亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№52:伝染

「そうか……〝ヒーロー殺し〟は死んだんだね」

 盛大な溜め息を吐くオール・フォー・ワン。

 単独犯という括りでは(ヴィラン)業界において多大な影響力を与えたステイン(おとこ)は、生ける亡霊と化して本物の死神のようになった〝ヴィランハンター〟剣崎刀真との壮絶な死闘の末に首を刎ねられ死亡した。

 そしてステイン死亡のニュースは瞬く間に広まり、(ヴィラン)業界を震撼させた。

 

 ――剣崎の野郎が復活した!! 〝ヴィランハンター〟が蘇りやがった!!

 ――死んじゃいなかったのか!?

 ――しかもあのステインもぶっ殺したらしい!!

 ――オールマイトと手を組んだら終わりだ……!!

 

 剣崎の恐怖はあっという間に〝伝染〟した。死柄木弔は自分達の邪魔をし続ける剣崎に対する怒りを露にしたが、往時の彼を知る者達は皆縮み上がり、ついには足を洗う者も現れ始めた。

 それはまずいことだ。「〝悪〟の支配者」――オール・フォー・ワン――と「(ヴィラン)連合」が人々から魔王とその軍隊のごとく恐れられなければならない。(ヴィラン)達が〝ヴィランハンター〟を恐れてはならないのだ。

 かつて手を掛けた志村菜奈(おんな)の影を一度死を迎えてなお追い続け、怒りと憎しみを撒き続けるあの忌々しい小僧をこの手で殺さなくては気が済まない――オール・フォー・ワンは、血管がくっきり浮き出る程に拳を握り締める。

「それとも……これもお前の「保険」だったのかい? 志村菜奈……」

 志村菜奈は万が一を見越して、剣崎を無情かつ恐るべき処刑人にさせたのではないのか――オール・フォー・ワンはそう思ってならなかった。

 傍から見れば何の根拠も無い戯言に聞こえるが、剣崎は志村菜奈の背中も見てたのも事実だ。現にあの〝平和の象徴〟オールマイトよりも憧れていたのだから、その可能性は完全には否定できない。

「……まァいい。ステインの死は大きな損失だが、その分いい収穫(・・・・)もあった」

 今回のステインの死によって剣崎復活による恐怖が蔓延したが、それと同時に剣崎に対する怒りと憎しみを露にする者も現れ始めた。〝ヒーロー殺し〟の意思を継ごうとする、ステイン信奉者である。

「不幸中の幸い、マスコミがステインの思想を広めてくれたからね…そこは良しとしようかな」

 ステインの思想「英雄回帰」は、ヒーローとは見返りを求めず自己犠牲の果てに得うる称号でなければならないという主張である。救うことで得られる収益や名声を目的としてプロヒーローとして活動する人間は少なくないのは事実であるため、ヒーローの在り方に疑念を抱く者は(ヴィラン)にはいる。

 その思想に感化された者達が、この(ヴィラン)連合に目を付け始めている。(ヴィラン)連合の戦力増強という意味では、ある意味で結果オーライかもしれない。

(問題なのは、これも全て剣崎の思惑である場合だね……)

 そう、この一連の流れが全て剣崎の思惑であるとなれば面倒だ。

 あえてマスコミを通じてステインの思想を広め、それに感化された者達を(ヴィラン)連合ごと潰す――いわば炙り出しのためにわざと広めたのではないか。一々探し出すのではなく、情報を流して誘導させて集ったところを全力で叩き潰した方が手っ取り早いのだ。

「さてと……そうなると僕も本格的に動かなきゃいけないね」

 そんなオール・フォー・ワンの予想は、見事的中するということに彼自身は知らない。

 

 

           *

 

 

 同時刻、雄英高校では剣崎がミッドナイトと話し合ってた。

「……睡、一応奴は始末した。出久君達への被害は少しは減るだろうが、気は抜かないこった」

「ええ……一応火永達と連携して回してはいるけど、今回の一件で(ヴィラン)の動きも変わっているって情報も手に入れているわ」

「上々だな……」

 ステインの死。それは、この現代社会を震撼させた。

 警察発表では、ステインの活動を快く思わない何かしらの勢力によって殺されたとされているが、剣崎にとってはどうでもいい。(ヴィラン)連合をはじめ、全ての(ヴィラン)達への見せしめとして示すことができたので良しとしているのだ。

「――あとは「敵連合(むこう)」の出方次第。それでこの世界の〝夜明け〟は変わる。その出方が俺の予想通りに行くかは保証できねェが、ステインを失った以上すぐには行動を起こせねェはずだ」

「刀真……」

 連日のテレビの報道に満足気な剣崎。そう、剣崎は効率の良い「狩り」の為にマスコミを利用したのだ。

 剣崎は腕っ節と経験値、直感で悪者退治を行ってきたが〝今時の(ヴィラン)〟が単純な連中でないと知り、罠を仕掛けたのだ。

 ステインの思想を広めて彼に感化された愚か者達を一ヶ所に集中させるのもそうだが、それに加えて剣崎憎しを心に秘めた「仕留め損ない達」をも集結させて少しの手間で「16年の空白」を埋めようと画策しているのだ。

「「全(ヴィラン)滅亡」を成就するには、(ヴィラン)を一人一人始末するには追い付かない……効率よく動かなきゃな」

「刀真…」

「――睡。今年の夏、俺は勝負を仕掛けるぜ。答えを導き出せたからな」

 ――せいぜい足掻くがいいさ、オール・フォー・ワン…菜奈さんが戦えない状況下だからって図に乗るなよ。

 そう呟き、狂気をも孕んだようなあくどい笑みを浮かべる剣崎。

 しかし、ミッドナイトは複雑な表情をしていた。

 

 ――本当に、これでいいのかしら……?

 

 剣崎は自分と違って、愛と夢と居場所を目の前で奪われ、辿り着きたかった未来を歪められた。(ヴィラン)に全てを奪われ、人生を滅茶苦茶にされたのだ。

 慈悲など無用、余計な禍根は根こそぎ断つ――怒りと憎しみに信念もかつての人格も支配され、一度目の死によって〝個性〟の発現と共に強大化した「負の感情」。その負の感情は、マグマのごとく煮え滾る憤怒と憎悪の源として剣崎を動かしている。

 剣崎は、時代を殺し世界を破壊しようとしている。それを実現するに十分な信念と〝個性〟が、彼にはある。

 全ての悪を――(ヴィラン)を滅亡させ、次代を担う者達が(ヴィラン)に憧れない世界を築こうとしている。その為に、ステインのように影響力のある(ヴィラン)を全て葬って恐怖と絶望を与え非情な現実を見せつける。

 恐怖は何よりも重い枷になる。……でも。

 

 ――本当に、刀真は望んでいるのかしら……?

 

 今の剣崎は破壊主義的思想だが、全てを奪われる前の剣崎ならばどう考えていたのだろうか。

 亡き彼の家族は、どう思っているのか。

 

 ――本当に、これで刀真もご家族も報われるのかしら……?

 

 ミッドナイトは、すぐ傍にいるのに剣崎が自分達から――ヒーローから段々遠ざかっているような気がした。

 悪に転ずるわけではない。でも、剣崎はこのまま暴走したら取り返しのつかない事になりそうな気がする。そう思ってならなかった。




次回から最終章になります。
最後までお付き合いください。
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