雄英体育祭当日。
出久達は1-Aの控室で各々の準備をしていた。
ある者は柔軟をし、ある者は静かに精神を研ぎ澄まし、ある者は緊張を紛らわすために談笑する。
そんな中、轟は出久に話しかけた。
「緑谷」
「轟君……何?」
「客観的に見ても、実力は俺のほうが上だと思ってるが……お前、〝ヴィランハンター〟だけじゃなくオールマイトに目ェかけられてるよな?」
「!!」
「別にそこを詮索するつもりはねェが……お前には勝つぞ」
体育祭が始まる前に、いきなりの勝利宣言をした轟にクラスはざわめいた。
いきなりの喧嘩腰に、切島は仲裁に入ろうとするが……。
「それでいいじゃねェか。信じられるのは己のみ……誰に喧嘩売ろうとそいつァ自由だ」
その声に、一斉に振り向く出久達。
視線の先には、いつの間にか控え室に入った剣崎が壁にもたれかかっていた。
「剣崎さん!!」
「あんた…どうやって
「壁すり抜けてきた」
「……そういえばそんな〝個性〟だったね……」
剣崎は壁から離れ、出久の元へ向かう。
「出久君……残念ながら、俺は用があって本番は観に来れない。日頃の成果、悔いの無いように存分に腕を振るうこったな」
「用って、何かあったんですか?」
「知り合いに「警視庁に来い」って言われてな」
『警視庁!!?』
警視庁に呼び出されたという剣崎。
嫌な予感がしてきたのか、ほぼ全員が顔を引きつらせている。
「別にそういうことじゃねェと思う。一応知り合いに警察の幹部がいるからな、頼み事か何かだろ」
剣崎の人間関係が少しずつ明らかになる。
一時代の抑止力と位置づけられた男は、やはり普通じゃないようだ。
「しかし……ヒーローが〝受け継いだモノ〟を否定して生きようとするなんざ、時代も変わったな……そうだろう? 轟君よ」
『!?』
その言葉に、皆が轟の方へ目を向ける。
「……」
「お前さ、エンデヴァーの火事場親父のせがれだろ? 轟っつー名字で思い出してな」
剣崎がそう言った瞬間、轟の雰囲気が豹変した。
いつもの冷静沈着で大人びた雰囲気が、怒気を孕んだどこか感情的になったように感じたのだ。しかも
しかし、それは一瞬のこと……すぐに冷静さを取り戻す。イラついてはいるようだが。
「……
「いや……昔、ちょっとした原因で小競り合いをしたんだ」
「! ……奴と戦ったのか?」
「まァな。今になると懐かしい思い出の一つだが」
サラッととんでもない事を暴露する剣崎。
事件解決数史上最多の記録を有するエンデヴァーもとい轟炎司は、オールマイトに次ぐ実力者だ。彼の〝個性〟である「ヘルフレイム」は炎系統で地上最強と言われ、数多くの
(剣崎さん、何がどうなれば№2ヒーローと小競り合いを……!?)
もはや剣崎自身が「騒動を引き起こす〝個性〟」でも有しているのではないかと思わず錯覚する出久。
すると剣崎はゆっくりと轟に近づき、耳元で囁いた。
それと共に、轟は目を大きく見開いていく。
「剣崎……」
「まァ、色々背負ってるのは結構だが押しつぶされねェよう頑張れってこった」
剣崎は轟にそう告げ、コートを翻す。
「お前達の武運を祈る」
剣崎は微笑みながら、壁をすり抜けて行った。
*
キンッ、キンッ、キンッ、キンッ……
刀をステッキのように突きながら廊下を歩く剣崎。
すると剣崎の前に、屈強な体格で威圧感に満ちた男が現れた。
エンデヴァーだ。
「噂は聞いていたが……生きていたのか、剣崎刀真」
「いや、一度死んだよ……ヒトとしての人生は終わってらァ、今は亡霊として生きている」
「フンッ……往生際の悪さだけは昔から一丁前だな」
「ハハハハ!! それが取り柄なんで」
爆笑する剣崎に、呆れかえるエンデヴァー。
「小競り合いの続きは御免ですぜ。やってもいいけど、ここ一帯を消し飛ばすわけにゃいかんので」
「あの時は水に流そうと言っていただろう」
「からかってみただけだ、悪かった」
実は小競り合いの原因は、エンデヴァーが剣崎を
剣崎がまだ〝ヴィランハンター〟として世間に知られて間もない頃…悪者退治に勤しんでいた血塗れの剣崎をエンデヴァーが
最終的にはオールマイトらによってどうにか止められたのだが……一歩間違ったら取り返しのつかない状況になっていたところである。
剣崎にとってはいい思い出のようだが。
「んで、わざわざ俺に何の用で? 昔の思い出でも語りに来たんですかい?」
「貴様……焦凍に何を吹き込んだ」
「?」
「俺の〝最高傑作〟に、何を言ったと訊いている」
エンデヴァーの目に怒りが宿り、剣崎に向けられる。
だが、剣崎はきょとんとした顔でエンデヴァーを見つめ、揺らめく頭をモリモリと掻いた。
「――何を言ったって言われてもねェ…アドバイスしただけだぜ? ほら、一応俺先輩だし。アドバイスのアの字くらい言うのは当然だろ?」
「……フンッ、
「それ、俺のセリフじゃねェか? 可愛い後輩の悩みの解決を手伝うのも、先輩の義務だ。」
「……」
「それに……〝あの子の人生はあの子のもんだ、その行く末を見届けるのが親の責務だろ〟?」
「!!」
その言葉に、エンデヴァーは目を見開いた。
かつて自分を嫉妬させた、あの女性と姿を重ねたからだ。
――刀真の人生は刀真のものだ、その行く末を見届けるのが親である私の責務だろう? 炎司、お前もいつか一端の親になればわかるさ。不器用でも不作法でも、自分らしく背筋まっすぐ歩いていく我が子の成長ってのがどれだけ喜ばしいことか
「剣崎、貴様……」
「あの子もまた、自分なりにケジメをつけようとは思っているはずだ……それだけは言っておくぜ、火事場親父」
剣崎は刀をステッキのように突いて、その場を後にした。
《雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーアレだろ、こいつらだろ!!?
プレゼント・マイクの陽気な声が、会場に響き渡る。
それと共に観客は生徒達が登場する入り口に視線を集中させる。
《ヒーロー科!! 1年!!! A組だろォォ!!?》
観客の盛り上がりは最高潮になり、爆発的な歓声が会場に響く。
それと共に生徒達は次々に会場入りしていくが、そんな中でも轟は剣崎のあの言葉が忘れられなかった。
――自分の原点が何だったのか……思い返してみな。一度吹っ切れりゃあ、見える景色も少しは変わるぜ?
「……俺の原点、か……」
轟は、誰にも聞こえない声でそう呟いた。
*
一方、とあるビルの屋上に彼は佇んでいた。
「ハハァ……伝説のヴィジランテの正義と信念……それが本物か、確かめてやる……!!」
彼は獣のような声で叫ぶ。
雄英体育祭開催の裏で、〝ヒーロー殺し〟は動き始めていた。