シックス・ゼロ。かつて剣崎に深手を負わされ、死亡したとされた大物
そんな彼が雄英体育祭に堂々と入ってきた。
御船は何とかして斬ろうとするが、体が動かず抵抗できないでいた。
「何をしに来た……宣戦布告か……?」
「宣戦布告、か……それは答えかねるが、もう一度言う。私は騒ぎを起こしに来たわけではないと」
御船は必死に抵抗して体を動かすが…。
「おっと、下手に動こうとすると体が千切れてしまうかもしれないぞ?」
「……糸か……!」
シックスの〝個性〟は、「糸」だ。
ただし、ただの糸ではなく鉄に匹敵する固さと刃物のような切れ味を有するピアノ線に近い強靭な糸だ。戦闘面に関しての応用の幅は非常に広く、切断や貫通、叩き付けなど攻撃も多彩だ。何より脅威的なのは、相手に向けて見えない糸を伸ばしてマリオネットのように強制的に操る事で、一度捕まれば抵抗は困難だ。
「…なぜ来た……どうしてバレない……!?」
「私はいつも仮面で顔を覆って生活してるのでね……素顔を知るのはごく一部の人間だけなのだよ。君は剣崎から素顔を知ったのだろう?」
「……」
余裕に満ちたシックスに殺気を放つ御船。
しかし動きを封じられた彼は、どうすることもできないでいた。
「さて……いきなりだが質問だ。答えてもらおうか」
「……!?」
「剣崎はどこだ?」
その言葉に、目を見開く御船。
いつの間にか、剣崎復活の情報が流れている。それは世間にすら公表されていないトップシークレットともいえる情報が漏洩しているようなものであり、予測不能の危機を呼びかねない。
御船は数秒ほど考えてから答えた。
「……刀真が復活したのは本当さ」
「ほう――」
「だけど、今どこで何をしているかは知らない。同期の僕ですら知らないんだ、あまり当てにしない方がいい……仮に知っていても、僕が易々と口を割るとでも?」
「……成程、その可能性もあるとは思っていた。あの小僧は中々ボロを出さないからな」
ふと、後ろから煙草の煙の臭いが漂ってきた。
どうやら、何者かが救けに来たようだ。
御船は自らの〝個性〟である「心眼」を発動する。御船の「心眼」は、眼を閉じて集中することで〝見えない結界〟を展開し、一定圏内の人や物の数と位置・相手の動きや気配・その場の地形などを正確に把握することができるのだ。
「この気配は……火永っ……!」
「おや……これは珍客だ、勝負でもしに来たのかね? 弾東火永君」
二人のすぐ後ろに、煙草を咥えた火永がいた。
彼からは強烈な殺気と怒気が放たれており、肌がピリピリするような感覚を二人は覚えた。
しかし、シックスは笑みを浮かべていた。かつて相見えた在りし日の〝ヴィランハンター〟を思い出したのだ。
「その禍々しい殺気……成程。我が宿敵――剣崎と互角に渡り合ったと謳われるだけはある」
「ぐちぐち言ってねェでとっとと放せ。てめェ、戦争でもしに来たのか?」
「……彼にも言ったが、私は騒ぎを起こしに来たわけではない。ただ純粋に祭りを楽しみたいのだ」
「祭りね…血祭りの間違いじゃねェのか?」
「それも悪くないが、生憎そんな気分ではないのだよ」
その時、ブツッという音と共に御船がバランスを崩して倒れそうになる。
シックスの支配……糸の拘束から解放されたのだ。
「そう焦らずとも、いずれは戦う
そう言って、シックス・ゼロは堂々とした態度でその場から去っていった。
「お前……ケガは?」
「大丈夫……何もされてない」
「……あの野郎、今更あいつに復讐でもしに来たのか…?」
火永は煙草の煙を吐きながら、苛立ちを隠せない表情を浮かべるのだった。
*
一方、剣崎は――
「んで……いつになりゃ着くんだ」
「もう少し。あと10分あれば着く筈」
警視庁での要件を終えた剣崎は、熱美の車に乗って雄英体育祭の会場へと向かっていた。
「それにしても凄いわね、緑谷君って子」
「まァ、俺が手塩に掛けて戦闘の基礎を叩き込んだしな。2週間だけだが」
そう言って笑みを浮かべる剣崎。
出久とお茶子の為に指導した成果が出ている事に満足しているようである。
「第二の種目…騎馬戦がもう終わったから、今頃はトーナメントのはずよ」
「トーナメント、か……」
剣崎の脳裏に、生前の記憶がよぎる。
当時の剣崎は個性の無い状況に加え得物を没収されていたので、普通ならまず一回戦突破すら叶わない厳しい状況だった。しかしそれはあくまで
ただし、相手の人生を大きく左右させるほどのケガを負わせてしまったが。
――お前さ、いくら何でもやり過ぎだろ……!
――さすがに……そこまでやる必要は……!
――相手が弱者だろうと強者だろうと、俺は加減はしても徹底的に戦う主義だ。
(今思えば、よくぞまァ素手で決勝まで行けたもんだ)
決勝は火永とのバトルだったが、火永は銃弾の代わりになるものがフィールドに無かったので、拳の語り合いとなってしまった。最終的には、不良漫画でありがちの痛み分けで決着がついたが。
「……くくっ――」
「刀真……?」
「いや……何でもない」
思い出し笑いをする剣崎に首を傾げる熱美。
(さて……こっからが正念場だ、
剣崎の脳裏に、二人の弟子の姿がよぎる。
限りある時間でどれだけ成長したのか……そう思いニヤニヤし始める剣崎だった。
同時刻――
雄英体育祭の最終種目、トーナメント戦。
一回戦最終となる八戦目では、ある意味もっとも不穏な組み合わせとも言える対決が始まろうとしていた。
「お前、浮かす奴だな丸顔。退くなら今退けよ、「痛え」じゃ済まねェぞ」
現時点の雄英高校1年A組においてトップクラスの実力者・爆豪と、丸顔と呼ばれたお茶子の対決だ。
爆豪に睨まれ気圧されるお茶子は、先日の剣崎との手合わせを思い出していた。
――
――超えると吐いちゃうので……
――ってなると……俺が教えられるのは、一つしかねェってこったな
――……?
お茶子は深呼吸をして落ち着かせ、爆豪を見据えた。
「……!」
爆豪は、お茶子の変化に気づく。
いつもとは違うその眼差しに、爆豪は察したのだ。
実力差が歴然でも……本気で勝ちに行く気だと。
「爆豪君、言っておくけど……」
「あ?」
「私に退くなんて選択肢、無いからねっ!!」
お茶子はそう言い、爆豪に攻撃を仕掛けた。
近接戦闘はほとんど隙無しで、動けば動くほど強力になっていく「爆破」か。それとも、圧倒的に不利な状況下の「無重力」か。
〝ヴィランハンター〟に師事した有精卵・麗日お茶子の戦いが始まった。
次回は爆豪VSお茶子です。