亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№57:林間合宿一日目・後編

 夕暮れ。

 A組の生徒達は満身創痍の状態になりながらも、何とか合宿施設「マタタビ荘」に辿り着くことが出来た。

 しかし昼抜きのままピクシーボブが造り出した魔獣を相手にしながら森を抜けたせいか、全身が土と汗の匂いが混ざっていて、ストレスと疲労感で文字通りの虫の息だ。

「さ、さすがに疲れた……」

「きつかったよね、緑谷君…」

「ウソつけそこ……!! 何で俺らよりも顔色が良いんだよ……!!!」

 出久とお茶子の呟きに、切島は息も絶え絶えな状態でツッコミを炸裂させる。

 二人は剣崎に扱かれまくってきたのだから、周囲よりも多少顔色が良いのは仕方ない。なお、二人の事情を知る轟は何も言っていない。

「ごめんね、アレ私達だったら(・・・・・・)って意味だったのよ。でも意外……本当はもう少し時間が掛かると思ってたし」

「ねこねこねこ! 本当それね! 私の土魔獣、本当なら結構強いんだけど簡単に攻略された時はビックリしたもん!」

 マンダレイとピクシーボブは出久達を褒めるが、その直後にカラスの鳴き声が響き始めた。

「――何言ってやがる、そのぐれェでバテるんじゃあダメだろ。俺らのステージに上がるにはまだ長いな」

 刀をステッキのように突きながら、骸骨カラス達を従え現れる剣崎。

 真夜中に見たらホラーな光景に、一同は顔を引きつらせる。

「これは俺が扱いた方がいいかもな……何なら俺が明日お前ら全員相手取るか? 何か勝てそうだけど」

「はァ!? てめェ舐めてんのか!? 遺体が喋んな!!!」

「やるかドサンピン」

 剣崎の言葉にブチキレた爆豪は掌を爆破して殴りかかろうとするが、「相手が悪すぎる」だの「やったらほぼ負ける」だの「取り巻きのカラスにも苦戦しただろ」だのと散々に言われながら切島達に止められる。

 すると出久が、マンダレイとピクシーボブの後ろに立つ少年に気づいた。

「そう言えばずっと気になってたんですけど……その子、どなたかのお子さんですか?」

「この子は私の従甥の洸汰だよ。洸汰! 挨拶しなよ、一週間一緒に過ごすんだから」

 マンダレイに言われ、洸汰は渋々出久の近くによる。

「あ、えと……僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 手を伸ばし握手を求める出久だが、非情にも洸太の手は拳となって股間へと向かった。

 子供の力とはいえ、急所の拳は大ダメージであるのは変わらない。強烈な激痛が走り、出久は白目を向いたまま崩れるように撃沈(ダウン)した。

「緑谷君!? おのれ従甥! なぜ緑谷君の陰嚢を!」

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねェ」

「つるむ!? 君は一体いくつなんだ!?」

 洸汰はそう言い捨てたまま、宿泊施設のマタタビ荘に入っていき姿を消す。

「……洸汰って、お前に似てるな」

「あァ!?」

 轟のある意味率直な感想で、新たな火種が。

 何の悪そびれた態度も出すことなく言った轟にキレた爆豪は、轟に殴りかかろうとするが…その爆豪の頭に、剣崎の拳が炸裂した。

「いっ!?」

「若さに任せて噛みつきまわるな、見苦しい……」

 呆れた表情を浮かべる剣崎に、援護射撃とばかりに相澤が口を開く。

「――さっさとバスから荷物下ろせ、部屋に荷物運んだら食堂にて夕食だ。その後は入浴で就寝。本格的なスタートは明日からだ、今日は早めに体休めとけよ」

 

 

           *

 

 

 夕食時。

 食事の挨拶を軽く終わらせると、生徒達は次々と食事に食いつく。料理は豚汁や刺身、唐揚げ、コロッケ、ポテトサラダといった家庭的なものだが美味しいことに変わりは無い。

 そんな光景を剣崎は眺めていると…。

「剣崎さん、どうぞ」

「!」

 出久が箸と豚汁を剣崎に差し出した。

 弟子の厚意を拒否するのもいかがなものかと思ったのか、剣崎は無言で出久から豚汁を貰い一口。

「全く味を感じない」

「……ですよね……」

 死んだ体では味覚も感じないようだ。しかし出久の厚意を迎える形で剣崎は豚汁を頬張る。

 16年以上も食事を摂らず、渇き朽ちた肉体で生ける亡霊として生きてきた剣崎。味は感じないが〝有難味〟は感じているのか笑みを零している。

「食べ終えたらどうしますか?」

 ふと、出久は素っ気ない質問をした。

 それに対し、剣崎は……。

 

「ん? 切腹して中身掻き出すに決まってるだろ」

 

『――っ!!?』

 剣崎の衝撃の回答が、その場の空気を一瞬で凍らせた。

 彼としては当然のことである。肉体は死んでいる以上、身体機能も機能していないからだ。死んだ肉体では口にした食物は胃に溜まるだけなので、放置すれば腐って異臭を放ちかねない。臭いは戦闘において相手に位置を知られてしまうので、腐る前に腹を裂いて出さねばならないのだ。

 だが腹を裂いてそこに手を突っ込み中身を掻き出すという内容は、いくら血の枯れた肉体でもさすがにグロテスクすぎるし食事中に言う言葉ではない。

 案の定その光景を想像してしまったのか、一部の生徒達は箸や食器を落として顔を青くしている。出久も顔を引きつらせており、若干後悔している。

「んなもん一々想像するなよ……」

 剣崎の呆れた声が響き渡るのだった。

 

 

           *

 

 

 楽しく賑やかな夕食の次に待つのは、入浴だ。

 風呂場では非常事態が起こっていた。

「み、峰田! 今ならまだ間に合う…やめろ、それだけはやめるんだっ!!」

「上鳴……それでもお前…男か? あァ!?」

「いや男だけど……確かに女子は可愛いし好きだし、気になる気持ちはわかるけどよ……お前もヒーロー科だろ!?」

「ハッ!! これだから甘ちゃんは……ヒーローという言葉を使って直ぐに正当化させようとする!! 良いか? 男はな、ロマンを求める生き物なんだ……そうやって出来てるんだよォ……!!」

 壁に張り付いた状態で嘲笑うかのように出久達を見下す峰田。

 そう、峰田は今から女風呂という天国を覗こうとしていたのだ。しかもこの時を待ち焦がれていたのか、口から涎を垂らし目がイッている。もしステインがいたら贋物認定・血の粛清不可避である。

「峰田君、さすがにそれは人として間違ってるよ!!」

「緑谷君の言う通りだ、峰田君!! ヒーローを志す君が、犯罪者……いいや、それこそ(ヴィラン)となりうる存在に変わってしまってどうするんだ!?」

「何言ってんだ、壁とは越えるためにあるものだろう!?」

「教訓を穢すんじゃない!!」

 出久と飯田の声も届かない。周囲の男子達も諦めているのか、一斉に知らんぷりである。

 誰か峰田を止めてくれ――そう願った者がいたかどうかは知らないが、別の意味で絶体絶命なこの風呂場に救世主が現れた。

 

 ピシ……パキッ……ビシッ……

 

 ひびが走るような音が響き始め、一斉に振り向く男子一同。

 一同の視線の先には、髪の毛がゆらゆらと揺らぐ人影が。

 

 ガラガラッ

 

「風呂か……これもまた16年ぶりだ」

 何とまさかの剣崎登場。

 青白い肉体は一切の生気を感じさせないが、その体つきは程よく引き締まっておりくっきりと腹筋も割れている。

 そして何より一同を驚かせたのは、生々しい傷痕と亀裂のような線だった。上半身を中心に夥しい数の傷痕が刻まれており、亀裂のような線はひびのように全身に走っている。

 それはまるで、壊れる一歩手前の割れ物のようであった。

「――何をしてるんだ?」

 鶴の一声どころか地獄の底から響くような声で、剣崎は口を開く。

 暑かった風呂場の気温が一気に氷点下にまで低くなったように感じ、縮み上がる男子一同。爆豪は相変わらず鋭い目付きだが、出久達は何一つ言わずに風呂に浸かった。先程まで女湯を覗いて性欲を満たそうと興奮していた峰田すら、壁から降りて大人しく湯船に浸かっている。

「――まァどうでもいいが……ヤンチャは程々にしろよ?」

 剣崎はひびが走るような足音を立てて鏡の前に座り、髪を洗い始めた。

 光景としては非常にシュールであるが、相手が相手だから笑えない光景でもある。

「ちょ……髪……」

 自身の〝個性〟の影響か、常に揺れる髪の毛に苦戦する剣崎。

 峰田はその隙に女湯を覗こうとするが、得体の知れない何かの視線を感じているのかモジモジしている。

 その間にも剣崎は髪を洗い終え、泡を全て洗い流すと露天風呂へ向かいゆっくりと腰を下ろして肩まで浸かる。

「フゥ……熱は感じないが、何となく気分が晴れるぞ……」

 久しぶりの入浴にご満悦の剣崎だが、多くの男子は気が気でなかった。

 体格的には障子や口田より少し小さいが、放つ気迫はプロヒーローや(ヴィラン)顔負けだからか――怒られてもいないのに男子一同は一言も喋らなくなってしまった。まるで入れ墨をしたヤクザがサウナに入ってきたような雰囲気であり、瀬呂や尾白に至っては震えている始末だ。

 それもそうだろう、刀を持ってなくても地力がプロヒーロー以上の相手の前で変態行為で口論するなんてマネをできるわけが無い。ただでさえ疲労が残っているのに、あの地獄の底から響くような声で畳み掛けるように問い詰められたら精神的にやられてしまう。

 しかし出久は勇敢にも、剣崎に声を掛けた。

「剣崎さん……あの、刀は置いてきたんですか……?」

「風呂を血で穢すのはさすがにな。それに一張羅でも俺は負ける気はねェよ」

 汗腺が機能していないのか、一滴も汗を流さない剣崎。しかし湿気は帯びているのか、髪の毛は濡れているようだ。

「――どうした? 妙に顔色が悪そうに見えるが……」

 剣崎の悪気の無い一言。

 その場にいた全ての者が「あんたのせいだよ」と言いたかったが、そこまでの勇気は無かったのでその言葉を呑んだ。

「さて……これからどうしようかねェ……」

「というと?」

「いやァな、出久君……何か嫌な予感がしてな。連れやオールマイトに連絡した方がいいかなって」

 その言葉に、緊張が走る。

 剣崎の同志やオールマイトに連絡をした方がいい――それはつまり、この林間合宿においても(ヴィラン)の襲撃があり得るという意味でもあるのだ。

「こう見えて勘は当たりやすいんだ、お前らも用心するこった……特に爆豪、お前が一番狙われんぞ」

「あ?」

『!?』

 剣崎の言葉に、目を見開く一同。

 出久に至ってはやけに心配そうな目で爆豪を見ている。傍から見れば保護者のようである。

「あっち界隈から見れば、お前は勧誘されやすい質だ。襲撃に遭ったら間違いなく狙われんぞ……一応俺も警戒はしておくが、連中のバカさ加減を考えると襲撃の可能性は高いとみている。俺への逆恨みも含めてな」

「逆恨み……?」

「さて……俺はここで失礼する。一秒たりとも気を抜くなよ」

 剣崎はそう告げ、露天風呂から出て一足早く戻っていった。

 なお、峰田は剣崎が出て以降も凶行に走らなかったので一同は安心して就寝できたとか。

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