お酒にまつわる、エトセトラ   作:駄犬@

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まこさおです。
この二人には殊更関係性を感じます。
卒業後も、きっと……。

pixivにも掲載中です。
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涙の、サイド・カー

 ひっきりなしに運ばれてくる料理と、ジョッキ。それらは瞬く間に空にされ、オーダーは繰り返される。その度に呼びつけられる店員も態度にこそ出さないが、少し迷惑そうだ。

 私は、自分のグラスに刺さるストローに口を付ける。軽く吸い込むと、すでにオレンジジュースはぬるい。見ると、氷は溶け切っていた。雫が机にしたり落ち、丸い円を描いていた。

 もごもごとした声が聞こえる。

「ふぉら!まこも食べて!飲んで!」

「食べながら喋るな、沙織」

 一応、行儀の悪さを咎めては見る。

 だがやはり、彼女は一向に気にしてはいないようだ。

「あ、コレ美味しい!コレも!この生春巻きは……ん〜!最高!」

 皿の上から次々と料理が消える。口の中をいっぱいにした彼女は、それをビールで一気に流し込む。その様は、魔法を見ているかのようだ。

 これまでにも、こういったことは何度かあった。これは、この友人が失恋をする度に行なう。暴飲暴食――つまりはヤケ喰いとかヤケ飲みと言った類のモノ。呼び出された理由も、連絡を受けた段階で何となく察しがついたものの、今日の儀式は特にヒドい。

「もう少し落ち着いて食べたらどうだ」

「ムリ」

 一瞬だけ目から光を消した沙織。

 そう言って、掴むが早いか一瞬で空にされたジョッキが机に叩き付けられる。ガチャリと空の皿がタップダンスを踊った。

 これに毎度付き合わせられる私の身にもなって欲しいが、これを西住さんたちに押し付けるワケにもいかない。

 時計を見る。

 入店して、もう2時間。

 時計の針は天辺近い。私は目の前の友人の介護と、午前様を覚悟した。

 

 

 2軒目は、どこにでもあるチェーン店。

 ここでも沙織は相変わらずだ。ハイペースでジョッキを空け続けている。

 変わったことと言えば、だいぶ呂律が怪しくなったのと――時折、会話に鼻をすする音が混じるようになったことくらい。

「なぁ、沙織。大丈夫か……?」

「んあ?ばかいってんじゃないよまこぉ。大丈夫にきまっへる!ずずっ……」

 と、この調子だ。

 今回の件の相手の名前をひたすら呼んでは、表情をころころと変える沙織。その姿は、人には滑稽に映るかも知れない。でも、私はその姿を見て胸が痛んだ。

 余程ショックだったのだろう。アルコールのせいだけではないのが分かるほど、沙織の目は真っ赤だ。私はこうして話を聞いてやることしか出来ない。だからこそ、胸が痛むのだ。

「まこものめーっ!」

 ぐい、と目の前に突き出されるジョッキ。

 沙織の距離感は既に狂っているのか、ジョッキが鼻先に軽く触れる。感じる冷たさと共に、水滴が鼻先を濡らした。

 

 

「まぁ、こうなるとは思ってたが……」

 あれから3軒目、4軒目と居酒屋のはしごをした。最後の店で、その店の店長に追い出されるまで沙織の儀式は続いたのである。

 当の本人は、さすがに疲れたのか眠っている。私の背中で。それは、学生時代からは考えられないことだった。きっと、これを見ればあんこうのみんなも驚くことだろう。

 空を見る。もう朝が近いのだ。東の方には少しだけ朱が差していた。

 あれだけ騒いでいたのに、眠ってしまえば静かなものだ。寝静まった街に、背中からは寝息一つ聞こえない。

 私は、一歩一歩ゆっくりと踏み締めるように歩いた。起こしてしまってはかわいそうだからだ。もっとも、それでなくても起きるのは今日の夕方過ぎだろうが。

「ごめんね……」

 耳元で聞こえたのは謝罪の言葉。

 寝言だろうが、今日の話を聞く限り沙織は何も悪いことはしていない。きっと、悪いのは相手の方なのだ。誰に謝る必要があるというのだろうか。背負った沙織の重みが、心にまでのしかかってくるようだった。

 もう一度空を見ると、明るみが増していた。

「ありがとう……」

 今度聞こえたのは感謝の言葉。誰に感謝しているというのだろうか。自分を捨てて、次の相手に鞍替えした最低な奴に感謝することなどあるものか。それとも、短い間でしたが――ということなのだろうか。私には分からなかった。

 幸いにして、沙織の家の住所は知っていた。と言うよりこっちに出て来て、いの一番に押し付けるように教えられた。こういう時にしか役にやったことはないが、まぁそれも良しとしよう。ひとまず、明るくならないうちに沙織をベッドに放り投げるのが先決だ。

 私は、少しだけ歩幅を開いた。その時、また耳元でかすかに声が聞こえた。

「……まこ……」

 私の名前だった。思わず脚が止まる。

「まこ、ごめんね……ありがとう……、まこ」

 私の名前と、謝罪と感謝。

 てっきり、昔の恋人へ送る言葉だと思っていたそれは、私に対するものだったらしい。

 私は、彼女に何かしてやれていたのだろうか。

 謝られるようなことを。有り難がられるようなことを。

 そう思うと、何故か涙が出てきた。鼻水も一緒に。

 何も出来なくて、ごめんなさい。頼ってくれて、ありがとう。

「それを言わないといけないのは私だよ、沙織」

 鼻すすりながら、無理やり声に出す。

「ふが……!」

 突然、背中から怪獣のような声が聞こえた。

 今まで静かだったと思ったら、このタイミングで盛大ないびき。それが何とも滑稽で、涙など一瞬で引っ込んでしまった。多分、これが質問への答えなのだろう。明日聞いても多分、本人は覚えちゃいないだろうけど。

 遠くで始発電車の走る音がする。

 電柱にとまっていたカラスが3羽、夜明けの空に羽ばたいた。もうしばらくすれば、街も目を覚ます。

 今度は私から沙織を誘ってみよう。何か、お祝いごとでも重なってくれれば御の字だ。その時は、沙織に極上のサイド・カーでもごちそうしてやろう。

 一気飲みはするな、と付け加えて。

 

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