今年も残り1ヶ月…頑張りやしょう。
剣崎は、ある扉の前に立っていた。
そこは、雄英バリアと呼ばれるこの学校のセキュリティだ。しかし先日、それが何者かによって破壊されたそうだ。
「……」
「だから言ったんだ、一日中は警戒を解くなと。それなのにお前の同僚と上司はそんな頑固者なのか?」
剣崎の叱責に、ぐうの音も出ないミッドナイト。
彼は教師陣に警戒を解くなとミッドナイトを通じて忠告した。しかし雄英バリアは今まで一度も破られたことがないので、それに慢心した者が多かったという。あの根津校長でさえ、ミッドナイト――実際は剣崎――の言葉に対し「杞憂だ」と言い捨ててしまったのだから驚きだ。
「俺がいくら先の時代の残党だったとしても、人の話はちゃんと聞くのが筋だろうが――」
その時だった。
「面白いな~、君が剣崎って人?」
幼さが残っているような声に、剣崎とミッドナイトは身構えた。
二人の視線の先には、ピエロの格好をした少年がいた。
「あなたは――道化師郎!?」
「……? 睡、知っているのか」
「シックス・ゼロが率いる「無間軍」の戦闘員の一人よ……!」
「……あいつの手先だと?」
剣崎は杖のように突いていた刀を握り直し、切っ先を彼に向ける。
無間軍は先の時代の「悪の代名詞」の一つであった勢力。首領のシックス・ゼロはあのオール・フォー・ワンと並ぶ大物
そして二人の前に立つ道化師郎は、〝マッド・ピエロ〟と呼ばれている残忍な
「僕とは初めましてかな? だって会うのは初めてだもん」
「……これはお前らの仕業か?」
「んーん、僕らじゃないよ。むしろこんな回りくどいマネ、首領はしないもん」
「……まァ、確かにな」
剣崎は師郎の言葉に納得せざるを得なかった。
シックスは
そんな性格だからこそ、今回の件は彼が黒幕だと断定は出来ないのだ。
「お前は何しに来た、小僧」
「ん~…見学かな? 僕はさ、色んな人を攫って個性で精神的に壊れる瞬間を見て楽しんだ後に殺してさ、その殺した人にそっくりな人形を作るのが大好きなんだ♪」
「それで……16年の時を経て、生ける亡霊として復活した俺を一番に壊したいとでも言いてェんだろう?」
「正解♪ よくわかったね」
「わかるさ、何となくな。だが俺と事を構える気は無いのか?」
「そうだな~、下手に戦ってプロヒーロー達を呼ぶのは嫌なんだ。だから戦う気もないや」
「そうか――だが俺はお前をこの場で始末するという用事がある!」
剣崎はそう言うや否や、刀による強烈な突きを放った。
さすがの師郎も避けれないと察したのか、腰に差したサーベルを抜いて受け止めた。
次の瞬間!
バキャァッ!
「うわっ!?」
サーベルの刃がへし折られる。
刃こぼれが生じているとはいえ、剣崎の刀はかなりの業物…純粋な切れ味と頑強さは並の真剣以上だ。ましてや剣崎自身がかなり高い戦闘力を誇るので、相手の得物を砕くことくらい造作もない。
「あっちゃ~……礼二さんの言った通り、侮ってると僕もヤバイかな……」
分が悪いと判断したのか、師郎は剣崎から瞬時に離れる。
「じゃあ、僕はこれでおさらばするよ。今度会ったら、その時こそ君を殺してあ・げ・る♪」
「殺せるものなら殺してみろ…お前ごときに俺の正義を砕くことはできない」
「正義ね…下らないなァ、君は
「違う……「誰よりも正義を信じている男」だ」
「……それは残念、雰囲気的にはこっちの人間だと思ったのにな。じゃあね、僕が君を殺すまで死なないでよ?」
師郎は狂気を孕んだ笑みを浮かべると、その場から姿を消した。
「刀真……」
「追うな。物事には順位というモノがある……不本意だが、奴を斬るのは後回しだ」
剣崎は苦虫を嚙み潰したような表情で、その場を後にした。
ミッドナイトはそんな彼の背中を、ただ見つめるだけだった……。
その日の夜。
雄英高校敷地内にある、先日も座ったベンチ。
剣崎はそこで目を閉じて、考えていた。
(皮肉なものだ……俺と16年前の続きをしようとしているクズ共がまだいるとは)
ミッドナイトから得た情報。
それは……自分はまだ未熟であったという事実と、
仕留め切れなかった、先の時代の巨悪。16年の時を経て蘇る因縁。
それはある意味では、修羅の道を歩む剣崎に対する業とも言えた。
(睡の情報が正しければ、奴らは必ず俺を狙う。16年前の復讐の為に……それに出久君達を巻き込むわけには……)
自分が勝手に始めた戦いなのに、いつの間にか自分の身を案じる者が現れ、自分の背中から何かを感じ取る者が増えた。
しかし剣崎にとっては、ありがたいと同時に消え失せてほしいとも願っていた。自分の意思で血に染まった修羅の道を歩む事を決意した剣崎にとって、守るべき存在はいずれ己の枷となり、そして
殺戮悪鬼となってまで悪者退治に執念を燃やした理由が、信念が鈍る。
(今の俺に、彼らを護りきれるのか……?)
生ける亡霊として蘇った剣崎。
しかし自分だけで明日の正義を担う少年少女達を全員護りきれる保証は無い。
(いや、まだだ……まだ負けたわけじゃない。俺はまだ戦える)
ひびのような傷が刻まれた拳を握り締め、強い意志を宿した目を開ける。
確かに一度死んだが、完全に負けたわけではない。いや、負けるわけにはいかないのだ。
剣を握り、血を浴び、己の信念と正義を掲げ、悪しき存在に立ち向かうのだ。全ては、正義の為に…かつて夢見た、悪意無き未来の為に。
(今度こそ、奴らを一人残らず殺す。俺が奴らを倒さなきゃいけねェ)
ベンチから立ち上がり、刀を腰に差す。
悪意は、すぐ傍にいる。
剣崎の新たな戦いが、始まろうとしていた。
*
翌日――
「すっげーー! USJかよ!?」
誰かが興奮して叫ぶのに、皆が内心頷いた。
今回の授業は、人命救助訓練。それに使うという訓練場は、崩壊したビル群や土砂崩れに巻き込まれた家屋、遠目から見ても煙が立ち昇っているのがわかるエリアなど、某テーマパークのような大きさと豊富な災害の種類を。
「水難事故、土砂災害、火事……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
世界一版権に厳しいであろう某ネズミが君臨する某会社って程ではないだろうが……大丈夫だろうか、色んな意味で。
「スペースヒーロー〝13号〟だ!! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」
「わー! 私好きなの13号!!」
出久の解説に、お茶子が少し興奮して声を上げた。
13号は、誰もが知っている有名なヒーロー。災害救助における目覚ましい活躍ぶりはよくメディアに取り上げられている。
「えー始める前に、お小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
何故か増えていく彼の指を見て、生徒の顔が引きつる。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性は〝ブラックホール〟……どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう〝個性〟がいるでしょう?」
現在の超人社会は〝個性〟の使用を資格制にし、一見成立しているようには見えている。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる「行き過ぎた〝個性〟」を個々が持っている事実は変わらない。勿論例外もいるが……そこは触れないでおこう。
そんな13号の言葉に皆が息を飲む。しかし彼は一つ間を置くと打って変わって明るい声を出した。
「この授業では……心機一転! 人命の為に個性をどう活用していくかを学んでいきましょう。君達の力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと、心得て帰ってくださいな。以上! ご静聴ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする13号に、出久達は拍手や歓声を送る。
そして一旦静かになると、相澤が口を開く。
「そんじゃあ、まずは……?」
相澤が背後の長い階段の方を振り返った時だった。
階段の先にある広場に黒い霧のようなモノが発生し、広がりながらその中心部から人の手が出てきたのだ。
手は霧に実体でもあるかのように隙間を広げ、やがて顔に手のようなものをつけた不気味な見た目の青年が現れた。
「全員、一かたまりになって動くな!!
ゴーグルを装着する相澤の一喝が響き、全員の顔が強張る。
想定外の事態に、出久だけでなく爆豪すら冷や汗を流す。
「13号にイレイザーヘッドですか……
「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト……平和の象徴、いないなんて……」
全身に人の手を付けた青年がブツブツ呟く。狙いはオールマイトのようだ。
彼はゆらりと猫背を反らすと、顔についた手の指の隙間から愉悦と狂気を孕んだ目で睨み付けた。
「子供を殺せば来るのかな?」
途方もない悪意との戦いが、始まろうとしていた。
しかし、この時点ですでに彼らの敗北は決まっていた。
なぜなら……16年の時を経て復活した生ける亡霊が、すぐそこにまで迫っていたからだ。
無間軍の設定をいつか投稿しようと思います。
この物語の重要組織なので、お楽しみに。