亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№30:限界を感じはじめる警部

 剣崎刀真。〝ヴィランハンター〟として恐れられた、非情のヒーローにして伝説的なヴィジランテ。

 火永が初めてその存在を知ったのは、中学校2年生の時。当時は現在よりも(ヴィラン)の犯罪行為は多く、名だたる大物・強豪(ヴィラン)の全盛期でもあったため、ヒーローと警察はヴィジランテの手を借りざるを得ないような荒れた状況だった。

 そんな中、彼は彗星の如く現れて無慈悲な「悪者退治」を行った。彼は何年にも渡って超人社会に君臨し(ヴィラン)達を恐怖に陥れたが、やがて忽然と姿を消し、(ヴィラン)との戦闘により死亡と認識され恐怖支配は終焉を迎えた。

 

 火永は、そんな彼と雄英高校でクラスメイトとなった。化物じみた強さと揺るがぬ信念、掲げた正義……それら全てを圧倒した剣崎に、火永は羨望や嫉妬してライバル視した。時に競い、時に手を組み……火永は剣崎と戦友として関わった。

 彼の訃報を知った時は、同期に涙こそ見せなかったが自らの非力さと現実の非情さを知った。だから火永は剣崎に代わり、我武者羅に(ヴィラン)達を狩りまくっていった。志半ばに散った戦友(とも)を弔う為に。戦友(とも)が描いた未来図を、現実にするために。

 

 しかし、それは昨日までだった。

 今日目の前には、変わり果てたかつての戦友(とも)が笑みを浮かべていた。風も無いのに揺れる髪と衣服、死人のように白い肌、ひび割れたような傷で覆われた顔……かつての勇姿とは程遠い痛々しい姿だ。

「こ……こいつァ、夢なのか……!?」

 思わずそう呟く火永。

 すると剣崎は刀をステッキのように突きながら火永に近づき…。

 

 ゴンッ!

 

「いっ!?」

剣崎は刀を逆手に持ち替え、柄頭で火永の顎を思いっきり叩いた。

柄頭で殴られ、痛みに悶える火永に剣崎は一言告げた。

「まだ夢が覚めねェなら、次は峰打ちで起こしてやるが?」

「やめろ! わかった、お前が戻って来たって認識すっから!!」

 さすがに峰打ちでは無事では済まされないと察したのか、火永は剣崎の申し出を断った。

「っ……信じられねェ……生きてたのか……!?」

「いや、死んだよ。 だが俺は死者として蘇った………どうやら眠っていた〝個性〟が覚醒したようだ」

「〝個性〟の覚醒で、だと……!? いや、だがあり得るな……」

 先天性の超常能力である〝個性〟は、全人口の約8割が何らかの〝個性〟を発現していることと世代があることなどといった事実が判明しているが、未だ解明されていない点も多い。

 一定の条件を満たさないと発現しない〝個性〟があったとしても、不思議ではない。

「刀真……」

「熱美……御船……」

 剣崎と火永に駆け寄る、熱美と御船。

「……お前らも変わったな。ああ、俺が変わってねェだけか」

「いや、お前も十分変わってるっての……見た目は」

 亡霊となった剣崎と、卒業して現役ヒーローとなった火永達。

 16年の時を経た結果である。

「……何で雄英に来てるのかは知らんが、話は後だ。授業中だからな、やるべき事をやってからだ」

 素っ気なく背を向けてその場を離れる剣崎。

 熱美と御船は、剣崎についていく。

「……お前らまで来る必要あるか?」

「「暇人なので」」

「あいつらの相手しろよ」

「「火永で十分」」

 剣崎の言葉に、ハモりながら返答する熱美と御船。

 火永の圧倒的な力ならば、別に彼一人でもいいという事だろう。

「じゃあ…職員室でまた会おうや。睡も待っている」

 そう言いながら剣崎は校舎の壁の方へと向かい……。

 

 スッ……

 

 壁をすり抜けて行った。

「いやいやいやいや!! え!? 刀真ってこんなマネできるの!?」

 刀や衣服ごとすり抜けたことに驚愕する熱美。

 彼女は似たような〝個性〟の持ち主であるとして、通形ミリオを知っている。ミリオは現雄英高校のトップである実力者で、あらゆるものをすり抜ける事が出来る「透過」の能力を有している。しかし彼の場合は、透過が出来るのは自身の体だけ(・・・・・・)なので、コスチュームは自身の髪の毛から作られている。

 対する剣崎は、何と体どころか実体を持っている筈の衣服や武器すら透過したではないか。

「本当に幽霊みたい……」

「……壁、邪魔だから斬る?」

「ダメだって、器物破損どころじゃないよ!!」

 鯉口を切る御船を制する熱美。

 御船は剣の達人……本当に校舎の壁くらい突きや袈裟斬りで破壊しかねない。

「じゃ、じゃあ火永。残り頑張ってね~」

「ハァ!? おい、俺だってあいつと……」

「隙ありだァ!!」

 

 ドゴッ!!

 

「ブッ!!」

 

 爆豪に蹴られる火永。

 さすがに今のは完全に油断していた火永が悪いだろう…。

「勝負はこれからだぜ…煙草帽子!!」

「……フッ……油断した相手に一発かました程度で悦に浸るなよ?」

 火永VS1年A組、第二ラウンドを開始する。

 

 

           *

 

 

 さて、ここは東京都保須市にある総合病院。

 そのとある病室に、加藤警部が入院していた。彼の周りには、水島をはじめとした警察関係者が見舞いに来ていた。

「加藤さん、よくぞご無事で……!!」

「フッ……地獄の閻魔様に「顔を洗って出直してこい」って言われただけだ」

 水島は涙目で加藤の無事を喜ぶ。

 実は加藤は、あのステインと遭遇して戦闘を繰り広げ重傷を負ったのだ。幸いにもタフガイである彼は、患部が運よく急所を外れていた為どうにか命拾いできた。

「しかし……暫くの間は現場復帰は無理そうだな」

 医者からは全治1ヶ月の入院を告げられた。

 自分のようなベテランが一月も現場復帰できないのは、警察としても痛手だろう。

 塚内は、加藤に対し今後の動向について話す。

「ステインの捜査は、我々にお任せください。必ずや捕まえてみせます」

「いや……お前では手に負えんぞ塚内」

「え?」

「ステインのバックにいる大物……俺はその内の一人と同じ場所で遭遇した」

 その言葉に、塚内らはざわめく。

 どうやらステインは、何らかの(ヴィラン)勢力と手を組んでいるらしい。正体は不明だが、少なからず強大な存在であることは間違いない。

「水島……塚内……恐らくこれは剣崎にも任せた方がいい案件かもしれん」

「「なっ……」」

「雄英体育祭が近いんだ、多くのプロヒーローが将来のサイドキック候補を探す為に観戦しに来る…その間は警戒しなきゃあならない」

 つまり、雄英体育祭は一番警戒すべき時期だというわけだ。

 ただでさえ雄英襲撃の件で例年以上に厳しい警備になるのだから、雄英体育祭を実施している間は(ヴィラン)達を抑える存在が必要である。

「剣崎ならば、必ず受け入れるはずだ。あいつならば、ステインに勝つことも容易だろう」

「……では、そう報告しておきます」

「頼んだぞ」

 塚内と水島は、加藤に一礼して病室から出ていった。

(俺も年だな……一太刀受けただけでこの様だ。引退も考えるべきか……)

 病室のベッドで、加藤は自らの限界を感じはじめるのだった。

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