亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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4月最初の投稿です。
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№39:勧誘

 ここは保須市の大きな病院。

 その病室に、ベッドで横になるインゲニウムと短刀でリンゴの皮剥きをする剣崎がいた。

「あなたには何と礼を言えばいいか……」

「つまらねェこたァ言わなくてもいい」

 剣崎は笑みを浮かべ、怒りと憎悪に心を支配されているとは思えない穏やかな目をインゲニウムに向けている。

 インゲニウムは大ケガを負ったが、幸いにも退院こそ時間は掛かるものの完治すればヒーローとして再び職場復帰が出来るという。

 あの場に剣崎が現れていなければ、ヒーローとしての命はおろか己自身の人生も終わっていただろう。

「それにしても、君は一体……」

「お前の思ってる通り…俺は時代の残党さ。お前がヒーローとなるずっと昔……16年前の抑止力だった男だ」

「すると、やはり君が伝説のヴィジランテ〝ヴィランハンター〟か…!? だが……」

 〝ヴィランハンター〟の逸話は、インゲニウムも知っている。

 悪者退治の活動で74人もの(ヴィラン)を殺害したと言われているが、実際はもっと殺害していたのではないか話。老若男女問わず無慈悲に殺害した話。当時の強豪達と互角以上に渡り合った話。あまりにも強大なゆえ、ヒーローや警察すらも恐れたという話。

 伝説級の男に関する逸話は、むしろ悪名に近い。

「伝わる話と違うってか? そりゃあ仕方ねェことだ……16年も経っちまえば、伝わる話の内容も当時とは食い違う」

 悪名だろうが美名だろうが、剣崎にとってはどうでもいい話だ。

 後世に伝わる話など、ちゃんと裏取りして念入りに調べればいつでも訂正できる。今時のヒーローは不明だが……剣崎にとっては己の評判よりも、まずは(ヴィラン)を一人でも多く狩り取るのが大事なのだ。

「インゲニウム……この案件は全部俺が引き取る。〝個性〟の相性上、俺の方が都合がいいしな」

「しかし――」

「相手を殺してでも自分の信念を貫ける覚悟がねェと、数を増やしても奴には勝てねェよ。相手は殺す気で来てんだ、てめェ自身も殺す気でかからねェと命ァねェぞ」

 剣崎の地獄の底から響くような低い声に、気圧されるインゲニウム。

 その時、病室に困惑した表情を浮かべた熱美が現れた。

「刀真……早速出回っちゃったんだけど……」

 熱美はスマホの画面を剣崎の前に出す。

 そこには……。

「……早速流れたか」

 ネットニュースの最新ニュースとして、「速報! 保須に現れた謎の影」というタイトルの記事が上がっていた。

 掲載されていた写真には、ボロボロのコートと日本刀らしき物が写っており、新手の(ヴィラン)か名の知れぬヴィジランテである可能性が高いと書かれている。だが記事の後半が問題だった。

 記事の後半には、「ヒーロー業界に詳しい専門家は、この影はかつて(ヴィラン)達にとっての強大な恐怖であり怨敵であった〝ヴィランハンター〟剣崎刀真と酷似していると指摘しており、16年の時を経て忘れつつあった恐怖が再来したと唱える者までいる」という文面が載っていた。

 明らかにバレかけている。

「これ、全国版で報じていいのかしら……」

「素性の発覚はどうだっていい。俺は何より、あの男との戦いに備えなきゃならねェんだよ」

 その直後、今度は浦村警視監が病室に入ってきた。

「仕方のない事だが……やはり手を出してしまったか」

「悪いのか」

「いや、君が駆けつけなければ彼は死んでいた。その件に関しては礼を言おう」

 そう言いつつも、いつもの温和な雰囲気はどこへやら、鋭い視線で剣崎達を見据えている。

「〝インゲニウム〟飯田天晴君、〝プロミネシア〟炎炉熱美君。君ら二人は我々警察が信用に足る人物であることを承知の上で忠告する」

「浦村さん……?」

「〝ヒーロー殺し〟の標的が刀真一人に定まった以上、今後はステインの件に関しては刀真一人に一任させる!!!」

 その言葉に、愕然とする二人。

 雄英高校と一部ヒーローは知っているが……警察上層部が剣崎を快く思ってない人物が多いため、現時点で復活した〝ヴィランハンター〟は存在自体が世間に伏せられている立場だ。

 しかし、ステインが標的を一つに絞ったのは絶好のチャンスである。〝個性〟の相性や戦闘力の高さも考えると、剣崎一人にステイン討伐をさせた方が被害が少なく済むのだ。

「これは私の必死の説得に応じた警察上層部の意向だ、君達は保須周辺の警備を怠らぬように。刀真の件に水を差すと、ステインの悪意は君らに向くぞ」

「……いいのか? 上層部に干されるんじゃねェか?」

「――覚悟の上だ。私にとっては、自分の立場や地位よりも、一刻も早くステインを倒して平穏を取り戻すことの方が大事だ」

 浦村の信念ある言葉が、病室に響き渡った。

 

 

           *

 

 

 とある高層ビルの屋上。

 街を一望できるその場に、ステインはいた。

 彼の体には血の滲んだ包帯が巻かれており、先程の剣崎との戦いで負った傷が癒えてないことが窺える。

「……ハハァ……!!」

 ステインは、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

 〝ヴィランハンター〟の話を聞くだけで鳥肌が立つような強さと苛烈な思想は、16年という長い年月が経った今でも死神のように恐れられており、一部の界隈からは畏敬の念を込めて伝説として語られている。そんな大物と戦い、形勢不利と判断して撤退したステインは、悔しがるどころかむしろ歓喜していた。

 通常、弱点を見破られた人間の多くは狼狽する。だが剣崎は違い、むしろ相手(じぶん)を威圧し立ち向かい撤退させた。

 弱者が淘汰されるのは、いつの時代でも自然な流れである。それはヒーローも同様で、敗け続けるヒーローは人々から必要とされない。しかし本物のヒーローは、たとえ実力の差が歴然でも立ち向かい、その自然の流れに抗い打ち勝つのだ。

 剣崎刀真は――〝ヴィランハンター〟は、それを自分の目の前で体現したのだ。

「贋物を粛清しきれないのは心外だが……あの男とは語らねば…」

 ようやく自分の望む語り合い(・・・・)が出来る。贋物が蔓延る腐った世を生きた甲斐があった。

 ステインはそう考えていた。

 しかし内心では、ステインは剣崎に対して〝恐れ〟を抱いていた。

 剣崎の闇堕ちでもしたかのような虚ろでどす黒い瞳は、「光」が見えなかった。ヒーローとして恥じぬ強い信念を持つ「本物」の登場に対する歓喜以上に、己の全てを奪った「悪」に対して一切の感情移入を許さない彼への恐怖が強かったのだ。

(あの男なら……理解してくれるはずだ)

 ステインにとってのヒーローは、端的に言うと「人を救うことを目的とした、自己犠牲の精神の持ち主」だ。

 今でこそ生ける亡霊である剣崎も、かつては〝本物のヒーロー〟の背中を見てきた筈だ。ならば、自らの思想「英雄回帰」を理解し、同調してくれるのではないか。収益や地位、名声を得るために生きる贋物が蔓延るこの時代を憂いているのではないのか。

 生きた時代、くぐり抜けてきた修羅場の数、踏み越えてきた屍の数は違えど、ヒーローのあるべき姿を忘れつつある現在に対しての怒りは、立場は違えど共有しているのではないかと。

(信念のある者は、立場は違えど理解し合えるはずだ)

 その時だった。

「失礼」

「!」

 背後の声に気づき、背中に背負った日本刀を抜く。

 ステインの前に立つのは、二人の男…死柄木弔と黒霧だった。

「初めまして〝ヒーロー殺し〟……我々は「(ヴィラン)連合」。あなたと話がしたくて来ました」

「……俺は今、ある男を見極めるのに忙しい。お前らの戯言に付き合ってる暇は無い――」

「〝ヴィランハンター〟ですね?」

「!」

 黒霧の言葉にピクリと反応するステイン。

「我々もあの男によって甚大な被害を被りましてね……あなたとは利害が一致します――」

「それはお前達に信念が無いからだ。俺は奴と戦い、語り合わねばならない…だがお前らは、己の弱さを奴に押し付け恨みを晴らそうとしている。目的が違う」

 いつの世も、迷いの無い者や信念のある者は手強い存在だ。

 ましてや16年経った今も恐れられるほどの男を相手取れば、無傷では済まないことなどすぐにでもわかるだろう。それを理解せず返り討ちに遭ったのは、剣崎が恐ろしく強かったのは理解できるが、それは自分が弱かったからだ。

「……何を目指す」

「そうだなァ……オールマイトをブッ殺して、気に入らないものは全部壊したいな」

 不敵な笑みを浮かべ、ようやく口を開いた死柄木。

 しかし、ステインは……。

「ふざけるな……信念なき子供の癇癪に付き合う義理は無い……!!」

 剣崎と出会ったばかりのステインにとって、死柄木は子供の我儘みたいな主張だった。

 立場を問わず信念の強さを重んじるステインは、怒りを露にする。

 一触即発の緊張感が漂う中、黒霧はどうにかステインを戦力として迎えるべく口を開いた。

「〝ヒーロー殺し〟……我々とあなたは「現在(いま)を壊す」という点では共通しているのではないでしょうか」

「!」

 黒霧の言葉を聞き、ステインはわずかに刀の切っ先を下ろした。

 それを見た黒霧は良い兆候だと判断し、更に口を開いた。

「何かを成し遂げるには強い信念が必要…我々がどう芽吹いていくのかを見たいとは思わないのですか?」

 その言葉に、ステインは少し考える。

 確かに、「現在(いま)を壊す」という点だけは共通しており内心では同意もしている。異質ではあるが、信念が宿っている気もしなくはない。その信念がどんな形であり、どういう風に芽吹いていくのか。

 ステインは考え抜いたのち、刀を納めて口を開いた。

「……いいだろう。だが俺にはまだ成すべきことが残っている……それを優先にする」

「ええ……承知の上です」

 

 剣崎との決戦を最優先することを条件に、ステインは(ヴィラン)連合に加担することにした。

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