超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

46 / 70
少し遅くなってしまいました。
今回でアニメ7話が終わります。


45話 プルルートの逆襲

「来たか・・・だが、お前たちの相手は私たちでは無いぞッ!」

 

ラグナたちが走ってこちらに向かってくるのを感じたマジェコンヌは、振り向きながら魔力を込めたナスを投げつける。

それらは再び爆発音を出してからモンスターに変わり、そのモンスターたちがラグナとナオトを分断するように囲んだ。

 

「チィ・・・!面倒な真似してくれるぜ・・・」

 

「こうなったら仕方ねえ・・・こいつらをさっさと片付けてやる!」

 

囲まれてしまっては動けないので、二人は状況を打開するために周囲のモンスターを倒す方針へ切り替える。

しかし、その選択はマジェコンヌの思惑通りに動いてしまうことであり、策に嵌ってくれた事を確信したマジェコンヌはニヤリと口元を緩めた。

 

「レリウス、お前は隙を見て捉えに行くといい。私は暫くモンスターで足止めする」

 

「感謝する。では、私の研究を進めさせて貰うとしよう」

 

マジェコンヌが次々と魔力を込めたナスを投げ込んでいくのを尻目に、レリウスはプルルートへの観察を続けながらネプギアへの接近を試みた。

 

「とぉッ!おぉりゃぁッ!」

 

ラグナは左足で回し蹴りをして一体を蹴り飛ばし、右手で逆手に持った剣を右から斜めに振り下ろして線上にいたモンスターたちを纏めて薙ぎ払う。

自分の攻撃が当たったモンスターは全て光となって消滅するものの、すぐに新しいモンスターがラグナの周囲を囲んできたので、また倒さなければ行けなくなった。

 

「クソがぁ・・・!どれだけ増えるってんだぁ?」

 

「スラッシュカイドッ!」

 

ラグナが吐き捨てながら剣を構え直す時、ナオトは右腕の肘から先に血を集め、それを固めて弧を描く刃を作り上げてモンスターに斬りかかる。

モンスターたちが光となって消滅したので、ナオトは固めていた血の硬化を止めて霧散させるが、それと同時に先程と同じモンスターがナオトの周囲を囲んだ。

 

「オイオイマジかよ?シャレになんねぇぞそりゃ・・・」

 

ナオトは目の前の状況に動揺しながらも気を取り直して構え直した。

一方、ネプテューヌはモンスター相手に逃げ続けていたが、逃げ続けるのにも限度がある為、一度回れ右ならぬ回れ左をしながら、アイテムパックから取り出した太刀を右から左へ振ってモンスターたちを薙ぎ払う。

それによって、ネプテューヌを追いかけていたモンスターたちは光となって消滅したので、ネプテューヌはこれで一息できるかと思ったが、まだ甘かった。

 

「うぅ・・・ナスの臭いがキツイよぉ・・・」

 

ナスの臭いに耐えられず、ネプテューヌは嫌な顔をしながら鼻元を抑えた。

ネプテューヌがそうして臭いに耐えている間にもマジェコンヌによって再びモンスターたちが作られ、そのモンスターがネプテューヌに迫って来たことで彼女は顔を青くした。

 

「(な、何とかしなきゃ・・・このままじゃ、お姉ちゃんたちが・・・!)」

 

モンスターたちを倒し続けている中、ネプギアは焦りに駆られていた。自分が相手しているモンスターの数が無くならないのである。。

今回はマジェコンヌが次々とナスをモンスターに変えながら投げ込んで来るので、ズーネ地区の時と違って数に限りがないのだ。

次に苦しい事として、ズーネ地区の時と比べて強敵の数こそ少ないものの、味方はそれ以上に少ないのである。

前回はハクメンの大立ち回りや、女神候補生四人の奮闘、セリカの能力など様々な後押しがあったものの、今回はそれらの殆どを得られず、現在はマジェコンヌとレリウスがフリーになっていた。

 

「さて・・・そろそろ頃合いだな」

 

「っ・・・!?」

 

レリウスの声が先程よりも近くの場所で聞こえたので、焦ったネプギアは声のする方へ体を向ける。

するとレリウスはいつの間にか自分のほぼ真下まで来ており、イグニスもいつでも行けると言わんばかりにスタンバイを完了させていた。

 

「あ~・・・」

 

そんな時、プルルートは怒りが限界に達しており、自分が手に持っていたネプテューヌを模した人形を持った右手を上に真っ直ぐと持ち上げていた。

今もモンスターたちが自分を囲んでチクチクと攻撃してはいるが、威力が低すぎるのでプルルートは一切気にしていない・・・と言うよりは、思考が怒りに染まっているせいで眼中にない(・・・・・)

 

「この野郎・・・!」

 

「邪魔すんなぁ!」

 

ラグナが剣に黒い炎のようなものを纏わせてそれを上から縦に振り下ろし、ナオトは右手に血を集め、それを剣にして左から斜めに振り上げる。

それらの攻撃でモンスターを薙ぎ払ってようやく周りにモンスターがいなくなったところで、アイエフの救出に行こうと思ったが、今度はネプギアが危険な状況になっていた。

 

「ヤベぇ・・・急いで助けに・・・!」

 

ラグナが走り出そうとしたところで、プルルートは思いっきりぬいぐるみを地面に叩きつける。

叩付けられたぬいぐるみによってクレーターが出来上がったこともあって、全員が固まってそちらに意識を向ける。

クレーターを作り上げた張本人であるプルルートは、何やら物言わせぬ雰囲気を漂わせていた。

余りにも衝撃的な目の前の光景は、ラグナやマジェコンヌはおろか、モンスターすらその場で滞空しながら制止していた。

 

「ムカつく~・・・」

 

プルルートの口から発せられたのは不満を露にする言葉。それだけにはとどまらず、プルルートは叩きつけた人形を踏みつける。

踏みつけた時にズシンと、女の子が鳴らしては行けないような音が聞こえ、全員が戦慄する。

一人例外なのはレリウスで、何が起きるか分からず楽しみにしていた。

更にプルルートはそのぬいぐるみぐりぐりと足で踏みにじり出した。そのせいでぬいぐるみに詰め込んでいた綿が破けた部分の隙間から溢れ出していた。

 

「どうしてぇ~・・・アイエフちゃんにぃ~・・・酷いことするのぉ~・・・?」

 

「な、なんだ・・・!?この怖気(おぞけ)は・・・?」

 

「な・・・なんかアレヤバくない?」

 

プルルートが問いかけている相手はマジェコンヌであり、得体の知れない威圧感を全面に食らったマジェコンヌは思わず震え上がるのを感じた。

マジェコンヌがプルルートの威圧にやられている最中、ネプテューヌたちもぬいぐるみを踏みにじって嫌な音を鳴らしているプルルートを見て嫌な汗をかいていた。

ネプテューヌに至っては顔に青筋が入っていた。

 

「つうかアレ・・・普通に綿で作ったんだよな?どうやったらあんな風になるんだ?」

 

「いや、俺に聞かれても困るぞそれ・・・」

 

《術式などの痕跡は見受けられないわよ?それにしても強度が凄まじいことになっているけど・・・》

 

ラグナが率直な疑問を口に出すが、常識を逸脱した状況にナオトが回答できるはずもなく、ラケルもかなり見当違いな回答をしていた。

―さっきまであんなに頑丈な感じしてたっけ?最早訳が分からなくなり、全員が混乱する。

 

「(流石にこの現象は私にも理解不能だな・・・)」

 

レリウスは表面上こそ大したことは無いものの、内面では完全に匙を投げていた。

ぬいぐるみの情報にノイズが走り過ぎていて分からないのが原因だった。

 

「みんながダメだ~って言うけどぉ・・・も~我慢(・・)できないやぁ・・・」

 

「・・・我慢?ち、ちょっと待て貴様、まさかだが・・・」

 

プルルートの口から出た『我慢』と言う単語にマジェコンヌは最悪の事態を想定する。

そして、その想定は当たった・・・否、当たってしまった。

 

「相手は悪い人でぇ~・・・アイエフちゃんは酷いことされてるしぃ~・・・」

 

先程から同じ口調で、顔を下に向けながら呟いているプルルートが遂に顔を上げる。

その表情は普段ののんびりとした雰囲気からは想像できない程、極めて危険な笑みを見せていた。

 

「ちょっとくらいならいいよねぇ~・・・この人やっつけるまでくらいならぁ~・・・」

 

『・・・!?』

 

「ほう・・・始まったか」

 

プルルートの体が光に包まれた瞬間、全員が戦慄する。

当然の如く一人例外なのはレリウスで、彼はプルルートの持つ魂の耀き方の変化が分かり、それがもたらす結果を楽しみにしていた。

光が消えると、そこには先程ののんびりとした雰囲気をした少女はおらず、代わりに青紫色の長い髪を持ち、全体的に露出度の高い黒のボンテージのような格好をした、艶やかな笑みをしている女性がいた。

 

「さぁて・・・どう虐めてあげようかしら?」

 

「お、おい・・・!こちらには人質がいるのを忘れてはいないだろうな?」

 

「あら?それならどうして強気な態度に出られないのかしら?」

 

マジェコンヌの反抗を込めた言葉は女性の問いかけによって潰される。

彼女の言う通り、マジェコンヌは底知れぬ恐怖感と威圧感を前に負けてしまっているのだ。

 

「なるほど。御前も女神であったか・・・名を聞いても良いだろうか?」

 

「へぇ・・・?アタシを前に動じないなんて珍しいわね」

 

圧力に負けてしまっているマジェコンヌとは対照的に、レリウスは何も動じる事無く、己の好奇心に任せて彼女に問いかける。

すると女性は、レリウスが何も変化を見せないことから興味深そうに呟いた。変身した自分を前にすると誰もが動じるのだが、レリウスは表面上の変化を見せなかった。

 

「アタシの名前はアイリスハート・・・。普段はプルルートって呼ばれているけど、呼ぶならお好きな方をどうぞ?」

 

「アイリスハートか・・・いや、この際はプルルートで良かろう。実に面白い魂を見せてくれる・・・。失礼、私はレリウス=クローバーと言う。是非とも、その魂の輝きを間近で見せて貰いたいものだな」

 

「なるほど・・・その名前、覚えておくわ」

 

まるでこの場には自分たちしかいないかのように二人は挨拶を済ませていた。

敵同士であるのにあっさりと挨拶を済ませ、すぐさま互いに興味を持った二人を前に、全員は何とも言えないものを感じていた。

 

「あ、あのさ・・・お二人とも敵同士だよね?」

 

「ど・・・どうしてこうも簡単にお話を・・・?」

 

目の前の光景にネプテューヌとネプギアは啞然としていた。

レリウスの意識がプルルートに向いたことと、モンスターの増援が止まった事でこの状況が許されていた。

 

「・・・アレ?ちょっと待てよ?」

 

「・・・?あっ、そっか・・・!おいラケル、今のうちに・・・」

 

《ええ。行ってくるわ!》

 

全員が意識をプルルートに持って行かれている中、一人冷静さを素早く取り戻したラグナの一言で二人が気付く。

その為、小声で素早く話を決めてラケルがアイエフの元へ飛んでいく。

 

《アイエフ、躰を借りるわよ?》

 

「!ええ。頼むわね」

 

ラケルの一言でマジェコンヌが意識を向け切れていないのに気づけたアイエフは、一つ返事でラケルに躰を譲る。

そして、躰を借りたラケルは、風を使って彼女の隠し持っている暗器を器用に取り出し、それを使ってロープを切った。

身軽な体が幸いし、地面に降りても土のおかげで殆ど音が出なかったのでマジェコンヌに気づかれることは無かった。

その為、ラケルはその場で躰を返却し、躰を返してもらったアイエフはそのままラグナたちの元に合流する。

 

「ありがとう。おかげで助かったわ」

 

「よし、戻ってこれたか・・・おーい、プルルートぉ!こっちはもう大丈夫だぞー!」

 

「何!?・・・しまった!」

 

アイエフが戻って来たのを確認したナオトがプルルートに聞こえるように伝える。

その言葉を聞いて我を取り戻したマジェコンヌが確認してみると、先程まで縛り付けていた場所にアイエフの姿は無かった。

その慌てぶりを見たプルルートは、さも満足そうに笑う。

 

「残念ねぇ・・・せっかく準備したって言うのに。それじゃあ、彼に魂の輝きって言うのを見せてあげたいしぃ・・・アナタを思いっきり虐めさせてもらうわ!」

 

何も気にする必要が無くなったことで完全に形勢が逆転。

プルルートは非常に艶やかで危険な微笑みを見せながら自身の手元に召喚した蛇腹剣を左から水平に振るうことでマジェコンヌを打ち付ける。

 

「ぐあぁ・・・!」

 

竦んでいたせいで反応が遅れたマジェコンヌはもろに攻撃を喰らってしまい、軽く吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅ・・・!っ!?」

 

「あらぁ?もうおしまい?もう少し楽しませてよ・・・ねっ!」

 

地面に打ち付けられたマジェコンヌは痛みを我慢しながら立ち上がろうとするが、プルルートがこちらに近づいて来ていたのが見えて息を吞む。

最初に感じた怖気こそもう引いているが、自分がこうもあっさりとあしらわれていることに驚いていた。

その様子に少しおどけながらも、プルルートは危険な笑みに表情を戻しながら蛇腹剣を振るい始めた。

 

「うおぉ・・・!ぐあぁぁッ!?」

 

「あ・・・アレホントにぷるるん?」

 

「お姉ちゃん以上の変化だね・・・」

 

マジェコンヌが打ち付けられている姿を見て、ネプテューヌは困惑し、ネプギアも困った笑みを見せる。

 

「あっ、そうだ!コンパ探さなきゃ!ラグナ、バイク借りていい?」

 

「分かった。ちゃんと見つけてやれよ?」

 

「ありがとう。二人もまた後でね!」

 

ラグナからバイクの鍵を受け取ったアイエフはドライブを使ってバイクの元まで一飛びで移動し、そのままエンジンをかけ、バイクにまたがって走り出した。

 

「ああ!ちゃんと見つけてやるんだぞ!」

 

走り去っていくアイエフにナオトは届くかどうか分からない声を送るのだった。

実際にバイクの速度は早く、ナオトが言い切る頃にはもう見える姿がかなり小さくなっていた。

 

「なるほど・・・此れは興味深いな・・・」

 

「あっちはああだし・・・このモンスターたちも大して強くない・・・」

 

「そうだな。だったら・・・」

 

マジェコンヌがプルルートにやられているが、レリウスは相変わらずプルルートの中にある魂の輝きを観察していた。

その状況をちらりと見たナオトが呟き、その意図を察したラグナが同意して二人は飛びのき、モンスターを挟むような位置取りをする。

 

「「纏めて叩き潰すッ!」」

 

二人は同時に自分の頭の中にあった方針を口にする。

モンスターたちの内それぞれに一番近いモンスターが二体ずつ向かってきたのが見えた瞬間、二人は動き出した。

 

「おぉッ!」

 

「ぜぇりゃぁッ!」

 

ラグナは一体目のモンスターに、振り上げた左足を真っ直ぐに振り下ろして叩き潰し、ナオトは右腕でストレートを放ってモンスターの中央を貫く。

それぞれの攻撃を受けたモンスターたちは光となって消滅したが、すぐに二体目のモンスターが来ていた。

 

「うぉらぁッ!」

 

「どけぇッ!」

 

二体目のモンスター相手に、二人は左腕でアッパーカットをぶつけ、モンスターを空に打ち上げる。

その間にラグナは右手に持っていた剣を逆手から通常の持ち方に変えながら、剣を変形させて先端部から鎌状のエネルギーを発生させ、ナオトは右手に血を集め巨大な鎌を作り上げる。

 

「行くぞナオト!準備はいいな!?」

 

「おう!いつでもいいぜッ!」

 

二人が先程打ち上げたモンスターたちが重力に負けて落ち始めたのと、ラグナたちが動き出したのは同時だった。

 

「「喰われろおぉッ!」」

 

ラグナが体を右に回しながら勢いをつけて鎌を左から水平に振るうのに対して、ナオトは鏡写しになるような動きで鎌を振るう。

二人が鎌を振り回した余波でできた、血の色をしたエネルギーの波がそれぞれモンスターたちを飲み込み、二つの波がぶつかる形でモンスターたちを押し潰す。

波に飲まれている間にモンスターたちは全て光となって消滅し、それぞれの波が消えとそこにモンスターの姿は存在しなかった。

そして、そのモンスターたちは元々マジェコンヌがナスに魔力を込めて生み出していたのだが、生みの親であるマジェコンヌがプルルートにやられている以上、これ以上増えることは無かった。

 

「よし・・・こっちはもう大丈夫だな」

 

《ええ。この様子なら、向こうもすぐに終わりそうね》

 

まだ戦闘が終わっていないので、全開状態を維持したままナオトは一息つく。

そのナオトに肯定するラケルの言う通り、プルルートとマジェコンヌの戦闘は非常に一方的なものとなっており、マジェコンヌは立て直したのも束の間、殆ど反撃を出来ない状態でいた。

 

「アッハハハッ!それ・・・それッ!」

 

「ぐぅ・・・!ぬあぁ・・・ッ!」

 

何度目かの蛇腹剣を用いたプルルートの攻撃を受けたマジェコンヌは、そのダメージに負けて大きく数歩後退してしまう。

ズーネ地区では変身などを持ち合わせて常時有利な状態を維持していたマジェコンヌだが、今回は変身したプルルートを相手に通常の姿のままであることが尾を引いてここまで劣勢に陥ってしまっていた。

 

「(・・・どこだ?どこで間違えた?)」

 

肩で息をしながらマジェコンヌはこの様な状況に陥った理由を推測する。

倒す相手を一人に絞って、その一人が嫌いなナスまみれの場所に誘導する。これは良いだろう。効果としてネプテューヌは変身を解除させられていた。

女神候補生や『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』を女神の救援に行かせない為モンスターで足止めする。これも悪くは無かっただろう。実際のところ完全に分断に成功していた。

人質の口を塞ぐ為にナスを食わせた。問題があるとすればここだろう。恐らくは連れ去ったことと縛ったこと、そこにナスを無理矢理食わせると言う要素が重なってプルルート(目の前の女神)を怒らせたのだろう。

また、プルルートが女神であると言うことに気が付けなかったのも、今回こうなってしまった原因だろう。

 

「想定外だった・・・では済まなそうだなこれは・・・」

 

実際にここまでの変貌を見てしまったので、マジェコンヌは軽率だった少し前の自分を殴りたくなっていた。

しかしながら、プルルートは本来別のゲイムギョウ界にいる女神なので、想定できないのも仕方ないと言えば仕方ないのである。

 

「さぁて・・・後はどうやって虐めようかしら?色々と思い浮かんで悩んじゃうわねぇ?」

 

「(・・・この様子なら逃げ道はあるか?目を離せばすぐに攻撃が飛んで来そうだが・・・)」

 

プルルートが本気で悩んでいる様子が見えたので、マジェコンヌは目だけを動かして必死に周りの状況を集めて考える。

受信側であれば無挙動で応じることができるマジェコンヌだが、送信側はまだ上手く行かないので、こうなればレリウスから通信を送ってもらえるのを待つしか無いだろう。

その思考が魂の形となって表れたのか、レリウスにも確かに伝わっており、状況を理解したレリウスは術式通信をマジェコンヌに送った。

そして、術式通信が飛んできたのが分かったマジェコンヌは無挙動でそれに応じる。

 

「どうした?」

 

『今からそちらにイグニスを送る。少しだけ耐えてくれ』

 

「分かった。ならば耐えて見せようじゃないか」

 

『頼む』

 

短い通信を終えたマジェコンヌは、腹を括ってプルルートを見据える。

プラネテューヌの女神を倒そうとしても、プルルートをどうにかできない今は撤退すべき。そう考えたマジェコンヌは行動に移った。

 

「悪いが、ただでは終わらんぞ?貴様もその方がいいだろう?」

 

「ええもちろん・・・。それで?何を見せてくれるの?」

 

「私の変身だ・・・見るが良いッ!」

 

プルルートが期待の眼差しを向けてくれたことで完全に隙ができたので、マジェコンヌは即座に変身を行う。

自身の体が紫色光に包まれ、その光が消えるとマジェコンヌはズーネ地区で見せた姿に変わっていた。

 

「さあ、第二ラウンドだッ!短くなるやもしれんが、付き合ってもらうぞ!」

 

「いいわね・・・それじゃあ、始めましょうか!」

 

ラグナと同じ形をした金色の剣を構えたマジェコンヌと、蛇腹剣を構え直したプルルートが同時に武器を振るう。

互いの武器がぶつかり合った時、プルルートはマジェコンヌの持っている武器に興味を惹かれた。

 

「・・・?ラグナと同じ武器じゃない?急にどうしちゃったのぉ?」

 

「この武器を見せれば興味を持つだろうと予想が当たっていたようだな・・・!」

 

マジェコンヌは狙い通りに事が運んで一安心する。

自分の使う槍や、女神たちの武器を見たところで、始めて見るプルルートではそこまで気を引くことはできない。

しかし、ラグナの武器は既に見ているので、これなら引けるだろうという予想は見事に的中した。

女神を退く為に女神の性格を逆手に取るのは尺ではあるが、そこをマジェコンヌはどうにかこらえる。

 

「実は、私には他人をコピーできる能力があってな・・・。これはその一環だよ」

 

「へぇ?と言うことは、もしかして技も使えるのかしら?」

 

「ああ使えるとも。見るが良い・・・インフェルノディバイダーッ!」

 

「ならこっちも、ファイティングヴァイパーッ!」

 

マジェコンヌが剣に紫色の炎を纏わせながら振り上げるのに対して、プルルートは蛇腹剣に雷を纏わせ、左から右へとV字に振るう。

プルルートが放った剣戟の一段目をマジェコンヌが強引に突破したので、二段目は空振りに終わる。

 

「さっきまでとは随分と違うじゃない?でも、そうじゃないと面白くないわね・・・」

 

「フッ・・・それなら結構。だが、今回はもう時間だな」

 

「・・・?それはどういうことかしら?」

 

マジェコンヌの強さの変貌に喜びの笑みを見せたのも束の間、マジェコンヌから告げられた言葉によってプルルートは困惑することになる。

プルルートに問いかけられたマジェコンヌが目線を下にやったのでそれをプルルートが追ってみると、その目線の先には準備を完了していたレリウスがいた。

 

「退避の準備は終わった。いつでも出られるぞ」

 

「すぐに行く」

 

レリウスに告げられたマジェコンヌは一言だけ返し、プルルートやネプテューヌには目もくれずレリウスの傍まで移動した。

 

「今回は潔く負けを認めよう・・・だが覚えておけ。私はまた貴様らを倒しに現れるとな」

 

「また会おう・・・。次会う時は、御前の魂を余すことなく見せてもらうとしよう」

 

二人は最後に一言告げ、転移魔法の為に作り上げた空間に飲み込まれる。

その空間が消えると、二人の姿はない為これで今回の戦いは終わりを告げた。

 

「ど・・・どうにか終わったねぇ。もうナスのモンスターはコリゴリだよ・・・」

 

「あはは・・・思ったよりモンスターが弱くて助かったかも・・・」

 

二人とも戦いが終わったので脱力気味になる。

ネプテューヌはモンスターがモンスターだった為、ネプギアは二人を助けに行こうとしてかなり焦っていたからである。

しかし、ネプテューヌは大切なことに気がついて起き上がる。

 

「行けないっ!コンパを探さなきゃ!」

 

まだコンパが見つかっていない。実際のところあの時写真に写っていたのは捕まっていたアイエフだけで、コンパは見つかっていなかったのである。

その為、ネプテューヌはすぐに変身をして体を軽く浮かび上がらせる。

―友達を助けたと言うなら、コンパの安全も確認して始めて完了ね。その考えがネプテューヌの行動力の源となっていた。

 

「私、ちょっと行ってくるわね!」

 

「あ、待ってお姉ちゃん!私も行くよ!」

 

「あら?何か面白そうだし、アタシもついていこっと・・・♪」

 

ネプテューヌが飛んで行くと、ネプギアは慌てながら、プルルートは興味本位でついていくのだった。

そして、彼女たちが小さくなるまで見送ったラグナたちは、今度こそ終わったとそれぞれの戦闘態勢を解いた。

 

「あいつら行っちまったな・・・」

 

「後はコンパさんだったな。確かに今どうなってるか解んねえし、俺らも探しに行かないとな」

 

《それは良いのだけど・・・貴方たち、本気で今から徒歩で(・・・)探すの?》

 

自分たちだけ休んでいるわけにもいかないので、ラグナたちは歩き出そうとすると、ラケルに問いかけられた。

今回は少し注意喚起に近い形に感じられた。

 

「ん?だってバイク使えば大丈夫・・・。・・・・・・あっ、そういやアイエフに貸してんじゃねえか・・・」

 

「ああ。そういや確かに貸してたな・・・」

 

《・・・だから言ったのよ》

 

ラグナは言い返している最中に気が付いた。先程コンパの捜索に向かうと言ったアイエフにバイクを貸していたのだ。

それによって気が付いたナオトはそのことを肯定するが、同時に額に汗が現れた。探すのはいいのだが、余りにも非効率すぎた。

その二人の様子を見たラケルは呆れ半分に呟いた。

 

「仕方ねえ、帰りながら探すか・・・」

 

「そうだな・・・。つか、誰かに戻って来てもらわね?」

 

《(・・・こんな時アイエフがいてくれれば、この二人を風で送り届けられたというのに・・・)》

 

二人は脱力気味になって話し合い、それを後ろで見ていたラケルはあの時アイエフに待ってもらえば良かったかもしれないと後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「そうっちゅか・・・それは残念っちゅ」

 

ネプテューヌたちがマジェコンヌらと戦っていた頃から、ナス畑から離れた場所でワレチューはコンパと話し込んでいた。

コンパと戦いたくないと思うワレチューと、争いごとを嫌うコンパはその点が一致していると分かったワレチューが自分たちの同盟に誘ってみたのだが、残念ながら拒否されてしまった。

それもそのはず、女神たちを倒そうとしているワレチューらの同盟に、女神が友人にいるコンパが一緒に行こうというはずも無かった。

 

「でも、戦いたくないのは本当です。本当なら、今すぐその目的も諦めて欲しいですけど・・・」

 

「悪いっちゅけど、そういうわけにはいかないっちゅよ・・・悪党にも悪党なりの義理や友情というものがあるっちゅ」

 

実際のところ、ワレチューはあの集団で過ごす時間を悪く思ってはいなかった。その為、コンパの願いは振り切ることを取った。

もしワレチューが普通に生きているだけなら、その願いを聞き入れて自分だけ諦めていたかもしれないが、自分の意志で続けている以上そんな選択肢を取ることは無かった。

その為、今回の話し合いは完全に決裂してしまったが、それでもこの場ですぐに戦うということは無い。

ワレチューは己の精神の関係上コンパを傷つけることが出来ず、コンパは不用意な争いを好まないのでそのような事を自分からするつもりは無い。

それがこのように暫く何もない時間を作っていた。

 

「あっ、ねぷねぷたちが来てくれたですぅ!おーい、私はこっちですよーっ!」

 

「ぢゅうッ!?女神が来たっちゅか!?」

 

先に沈黙を破ったのはコンパで、自分を探すために飛んでいる彼女たちを見つけて両手を大きく振る。

その仕草を見たワレチューはびくりとしながら弾かれるように後ろを見る。

するとこちらに気づいた三人がこちらに降りてきたので、慌てていたワレチューは三人の女神に囲まれると言う絶望的状況になっていた。

 

「コンパ、無事だったのね?」

 

「はいですぅ♪この通り、五体満足ですよ♪」

 

コンパが笑顔のまま返してくれるので、ネプテューヌは安堵の笑みを浮かべた。

しかし、ワレチューがまだいるので、無防備で喜び続けると言うことはせず、すぐにそちらへ意識を向ける。

三人に目を向けられたワレチューは、せめてものの足搔きと言うかのようにファイティングポーズを取る。

 

「な・・・何っちゅか!?オイラ何も手出ししてないっちゅよ?」

 

「そ、その姿勢をされると反応に困るかな・・・」

 

焦りながらチラチラと女神三人を警戒する姿勢を見たネプギアは困った笑みを見せる。

何故余計な事をしてしまうのだろうか?ネプギアはそんなワレチューを見て、そのポーズをやめたほうがと言ってあげたかった。

 

「なぁに?そんなに虐められたいのぉ?困った子ねぇ・・・♪」

 

「ぢゅぢゅぅッ!?」

 

「もぅ・・・脅かしちゃダメよぷるるん。この様子だと本当に何もしていないみたいだし・・・」

 

プルルートが危険な笑みを見せた事でワレチューは背筋が凍り着くが、ネプテューヌが止めてくれたことで心底安心した。

ネプテューヌに止められたプルルートも、本当に何もしていないのが分かったのでまあいいかと引き下がってくれた。

 

「何もしていないなら今回は見逃してあげるわ。今のうちにどこかへ去りなさい」

 

「・・・マジで言ってるっちゅか?」

 

「マジで言っているわよ?言っておくけど、今回だけだからね?」

 

ネプテューヌの慈悲深い勧告に困惑したワレチューが一泊置きながら問い返すと、ネプテューヌは間を殆ど開けずに肯定した。

ピーシェの無茶な遊びに付き合っていたこともあって、ネプテューヌは心のキャパシティが相当大きくなっていて、これもそのお陰である。

本気で言っていることが分かったワレチューは、自分のしたい事もできたのでそれを受け入れることにする。

 

「なら今回は有難く受け取るっちゅ。次は容赦しなくて良いっちゅよ?」

 

「また懲りずに来るならね」

 

ワレチューのせめてものの反抗と言える言葉にも、ネプテューヌは至って涼しく返した。

 

「言うことは言った・・・じゃあさらばっちゅ!」

 

もうこれ以上はとどまるべきではないと判断したワレチューはその小さな体を活かして、女神たちの間をくぐり抜けるように走り去っていった。

そして、それとすれ違うようにバイクに乗っていたアイエフがこっちにやってきた。

 

「良かった!コンパは無事だったのね・・・」

 

「あ、アイちゃんっ!アイちゃんも大丈夫だったですか?」

 

「みんなに助けられたからね・・・三人ともありがとう」

 

同じ場所で気を失ってから会っていなかったので、二人はお互いが無事なので安心した。

今度こそこれで終わったことと、その例への返答二つの意味を兼ねてネプテューヌは穏やかな笑みで頷いた。

 

「これで全部終わったし・・・そろそろ帰りま・・・術式通信?もしもし?」

 

『ラグナなんだが・・・コンパは見つかったか?』

 

「ええ。特に怪我とかも無いから、後は帰るだけよ」

 

術式通信の相手はラグナで、コンパのことを問いかけられたので、無事を伝えながら自分たちのことを伝える。

 

『それなら、一度俺らを迎えに来てくれねえか?』

 

「・・・?バイク使って移動していたわよね?それはどうしたの?」

 

『さっきアイエフに貸した・・・だから今、俺とナオトは素早く移動できる手段がない』

 

「アイちゃんに・・・?」

 

ラグナに事情を説明されたネプテューヌがアイエフの乗っているバイクを見てみると、赤と黒のツートンカラーをしている、最近ラグナが購入したバイクだった。

それと同時に、ネプテューヌは自分がそのまま後先考えずさっさと飛んで行ってしまったことに気がつき、顔を朱色に染める。

 

「ご、ごめんなさい・・・!すぐに戻るから待ってて!」

 

『悪い・・・頼んだ・・・』

 

「ええ。それじゃあ切るわね」

 

術式通信を切ったネプテューヌは自分のやってしまった事が恥ずかしくなった。

しかし、ここで悶えてもラグナたちが気の遠くなる思いをするので、そんなことをしている場合では無かった。

 

「み、みんな!一度ラグナたちを迎えに行くわよっ!」

 

「・・・あっ!そう言えば置いてきちゃってる!急いで行かなきゃっ!」

 

「あらあら、また慌てて行くなんて・・・。今日は慌ただしい一日ね・・・♪」

 

慌てて飛んでいくネプテューヌとネプギアに、プルルートは一歩遅れてから楽しそうについていく。

 

「やれやれ・・・じゃあ、私たちも行きましょうか」

 

「無事な姿をお見せするですぅ♪」

 

三人が見えなくなるよりも早く、バイクこそ違えど再び二人乗りになったアイエフたちはバイクを走らせて追いかけるのだった。




以上でアニメ7話が終わりとなります。

「マジェコンヌが今の状態でこのメンバー相手に原作通りの変身をしていいのか?」と思ったので、5話の時の姿に変更の形を取りました。

次回はアニメ8話に入ると思います。
現在の状況で行くと、プリンの取り合いによって起きた喧嘩の辺りが大幅に変わることになると思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。