亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№46:神酒を探して

 東京、某神社――

 そこでは、いつもではあり得ない事件が起こっていた。

「〝ヒーロー殺し〟はどこだ!?」

「見つかりません!!」

「クソ、間違いなくこの近くのはずだがなぜ見つからないんだ!!」

 何と〝ヒーロー殺し〟ステインが神社の境内に突如出没し、大騒動に発展したのだ。この時間帯は非常に賑わって人が混んでいる頃――凶悪犯(ヴィラン)一人で大混乱だ。幸いにも死者はおろかケガ人も出ていないため、ひとまず一息つけるが未だ逃走中なため油断はできない。

「ハァ……さて、目的の代物はどこだ……?」

 プロヒーロー達や警察の監視の目を掻い潜り、捜索するステイン。潜入してから早30分だが、相当の人数なのか動きにくい。

 すると、本殿の付近まで近づいてそれは見つかった。

「これか……」

 ステインの目的は、神社に納められている神前に供える酒――神酒だった。実はステインは、先日の剣崎との戦いで無敵と思われた剣崎が日本酒で怯んだことを知った。

 生ける亡霊である彼には、市販の日本酒では無力化こそ無理だったが少なからず影響を与えた。ならば、神酒は絶大な威力を発揮するのではないか――そう考えたがゆえの行動なのである。

「アレを手に入れれば、ここは用済みだな」

 その時だった。

「お、お前は!!」

「……ハァ……この神社の神主か」

 神主に見つかるステインは、すかさずナイフを投げる。それは見事に神主の肩に突き刺さり、地面に倒れ伏した。

「……それ以上喚こうものなら、息の根を止めるぞ」

 殺気を放ちながら神主を恫喝するステインは、神酒を手にして立ち去ろうとする。そんな彼に神主は叫ぶ。

「何が目的だ…なぜ…なぜ、神酒を狙うっ!?」

「ハァ……あの男を問うのに必要なだけだ……」

「あの男……だと……!?」

「お前達には関係ない……」

 ステインはナイフを回収せず、神酒が入った樽を抱えて風のように去っていった。

 

 

           *

 

 

 さて、ここは雄英高校の屋上。

 剣崎とミッドナイト、そして火永が三人で会話をしていた。

「つまり……俺のことが色々漏れ始めたって訳じゃなさそうだが、水面下で動きがあるってことな」

「ええ……情報を得たというより、勘づいたか察したかぐらいのレベルでしょう。でも大物から見ればそれもまた貴重な情報ね」

「一応それなりのコネも使って調べてるが…どうやら戦力を整えてるらしい」

「成程な、近い内に「オールマイトの時代」を終わらせようって魂胆か」

 剣崎のような強力なヴィジランテが不要となりつつある今、(ヴィラン)にとっての最大にして唯一の天敵はオールマイトのみ(・・・・・・・・)だ。時代の流れにはさすがの剣崎も抗いようがないが、彼自身はオールマイトに頼り過ぎではないかと思っている。

 それは自分に頼れという訳ではない。平和になった時代だからこそ、オールマイトから脱却する時期が近付いているのだ。一人の人間がいつまでも柱になって社会を支えることなどできないし、時代は繰り返すことはあれど必ず〝終わり〟が来るのだ。それはある意味で一時代を築いた剣崎がよく知っている。

「……俺も考えれば、時代の残党だ。もしかしたら俺も近い内に潮時かもな」

「「刀真……」」

「まァ、そん時はデケェ仕事ぐらい引き受けて奴らとケジメつけておかなきゃな」

「お前らしい」

 そう言いながら、持ってきたラジオの電源を入れる。

 すると、意外なニュースが報道された。

《〝ヒーロー殺し〟ステインは保須市付近の神社を襲撃し、その神社に納められている日本酒――神酒を盗みました。窃盗というこれまでにない動きに警察関係者及びプロヒーロー達は困惑しており、何かしらの思惑があって奪ったのではないかと推察されています》

「窃盗、ですって……!?」

「どういうこった……?」

 これまで40人近く死傷させてきたあのステインが、神社で窃盗。ヒーロー稼業を生業とする火永達にとっては耳を疑うようなニュースだ。

(神社のお酒……)

 しかし剣崎だけは違った。

 神酒を奪ったステインは、剣崎が日本酒を浴びて苦しそうに喚いた光景を目に焼き付けている。そうすれば、ステインがなぜ神酒を奪ったのかは必然的に結論を見いだせる。

 そう――剣崎への対抗手段だ。

「これで決まりだな、奴は本気でこの俺を殺しに来る気だ。後は向こうからの動向次第って訳だ」

 死者である剣崎の表情が、生き生きと好戦的に変わる。

 剣崎はわかっていた。ステインが自分を待っているのだと。

 〝ヒーロー殺し(ステイン)〟を(ヴィラン)業界に対する見せしめとして討伐すれば、忘れつつあった〝ヴィランハンター〟の恐怖を、剣崎の正義を悪党共は思い出すだろう。滅びたはずのあの恐怖は…悪夢は、まだ終わっていなかったのだと。怒りと憎悪の闇に全てを委ねた忌まわしき死神は蘇り、再びヒーロー社会へと解き放たれたのだと。

「この決闘は俺が全部引き受ける手筈だ。手出しは無用だぜ」

「「……」」

 血も涙も枯れた、他者に生気を感じさせない修羅は、亡霊人生でも屈指の大仕事を取り組もうとしていた。

 これから自身は、たった一人の(クズ)を狩る。だが、それは長年の悲願である「全(ヴィラン)滅亡」の成就には、非常に重要な意味を持っているのだ。

「〝ヒーロー殺し(あいつ)〟の掲げた理想と信念、この俺の正義で砕いてやろうじゃねェか」

 決戦は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

「そうか……ということは、時は来たという訳か」

《ああ、恐らく今週中……いや、早ければ明日かもしれねェぞ》

「うむ、わかった。後は私に任せたまえ」

 ここは無間軍の根城……シックスは部下から剣崎に関する様々な情報を手に入れていた。

 そして現時点で、ステインが先程起こした窃盗事件から、剣崎はステインと近い内に剣刃を交わせると推察したのだ。

「殺し合いの場が判明次第、幹部であるホールマントを送ろう」

《いいのか? 不死身の剣崎にマンホールで勝てるのか?》

「最悪の場合は私も出張る」

《……不安要素しかねェな……わかった、くれぐれも気をつけろよ? 時期的には雄英の連中の職場体験だ。プロヒーローも出張ってるし、警察内部にもあいつと面識のある奴もいる。ただでさえ敵連合(やつら)は勢いだけで突っ走ろうとしてるから、ちょっとしたことで面倒事になるぞ》

「私を誰だと思ってる? 心配性だな礼二」

《心配性で悪かったな。早く切るぞ、盗聴されたら一溜りもねェ》

 

 ――プツッ

 

「……ようやく会えそうだな、剣崎よ」

 シックスは、悪意に満ちた笑みでそう呟いた。

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