超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER- 作:ブリガンディ
こうして始まった戦争だが、四ヶ国で最も状況が良いのはルウィーだった。
「ズェアッ!」
まず初めに、兵士たちが機関銃で放ってくる銃弾を、ハクメンは『斬魔・鳴神』とドライブの斬神を用いて無効化しながら近づき、兵士の武器だけを破壊して無力化していく。
更に、『斬魔・鳴神』によって出来上がる封魔陣と、斬神による方陣がハクメンの後ろにいる兵士たちを護る事に役立っていて、ルウィーの兵士たちは小型のモンスターを倒すことも視野に入れられるだけの余裕があった。
「アイスコフィン!」
「いっけぇっ!」
ロムとラムは氷の魔法を使い、兵士たちの銃を凍らせて使い物にならないようにする。
これによってエディン側の兵士たちの手数が少なくなり、ルウィーの兵士たちは小型のモンスターを倒すのに集中しやすくなる。
「ただでルウィーに入り込めると思うなよぉッ!」
更に一部の進行できたモンスターも、ブランが見つけ次第速攻で倒す事によってすぐに兵士たちが体制を立て直せている。
これによって、ルウィーへの進行は殆ど不可能なまでにルウィーへ来たエディンの戦力は無力化されていた。
元々魔法が盛んだった国なこともあって魔法を扱える人が多く、モンスターへの対抗手段が最も充実しており、ハクメンのドライブと武器が防衛にも優れていたこと、更にロムとラムが氷の魔法による高い足止め能力を誇っていたので、こちらの戦線はどの国よりも早く拮抗が崩れて決着までの流れができあがっていた。
「ハクメン、少しいいか?」
「どうした?」
そして、ブランの手によって大型のモンスターがエディン側の兵士たちの後方にしか残らなくなり、ロムとラム、ハクメンの三人のおかげで兵士たちの安全が確保できた状況で、ブランはハクメンに術式通信を送った。
無論、ハクメンが担当していた場所も自身が手を貸す必要が無くなっていたのですぐに応じた。
「状況が大丈夫になり次第R-18アイランドにノワールが行くっつってたから、ハクメンに応援を頼みたいんだが・・・大丈夫か?」
「御前たちが問題無いのなら」
ブランの問いにハクメンは迷わず答える。何なら後方に控えるモンスターを倒しながらラステイションに走り抜けると言う考えも持っていた。
ハクメンから迷いのない肯定をもらえたブランは、小さな笑みを浮かべる。
「なら問題ねぇな。それじゃあ悪いけど頼むぜ」
「あっ、ハクメンさん行ってくるの?頑張ってね~!」
「頑張って・・・♪」
「承知した」
ブランの言葉に便乗してロムとラムが笑みを見せて応援する。それに対して、ハクメンは首を振って深く頷き、モンスターたちを見据えて『斬魔・鳴神』を構え直した。
「では・・・推して参るッ!」
ハクメンは斬神による蒼い方陣を自身の前に突き出しながら、一気に駆け抜けていく。
その際、エディン側の兵士たちが放ってきた銃弾はすべてその方陣で無力化して突き進み、彼らが用意していた塀を飛び越えてモンスターへ向かって行く。
「椿祈ッ!」
飛んで進んでいく勢いに任せたままモンスターに肉薄して『斬魔・鳴神』を振り下ろし、そのままモンスターのことを気にせず通り過ぎていく。
ハクメンが地面に足をつけて『斬魔・鳴神』を鞘に収めると、そのモンスター光となって消滅したが、ハクメンはそれに目を向けないままラステイションに向けて走り出した。
それを見た兵士が慌てて足を止めようとしたが、それはロムとラムによって武器を氷つかされて阻止された。
「させないよ・・・!」
「アンタたちにこれ以上やらせるもんかっ!」
「もう諦めな・・・。そっちに戦う術は残ってねぇだろ」
ロムとラムに止められた兵士たちは、自分たちが最後までまともに武器を使える状態だったのがブランによって知らされ、兵士たちは大人しく武器を捨てて両手を上げた。
ルウィー付近での戦いはこうして、ルウィーが勝利する形で早期に決着が付いた。
* * *
ラステイションの場合はプラネテューヌと同じで殆ど拮抗を保っていた。
ピーシェがプラネテューヌに向かったことが幸いして、こちらは兵士たちとモンスターを食い止める事に専念できていた。
もしピーシェがラステイションに来ていた場合、プラネテューヌは早期に決着をつけてこちらの支援に回れたかもしれないが、その代わりにこちらの戦線が崩壊の危機を辿る恐れがあったので、一長一短である。
しかし、そんな状況ではあるが、一人納得できない状態の人物が一人いた。
「・・・・・・」
それは一般市民と一緒にシェルターの中に非難していたニューであった。
彼女は以前まで『ムラクモユニット』の力を持っていたが故にかなりの戦闘力を誇っていたが、ラグナに助けられると同時にそれを失って戦う術を持たない身になっていた。
ラグナに助けられるまでは『ラグナと融合し、『黒き獣』になるために必要なもの』と言う認識だったから捨てたいと思っていた節もあったが、今こうしていると『ムラクモユニット』さえあれば自分も皆の助けになれたと歯がゆくなる。
もちろん、ラグナはニューを助けたいから助け出したし、周りの人たちもそれを知っているからこそニューに戦いを強いることは無かった。
「(でも・・・こういう時に何もできないって、嫌になるかな・・・)」
以前であればラグナ以外全てがどうでもいいとすら思えていたニューだが、救われて以来多くの物事に興味を向けていたので認識が変わっていた。
そして、そうだからこそ、ニューは今戦っている人たちに何もしてやれないことがかなり堪えていた。
「(こんな時だけ『
シェルター内で不安の空気が広がる中、ニューは一人天井を見上げて虚しい気持ちを紛らわそうとした。
* * *
『ノワール、そっちにハクメンを送ったからもう少しでつくはずだ』
「ありがとう。それなら、ハクメンが来たら行けそうね」
ラステイションの戦場で、兵士たちでは対処しきれない大型モンスターを相手している最中、ブランから通信が飛んできたのでノワールはそれに応じた。
しかもそれが朗報だったこともあってノワールは一安心できた。
現在戦況が拮抗しているのも、大型モンスターの数が少なく、各方角からそれぞれ進行しているが故に、ノワールとユニ、ノエルとラムダの四人がバラバラに行動してもどうにかできる状態だった。
もし、今よりも大型モンスターが多かったりピーシェが来ていた場合、そちらの対処に多くを回されて今頃R-18アイランドに飛んでいってるラグナとプルルートの二人に救援を依頼していた恐れすらあった。
「みんな、状況は?」
『大型モンスターは粗方倒せたけど、兵士たちがまだ残ってるからもう少しかかるわ』
『こっちはまだモンスターがかなり残ってます』
『モンスターが密集して来たから、ノエルと合流する』
他の人たちに状況を確認してみるとまちまちな状況だった。
まず、ユニの場合は遠距離から高い火力で一方的にモンスターを撃つことができるので、モンスターを倒すことに関しては他の誰よりも楽に対処できていた。
しかし、銃による攻撃であることが災いして攻撃が定点的なものになってしまい、兵士を傷つけずに無力化することにはかなり手間取っていた。
一方でラムダと『クサナギ』を装着したノエルは、攻撃範囲が広いことと女神たちと比べて一撃が重くないので、兵士たちを無力化すること自体は速かったものの、モンスターたちの対処は遅れ気味だった。
連絡を終えた後、ノワールは一度周りの状況を確認してみる。
ユニは時間こそ掛かれど兵士たちからの攻撃は殆どダメージを受けないので、少なからずダメージを受ける恐れのあるノエルたちを支えた方が良いだろうと考えに至る。
そう考えてすぐに飛んでいこうとした矢先、モンスターたちの背後から迫る白い影を見てそれを中断することになった。
「アレは・・・来てくれたのね・・・」
その影を見て、ノワールは安堵の表情を浮かべる。
正直なところ戦況がどっこいどっこいだったので、ここへ来て戦況を一気に覆せるハクメンの存在は何よりもありがたいものだった。
ハクメンがモンスターの一体を『斬魔・鳴神』で斬り伏せると、自身の後ろから襲撃された事によってモンスターたちが一度足を止めてしまう。
『待たせたな。これより助太刀に入るので、御前はあの二人の下へと急ぐが良い』
「ありがとう。そうさせてもらうわ」
その止まっている隙を使ってハクメンはノワールに通信を入れ、手短に用件を話す。
戦況的にも問題無いと判断したノワールはそれを承認してから、自分が請け負っていたモンスターの方へ向き直る。
確かにR-18アイランドへは近いので自分が応援に行くという形になっているが、それでもまず先に責務を果たしてからである。
「一先ず、モンスターたちにはご退場願うわ・・・!インフィニットスラッシュッ!」
ノワールは空中で横に周りながら剣を左から斜めに振って構え、そこから一気にモンスターの群れへと急接近する。
そのまま群れの中央にいたモンスターを一度剣で斬りつけてからすぐ横へと飛び去り、次はノワールから見て群れの左端にいたモンスターを斬りつけて飛び去る。
右へ左へ、何度も斬りつけては飛び回ってを繰り返してモンスターを翻弄しながら確実にダメージを与えていき、何度かそれを繰り返した後、上空へ飛びあがってモンスターたちの上を陣取る。
モンスターを見据えたノワールは、剣にエネルギーを集めることで剣を虹色に輝かせ、それを群れの中心へと投げつける。
「これで消えなさいっ!」
ノワールがモンスターに背を向けてから左手の指で音を鳴らすと、地面に刺さっていた剣を中心に光の柱が発生し、モンスターたちを飲み込んだ。
その光の柱が消えると、モンスターたちは全て跡形も無く消え去っており、背後を振り返ったエディン側の兵士たちが戦意を失う。
「これで大丈夫ね・・・。私はこれからR-18アイランドに向かうわ。暫くの間あなたたちに任せることになるけど、問題無いわね?」
ノワールが周りの全員に問いかければ、兵士たちは歓声と雄叫びで応えてくれた。
それはすなわち、ノワールがR-18アイランドに向かっても大丈夫。またはノワールが帰ってくるまで耐えきる、もしくは勝利で戦いを終わらせるという形気兼ねだった。
実際のところ、戦況はラステイション側が圧倒的に有利で、もう残りの一押しをするだけでも終わらせられる状況だった。
その声に嬉しく思ったノワールは満足そうに頷く。
「ありがとう。行ってくるわ!」
ノワールは兵士たちに礼を言い、そのまま身を翻してR-18アイランドに飛んでいった。
* * *
プラネテューヌの上空から国から離れた崖の近くまで移動しながら、空中で激しい交差を繰り返していた。
「それ、それぇっ!」
「ふっ!てやぁっ!」
ピーシェが放つクローによる連撃を、ネプテューヌは刀で受け流し、受け止めることでやり過ごしていく。
何度かの攻防が続いた後、ネプテューヌによる刀の振り下ろしと、ピーシェが放った右手に持っているクローの突き出しが激突する。
「あはははっ!楽しい~♪戦いながら追いかけっこも良いねぇ~」
「あらそう?楽しそうで何よりね・・・」
ピーシェは心の奥底から楽しそうに言うのに対して、ネプテューヌは冷や汗が流れていた。
ネプテューヌがピーシェへ行う『遊び』をするにはまだ場所が悪い。その為現在はおびき寄せるように移動しつつ戦っているのだが、持つかどうかが怪しいところだった。
ピーシェは強引な方法で信仰者を増やしたとはいえ、信じられない程の力を発揮していることにある。
これが災いして、ネプテューヌは防戦一方を強いられている。
「(早くしないと、ぴーこの気を引くよりも先にこっちが倒れてしまうわね・・・)」
また、ピーシェの放つ一撃一撃がブランよりも遥かに重く、全て受け止めようとしているとあっという間にやられてしまうのが目に見えており、ネプテューヌはピーシェの攻撃を捌くのに物凄い集中力を要されていた。
受け流すべき攻撃と受け止めるべき攻撃を間違えるとただ事では済まない。しかし、こうしてピーシェの攻撃を捌くことに意識を割きすぎると誘導がおざなりになる。
つまるところ、ネプテューヌはある種の極限状態に追い込まれていた。
「(もうだいぶ離れたはずだけど・・・この危機感だけはいつまでも終わらなそうね)」
ピーシェの攻撃を再び受け止めたネプテューヌは、あえてピーシェに押し切られることを選択し、そのままの勢いを利用してピーシェの誘導に活用を考えた。
するとピーシェは案の定こちらを追いかけることを選択してくれたので、ネプテューヌは攻撃を裁くことだけはしっかりと行い、ピーシェの攻撃による勢いを利用して自身が誘導しようとしていた場所へ向かうことを選んだ。
いくら女神だとはいえ、思考が子供のままであるピーシェはネプテューヌと
「・・・成程。成し遂げようとする者と純粋に其れをしようとする者の対比か・・・これは面白いデータだな」
一方、魔法の力を利用して彼女たちの戦闘する姿を追いかけているレリウスは、彼女たちから得られる情報を興味深く観察する。
ピーシェを取り戻す為に戦うネプテューヌと、特に目的は無く戦争を利用して遊ぶピーシェの二人から見えるものは大きく異なっている。
テルミが『スサノオユニット』を用いて行おうとしているのは、『ラグナ=ザ=ブラッドエッジへのリベンジ』と『恐怖によって支配し、自身が何者にも縛られず自由な世界を作る』ことである為、事を成そうとするネプテューヌと、自分の思うままに力を振るうピーシェの二人はテルミに合わせること前提では、これ以上はない程最適な組み合わせだった。
「後は、圧倒的な力の差というものが欲しいところだが・・・此れに関してはすぐに見られるだろう」
自身が仕向けなくとも、ネプテューヌが勝手にやってくれることが目に見えていたので、レリウスに取っては最高に都合が良かった。
後は己の望む展開を待つばかり・・・。己の目的を達成させる為に必要な情報が、これ程楽に手に入るとは思ってもみなかっただろう。
戦争自体は別に勝たなくても良い。最悪は一日で終わってしまっても良いので、とにかく女神同士で戦うデータが得られれば良く、それらの全てはこの二人のデータで揃う。
どの道、戦争の結果がどうなろうとも、レリウスらの同盟に取ってはデータが揃ってしまえば最早勝ってしまったも同然である。
「さて・・・そろそろか」
彼女たちの戦闘もいよいよ流れが変わることになる。
その理由として、ネプテューヌが誘導したい場所にピーシェを誘導しきったからである。
そして、ネプテューヌは一度武器をしまって無防備な状態を晒す。
それの効果は確かにあり、ピーシェは思わず動きを止めて滞空を選んだ。
「・・・?どうしたの?もう遊んでくれないの?」
「いいえ、違うわ。ちょっと遊び方を変えるだけよ」
ピーシェの問いに答えながらネプテューヌは変身を解除し、平時の幼い姿に変わる。
「・・・うん。ぴーこ相手なら、やっぱりこっちの方がやりやすいっ!」
ネプテューヌは確信していた。いくら相手が女神になったとはいえ、ピーシェであるならこの姿の方が記憶に影響を与えやすいと。
その理由として、ネプテューヌはピーシェの前では殆ど変身した姿を見せておらず、平時の姿でいた上に、その姿で遊び相手にもなっていたからだ。
「・・・どういうこと?」
「まあまあ、それは後で教えてあげるから・・・かかっておいでっ!私が思いっきり遊んであげる!」
「・・・!うんっ!じゃあ思いっきり・・・いっくよ~!」
ピーシェは一度困惑するものの、ネプテューヌが両手を広げて自信満々に言うものだから、それに甘えることにした。
ネプテューヌは確かに苦しいけどやるしかないと意気込んでいた。それは良かったものの、それでも実際にやることは簡単ではない。
「えいっ!」
「ねぷぅあっ!?」
事実、平時の姿に戻り能力が下がった状態ではピーシェの攻撃を目で追いきることができず、左頬にピーシェの攻撃をもろに受けて吹き飛ばされてしまった。
「さて、ここからどう動くか・・・楽しませてもらうぞ」
ピーシェが反応できないネプテューヌを一方的に攻撃していくのを見ながら、レリウスはこの二人の行く末を期待して観察を続けるのだった。
* * *
「インフェルノディバイダーッ!」
「
ラグナの黒い炎のようなものを纏わせた剣と、テルミの碧い炎のようなものを纏わせた足は同時に振り上げられ、ぶつかり合う。
二人は互いの攻撃が衝突した反動を活かして距離を取り、地に足を滑らせながら体制を立て直した後、即座に距離を詰める。
接触するであろうタイミングに合わせてラグナは剣を上から真っ直ぐに振り下ろし、テルミは両手に持ったバタフライナイフをX字に振り下ろす。
「・・・へッ!今度こそテメェをブッ殺してやるよ・・・『ラグナ=ザ=ブラッドエッジ』ッ!」
「言ってろ・・・。んなこと言ってるテメェを返り討ちにしてやるぜ・・・テルミッ!」
そして、互いに名を呼びながら吐き捨てるようにそう言う。
無理に決着をつける必要はないのだが、できることなら決着をつけたい。
相容れることのない二人が考えていることは、皮肉にも一致しているのだった。
「そぉらッ!」
「ええいっ!」
マジェコンヌが槍を左から水平に振り払うのに合わせて、プルルートは蛇腹剣を右から斜めに振り下ろす。
それらはぶつかり合って火花を散らし、二人はそのまま鍔競り合いにもつれ込む。
「前回は見苦しいものを見せてしまったが・・・今回はそうはいかんと知るが良いッ!」
「もちろん・・・そうじゃないと、張り合いが無いものねっ!」
お互いが再戦を望んでいたことを確認しながら、プルルートは手に持っていた蛇腹剣に力を入れてマジェコンヌを押し返す。
マジェコンヌは押し返される勢いをあえて利用して距離を取ると、武器をハクメンの使っていた『斬魔・鳴神』の形に変えて再びプルルートへと迫る。
「私が扱うとどうなるか試して見るか・・・」
「あらぁ?来ないならこっちから行くわよ?」
マジェコンヌ自身、ハクメンの能力をコピーできるようになったとはいえ、実際に使うのはこれが初めてである。
それ故に、ズーネ地区での敗走とプラネテューヌの撤退戦の経験から、マジェコンヌも少しは慎重になる。
マジェコンヌが動かなくなったことでプルルートも一度止まって、煽り半分に様子を見ることにした。
「ああ。遠慮せず来てくれて構わんぞ?」
「・・・へぇ?なら、遠慮せず行かせてもらうよっ!」
マジェコンヌの言葉が煽りだと感じたプルルートは、マジェコンヌに向けて一気に距離を詰めることを選んだ。
そして、プルルートが蛇腹剣を上から真っ直ぐに振り下ろした瞬間、マジェコンヌは口元をニヤリと吊り上がらせながら左腕を前に突き出し、紅い方陣を展開してそれを防いだ。
「・・・?」
「行くぞ。虚空陣・・・」
―こいつがこの技を知らないことが功を奏したな。
マジェコンヌは安堵しながら困惑するプルルートをよそに刀を引いて居合の構えを取る。
「雪風ッ!」
「・・・っ!?きゃあっ!?」
マジェコンヌの動きから、次の攻撃を受けるのは非常に危険だと判断したプルルートは蛇腹剣を咄嗟に構えて防御の体制を取る。
プルルートが防御の体制を取るのと、マジェコンヌが刀を振り抜くのはほぼ同時で、マジェコンヌは強く踏み込みながら刀を右から水平に振るい、プルルートの蛇腹剣に全力でぶつける。
そして、その威力が余りにも大きかったのでプルルートは受け止め切れず、そのまま後ろへ吹き飛ばされてしまった。
「ふむ・・・私が使うとこんなものか」
流石に本人程技への精通が無いから限度はあるなとマジェコンヌは判断した。
確かに地の力なら変身した姿であれば上回ることもできるが、技によって発揮できる威力はそう簡単に再現しきれるものでは無かった。
それ故に、『蒼炎の書』が無いせいでデッドスパイクがラグナと同等の威力になった時と似たような結果になってしまったが、それでも十分とした。
「なっ・・・!?プルルートッ!」
「おいおい・・・余所見してる暇なんてねぇだろ?」
プルルートの短い悲鳴を聞いたラグナは反射的にそちらに顔を向けてしまい、テルミに付け入る隙を与えてしまった。
ラグナがその声を聞いて振り向いた頃には、テルミは既に攻撃の準備を終えていた。
「前の時と同じだなぁ・・・蛇翼崩天刃ッ!」
「うおぉッ!?」
そして、テルミの強力な回し蹴りをまともに受けてしまい、ラグナも宙に浮かされることになる。
「オラ、もういっちょ行くぜッ!」
「何度も喰らうかよッ!」
テルミが『ウロボロス』を伸ばしてラグナを掴もうとするが、ラグナは術式制御で素早く体制を立て直して剣を牙突に近い形で構える。
「テメェにコイツをくれてやらぁ・・・!ベリアルエッジッ!」
「チィ・・・!」
ラグナが剣に黒い炎のようなものを纏わせながら突っ込んで来たのを見たテルミは、『ウロボロス』による追撃を断念して一度後退する。
テルミが避けた事によってラグナの攻撃は地面を僅かに削るのに留まったが、ラグナの攻撃はこれだけでは終わらない。
「まだ行くぞ・・・!ヘルズファングッ!」
「・・・来な!」
ラグナは黒い炎のようなものを纏わせた左腕を突き出しながら突進するが、テルミはそれがギリギリ届かない位置になるように後ろへ飛びのく。
「おおッ!」
「
ラグナはそのまま剣を持ったまま右腕に黒い炎のようなものを纏わせながら殴りつける。
それに対して、テルミは右手に持ったバタフライナイフに黒い炎のようなものを纏わせながら足元から掬い上げるように振るった。
互いに纏わせていた炎のようなものはぶつかり合い、飛び散りながら霧散した。
「さて・・・ようやくR-18アイランドまで来れたわね」
ラグナたちの戦いが繰り広げられている中、ノワールはようやくR-18アイランドの敷地内上空に辿り着くことができた。
何か異常がないかを探してみると、まず自分と同じくらいの高度でプルルートとマジェコンヌが戦っている姿を確認することができた。
「(は、早く知らせないと・・・もうこっちが持たない・・・。・・・っ!あ、あそこに・・・!)」
一方で、ノワールがその二人の姿を確認したのとほぼ同時にリンダも彼女の姿を目撃していた。
しかしながら、声を出せばすぐに気づかれてしまう恐れがあるので、リンダは祈りを込めて両手を振りながらノワールが気づいてくれることに賭けた。
「(互角そうに見えるけど、ちょっとだけ押されているわね・・・。ここは助けに行った方が・・・下に人の気配?)」
ノワールはそのままプルルートの救援に行こうとしたが、下に気配を感じてそちらを見やれば、何やらこちらへ手を振っているリンダの姿があった。
「何か訳アリみたいね・・・」
それを見たノワールは、プルルートがまだ耐えられると信じてリンダの下へ移動することを選んだ。
「何かあったの?」
「あっ!実は、エディンにあったあの施設なんですけど・・・あそこにバカ正直に行かないで済む行き方があるんです!」
「え・・・っ!?それ本当なの?」
ノワールはリンダから得られた情報に驚く。
しかしながら、何故彼女は焦っていたのだろうか?そもそもR-18アイランドでの勤務を終えた彼女は何故エディンに潜り込んでいたかも気になった。
「確かに情報は嬉しいけど・・・どうしてそんな無茶を・・・」
「自分も流石にあの見た目は変だなと思っていたもんですから・・・。それで調べてみて、専用の隠し通路は見つけたのは良かったんですけど・・・その後ちょっとヘマして駐留していた兵士にバレて追われていたんです・・・」
「なるほどね・・・」
ノワールはリンダのその勇気ある行動をありがたく思った。
そして、それほど有用な情報を持って来てくれた彼女の行動を無為にしたくない。そう思ったノワールは一つの提案を思いついた。
「なら、私が護りながらなら案内はできる?」
「・・・えっ!?」
一人で厳しいなら自分が相手から護り通せばいい。ノワールの出した答えはこれだった。
そして、まさか自分を護りながら進もうと選んでくれたノワールに、リンダは驚きを隠せなかった。
「い・・・いいんですか?こんな自分の為なんかに・・・」
「何言ってるのよ・・・。戦争をどうにかしようとしてくれた人の意思を、無碍にするはず無いでしょう?」
「・・・・・・」
ノワールから投げられた言葉が心に響き、リンダの目尻に小さく涙が滲み出るが、今は流すときじゃないと慌てて拭う。
そして、腹を括ったリンダは、自身の回答を告げることにした。
「それなら、自分に案内させて下さいっ!」
「ありがとう。それじゃあ行きましょう」
「はい。・・・こっちです!」
そして、話が決まるのが早いか、リンダが走り出すのを見たノワールは彼女の隣について移動を始めた。
また、この時の会話内容を、ワレチューは近くでしっかりと聞き取っていたのですぐさま同盟の全員に連絡を入れた。
「・・・聞こえるっちゅか?ラステイションの女神が例の場所の位置を知ってしまったっちゅ。一般人を護りながらだから少し遅くなるにしろ、後三十分もあれば到達されるっちゅ」
『・・・何だと?ここに来て潮時とは・・・』
『へッ。今回は
『そうだな。テルミ、十秒だけ持ちこたえろ。お前を捕まえて離脱するぞ』
『・・・おうよ!』
その連絡を聞いたマジェコンヌは一瞬だけ歯嚙みするものの、テルミの言葉で即座に冷静さを取り戻す。
そして、二人はやることを即時に決めて行動に走った。
「牙穿衝ッ!」
「ヤベェ・・・!」
テルミが急に『ウロボロス』を使って拘束しようとする動きに変わったので、ラグナも焦って距離を取った。
しかし、それが彼らの思う壺な行動になってしまった。
「良し・・・今だな!」
「えっ?ここでどうして・・・?」
マジェコンヌがいきなり身を翻して飛び去ったので、プルルートは完全に出遅れてしまった。
そして、テルミと彼の下に飛んでいくマジェコンヌはアイコンタクトで意思疎通を済ませ、テルミがラグナの攻撃をジャンプして避けたところをそのまま連れ去っていく形で回収する。
「悪いな・・・目的を達成した以上、私たちはここで退かせてもらうぞ・・・」
「じゃあなラグナちゃん・・・次会う時は必ずケリを付けてやるからな・・・ケヒヒヒヒッ!」
宣言すると同時に、マジェコンヌはテルミを抱えたまま飛び去った。
プルルートは一瞬だけ追いかけようかと思ったが、前回プラネテューヌで戦った時のことを考えると、今回はこれ以上は何もしないと判断してラグナと合流を選んだ。
「ラグナ、そっちは大丈夫ね?」
「ああ、問題ねぇ・・・。それよりも砲台の方へ急ごう。ピーシェがあそこまで強くなってる原因付き止めなきゃいけねえしな・・・」
「ええ。急ぎましょう」
お互いの状況を確認したので、再びこちらに来るときと同じくラグナを牽引する形でプルルートは再び移動を始めるのだった。
終わらせられるかなと思いましたが、そんなに進みませんでした・・・。
また、思ったよりも戦闘描写が単純になってしまった感じがするので、もしそう思わせてしまったならすみません・・・。
この段階でリンダの善人への更生コースが確定しました。
これによって、彼女はこの章が終わった後も少しだけ出番を貰える可能性が上がりました。
次回でエディンとの戦いに決着が付くかと思います。