亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№51:〝ヴィランハンター〟VS〝ヒーロー殺し〟・その4

 〝ヒートアイス〟熱導冷子を一旦退け、改めて廃墟へと向かう出久達一行。

「刀真はもうステインと戦ってるはず……でもどうやら流れは変わったらしいわ」

「どういうことだ?」

 グラントリノの問いに、彼女は答える。

 曰く、(ヴィラン)連合の脳無があちこちで出没しており、ヒーロー達はその対処に手一杯の状況らしい。当初は雄英が職場体験中であるので学生を襲撃し、あわよくばプロヒーローも潰そうとしていたのではないかと考えていたが、プロヒーロー達が剣崎の援護に来ない為でもある可能性が浮上したという。

「もしかしたら、刀真の元にかなりの数の脳無が……!!」

「あり得ない話では無いな――」

 

 ドズンッ!

 

『!!』

 三人の前に、突如薄緑色の肌を持つ四ツ目の脳無が現れた。長身痩躯かつ手足が異様に長いその異形さは人間とは思えない気味悪さを醸し出している。

「グラントリノ!」

「わかっている!」

 熱美は両腕から高熱を放ち、グラントリノも構えを取って脳無の前に立つ。

 脳無は二人の戦意を感じ取ったのか、素早い動きで襲いかかった。

「ハァッ!!」

 熱美は正面から殴りかかり、脳無と拳をぶつける。

 高熱のパンチは脳無の拳を焼き始めるが、痛みを感じてないのか無反応だ。すると今度は熱美は何度も殴りつけ、脳無の肉体に大火傷を負わせる。

「これでも効かないってなると、面倒だ……」

 その言葉通り、脳無はビクともしない。しかし火傷のダメージは響いているのか、動きは先程と違って鈍くなっている。

「それだけ鈍くなりゃあ十分だ、熱美!!」

 グラントリノは自らの〝個性〟の「ジェット」で急加速し、首を蹴りつけた。

 それがとどめの一撃となったのか――脳無はそれを受けて数秒後に力なく倒れた。

「……思った以上に強くは無かったな」

「まァ、相手が悪かったってことで――」

 その時だった。

「っ!? いかん!」

「出久君!! 避けて!!」

「!?」

 突如として空中から翼の脳無が襲来し、出久に襲いかかった。

 翼を生やした脳無は出久を攫おうとするが……。

 

 ドンッ!!

 

『!!?』

 脳無の眉間が何者かによって撃ち抜かれた。

 一瞬で絶命した翼の脳無は、大きな音を立てて前のめりに倒れ血の海を作る。

「――油断するなよ熱美。あとジジイ」

「火永!!」

「そいつは改人……一方通行のコミュニケーションしか取れないが戦闘力はプロヒーローと互角以上だ。もっとも、相性にもよるがな」

 そう言いながら出久達の元へ向かう火永は、小石を手にしていた。〝個性〟を用いて小石を銃弾にして脳無を撃ち抜いたのだ。

「火永さん……何でここに脳無が……」

「大方、剣崎を潰すことが目的だったんだろう。ステインが敗北した場合の保険みてェな奴だろ。御船も今出張ってエンデヴァーとそのせがれの元で交戦中よ」

 脳無の亡骸に近づく火永。彼は顎に手を当て、目を細め見つめ続ける。

 その様子を見た熱美は、首を傾げ尋ねる。

「火永、どうしたの?」

「いや……何年か前に似たような〝個性〟をもったガキと出会ったの思い出してな。何か似てるなってよ……」

「子供?」

 そして、火永は衝撃の一言を告げた。

 

「あァ――確か、ツバサ医院の院長の息子(ガキ)だったような……」

 

 その言葉を耳にし、出久達は絶句し顔を青褪めた。

 そう、火永の言葉によって「最悪のビジョン」が頭の中に浮かび上がったのだ。

「っ……!!」

「……まさか……!?」

「ひ…火永さん……嘘、だよね……? 冗談が過ぎるよ……?」

「――冗談だといいがなァ……」

 火永は煙草の煙を吐きながら、小さく呟くのだった。

 

 

           *

 

 

 剣崎とステインの死闘は、苛烈を極めていた。

「ハァ……ハァ……!!」

「無駄だ……!! お前に俺の正義を砕くことはできない!!!」

 満身創痍のステインに、非情な現実を突きつける剣崎。

 殺意に満ちた眼差しで全身傷だらけのステインを見据えるその姿はまさしく修羅そのもの――まるで憎悪が全身から立ち昇っているようにも思えた。

「ぐっ……がっは……!!」

 立ち上がるのが精一杯のステイン。

 しかしそれでも、刀を構えて斬りかかる。剣崎もまた、それに応えて刀を振るう。

 互いの剣刃はぶつかり、火花を散らして弾かれ、再び激突する。人生を懸けて導き出した信念は激しく衝突し、捨て身のぶつかり合いはより一層凄まじいものになる。

「これで全てを終わらせる」

 ステインはそう呟き、日本刀を真上に投げた。

 戦意の放棄を意味するような行動を突然とったステインに、さすがの剣崎も度肝を抜かれ一瞬だけ動きを止めた。

 その動きを見たステインは、まだ残っていたナイフを取り出し剣崎の両足の甲に深々と突き刺した。

「ぐおァァ!?」

 突然の激痛に、剣崎は叫ぶ。

 そのナイフは、神酒で濡れていた。神酒を浴びると剣崎は一時的に弱体化し、浴びた個所は物理攻撃が通じるようになる。その弱点を利用し、剣崎の動きを封じたのだ。

「これで終わりだ、〝ヴィランハンター〟!!!」

 ステインは跳び、投げた刀に残された神酒を振りかけ、そのまま斬り降ろした。

 これが決まれば、さすがの剣崎も致命傷を負いうまく追い込めば殺すことができる――そう考えたステインは満面の笑みを浮かべた。

 しかし、そんなステインの狙いは見事に打ち砕かれた。

 

 ドォン!!

 

「!?」

 

 ビキビキ、メキィッ!!

 

「なっ……!?」

 剣崎の右腕から放たれた〝雷轟〟が裏拳の形で炸裂し、ステインの脇腹を抉った。

 それと共に複数の骨が圧し折れるような音が響き、ステインは大量の血を吐いて倒れ伏した。

(しまった……肝臓を……!!)

 剣崎は〝雷轟〟の衝撃を、人体急所の肝臓に叩き込んだ。その衝撃は内臓を破裂させ背骨にも伝わり、あまりの勢いの強さに肋骨も折れて肺に刺さった。

 ヒーロー達の脅威の一つであった悪のカリスマ〝ヒーロー殺し〟は、〝ヴィランハンター〟の機転を利かせた渾身の一撃の前に崩れた。

「――楽しい辻斬り稼業もここまでだ、最期の相手が俺でよかったな。冥途の土産に正義の引導をくれてやる」

 剣崎は両足の甲を貫いたナイフを抜き捨て、刀を手にする。

 〝ヴィランハンター〟と〝ヒーロー殺し〟。「全(ヴィラン)滅亡」と「英雄回帰」。人生を賭さねば得られぬ答えを導き出した者達の信念のぶつかり合い――その勝者は、皮肉なことに先の時代の残党だった。

「俺ァ他人を嬲るような悪趣味じゃねェ…介錯ぐれェは一思いに務めてやるよ。死人に口無し…最後に何か言いてェなら端的に言え」

「ハァ……ハァ………ハハァ……!! そうだな……未練も遺言も別に無いが……時代の残党であるお前がいつまで信念を貫けるか見物だな……!!」

「死んでも貫くのが信念だろうが。二本足と意地で立つのが男のようにな」

「ハァ……ハハ……! さすがだ――」

 剣崎は刀を振り上げ、どこか落胆したような表情で告げた。

 

「……お前とは、別の形で会いたかったな」

 

 ドッ――

 

 振り抜かれた無慈悲な刃がステインの首を飛ばす。鮮血と共に首は転がり、辺りを血の海に変えた。

 それを隠れながら監視する男が一人いる。

「嘘だろ……相手は〝ヒーロー殺し〟だぞ……!?」

 その場にいたのは、かつて剣崎と戦い惨敗した「無間軍」の(ヴィラン)――ホールマントだった。一連の剣崎とステインの死闘を隠れてみており、その結末を見届けたのだ。

「今の野郎の前じゃあ、ステインですら無力なのか……!?」

 その直後、轟音と共にある人物がその場に着陸(・・)した。

 その正体は……。

 

「私が来た!!」

 

「――もう事後なんだが」

 今更登場、オールマイトだった。不幸中の幸いか、ホールマントはオールマイトのおかげで剣崎に気づいていないようだ。

「これは……!! 剣崎少年――決着はついたのか」

「いい見せしめにはなるな……これで少しは(ヴィラン)共も大人しくなる。あと、この刀は戦利品としてもらう――死体を利用できないからな」

 ステインの刀を回収し、剣崎はオールマイトとすれ違う。

 その後、剣崎はオールマイトの方へ振り向いて口を開いた。

「――いい加減ウチらから動くべきだ。これで(ヴィラン)業界は少し荒れるが、好機でもある。無駄にすんなよ」

 

 

 その翌日、朝刊に「〝ヒーロー殺し〟死亡」のニュースが報じられ、剣崎の言葉通り日本の超人社会が荒れる事態になった。

 この事件は「保須事件」と命名され、後に〝平和の象徴〟の時代を終わらせた〝ある極めて大きな事件〟の「引き鉄」として語られることになる。


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