さて……ついに始まった雄英体育祭。
「俺が一位になる」という爆豪の我の強過ぎる選手宣誓で一斉ブーイングが起こった直後なので、多くの生徒が腹が立っている中、第一種目が発表される。
第一種目はいわゆる予選…競技は「障害物競走」。計11クラスでの総当たりレースで、会場であるスタジアムの外周約4kmの長距離走だ。
「我が校は自由さが売り文句! ウフフ……コースさえ守れば、
1学年の主審を担うミッドナイトが、鞭を振るいながら生徒達を鼓舞する。
生徒達は次々とやけに狭いスタートゲートの前に並んでいく。
そんな中、ミッドナイトは16年前の体育祭を思い出していた。
(そういえば、あの頃も障害物競走だったわね……)
当時の剣崎はまだ〝無個性〟だった。
雄英高校での保護観察処分を受ける前から自警行為をしていたゆえ、基礎戦闘力や素の身体能力は抜群だったが、やはり〝個性〟の有無によって他の生徒と大きな差が生じてしまう。ましてや、〝無個性〟は何かと敬遠されがちなので現実的にも圧倒的に不利な立場だった。
そんな彼が、障害物競走においてとった策は……。
――おい、有精卵共!! 〝無個性〟をナメるなよ!!
――うわ、バカ来るな刀真!! 何で地雷掘り起こして持ってきた!?
――まさか、玉砕する気!?
――ちょ、刀真!! 冗談抜きでやめなさいよ!!
――僕達に何の恨みが!?
――《唯一〝無個性〟の剣崎刀真、何と掘り起こした地雷を抱えて前方集団に特攻!!! まさかの自爆狙いかーーっ!? っつーか、許されていいのこれ!? 確かにコースさえ守れば何をしたって構わないルールだけど!!!》
剣崎が地雷を掘り起こしてそれを抱えて前方集団に特攻したのだ。
これにはさすがに全員がドン引きして離れていき、剣崎はビリから数えた方が近い順位だったのにもかかわらず3位にまで上り詰めたのだ。なお、剣崎曰く「人の心理を利用した、咄嗟に思いついた起死回生の奇策」との事だったが、あまりにも危険な行為だったので厳重注意を受けたのは言うまでもない。
あれから16年……さすがに今回の障害物競走はそういう事態は無いだろうが、地雷原の攻略が予選通過の鍵だろう。
(地雷原の攻略が楽しみね)
そう思いながら、ミッドナイトは声高に告げた。
《第一種目・障害物競走、スターーーーート!!!》
*
数十分後、警視庁――
「浦村警視監! 剣崎刀真を連れてきました」
「うむ……水島君、ご苦労」
水島が敬礼と共に報告すると、浦村は労いの言葉を投げかける。
その直後、剣崎が入室する。
刀をステッキのように突いていないのは、恐らく警官達の注意のせいだろう。
「おお、刀真! 16年ぶりだな」
「……文さん……」
浦村は歓喜の声を上げ、剣崎との久しぶりの邂逅を果たす。
二人は旧知の中でもあり、剣崎としては加藤以上に世話になっている人物でもある。現在は警視監という立場がゆえ現場に出ることはとても少ない浦村も、16年前は最前線で多くの事件を解決してきた歴戦の実力者である。
「刀真よ、随分痛々しい姿になったな……優君が怒鳴り散らす程だぞ?」
その名を聞き、複雑な表情を浮かべる剣崎。
優とは、剣崎の母の事だ。本名は剣崎優…志村菜奈やオールマイト、グラントリノの盟友であり、若き日のエンデヴァーとも顔馴染みでもあった
浦村もまた、在りし日の彼女とかつての剣崎を知る数少ない人物なのだ。
「……すまん、失言だったか?」
「いや……確かに母さんがいたら拳骨ぐらい浴びせるでしょうね。そういう文さんも、随分と立派なひげを生やしたもんですね」
「ハハハ……私も警視監という立場ゆえ、威厳というものを見せなければいかんのでな」
昔話をして若き日を思い出したのか、互いに微笑む。
「先月から、突然警察やヒーローが追っていた
「……悪者に慈悲など無用。俺は自分の信念と正義の為に動いただけです」
「懐かしいフレーズだな。昔も今も――君と我々はやり方と考えこそ違えど、より良い時代の為ということか」
「そういうわけだな。それで……俺に何の用で?」
浦村の人柄を考えればやりかねないが、ただ旧交を温めにわざわざ警視庁まで呼び出すわけが無いだろう。
すると浦村は、ある提案を持ちかけた。
「加藤君が、〝ヒーロー殺し〟ステインに襲撃されたのは知っているだろう? それを受け、我々警察も本腰を入れてステイン逮捕に取り組む事になったのだが……そこでだ。これはまだ反対意見が出ているが、君の力を借りたい」
剣崎は浦村の言葉を聞き、その真意を察した。
雄英体育祭の影響で、多くのヒーローがスカウト目的で観に来るが、言い換えれば多くのヒーロー達が現場からいなくなりやすいという事でもある。そうとなればここぞとばかりに
「君が発現した〝個性〟は、既に承知している。ステインの〝個性〟を考えると、相性上は君がステインを倒せる確率が一番高いのだよ」
「……火永や熱美は?」
「火永君と熱美君は、私の直属の
過去の話とはいえ、剣崎は
ステインは、自身が出没した町の犯罪発生率を低下させたことがあるが、剣崎の場合は日本全国の犯罪発生率が低下するレベルなのだ。オールマイトの弱体化も考えると、「万が一の場合」に備えるためにも剣崎を動かさねばならない。
それが浦村の考えだった。剣崎を知り、信用しているからこそである。
「ステインとやらの件はわかった…だが俺を動かすってことは……まさかとは思うが、相当ヤバイんじゃねェのか?」
「……ハァ……全く、相も変わらず気味が悪いレベルの勘の鋭さだな」
「違いねェ」
溜め息を吐く浦村に、微笑む剣崎。
「これはまだ推測の域だが……
「!」
浦村の言葉に、剣崎は目を見開く。
ヒートアイスファミリーは、かつて剣崎と互角に渡り合った〝ヒートアイス〟こと熱導冷子が率いる犯罪組織だ。
「あいつは誰かと手を組むような奴とは思えねェが……」
「私もそう考えた。彼女の残虐性を知る者なら、接触すら避けたがるだろう……だが、彼女を丸め込める〝条件〟ならある。それが君だ」
熱導は過去に一度対決して以来、剣崎に固執している。
彼を屈し自らの僕にしようと目論んでいるのだから、その為にはどんな手段も使うだろう。
(っ……あのストーカーめ……)
「先日の雄英襲撃において、主犯格以外の
浦村は、それが剣崎の復活と現状ではないかと推測している。
死人は決して蘇らない。なのに剣崎が生きているという事は、何らかの〝個性〟の影響であるということは明白だ。その情報を掴んだ熱導は
「……まァ、そう考えるのが妥当か」
「残念ながら、得られたのは生徒達の証言だけだ。それを裏付ける確固たる証拠は掴めていない。だが、これが事実だとすれば……近いうちに奴らはこの超人社会全体を巻き込むような惨事を引き起こしてしまうだろう。それだけは何としても避けなければならない」
「……狙いは俺か……上等じゃねェか、そいつら全員の落とし前、俺が全部つけてやるよ」
剣崎はそう言い、コートを翻す。
「話はそんぐれェだろう? 用が思ったより早く済んだからな、可愛い後輩の活躍を観に戻るわ」
「そう固い事を言わないでくれ……せっかく会えたんだ、少しは思い出話に付き合ってほしい。一緒に体育祭でも観ながらね」
「……少しだけだぞ」
「すまないな」
剣崎は呆れながらも妥協し、浦村は満足した笑みでテレビのスイッチを入れた。
《さァさァ、序盤の展開から誰が想像できた!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男……緑谷出久の存在を!!》
「む? あの子は去年の……」
「! やるじゃねェか、俺が見込んだだけある」
第一種目の障害物競走の一位は、何と出久だった。
浦村は出久の姿を見て何かを思い出し、剣崎は口角を上げた。
「? 君の弟子か?」
「まァ、似たようなモンだ。そっちこそ、出久君を知ってるのか?」
「去年、ちょっとした事件でね。彼の勇気には感服したよ」
どうやら浦村も、出久に一目置いているようだ。
「君が鍛えたというのなら……ベスト10までは行けそうだな。期待出来そうだ」
(ここでどれ程戦えるか……腹括って行けよ、出久君)
その時、浦村の机の上に置いてあった電話が鳴った。
画面には「塚内直正」と記されてあった。
「私だ、どうした?」
《警視監、〝ヒーロー殺し〟の新しい情報です! 〝ヒーロー殺し〟は今後、神奈川県に拠点を移すそうです!!》
「神奈川だと!?」
「?」
〝ヴィランハンター〟と〝ヒーロー殺し〟の因縁の邂逅は、刻一刻と迫っていた。
せっかくなので、剣崎のコートについて説明します。
いつも羽織ってるあれにも、設定があるんです。
まずあのコートは、小説内ではまだ書かれてませんが、剣崎の母のモノなんです。父の形見は得物で、母の形見はコートって事です。
ポケットには短刀を隠していると何度か記しましたが、一応他にもいっぱい入ってます。靴紐、手帳、筆…色々ありますね。