亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№19:剣崎VS(ヴィラン)連合~混乱ノ時~

 突然の(ヴィラン)襲来に、周囲は混乱状態になる。

 それもそのはず……この雄英高校には侵入者用センサーが設置されており、(ヴィラン)であろうとマスコミであろうと必ず反応するのだ。しかしセンサーは反応していないらしく、(ヴィラン)側にセンサーを故障させるような〝個性〟を持っている輩がいるか、雄英高校のセンサーの仕組みを熟知しているかのどちらかだ。

 その上、校舎と離れた隔離空間(くんれんじょう)で少人数が入る時間割を知っている。つまり、彼らは雄英のカリキュラムを手に入れているということに他ならない。

 何にせよ、用意周到に画策された奇襲である。

「13号、避難開始! 学校に連絡(でんわ)試せ! センサーの対策も頭にある敵だ。電波系の〝個性〟が妨害している可能性もある。上鳴、お前も〝個性〟で連絡試せ」

「先生は!? 一人で戦うんですか!?」

 出久が声を上げる。

 相澤はプロヒーローであるが、大人数の(ヴィラン)を単騎で相手取るのは無茶がある。そんな芸当を普通にこなせるのは、オールマイトやエンデヴァーのようなヒーローの中でもトップクラスの実力者、あるいはヴィランハンター(けんざき)ぐらいだ。

 しかし相澤は、緑谷の言葉を一蹴する。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 13号に声を掛け、相澤は(ヴィラン)と戦う。

 それと同時に出久達は避難を始めるが、(ヴィラン)連合の黒霧に先回りされてしまう。

「初めまして、我々は「(ヴィラン)連合」。僭越ながら……この度、雄英高校に入らせて頂いたのは……〝平和の象徴〟オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。それと〝ある事実〟の確認ですね」

 その言葉に、茫然となる。

 あのオールマイトを殺そうというのだ。その凶悪な野望に息を呑む一同。しかしそれと同時に、ある疑問が浮かんだ。

 〝ある事実〟の確認……まるで雄英高校が何かを隠しているかのようにも聞こえるのだ。

「……とりあえず、私の役目はこれですね」

 そう言うや否や、黒霧の輪郭(きり)が揺らぎ始め範囲を広げていった。

 13号はマズイと判断し助けようとするが、黒霧は一瞬で霧状の体を広げて出久達を包み込んだ。

(生徒とはいえヒーローの卵……散らして、嬲り殺さねば)

 しかし、この時黒霧は気づかなかった。

 すでに「死」が、この訓練場に忍び込んでいたことに。

 

 

           *

 

 

 水難エリアまで飛ばされた緑谷、峰田、梅雨の三人は船に乗って作戦会議をしていた。

「カリキュラムが割れてた……轟君が言ったように、虎視眈々と準備を進めていたんだ……」

「でもよでもよ! オールマイトを殺すなんて出来っこねェさ! あんな奴らケチョンケチョンだぜ!」

「倒せる算段が整ってるから、連中こんな無茶してるんじゃないの?」

「……」

 出久は考える。

 梅雨の指摘の通り、(ヴィラン)達にはオールマイトを倒す算段がある。それは何かは知らないが、確かめる必要もありそうだ。

 一番気になるのは、黒い霧の(ヴィラン)が口にした「〝ある事実〟の確認」だ。話の素振りから、雄英が何か隠しことをしているかのようにも感じた。その上で考えられる内容は二つ。一つは、オールマイトの弱体化の件……もう一つは、剣崎の件。

 オールマイトは一日の活動時間に制限(かぎり)があり、吐血を繰り返すことも多い程の虚弱体質となっている。これがもし知られたら、致命的な弱点になる。

 剣崎の場合は、(ヴィラン)の動きに大きな影響を及ぼすだろう。16年前に死んだはずの男が今まで発現しなかった〝個性〟で不死身と化してオールマイトの味方になっていると知ったら、あらゆる手段で剣崎の抹殺を図るのかもしれない。

「オールマイトもいなければ、剣崎さんもいないこの状況…戦力として考えると明らかに不利だ。だけど……奴らにオールマイトを倒す術があるんなら……僕らが今すべき事は、奴らと戦って阻止すること!!」

 その言葉に、梅雨と峰田も同意し、意を決した。

 

 

 一方、土砂エリアに飛ばされた轟はその目を疑った。

あの黒い霧のような(ヴィラン)は、恐らくワープゲートのような個性を持っていて、自分達を散り散りにして仲間に嬲り殺させるのだろうと考えていた。

 しかし、轟の前には血の海が広がっていた。(ヴィラン)達が、何者かの手で斬り殺されていたのだ。

「こいつは……まさか……!?」

 轟には、心当たりがあった。

 こんな芸当を成せる輩は、雄英高校にたった一人だけいた。16年の時を経て蘇った、出久の知人にして自分達の先輩である男が。

「な、何だこいつは!?」

「は、早く殺せ!! 脳無は何で来ないんだ!?」

 (ヴィラン)達の叫び声に、轟は振り返る。

視線の先には、うつむき加減に大股の歩調で歩く不気味な少年が刀を振るって虐殺していたのだ。そう、剣崎が(ヴィラン)と戦っていたのだ。

 血塗れの刀が疾駆する。

 途端に正面の(ヴィラン)は逆袈裟に斬られ、返す刀で左の(ヴィラン)が、わずかに遅れて横薙ぎに三人目も斬られる。

 たった一瞬で、三人の(ヴィラン)が倒された。その圧倒的な強さに、轟は絶句する。

「ひ、ひえっ!!」

 オールマイトを殺しに来た気でいた(ヴィラン)は、恐怖で青ざめる。

 こんな奴が雄英にいたとは聞いてない。何だこの化物は。そんな気持ちが渦巻き、更に恐怖心を煽った。

「ク、クソッタレがーーっ!!!」

 半狂乱で(ヴィラン)は殴りにかかるが、剣崎は全く動じず横薙ぎに一閃。

 肉を裂き、肋骨を切断する強烈な斬撃。あまりの速さに避けることすらできなかった(ヴィラン)は、血飛沫と共にうつ伏せに倒れた。

 無表情で剣崎は(ヴィラン)達の屍を踏みながら、非情な刃を振るい続ける。刀が振るわれる度に、鮮血が吹き上がり(ヴィラン)が生者から死者へと変わる。

「あ、ああ……!!」

 気づけば、轟を囲んでいた(ヴィラン)達は残り一人となった。

 経ったままガタガタと震える(ヴィラン)に、剣崎は大股でゆっくりと近づく。

 (ヴィラン)はあまりの恐怖で固まり、指一本動かせなかった。ついには轟を嬲り殺そうという先程の威勢は消え失せ、命乞いを始めた。しかし(ヴィラン)に対する怒りと憎悪の権化ともいえる彼を止められる者はここにはいない。

「がっ!?」

 剣崎が(ヴィラン)の数歩手前まで近づくと、左腕を伸ばして(ヴィラン)の首を掴んだ。

 驚いたことに、(ヴィラン)はそのままゆっくりと宙に差し上げられてしまった。

 窒息しそうになりながらも、必死に足掻く(ヴィラン)だが…。

「……堕ちろ、ゴミが」

 無情な死刑宣告と共に、剣崎は刀で(ヴィラン)の腹を貫いた。

 刃こぼれが生じた刀は氷のように冷たいにもかかわらず、(ヴィラン)に燃えるような熱さと苦痛を与え、死をもたらした。

 剣崎は刀を(ヴィラン)の腹から引き抜き、死体を投げ捨てる。そしてゆっくりと後ろを振り返り、轟に近づく。

「轟君、無事か?」

「っ………ああ、あんたのおかげでな」

「そうか、ならいい。しかしどういう事だ…なぜ(ヴィラン)共が侵入している?」

「俺もよく知らねェけどな……少なくとも連中はアホだがバカじゃねェと思ってる」

 轟の言葉に、剣崎は眉間にしわを寄せる。

「それよりも、あんたこそなぜここに……?」

「――数日前に、何者かによってセキュリティが破られた。もしやと思って、ここ1週間以内に(ヴィラン)共が奇襲しそうな時間帯と場所を推測して手当たり次第に見回りをしてたのさ……雄英の敷地内なら、俺はどこへ行っても許される立場なんでな」

 (ヴィラン)の動きを先読みしていたかのような剣崎の洞察力に、轟は驚愕する。

「どうやら大事になっているようだな……俺は主犯格(てっぺん)を潰しに行くから、轟君は仲間の救助に当たってくれ」

 コートと髪の毛を揺らし、剣崎はその場を去った。

「……あっちは……心配いらねェか」

 剣崎が来たからには、奇襲しに来た(ヴィラン)達は無力化(しょけい)されるだろう。

 そう思いながら、轟も動くのだった。


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