亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№58:林間合宿二日目・前編

 翌日、早朝。

「まずお前から血祭りに上げてやる」

 

 ブチブチブチブチ

 

「ウギャアアアアアアアアア!!!」

 早朝から響く、地獄の底から響くような声と断末魔の叫び。

 出久達の目の前では、頭のもぎもぎをもぎ取るというより引き千切りまくり、言葉通りに峰田を血祭りに上げる剣崎が。

「じ、慈悲を!! 慈悲をォォォォォォォォ!!!」

「慈悲など無用」

 さて、どうしてこうなったのか。それは今から数分前に遡る。

 この林間合宿の目的は、「〝個性〟の強化」の為だ。雄英では様々な訓練で生徒の身体能力や技術などを向上させてるが、それは〝個性〟そのものが伸びたというわけでは無い。よって〝個性〟そのものを成長・強化するために林間合宿を行い、生徒のスキルを大幅に伸ばす。早朝から生徒達を呼び出し訓練を行うのは、それの一環でもあるのだ。

 そこで相澤は、素で強い剣崎に「〝個性〟そのものが伸びたことを確認する」という名目で出久達の相手をするよう頼んだ。ただし相澤は刃傷沙汰は教育上よろしくないとして剣崎は納刀状態で応戦するという条件を提示したが。

 そして模擬戦開始の合図をした数秒で、峰田の血祭りに至るわけである。

「ギャアアアアアア!!! 鬼ィィィィィィィ!!!」

 頭から血を流し、顔を真っ赤に血で染めている峰田は、女子陣に目を向ける。それに対し女子達は…。

「峰田ちゃんサイテーだったし……」

「昨日のやり取り筒抜けだし」

「そのまま死ねばいいのに」

「剣崎先輩、もっと痛めつけて下さい!!」

「お前らも鬼かァァァァァ!!!」

 芦戸、葉隠、梅雨、八百万がそれぞれ無情に告げる。完全に女子からは見捨てられてるそうだ。しかし男子陣も誰一人助けようとしない。ゆえに剣崎の無慈悲な凶行は続行。

「お前が悔い改める意思を見せても、俺はお前を千切り続けるだけだ!」

「それただの暴力じゃねェかァァァァァ!!!」

 その声を最後に峰田は力尽きてしてしまい、剣崎にポイっとゴミのように捨てられる。

「皆、行くぞ!!」

『おうっ!!』

「……お、お前ら……」

 飯田の掛け声と共に、一斉に剣崎に立ち向かう一同。

 峰田は憐れだが、先日の所業のせいで相澤からも同情されてないので放置される。

「ハァッ!」

 トップバッターは、尾白だ。しなやかで太い尻尾が、剣崎を狙う。自身の体を持ち上げ安定させることが出来るくらいに強靱であるので、得物を持たない剣崎を牽制するには有効だろう。

 それと同時に、障子は殴りかかる。障子は身体測定時に手を複製し、握力540kgを記録したというとんでもないことをしでかしている。握力540kgの剛腕で殴られるのは不死身の剣崎も厄介に思っているようだ。

 しかし相手は〝ヴィランハンター〟。剣崎はここで勝負を仕掛けた。何と尾白の尻尾を掴んで、ハンマー投げのように振り回し始めたのだ。

「自分の〝個性〟は弱点にもなる……〝禍撃(かげき)〟っ!!」

 剣崎はそのまま跳び上がり、切島・上鳴・瀬呂に目掛けて尾白を放り投げた。意表を突かれた攻撃を避けきることはできず、三人は尾白諸共吹き飛んだ。

 だが剣崎が着地した瞬間、すかさず飯田が特攻してタックルをかました。剣崎の体の右半分が、飯田のタックルによって抉られる。

「チームプレイってか? 味なマネを……」

 抉られた体の右半分をパキパキと乾いた音と共に再生させる剣崎は、思わず笑みを零した。剣崎刀真という強大な実力者を前に、後輩達が勢いや〝個性〟に頼り切らなくなりつつあることに感心しているのだ。

「勝負ですわ、剣崎先輩!!」

「――っ! 剣の勝負か……上等!」

 次に攻めてきた八百万を見て、剣崎の表情が生き生きと好戦的に変わった。彼女は自らの〝個性〟で剣を生み出し向かってきたのだ。

「やああああ!!」

「フンッ!」

 

 ガキィン!

 

 八百万の剣と剣崎の納刀状態の刀が激突し、火花を散らす。

 剣崎は八百万の剣をへし折ろうと力を込める。

「くっ……!!」

「今の一太刀はよかったぜ。だが……!」

 剣崎は踏み込んで強引に刀を振るって弾き、八百万の体勢を崩した。

 その隙を突いて剣崎は打とうとするが、そこへ出久が飛び込み八百万を避けて彼を殴りにかかった。

「〝DETROIT SMASH(デトロイト スマッシュ)〟!!!」

「――それでいいぜ出久君、そう来なくちゃ……と言いたいが」

 剣崎は優しく添えるように出久の腕を左腕で真横から押して受け流した。それにより出久の攻撃は不発し、代わりに出久の腹に剣崎の刀による打撃が炸裂した。

「ぐぅ!!」

 体を貫通するような衝撃に、八百万ごと飛ばされる出久。

(――間違いない。出久君もこいつらも……かなりのペースで成長している)

 剣崎は出久達の成長の早さに、内心驚いていた。先の襲撃事件で「初めての実戦」をしたからか、戦闘のセンスが飛躍的に伸びているのだ。

 それと共に先輩としての意地なのか、剣崎の心の中に敗けたくないという思いが芽生えた。(ヴィラン)を滅ぼすために人間をやめたはずだったのに、いつの間にか人間らしい感情が蘇りつつあることに自嘲気味に笑う剣崎。

「まだ日は高いぜ。迷いを捨てて掛かって来い」

 剣崎は肌を突き刺すような気迫を帯びて、出久達を見据えた。

 対する出久達も、冷や汗を流しながらも剣崎に立ち向かった。

 

 

 地獄の訓練は終了し、夕食の時間になる。

 剣崎の鬼のような模擬戦を終えた出久達は、昨日以上の疲労感に襲われて満身創痍の状態だ。化け物じみた運動神経とスタミナを有している爆豪ですら汗だくで息を荒くしているので、剣崎との模擬戦がいかに過酷だったのかが容易に窺える。

「情けねェな、そんなんでバテるなんざ」

「ふざけんなボケ!! 一々再生しやがって!! どんだけ往生際が悪ィんだクソが!!!」

「……それは誉め言葉と受け取ろう。エンデヴァーの火事場親父にも同じこと言われたしな」

「あとデクだけ何でそんなに甘ェんだてめェは!! 殺されてェか!!?」

「出久君は俺の弟子なんだ、荷ごと弟子を背負うのが師匠ってモンだ」

 爆豪を軽くあしらいながら出久を背負う剣崎。あからさまな贔屓に切島や上鳴も不満気に頷く。しかし出久(でし)を背負う剣崎の姿は、死神のごとく恐れられたとは思えない人間味のある光景であり、何人かは物珍しそうに見ている。

 ちなみに峰田はグルグル巻きにされて骸骨カラス達に引きずられている。地面をごりごりと擦っているので痛そうだが、自業自得である。

「ホレ、着いたぞ愛弟子」

「すいません……本当にすいません……」

「弟子の世話を焼くのが師である俺の責務だ、気にするな」

 申し訳なさそうに謝る出久に、剣崎は低く虚ろな声で穏やかに微笑む。

 遊び疲れた弟を兄が背負って帰宅する――そんな妄想を一部の女子が抱いてしまうが、思わず言わないよう気を遣ったのは秘密だ。

 すると背後から、バサバサと音を立てて二羽の骸骨カラスが剣崎の前に降り立った。視察に行っていたタイラとサワラだ。

「あっ!!」

「あの時の……」

「苦い記憶だな」

「んだとゴラ!?」

 轟の天然とも言える悪気の無い一言が再び爆豪を刺激。

 一触即発になるも、切島と瀬呂が何とか宥める。

「タイラ、サワラ…よく戻って来た。いきなりだが今から質問をする。「はい」なら首を一回、「いいえ」なら二回首を縦に振れ。いいな?」

 背負っていた出久を降ろし、視察から帰ってきた二羽に声をかける剣崎。

「さて…お前達が視察している間に何か妙な連中は来てなかったか?」

 タイラとサワラは、その問いに対して二回首を縦に振った。どうやらいなかったようだ。

 しかし、どこかに息を潜めている可能性は拭えない。剣崎はもう一つの質問をした。

「じゃあ、何か会ったことの無い……妙な気配は感じたか?」

 するとタイラとサワラは、その問いに対して首を一回縦に振った。やはり何者かが来ているようだ。

(成程…やはり薄汚ェネズミ共が潜り込んでいたか)

 剣崎の勘は当たっていた。

 具体的な人数などは不明だが、やはり(ヴィラン)あるいは不審者がこの林間合宿に潜り込んだようだ。

「――急用ができた、俺ァ一旦失礼する。夕食作り頑張りな」

「剣崎さん、どこか行くんですか?」

「挨拶だよ、あ・い・さ・つ」

 お茶子の質問にそう答えると、剣崎は骸骨カラス達を引き連れて出久達の元から離れていった。

 

 

           *

 

 

 一方、こちらは1年B組。

 こちらもまた、カレー作りに勤しんでいた。

「我々B組は料理でも負けられんぞ! A組以上……いや、世界一最高に美味いカレーを作ろうじゃないか!!」

 そう言って熱く鼓舞する担任のブラドキングに、B組の生徒達は声を上げる。

 入学直後に(ヴィラン)との実戦を経験したこと――死柄木と黒霧以外は剣崎に粛清されてるが――で世間的に花形的扱いとなったA組だが、B組もかなり個性的で体育祭においてもA組の生徒を出し抜く者も多い。

 A組に対するライバル意識が共有されてるからかチームワークも良く、協調性という点ではA組以上と言っても過言ではない。世間から注目されてるA組だが、B組もまた素質のある者達でいっぱいである。

「――ん?」

 ふと、金髪碧眼でタレ目ののさわやかなルックスを持つ少年・物間寧人は何かを目にして呆然とした。テーブルに、後頭部と胸部が大きく抉れた骸骨の鳥が乗っているのだ。しかもどう考えても生きていられる状態ではないのに、首を動かしてこちらを見ている。

「……!?」

『――!!?』

 さすがにこの異変には気づいたのか、B組の生徒達は目を見開いて後ずさる。

 しかし担任のブラドキングは、冷静に生徒達に告げる。

「慌てるな。害は加えん」

 ブラドキングの言葉に、動揺する生徒達。それもそうだろう、初対面であるはずなのに目の前の化け物鳥が自分達に害を咥えないことをなぜ知っているのかわからないのだから。

「ハァ……相澤から聞いてはいたが、生徒を脅かすようなマネはやめてくれないか剣崎」

「そう言うな、その子達もお前んとこの生徒に興味があるんだ。大目に見てやってくれ」

 地獄の底から響くような声が響くと、ブラドキングの背後から剣崎が現れた。

 傷んだ制服にコート、ステッキのように刀を突いて大股で近づく不気味な少年に、物間達はもわず喉を上下させた。

「何をしに来た」

「挨拶ぐれェいいだろう、俺を知らねェんじゃあるめェし」

「――本当のことを訊こうか」

 眼を鋭くさせて剣崎を睨むブラドキング。

 剣崎は底知れない闇があるかのように真っ黒な瞳で彼を暫く見据えると、口を開いた。

「警告をしに来た」

「警告……?」

「俺の優秀にして従順なカラス達が、異変に気づいた。あのように変わり果てた姿でも、動物としての本能は宿っているからな。さて…俺が何を言いたいかわかるかな?」

 剣崎の言葉を耳にしたブラドキングは首を傾げたが、数秒程で彼の言葉の意味を理解して顔を青ざめた。

「――まさか!?」

「……俺の言葉を聞き、どう動くかはお前の自由だ」

 剣崎の意味深な言葉が、低く虚ろな声と共に響いたのだった。




次回辺りで荼毘達が出ます。
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