超次元ゲイムネプテューヌ-DIMENSION TRIGGER-   作:ブリガンディ

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これでエディンとの戦いは終わりになります。


53話 戦いの結末

戦争の起きている国内で、リーンボックスは有利ではあるが妙な状況だった。

リーンボックスは元々の国土の関係でモンスターを送り込めないことから、エディン側は兵士たち以外戦力は無いので戦力自体は四ヶ国内最小だが、リーンボックス側にもいくつか問題があった。

 

「(くっ!こうも建物が多いと、魔法が碌に撃てやしない・・・!)」

 

まず、ナインの方ではその大魔法の火力が仇となり、彼女は一つ一つに細心の注意を払って戦う羽目になっていた。

ズーネ地区の時とは違って今回は市民が住んでいた建物等が多くある為、彼らの帰る場所を考えた結果迂闊に大魔法で一掃と言う戦い方ができなかった。

それ故にナインは標準クラスの魔法や、範囲の狭い魔法でどうにかやり繰りしているが、それでも兵士を巻き込まないようにする為の加減が難しく、相手を無力化するのに相当手間取ることになった。

 

「どうにか外に連れ出したいけど・・・。・・・!?」

 

ナインが思慮している間に兵士たちから銃撃を浴びせられたので、慌てて魔法で防御を行う。

女神と違って素の防御力は鍛えてある普通の人止まりであることと、魔法による火力も相まって、ナインは最優先で狙われてしまっている。

こんな時ほど、セリカを向こうに移させて良かったと思うことは無かった。

 

「はぁっ!」

 

また、ベールも迅速に敵を無力化するのに苦労していた。

槍を扱う以上薙ぎ払ってしまえば多くの犠牲を生んでしまうので、なるべくそれを避けて突きによる攻撃を中心としているからだ。

しかしながら、ベールの攻撃もまた、ナインと同じく兵士たち相手には過剰火力になってしまうので、通常の攻撃以外をするわけにも行かなかった。

 

「こんな時に気を回し続けるだなんて・・・。不器用なものですわね」

 

身体的な疲労こそ少ないものの、精神の方で妙な負担の掛かる戦いだとベールは感じていた。

しかしそれでも、戦況はもうじきで決着が付くことになる。モンスターがいないこともあり、戦力差が大きすぎたのである。

また、リーンボックス側の兵士たちも少数故に疲労が大きくなってきている為、できればここで終わらせてしまいたいと言う考えに至った。

 

「ナイン。多少なら構いませんので、一気に終わらせますわよ」

 

「ええ。それなら一度場所を変えて・・・!」

 

ナインは防御を続けながらベールの声に肯定して、一度魔法で姿を消すように瞬間移動を行う。

そして、慌てる兵士たちをよそにナインは彼らの背後を取り、両手を頭上に掲げて魔法の準備をする。

暗黒大戦時代の時とは違い、場所を何も気にしないで良いと言うことは無いが、小分けにして使えば兵士を無力化しても街の被害は甚大・・・と言うことは避けられる。

 

「これで終わりよッ!」

 

ナインの声が聞こえた兵士たちは焦ってそちらを振り向くが、その時にはもう遅く、ナインの放った冷気が兵士の持っていた銃だけを凍らせた。

これによって、兵士たちの持つ銃は機能しなくなり、一気に戦闘可能な兵士がいなくなった。

 

「さて・・・これでフィニッシュですわっ!」

 

ベールはナインが対処しきれず、戦闘可能な状態の兵士たちの周囲を飛び回り、槍で武器だけを弾き飛ばしてはまた周囲を回って攻撃を繰り返す。

そして、僅か三十秒もかからずにベールの囲んだ兵士たちは戦闘力を失った。

 

「よし・・・これで何とかなったわね・・・」

 

周囲を確認して、戦える兵士がいなくなったことが分かったナインが溜め息交じりに言う。

ただでさえ被害を気にしながら、更には相手と味方のことを考えながら戦ったのだから、疲労が普段よりも格段に大きいのだった。

しかし、それ以上に被害を殆ど出さずに護りきることができた事には、暗黒大戦時代のようにならずに良かったと安堵できたのだった。

 

「これで我が国における戦闘は終わり。残されているのは・・・」

 

戦闘が終わったとはいえ、まだエディンの信仰者となった市民たちの暴走が残っているので、そちらの対処をしなければならない。

しかしながら、R-18アイランドに向かった人たちからの報告も無しに迂闊なことはできないので、精々大きな被害が生まれないようにするだけである。

 

「(こちらはどうにかしておきますから、後は頼みましたわよ・・・?)」

 

それでも、二次被害を抑えることが自分たちにできるならそれをするだけ。

ベールは空を見上げながらR-18アイランドに向かったラグナたちに祈った後、すぐに市民を抑えるべく指揮を執るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「了解した。これより回収に向かう」

 

時間はワレチューが連絡を入れた時に遡る。

彼から連絡を受けたレリウスは、自身の行動を始めることを告げてから通信を切り、一度ネプテューヌとピーシェの戦いぶりを見る。

それは戦いと言うよりは、一方的な蹂躙と見ても良かっただろう。

 

「それっ、ええーい!」

 

「あうっ・・・!ねぷぁっ!?」

 

ピーシェが左手のクローで腹を殴ったことからその痛みに耐えかねたネプテューヌがうずくまり、そこをピーシェが容赦なく右手のクローで彼女の顎を打ち付ける。

余りの威力に成す術もなくネプテューヌ体を宙に浮かされてしまい、ピーシェは更にそこを追撃する。

そして、ネプテューヌは吹っ飛ばされている自身に追いつかれて踵落としを喰らい、思いっきり地面に叩きつけられてしまった。

 

「ふむ・・・ここから少しの間は変化が起こらなそうだ。速やかに向かうとしよう」

 

―最も観測()たい部分は戻る途中でも遅く無い。そう判断したレリウスは転移魔法を使ってR-18アイランドに向かった。

 

「戻った。準備は良いな?」

 

「はい。いつでも」

 

「了解した。では、ネズミ共々回収して撤退しよう」

 

まず初めに大砲施設に戻ったレリウスはレイを引き連れて、転移魔法でワレチューのいる場所に急いだ。

 

「待たせた。これより引き上げるぞ」

 

「了解っちゅ」

 

そして、ワレチューと短く会話を済ませた後、転移魔法を使って元いたラステイションの廃工場に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・戻った所悪いが、私は最後にあの戦いだけ見届けて来る」

 

「ん?最後の欠片が残っているのか?」

 

「ああ。その通りだよ」

 

ラステイションの廃工場に戻った直後、レリウスがいきなり戻ると言い出したので、マジェコンヌが聞いてみると案の定だった。

 

「ならば行くが良いさ。これは元々、お前の研究の布石なのだからな・・・」

 

「完成したら元も子もないっちゅからね。行くなら今の内っちゅ」

 

「俺も『スサノオユニット(アレ)』の完成は楽しみにしてるからな・・・。何なら付き添いしようか?」

 

「戻ったらすぐ、研究ができるように準備しておきますね」

 

そして、マジェコンヌが促せば全員がそれぞれの理由で促してくれた。

この戦いは元より、次の反逆の為の準備である為、ここで無理に戦う必要なんて無い。しかし、研究が捗らないなら話は別である。

何かと彼らはレリウスの研究が完成する瞬間を楽しみにしていたのである。

 

「そうか。ならば私は行かせてもらおう。テルミ、せっかくだ。御前にも来て貰うぞ」

 

「おうよ。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

テルミはそう言ってレリウスの隣に立って振り向けば、三人が暖かく見送ると決めた顔を見せてくれた。

 

「では、行こうか」

 

そして、それを満足に確認した二人は、転移魔法で再びネプテューヌとピーシェ(二人)の戦場へ移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

テルミたちと予想以上に短すぎる攻防を終えたラグナとプルルートは、以前訪れたシャボン玉生成装置を装った大砲施設の上空までやってきていた。

 

「そろそろ着くけど・・・下に何かいる?」

 

「・・・いや、ここからじゃ全く見当たらねぇ・・・多分、中に紛れてんのか、先に誰かが入ったからそっちに回ったのかも知れねえな」

 

恐らくエディン側に取っては最も重要な施設であるはずだが、施設の周囲には兵士が誰もいないと言うもぬけの殻な状態だった。

―一体何があったのだろうか?ラグナたちは一瞬の間思慮の時間を作るが、そう簡単に答えが出るものでは無かった。

 

「・・・しょうがねぇ。取り敢えず中に入ろう。原因なんざすぐに解るだろうしな」

 

「それもそうねぇ・・・。じゃあ、行きましょうか」

 

ラグナは難しい事を考えるのが苦手だったので、そのまま入って確かめてしまえと考えた。

プルルートはそれを知ってか知らずかすぐに同意してくれたので、そのまま下に降りることにした。恐らくはラグナの動向で察してくれたのだろう。

 

「さて・・・入り口はどこかしら?」

 

「罠があるかも知れねえから、気を付けねぇとな・・・」

 

地上に降りた二人は、早速入口を探し始める。

この時ラグナは久しぶりに『統制機構』の支部に潜入する時と似たような状況になった。

 

「(まさか、またこんなことをすることになるなんてな・・・)」

 

ラグナとしては少しだけ奇妙な気持ちにさせられていた。

何せ前までは反逆でこの様なことをしていたが、今では実質的に反逆して来たエディンを止めるために潜入するからだ。

元反逆者が反乱国家を止めに行くという形になったのは、何の皮肉だろうか?ラグナが人並みの幸福を得て過ごしていたなら、運命の巡り合わせを感じていたかもしれない。

しかしながら、罠らしきものは一切見当たらず、ラグナたちはあっさりと施設内への入口を見つけてしまったのだった。

 

「おいおい・・・いくら何でも簡単に行き過ぎじゃねえか?」

 

「そうねぇ・・・取り敢えず、アタシが先に入って調べましょうか?」

 

「そうだな。俺は一歩後から行かせてもらうわ」

 

流石にここまであっさり事が運んでしまうと妙なものを感じるので、プルルートは自分が先に入ることを提案する。

これを提案したのも、ラグナは『蒼炎の書』を起動する場合は時間を要することと、変身したプルルートの方が敵が待ち構えても耐えきりやすいからだ。

もちろん、ラグナもそれを全て把握した上で承認する。正直言って、兵士が大量に待ち構えていたら自身は即時にやられてしまう可能性が高いからだ。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

「ああ。頼む」

 

プルルートが一言入れてから堂々と入っていくのを確認した後、ラグナは兵士たちがプルルートが入って来て慌てているのを利用して中に入り、上から強襲できるように準備しておく。

 

「お、おい・・・アレって・・・!」

 

「・・・嘘だろ!?もう二人目の女神が来たってのか!?」

 

中に入って見れば、何やら兵士たちが非常に慌てている様子を見せていた。

二人目の女神。恐らくはノワールがすでに入っているのだろうか?プルルートはそう考えた。

 

「ど、どうすんだ!?戦力が足りなすぎるぞ・・・!」

 

「と、とにかく迎撃だ!ここを抜けられたら俺たちに勝ち目が無くなる!」

 

「あら、気が早いのね・・・」

 

兵士たちは動揺が残るまま、機関銃の掃射を始める。

プルルートは一瞬だけその早とちりな行動に驚きこそすれど、即座に蛇腹剣をその場で振り回し続けて弾を弾いて行く。

幾ら並みの人間より圧倒的に頑丈な女神でも、無防備のままその銃弾を浴び続けるわけにはいかないのである。

しかし、兵士たちの抵抗は長くは続かず、彼らの背後に降り立ったラグナが一人ずつ剣の峰を使って殴りつけることで気絶させていく。

兵士たちが次々と倒れ、最後の一人になったのを確認したラグナは彼の視界に剣を割り込ませる。

 

「な・・・!」

 

「そこまでだ。もう戦う必要はねえ」

 

一瞬だけ反抗を試みようとした兵士だが、どちらかに銃を向けた所でもう片方に弾き飛ばされると言う未来が予想できたので、大人しく銃を捨てて両手を上げた。

 

「うん。素直でいい子ねぇ♪ちょっと聞きたいことがあったんだけど・・・。アタシ以外にもう一人女神がいるって言ってたじゃない?それが誰だか解る?」

 

予想と正解が必ず同じとは解らないので、プルルートは一応確認を取ることにした。

できれば施設のことも教えてもらいたいが、最悪は強引に突破するだけなので余り気にしていなかった。

 

「あ、ああ・・・ラステイションの女神が来てるぞ・・・」

 

兵士が震え声で答えたので、ラグナとプルルートはやはりかと納得した。

彼女がこちらに来ているなら、そちらの対応で手一杯になってしまうのだろう。それ故に見張りすら減らす必要があったのである。

 

「後、イエローハートのシェアの源がどこにあるか知ってたりするか?」

 

「・・・確か、ここから奥に進み続けた先にあったはずだ。俺は一兵卒だからそこまで詳しいことは知らないが・・・」

 

「いや、それが聞ければ十分だ」

 

兵士は足りないかも知れないと思っていたが、ラグナからすれば大方の場所さえ教えてもらえれば十分なのである。

こうなれば残りは乗り込んでその場所に辿り着き、原因となるものをどうにかするだけだった。

 

「あんまり長引かせる訳にはいかねえし・・・急ぐか」

 

「ええ。早いところ終わらせてちゃいましょう」

 

ラグナたちは短い時間で話を決め、すぐに突入を始めた。

しかし、いざ入ってみたものの、兵士たちの姿が全くと言ってもいいほど見当たらないような状態だった。

 

「誰もいないわねぇ・・・?」

 

「ノワールが先に入ってたし、それのせいなんじゃねえのか?」

 

考えられることとすれば、ノワールが先に到着しているので、突入したノワールがこちらで戦闘を行ったことが挙げられる。

しかし、戦闘が起こっていたのなら、もう少しこのエリアが荒れていても良かっただろう。二人はそう感じていた。

その状況に怪しさを感じたラグナたちはより慎重に進んでみるが、結局兵士たちを見つける事無く先程兵士から聞いた場所に辿り着いてしまった。

 

「・・・マジかよ。誰もいないままここまで来ちまったぞ・・・」

 

「信じられないくらいに楽だったけど・・・何か算段でもあるのかしら?」

 

流石にここまで楽に来れてしまえば罠の一つや二つは疑いたくなる。

しかしながら、ここで待っていてもいずれは見つかる危険性がある上、少しでも早く戦いを終わらせるなら行くのが吉だろうと二人は考えた。

 

「取り敢えず、入って見なきゃ始まらねえな」

 

「ええ。それじゃあ・・・」

 

二人は短くやり取りを済ませて正面にあるドアを思い切って開け放つ。

その部屋には何やら巨大な電子画面とその下にコンソールだけがある部屋で、残りは何も無かった。

また、その部屋ではノワールとリンダが既に入っていて調査を行っていたらしく、ラグナたちが部屋に入った瞬間、二人はビクリと反応をしながら勢い良くこちらへ振り向いた。

 

「はぁ・・・。あなたたちだったのね・・・」

 

「良かった・・・また兵士たちが来たのかと・・・」

 

どうやらこれまで兵士たちを撒きながらここまで来ていたらしく、味方が来たと分かって安心したようだ。

 

「そういや、リンダはどうしてここに来たんだ?お前は戦いに干渉してなかったはずだろ?」

 

「あはは・・・流石に怪しかったから、調べれば助けになれると思ったもんで・・・」

 

ラグナが単純に気になって聞いてみると、リンダは頭を掻きながら苦笑交じりに言う。

自分でもどうしてここまで無茶をしたのだろうかと言いたくなったくらいである。

 

「でも、実際彼女には助けられたわ。お陰で私は別の入り口から入ることができたのだから」

 

「なるほどねぇ・・・」

 

―だからノワールちゃんと合流できなかったし、あそこまで施設が綺麗なままだったのね・・・。プルルートはそれで納得できた。

それならばあの施設の綺麗さにも説明が付いた。

 

「あっ、そうだ。恐らくこの部屋に無理矢理シェアを集めている装置があると思うんだけど、探すのを手伝って貰えないかしら?」

 

ノワールに頼まれたことで、ラグナとプルルートも部屋の調査を始める。

しかしながら、周りに何も無いので、どこにそれがあるかを探すのはかなり至難の業だった。

 

「見当たらないわねぇ・・・?」

 

「・・・いや、こういうのは一見したらわかりづらいところに隠してあるはずだ・・・」

 

プルルートが困ったように言うと、ラグナは答えながら壁辺りを探してみて、一つだけ脆い部分があることに気が付き、そこを蹴り飛ばして見る。

すると、底には巨大な黄色い球体が浮かんでいた。

 

「こいつが・・・さっき言っていたやつか?」

 

「ええ。恐らくはそれがシェアの収集装置よ」

 

「なるほど・・・それなら後は決まりだな」

 

ラグナが驚いているところをノワールが確認すると、間違いなくそれだと確信した。

その話を聞いたラグナが剣を引き抜いて構えるのを見て、ノワールとプルルートも戦闘ができる姿勢に移行した。

 

「じゃあ、同時に行くわよ?」

 

ノワールが二人に確認を取ると、二人は迷うことなく頷いた。

 

「よし・・・せーの・・・っ!ええいっ!」

 

「そぉれっ!」

 

「うぉりゃッ!」

 

三人が同時に武器を振るって球体に攻撃するも、ダメージらしきものを全く与えられず、球体にはなにも変化を見られなかった。

 

「あら?凄く元気そうねぇ・・・」

 

「嘘?効いてないの・・・?」

 

「ちょっと調べてみるか・・・」

 

全員が驚くものの、その中で最も驚きから復帰の早かったラグナは球体を調べ始める。

これが特殊な方法で強化をされているなら、『イデア機関』で無理矢理破壊する必要があった。

 

「ああ・・・これはめんどくせぇ構造してるな・・・」

 

そして、調べた結果は案の定術式を用いた特殊強化であった。

その為、ラグナは『イデア機関』を用いて破壊することを決めるのだった。

 

「ちょっと下がっててくれ・・・『イデア機関』を使って強引に破壊するわ」

 

「了解よ。さ、あなたもこっちに」

 

「あっ、はい!」

 

強引に破壊する以上何が起こるかわからない。その為ラグナは全員に一度距離を取るように頼む。

それを聞き入れたノワールはリンダを連れて距離を取り、プルルートも彼女を守れるよう、ノワールに付いていく形で距離を取った。

 

「よし、行くぞ・・・!第666拘束機関解放、次元干渉虚数方陣展開・・・!『イデア機関』接続ッ!『蒼炎の書(ブレイブルー)』・・・起動ッ!」

 

そして、全員が距離を取ったのを確認したラグナは、右手を腕の高さまで持っていき、『蒼炎の書』を起動する。

起動を完了させたラグナはそのまま右手を後ろに引きながら、血のような色をしたエネルギーで巨大な手を作り上げる。

「行くぞぉッ!闇に喰われろッ!」

 

ラグナはその右手を球体に押し当て、作り上げた腕から無数の斬擊を球体に送りつける。

『イデア機関』を併用したその攻撃によって、球体は少しずつ光が激しくなってきており、それが崩壊の始まりを教えていた。

 

「これで終わりだッ!」

 

最後にラグナが右手を引きながら作り上げた手を爆破すると、誘爆するように球体も光を広げる。その広がってくる光の勢いが非常に強く、全員が思わず顔を覆って視界を防ぐ。

そして、その光が消えるとそこに球体は残っておらず、球体は消滅したことを知らせていた。

また、巨大な電子画面が全て電池が切れたように真っ暗になっていたので、同時にこの施設の機能が死んだ事を表していた。

 

「消えた・・・のか?」

 

ラグナはハッキリとしないような感覚に困惑するも、今までの経緯からモンスターのように消えたのだと考える。

その理由として、今までも大型のモンスターは顔を覆いたくなるような光の爆発を起こし、消滅していったからなのと、テルミらが前哨戦と言っていたからこれ以上厄介なものは無いと踏んだのだ。

 

「どこかへ逃げられた・・・?」

 

「そんな事は無いわよ?少しずつだけど、力が湧いてくるような感じがするし・・・」

 

「あっ・・・言われてみればそうね。・・・それなら、後は時間が立てば洗脳じみたものを受けた国民も元通りね」

 

一瞬逃げられた事を考えたノワールだが、プルルートの言葉でその疑問は払拭された。

エディンは無理矢理シェアを集めていた以上、その装置が壊れれば集めていたものが無くなる。そうなれば、後は時間経過で全てが終わるのだった。

 

「そうなれば、後は戻って国民たちの確認ね・・・」

 

「後は、ネプテューヌが上手くやれてるかだな・・・」

 

国民たちの状態も確かに気になる物の、こちら側の最大の目的はピーシェを取り戻す事にあった。

その為、いくらこの戦いに勝てたと言えど、ピーシェを取り戻すことができなければ意味がないのである。

 

「じゃあ、アタシと行きましょうか。ネプちゃんのこと、丁度気になっていたし」

 

「悪い。頼むわ」

 

「じゃあ、あなたは私が安全な場所まで運ぶわ」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

ネプテューヌのことが気がかりになったラグナとプルルートの二人が彼女たちの場所まで行くことになり、ノワールがリンダを連れて安全圏への牽引が決まった。

ちなみに、ノワールにはリンダへの感謝もあるので、安全圏に運ぶ以外のお礼を考えているのだが、それをするためにもまずは全員で生きて帰り、戦争をどうにか終わらせる必要があった。

 

「じゃあ、急ぎましょう」

 

ノワールの一声に全員が頷き、そのままこの施設を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「あぐ・・・っ!」

 

 

崖の方まで移動していたネプテューヌとピーシェの戦いは、ネプテューヌの完敗一歩手前な状況に陥っていた。

ラグナたちが大砲施設にいる最中、あの後もネプテューヌはピーシェに殴られ続け、顔に幾つか青くなった跡が見えていた。

そして今、あれだけ耐え続けたネプテューヌも、女神化したピーシェの圧倒的な攻撃力には耐えきれず、とうとう地面へ仰向けに倒れてしまったのだ。

 

「・・・もう終わりなの?もう、もっと楽しくなると思ってたのになぁ~・・・」

 

ネプテューヌの近くに降り立つピーシェはがっかりそうに言う。

ピーシェとしては姿を変えて遊び方も変えてくれるからどんなものかと楽しみにしていたのだが、まさかの先程より詰まらなくなるとは思っていなかったのだ。

そして、その決着が付きそうな現場の少し離れた場所にレリウスとテルミは転移魔法でやってきた。

 

「どうやら間に合ったようだな・・・」

 

「オイオイ・・・アレ終わりそうだぜ?本当にいいのか?」

 

「此れで良い。後は、此処からの覆しだ・・・」

 

もう決着がついてしまいそうな状況を見たテルミが問いかけるも、レリウスは問題無いという以上テルミはそれを信じることにした。

実際の話、ピーシェはどの道この戦いが終われば斬り捨てるもそのまま使い倒すもどちらでも良かった。もし、彼女たちの下に帰るのなら、それでも一向に構わないのだ。

 

「もういいや。もうあきちゃったし、帰ろっか・・・。あ~あ~・・・もっといい遊び相手いないかなぁ~?」

 

ピーシェもそんなネプテューヌをボコボコにするという遊びに飽きてしまい、飛び去ろうと彼女に背中を向けた瞬間、何かに右肩を掴まれた。

 

「っ!?」

 

「まだ終わらないよ・・・。ほら、攻撃しておいで・・・!」

 

「もう・・・つまんない人はいやだよ!」

 

いきなり何者かと思って振り返ってみれば、そこにはフラフラしながらも立って挑発してくるネプテューヌがいたので、別の場所に行きたいというのに邪魔してきた彼女に嫌悪感を感じ、ピーシェが右手で殴りつけようとすると、ネプテューヌは体を潜り込ませることでそれを避けて見せた。

 

「それっ!」

 

「え・・・?」

 

そのままネプテューヌが右足による回し蹴りをピーシェに当てて見せた。

女神化したことによって身体能力が大幅に上がっている建て前上、平時の姿で行ったネプテューヌの攻撃では一切ダメージが入らなかったものの、これが契機でピーシェの脳裏には今の彼女と同じ姿をしている人との楽しい時間が思い起こされた。

その人物は正しく、今目の前にいるネプテューヌなのだが、それが誰なのかが今のピーシェには分からず、頭を痛めて呻くことになった。

 

「・・・嫌い!」

 

「っ・・・!」

 

どうして彼女が思い浮かんだかが解らないが故に、ピーシェはネプテューヌへ嫌悪感を剥き出しにして殴りつける。彼女を倒せば頭を痛めないで済むと考えたからだ。

当然武器が無くても女神化した恩恵はすさまじく、ネプテューヌは簡単に地面へ倒れ込んでしまった。

ネプテューヌが起き上がろうとした時も、起き上がるよりも前にもう一度殴りつけ、少しの間連続で殴るものの、頭の痛みは増していき、それどころか彼女への罪悪感すら湧いて来たのだ。

また、心なしか自身に湧いてくる力が急激に少なくなってきているような気がしていた。

 

「・・・ふむ。どうやら決着のようだな」

 

ピーシェの魂に変化が起きたので、レリウスは大方の流れに察しを付けることができた。

そして、レリウスの予想した通りピーシェは段々と殴りつけるペースと力が弱まっていき、遂に変身が維持できなくなって本来の姿に戻ってしまった。

 

「う・・・っ・・・うぅ・・・っ!」

 

「謝りたいの?」

 

すすり泣きの声が聞こえたのでネプテューヌが問いかけると、ピーシェは力なく頷いた。

 

「ぴーこは覚えてないかも知れないけど・・・そういう時は、ごめんなさいって言うんだよ」

 

ネプテューヌに言われたピーシェは、前にも同じことを言われた事があるのを、自分がこうなる前に彼女を大きく心配させてしまったことを思い出した。

しかしながら、そう教えてくれた人が目の前にいるのに名前を思い出せないでいた。

 

「ごめんなさい・・・っ!ごめんなさい・・・っ!うわあぁぁぁ・・・っ!」

 

「よく言えたね・・・。次はもうダメだからね?」

 

だからこそ、ピーシェは二重の意味を持って、泣き崩れながらネプテューヌに謝るのだった。

そして、ネプテューヌも言えたことが大事だと考え、彼女を優しく抱きしめながら背中をさすってやる。

その温かさが嬉しく、ピーシェは声を上げながら大泣きするのだった。

 

「成程。此の様な結末も、悪くはない」

 

結末を見送ったレリウスは満足そうにしながら仮面のずれを直してから、用は無くなったと言わんばかり体を後ろへ翻した。

 

「・・・?もう行くのか?」

 

「ああ。必要なモノは全て揃った・・・後は完成へ漕ぎ着けるとしよう」

 

「そうかい。じゃ、続きは次回へお預けだな」

 

レリウスの回答に納得したテルミはレリウスについていき、転移魔法でこの場を後にした。

少しした後、ピーシェは泣き疲れたことで眠ってしまった。

 

「どうにかなったぁ・・・」

 

それを見たネプテューヌも安心して脱力していた。ここに今誰かがいたなら、それすら許されなかっただろう。

ボコボコに殴られていた時はもうダメかも知れないと思っていたが、助けられたのだから諦めないことは大切だなとネプテューヌは感じていた。

そう考え事をしていた時に、ラグナを牽引しているプルルートがこちらにやってきていた。恐らくはこちらのことが気がかりになっていたのだろう。

 

「どうやら無事に終わったみたいだな・・・」

 

「うん。どうにかなったよ」

 

「ネプちゃん、顔の方大丈夫?」

 

「あはは・・・。後でコンパとセリカちゃんに頼んでおくよ・・・」

 

プルルートの言う通り、流石に女の子の顔が痣だらけなのはいただけないので、早急な手当てが必要だった。

しかし、何がともあれピーシェを取り戻すことはできたので一安心である。

 

「あっ、ネプちゃんも一緒に運んだ方がいいかしら?大分疲れてそうだし・・・」

 

「ああ・・・そうしたいのは山々だけど、ぴーこを運ばなきゃいけないから・・・」

 

プルルートの申し出を断りながら、ネプテューヌは再び変身する。

とは言え変身した時の美貌も、今回は顔に痣が浮かび上がっているので台無しに近い状態になっていた。先程受けていたダメージが大きすぎるのだろう。

 

「取り敢えず、戻るまでは頑張ってみるわ」

 

「分かったわ。じゃあ、アタシはネプちゃんが落ちないように見ててあげるわね」

 

「ええ。ありがとうぷるるん」

 

万が一ネプテューヌが力尽きてしまったら大変なので、プルルートは彼女の付き添いを選んだ。

 

「じゃあ、俺は誰かに運んで貰うから、お前らは先に行ってな」

 

「ええ。もし誰も来なかったらその時はアタシが迎えに行くわね」

 

「助かる。ならまた後でな」

 

「ええ。ラグナ、今回は本当にありがとうね」

 

「さ、ネプちゃん体痛めてるし、早く行きましょう」

 

そうなるとプルルートに運んで貰う訳にはいかないので、ラグナは一度誰かの迎えを待つ事になった。

そして、ピーシェを連れて帰っていく三人を見送ったラグナは術式通信で連絡を入れてみるのだった。

この後ラグナはリンダを運び終えていたノワールに回収してもらい、無事プラネテューヌに送り届けて貰うのだった。

こうして、四ヶ国とエディンとの戦いは僅か一日で終結することとなり、洗脳されていた国民も元に戻り、今回の騒動も怪我人は多かったものの、双方犠牲者が極めて少ない状態で終結となった。




どうにかエディンとの戦いに決着を付けることができました。

戦闘シーンはアニメ3~5話の部分をやっていた時と比べて非常に簡素なものとなっていますが、その部分を書いていた時の文字数が多すぎたせいで読み手が読むのに疲れたり、読みづらいと感じているかも知れないと考えた結果、この章の戦闘シーンは全体的に簡単目になっていました。
もし、前の章の方が良かったと思う人は言っていただければと思います。

次回にアニメ10話を完結させることで、この章も完結となります。

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