保健室では、負傷した出久とオールマイトが横になっていた。
看護教諭の〝リカバリーガール〟こと修善寺治与が看病しているのだが……一人だけ明らかに異質なのがいる。
「〝個性〟を使う度に……毎回ケガしてんのか? 出久君」
「ハハ……そうなんです……」
出久と、お見舞いに来た剣崎。
剣崎は短刀で器用にリンゴの皮を剥いている。他人の世話は得意なのだろうか…。
「――食うか?」
「……果物ナイフで剥けば良かったんじゃ……?」
「こっちの方が手馴れてる」
そう言いながら出久にリンゴを渡す剣崎。
亡霊が生者の為に果物の皮を剥くという珍妙な光景。クラスメイトなら爆笑を誘うだろう。
「しっかし……あんたも衰えたな、オールマイト。何だその生ミイラみたいな面は?」
剣崎の視線の先には、ベッドで横になるオールマイトがいた。
しかしその姿はまるで別人…ボディービルダーのようなマッチョボディではなく、信じられないくらいに痩せ細った風貌である。ナチュラル・ボーン・ヒーローどころかナチュラル・ボーン・マミーである。
「……生ける亡霊の君にだけは言われたくないセリフだな」
「そりゃあ正論だな」
吐血しながらも笑うオールマイトに、剣崎もまた笑う。
「リカバリーのオババは昔と変わらず愛嬌があるな。見た目は…ちょっと時の流れを感じる」
「お前こそ相変わらずのようだね、剣崎…それはそれで安心したがね」
リカバリーガールとも話す剣崎。
そんな中、出久は剣崎に質問を投げかけた。
「剣崎さん……こんなことを今更聞くのは変だと思いますけど……剣崎さんはなぜ蘇れたんですか? 詳しく教えてくれませんか?」
「……そっか、
剣崎は懐かしさと痛み、そして怒りの入り交じった表情を浮かべ、生前の自分の話をし始めた。
*
16年前――出久達が生まれる前、
全
剣崎が悪者退治を始めてからたった数年で、人々を恐怖させ平和を脅かしてきたヴィラン達は悉く彼に
そんな
「た、頼む……助けてくれ……!!」
「ま、参った、降参だ……!!」
「命だけは……!!」
刀を納めぬ剣崎に対し、慈悲を求める
それを見た剣崎は、怒りを露にした。
(お前達はそうやって、罪も無い人々を殺してきたのだろう?)
剣崎は、家族のことを思い浮かべていた。
彼の父親は警察官兼剣道家、母は現役ヒーローとして活躍していた。残念ながら剣崎は〝個性〟を用いる事は出来なかったが、正義感の強い父からは護身として剣術を習い、母からは様々なトレーニングを受け技も授かった。日々切磋琢磨していた剣崎に対し、元ヒーローの祖母は自分の将来を期待してくれた。それが剣崎にとって最高の幸せだった。
幼い剣崎は「無個性でもヒーローになって皆を守れることを知らしめる」という夢があった。だからこそ父や母、祖母は自分に対し全てを教えてくれた。剣崎はそんな三人の家族として生まれてきたことに何よりも感謝していた。
しかしその幸せを……剣崎の全てを奪ったのは、他でもない
家族を殺された悲しみと
そして、剣崎は誓いを立てた。
家族への弔い合戦でもあり、己の野望を成就できる唯一の手段…悪者退治に全てを捧げる少年に、悪者に対する慈悲など無い。剣崎は殺意のこもった目で彼らを見つめ、絶望を口にした。
「ヒーローたる者、悪者に慈悲など無用」
剣崎はそう宣告し、
剣崎は鮮血で真っ赤に染まった周囲を見やり、満足気な笑みを浮かべた。
もう少しで、愛する家族を殺した憎き
その時だった。
「随分とやってくれたな」
「……お前達で最後か?」
「いかにも…俺は
空人間という
疲労困憊とはいえ圧倒的有利な立場にある剣崎を嘲笑うかのような目に、剣崎は不快感を露にした。
見た感じ、自分と同じ年齢だ。奴らを殺せば、自分の戦いは終わり真の平和が訪れ、〝ワン・フォー・オール〟による平和な新時代が幕を開けるのだ。同志達の為にもこの残りカスを見逃すわけにはいかない。剣崎は最後の力を振り絞り、猛攻を仕掛けた。
薄汚い悪者達に正義の裁きを与えた刀が疾駆する。剣崎が放つ斬撃を紙一重で躱すのが、彼らには精一杯だった。
すると彼らは、突然逃げ始めたではないか。それを見た剣崎は呆れた笑みを浮かべた。
そう思いながら、剣崎は二人の追撃を始めた。
しばらく追うと、彼らが小屋へ逃げていくのを肉眼で捉えた。
あの小屋が、
自身の完全な勝利を確信して笑みを浮かべた剣崎は、彼らと同様に小屋の中へと入った。
しかし小屋へ入った途端、剣崎は
まるで別の世界へ迷い込んだ感覚に陥り、剣崎は困惑した。するとここで、剣崎はある臭いを感じ取った。
硝煙だ。
(まさか……!)
剣崎は小屋の中を見回す。よく見ると、ダイナマイトなどの爆薬が置かれているではないか。
「勘づいたか……だがもう遅い」
どこからともなく、声が聞こえた。自分が追いかけていた
「俺の〝個性〟は異空間を造ること。お前は俺が造った異空間に迷い込んだのさ…この空間は既に隔離されている。お前の死は絶対だ」
剣崎は全てを察した。
爆発音と共に、剣崎は小屋ごと吹き飛んだ。爆発によって起こった爆風と小屋の破片で顔をずたずたに切られて火傷を負い、更に爆発による衝撃の影響で古傷が開き、そこから熱風が入って剣崎の肉体内部を焼いた。手にした日本刀と短刀は刀身がボロボロになり、着用していた制服と羽織っていたコートも一瞬で酷く傷んだ。
小屋ごと爆破され宙を舞った剣崎は、ドサリと雪原に落ちた。剣崎はもう絶命していた。
「お前は二度と元の世界に戻ることは無い。もっとも、お前はすでに死んでいるがな」
勝ち誇った笑みを浮かべ、空人間ら
だが、その直後に剣崎の全身が赤く妖しい光を放った。剣崎の中で今まで眠っていた〝個性〟が、宿主の死に反応して覚醒したのだ。
光が消えた時には、剣崎は目を覚まし、生ける亡霊として再びこの世に生を受けていた。