいことを話そう。とある子供がいてな・・・そいつを私たちが後ほど伝える日に、その子供の親としてそいつの元へ向かい、ここへ連れてきて欲しい。悪く言えば誘拐だな・・・こちらで準備は進めておくから、お前は連れて来るだけで構わん」
「え・・・?誘拐ですか!?いやいやいやいやっ!どうして私なんですか!?他に適任な人がいるじゃないですかっ!」
レイは痛む鼻を抑えながらマジェコンヌの話を聞いて仰天する。
正直なところ、何故自分なのかと問いたくなる程だった。自分は頭も回らないし、運動神経だって良くない・・・こんな自分をどうして選ぶのだろう?そんな疑問しか出てこなかった。レイからすれば、『ウロボロス』を使いこなせるテルミの方が圧倒的に適任だと思っていたからだ。
「そうだな・・・ではその理由を話そう。お前のような立場なら既に知っているかもしれないが、私たちは既に女神どもと武力を持って敵対をしている。そんな私たちがその子供の親と名乗り出ても一切信用しないだろう?
特に『紅の旅人』と『白き守護神』が私たちの・・・特にテルミとレリウスの素性を知っているから尚の事迂闊に赴く訳にはいかんのだ・・・。更に言ってしまえば、各国に最低でも一人はテルミとレリウスの素性を知っている存在が住みついているのでな・・・。これで私たちでは実行できないのは分かってもらえたな?」
「あの二人が・・・。・・・理由はわかりました。でも、本当に私で大丈夫なんですか?」
ラグナとハクメンのことは二つ名であってもレイの耳には届いており、その事情を聞けば流石に無理だろうというのはよく分かった。
しかし、それでも自分を選んできた理由が解らず不安なのはまた事実だった。
「その心配は無い。手はこちらで打つと言っただろう?それに、小さい子供の親と堂々と名乗れるのが丁度お前のような人間なのだ・・・。もし罪悪感に駆られてできなさそうならその子供を決行日は外にいるようにして、鉢合わせたところを連れてくればいい。・・・これだけ用意すればできるか?」
「・・・わかりました。ただ、あまり期待しないでくださいね?」
レイは話を聞いて、自分でも驚くくらいあっさりと承諾した。
最初は逃げ出したかったのだが、女神をどうにかするならこの人たちに協力するのが一番ではないかと思っての行動であった。
協力したら後戻りはできないが、逆に協力すれば女神を撤廃するというチャンスがやって来る。そんな風に考えたら、意外にもあっさりと腹が括れてしまった。
「まあ、最悪は国の外まで連れて来るか、外で出くわした時に知らせてくれればいい。ちなみに今後の事だが、時が来るまではこの施設と今回の計画が私たち以外に伝わらないのであれば、何をしても構わん。外出も同じ条件で許可する」
「い、意外に緩いですね・・・」
マジェコンヌが出してきた条件はただ一つ。「機密を守ってくれ」・・・ただそれだけだった。
それ以外は余りにも寛大な条件に呆然としつつも、マジェコンヌが意外と優しい人だと思えたレイは少しだけホッとした。
「話は以上だ。何かわからないことがあったら後で聞いてくれ。部屋も話が終わったらすぐに用意してやる」
「は、はぁ・・・」
ただし、それでも色々と言われたので整理をする時間は必要だろう。レイはそう感じながらも、何かできることはないかと考え始めていた。
「んあ?話ってこれ以外にもあんのか?」
「ああ・・・お前の本来の躰である『スサノオユニット』のことでな・・・一つ策が出来上がった」
「おお?マジで!?『
レリウスの策だから間違いないことが分かっているテルミは嬉しそうに食いついた。
本来の体を取り戻せるなら、チャンスを最大限に活かして取り戻したいと思い始めていた頃合いだった。
「いや、取り返す必要はない・・・女神の細かいデータさえあれば、その手段が実現可能になる・・・」
「・・・取り返す必要がねえだぁ?おいおい、お前何をやる気なんだ?」
レリウスの回答が今一理解できなかったテルミは思わず聞き返した。
―この期に及んでこいつは何言ってんだ?レリウスを普通の枠に収めてはいけないのを理解していても、流石に疑わざるを得なかった。
「私が『創造』するのだよ・・・此の世界での『スサノオユニット』をな・・・」
「・・・・・・」
レリウスはニヤリと口元を吊り上げながらそう言ってのけた。
それを聞いたテルミは暫しの間硬直し・・・。
「・・・はあぁぁあッ!?テメェ正気か!?いやいや、レリウスに限って正気とかそう言う枠に収めちゃいけねぇ・・・てことはお前それさえあればマジで実現可能ってか!?」
「ああ・・・回数制限は付くだろうが、あの世界と此のゲイムギョウ界での知識と技術を掛け合わせれば理論上可能だ・・・。此れは此の世界行う私の挑戦だよ」
仰天するテルミに対し、制限付きとは言えいとも簡単にできると言ってのけるレリウス。
今回ばかりはテルミも冷や汗ものだった。レリウスはそれだけ戦闘能力などではなく別の方面で規格外だった。
「ヒ・・・ヒヒ・・・ケヒヒヒヒッ!ハァ~、最高だぜお前って奴は!そんなの手伝いたくなるに決まってんじゃねえかッ!」
「おいらからすればテルミも楽しそうにしてるっちゅけどね・・・まあ、みんなの目的の為って言う建て前抜きでも手伝いたいっちゅね・・・。話を聞いた感じ、『スサノオユニット』はトンでもない物みたいっちゅからね」
「頭一つ抜けた発想ではあるが、それが実現すれば女神どもも倒しやすくなるな・・・それならば私も協力しようじゃないか」
「感謝する・・・。その為にもお前たちの力を貸してもらおう」
それぞれの反応を見せながら賛成を示してくれた三人。それに対してレリウスは素直に礼を言うのだった。
「(・・・この人たち、なんだかんだで仲いいんだなぁ・・・)」
無理矢理連れて来られたというのに協力したり、その連れて来た人が・・・結構危険な内容ではあるが、仲良く話している姿を見たりしたレイはどこか不思議な気持ちになっていた。
そんな気持ちを感じながら四人の大まかな役割を考えてみる。
「(あの魔女みたいな人がリーダー・・・テルミさんは諜報員?このメンバーだと切り込み役も兼ねてそう・・・。で、あのネズミさんがハッカーと交渉員かな?レリウスさんは言うまでもなく研究者・・・アレ?)」
そこまで自分のイメージを出して見て、レイはあることに気が付いた。
それは普段の生活をどうにかする人がいないことだった。料理等を行うサポーター的存在がいないものだから、この人たちの食生活が大変かもしれない。
「(あっ・・・なら私がやればいいじゃない・・・。私にもこれならできそうだね)」
相変わらず大きなことはできないが、縁の下で動くことなら十分にできそうだ。そう考えたレイは後でマジェコンヌに話してみようと心に決めた。
「(何がともあれ・・・この人たちについていって見よう。あわよくば、本当に女神たちをどうにかできるかもしれない・・・)」
「(此の者たちの協力は大きい・・・私の研究の成果として、此の世界でやるべきことは見えてきたな・・・)」
「(また暫く忙しい時間が続きそうっちゅけど、このメンツならつまらないことはないっちゅから、また張り切って仕事するっちゅよ)」
「(『スサノオユニット』さえあれば遅れは取らねえ・・・後は完成までどうするかだな・・・)」
「(さて・・・これでカードは揃った。後は使いどころをしっかりと抑えれば行ける。女神ども・・・首を洗って待っているのだな・・・)」
この五人は各自の目的こそ違うものの、互いの目的を果たすためにそれぞれの目論見を胸に秘め、再び行動を始めるのだった。
実はキセイジョウ・レイ。アニメでは1話から出ているのですが、この小説ではこの話にてようやく初登場となります。
どうしてこうなったんだと言われたら、本小説9話(アニメ1話序盤)でのビラ配りシーンを無しにしたのが響いてますね。
マジェコンヌたちの行う事前準備の為に連行と言う形になったのは、「そういやこのメンバー普通と呼べる人たちいねえな」と思ったのが理由ですね。
さて、ブレイブルーの新作の方ですが、ブレイブルー勢からはようやくハクメンの参戦が決まりましたね。封魔陣も残ってたので一安心です。
発売も近くなってきたので、早くプレイしたいところです。
次回からは少しの間味方側サイドでの話が続くと思います。