「殺せ、脳無」
死柄木の声と共に、筋骨隆々の肉体と黒い体表を持つ
無言で迫ってくるが、剣崎はそれを一瞥してから無造作に刀を振るった。
肉を斬り裂く音と共に、丸太の如く太い脳無の右腕が飛ぶ。
「……!!」
その速さは、死柄木ですら視認できなかった。
脳無の右腕がゴトリと音を立てて地面に落ちる。すると、突如として脳無の斬り落とされたはずの右腕の切断面に異変が起こった。
筋肉のようなモノが盛り上がり始め、それは腕の形となり、ついには元通りとなったのだ。
さすがの剣崎もこれには度肝を抜かれたが、あるモノを見て脳無の特徴を察した。あるモノの正体は、先程斬り落とされた右腕である。
(成程……再生するが、それに伴う
剣崎は思考に浸る。
自分の前に立つ脳味噌剥き出しの脳無という
それに肉体再生を優先しているのかどうかは知らないが、自己再生中は攻撃してこないようである。その間に残りの
「脳無」
死柄木がそう言うと、脳無は剣崎に殴りかかった。
剣崎は刀でその剛腕を受け止める。
「脳無の攻撃を……!?」
これを見た黒霧は、さすがに驚いた。
オールマイトやエンデヴァーのようなガタイのいい輩はともかく、華奢な体格の剣崎に受け止められるのは想定外だった。
だが…。
ミシミシ……バキィ……!
剣崎の体から、嫌な音が鳴る。
脳無の一撃で、服で隠れて見えないが剣崎の肉体の一部に亀裂が生じたのだ。
ダメージが無いとはいえ、不死身の剣崎の体に傷を負わせた。対平和の象徴は伊達ではないようだ。
しかし不死身の剣崎はこの程度では倒れないどころかケガにすらならない。
(斬撃は効くか……なら打撃はどうだ?)
剣崎は左腕で人体急所の一つである肝臓を思いっきり殴った。
常人ならば一発で倒せるが…脳無には効かなかった。
すかさず離れ、間合いをとる。
(人体急所をやったが……効かないか。打撃による衝撃を吸収するのか?)
肝臓は打たれると激痛をもたらし、刺されると大量出血する。どれほどの肉体を持っていても、人体急所がある以上は相応の効果があるモノだ。
剣崎は的確に殴ったのだが、脳無は痛がる様子では無かったので打撃は無効のようだ。
そうなると、再生能力を有する以上は動きを封じるためには常にダメージを与え続ける必要がある。さらに打撃より斬撃の方が効果的であることが証明された。
(殺せるか殺せないかは不明だが……行けるな)
憎悪と怒りに満ちた漆黒の瞳で、再び脳無を捉え刀を構える。
その時だった。
バァン!!
轟音が、入り口の大扉から響いた。
土煙の中から現れたのは、オールマイトだった。
「もう大丈夫、私が来た!!」
『オールマイト!!!』
彼の姿を見た生徒全員が、歓喜の声を上げる。
復活した〝
次の瞬間、オールマイトが相澤が倒しきれなかった
「……随分と遅れて来たな、渋滞にでも巻き込まれたか?」
「剣崎少年、迷惑を掛けた。君がいなければ生徒達も危なかった……」
「たられば言うのは後にしろ、あいつらを血祭りに上げるのが先だ。出久君、いるんなら来てくれ」
剣崎と目が合った出久は、梅雨と峰田にも声を掛けて三人の元へ駆け付く。
オールマイトは相澤を優しく地面に下ろしながら、飯田から全て聞いた事を話す。
「皆、相澤君を頼んだ。入り口に向かってくれ、すぐに応援の先生方が来られるはずだ。相澤君は意識が無い、早く」
「そう心配そうな顔するな、出久君。俺だって一時期は抑止力とされたんだ……あんなゴミクズ共は一太刀でシメーだ」
オールマイトと剣崎は背を向け、死柄木達を見据える。
二人の前には、脳無が立ちはだかる。
「オールマイト、あの脳味噌剥き出し野郎には気をつけろ」
「むっ?」
「あいつは破壊された側から肉体を再生させる能力を有しているようだ……動きを封じるには常に強烈なダメージを与え続ける必要があるかもしれない。それに打撃より斬撃の方が効果的だ、人体急所の肝臓を殴ってもビクともしねェからな……あの肉体はサンドバッグと思った方がいい」
「そうか――情報提供、感謝する」
「俺はあの小僧共をやるから、そっちは任せた」
冷酷な笑みを浮かべ、剣崎は二人に視線を向ける。
すると、ここで死柄木が動いた。
「……俺がやる、来いよ〝ヴィランハンター〟」
「俺と真っ向勝負か? その威勢だけは褒めてやる」
対峙する死柄木と剣崎。
先に動いたのは、剣崎だった。剣崎は刀で地面を叩き、短刀を操って死柄木の喉を貫こうとした。しかし死柄木はそれに臆することなく、むしろ向かってくる短刀を掴んで斬りかかったのだ。
剣刃が何度も交わり、慈悲なき正義と途方なき悪意が、互いに殺意と憎悪をぶつけ合う。
しかし地力の差は歴然だった。いくら強力な個性を持つ死柄木でも、剣の達人である剣崎には剣戟で敵うはずもない。剣崎が刀を振るう度に、死柄木は刀傷を負っていく。
「クソッ!! クソクソクソ……チートがっ……!!」
「――初見でありながら俺の剣によく対応しているな…。普通なら一太刀で終わりだが…俺の〝太刀筋〟を誰かから知ったか?」
剣崎の太刀筋を知るのは、ごく僅かだ。
それは剣崎と戦って生き延びた者か、ミッドナイトのように剣崎の素性をよく知る者のどちらかだ。
死柄木の場合は、きっと前者であろう。しかし今の剣崎にそんなことは関係ない。
(とはいえ……太刀筋を知られたとなれば、その分攻撃も当たりにくくなる。知られた以上は素手の戦闘で行くしかないな。隙を窺って一撃で潰すのがベストか)
刀を振るいながら剣崎がそう考えた時だった。
ドガァン!!
「!?」
「! お、決着ついたか」
轟音と共に、何かが吹き飛んだ。脳無だ。
脳無が吹き飛んだ……それはつまり、オールマイトの勝利だ。
「っ……よくも俺の脳無を……!!」
「余所見すんな、クソガキ!」
突如剣崎は刀を地面に深く突き刺し、右手で彼の胸倉を掴んだ。
しかし死柄木は、狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「……バカだなァ、自ら体を壊されたいの?」
死柄木は剣崎の右頬に触れ、さらに短刀を彼の胸に深く突き刺した。
すると死柄木の個性により、剣崎の右半分の顔がボロボロと崩れ始めた。
だが…。
「バカが……
「なっ……!?」
「
剣崎は顔を右半分失っても平然としていた。むしろ失った部分が再生をしようとパキパキと音を鳴らしている。
胸に突き刺した短刀も、傷口からは血が一滴も流れていない。
瞠目して顔から冷や汗を流し始めた死柄木に対し、剣崎は冷酷な笑みを浮かべて左手を掲げ、その手を握り締めた。
「〝
ズドォン!!
剣崎は左手を思いっきり振り下ろし、強烈な鉄槌打ちを掌を模したマスクごと死柄木の顔面に食らわせ、その勢いで一気に地面へ叩きつけた。
地面にひびを入れる程の衝撃で死柄木は吐血し、マスクも全て外れて吹き飛んだ。
それはまさしく、正義の鉄槌。悪行を重ねる
『……は?』
その場にいた人間全てが、茫然自失となる。
プロヒーローの肘鉄を素手で受け、数十メートルの距離を一瞬で移動する高い身体能力。対戦中に相手の弱点を的確に分析する洞察力。用意周到な奇策を用いて目的達成を狙う高い知性。掌で触れた物を粉々に崩す強力な〝個性〟。これだけ並べれば、常人どころか個性持ちすらも脅威を感じるだろう。
しかしそれらの力を有する
ここで一同は思い知った。ヴィランハンターが何故、
「――フッ……まだ母さんには及ばないか」
自らの胸を貫いた短刀を抜き、剣崎は死柄木を嘲るように見下した。
やっと必殺技が登場…ふぅ…。
剣崎が死柄木に対して放った技〝