亡霊ヒーローの悪者退治   作:悪魔さん

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№60:林間合宿二日目・後編その1

 洸太の秘密基地では、剣崎は警戒心をMAXにさせて気配を探ろうと試みていた。

 どういうルートで居場所がわかったのかはともかくとして、不審者が襲撃を仕掛けようものならば容赦はしない――剣崎はそう考えながら辺りを見渡す。

(あの少年のことを考えれば、相手は人質を取る可能性もある。俺があいつの前にいるということを考えれば……来るのは……真後ろ!!)

 剣崎は後ろを振り向き、容赦なく一太刀を浴びせた。

 

 ガキィィン!!

 

 響いたのは肉を裂く音ではなく、金属音。剣崎の刃を、何かで防いだことは明白だ。

 しかしよく見てみると……。

「っぶな……!」

「!! 御船、か?」

 現れたのは、剣崎の同志である戸隠御船だった。

「――ったく、驚かせんな。今ピリピリしてんだからよ」

「ごめん……驚かせちゃって。あと遅れちゃって」

 溜め息を吐く剣崎に謝る御船。

「……お前が来たってことは、火永も来てんのか?」

「火永と熱美は別の用件で来ていないよ。来たのは僕一人……いや、後でオールマイトが来るかもね。刀真の勘はかなりの確率で当たるのは知っているから」

「勘もある種の〝個性〟だからな」

 素っ気無い会話をする剣崎と御船。

 実を言うと剣崎は、前回のUSJでの(ヴィラン)連合襲撃事件以来から雄英の危機察知能力が低すぎると判断し、ミッドナイトを通して彼女以外の雄英関係者に知らせず(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)独断で同志達に声を掛けていた。雄英側に知らせなかったのは内通者疑惑が払拭できていないため、万が一を考えた上での判断である。

 ミッドナイトを通じて事情を聴いた剣崎の同志達は、連絡を取り合って時期的に一番時間がある御船を向かわせたのである。

「――それにしても、雄英に内通者がいるってのは本当かい?」

「あくまでも可能性だ。だから、この林間合宿で襲撃を受けたらほぼ確定になる」

「「……!」」

 今回の合宿は、(ヴィラン)が今後絡んでくる危険性があると察知した教師陣の方針によって本来の予定よりも大幅に変更されている。前回の反省を踏まえ、雄英なりに万全を期して敢行したのだ。

 しかし万全を期しても襲撃されたとしたら、雄英内部に内通者がいる可能性が高くなる。剣崎も雄英の敷地内を移動しながら〝個性〟の特性を利用して監視しており、何人か内通者疑惑がある人物を絞ることができた。これで万が一の事が起きたら尋問する気でもある。

 ただ、剣崎は内通者がいない可能性も視野に入れている。ハッキングして情報を抜き取ったという「ハッカーが(ヴィラン)の活動に加担している」という可能性もあるのだ。

 いずれにしろ、この林間合宿で(ヴィラン)連合が襲撃すれば「(ヴィラン)連合には雄英の機密情報を盗むことができる術を有している」ということが証明されるのである。

(さて……どうするべきか……)

「――そういえば刀真、そこの子は?」

「……確か……出水洸汰、だったか」

「出水……もしかして〝ウォーターホース〟の?」

「っ!」

 御船の口から出た言葉に、洸汰は固まった。

 剣崎はその様子を見て怪訝な表情を浮かべながらも、御船に訊いた。

「〝ウォーターホース〟……聞かねェ単語だが」

「少し前に活躍したプロヒーローの夫妻さ。今は故人だけど」

 御船曰く、ウォーターホースは〝血狂い〟の通り名で有名な(ヴィラン)・マスキュラーとの戦闘で市民を護るために殉職したという。

「その時の戦闘によって左目を失ったようだけど、彼は今も逃走していて指名手配されている。快楽殺人犯だから、またどこかで殺人事件を起こしてるだろうね」

「そうか……俺の母さんよりはマシな死に方だったか」

「――っ!!」

 剣崎のその言葉に洸太は頭に血が上ったのか、彼の頬を思いっきり殴った。不死身の剣崎には微動だにしないが、洸太は殴れずにいられなかった。

 大好きな両親を侮蔑するように聞こえ、許せなかった。また憎んでいる〝個性(ちから)〟を受け入れろとも聞こえ、聞き捨てならなかった。

「取り消せよ……黙れよ!! 化け物に何がわかるんだよ!?」

 激昂する洸太に対し、剣崎は顔色を何一つ変えず口を開く。

「人の命と生活を守る職に就いた以上、その職の業務において命を落とすのは当然のことだ。俺の母さんは(ゴミ)に情けを掛けたが、その(ゴミ)によって父さんとばあちゃんと一緒に息子(おれ)の目の前で殺された。俺は生き地獄を味わされたのさ。だがお前の両親はヒーローとして護るべき存在を未来へつなげたじゃねェか」

「っ!?」

「ヒーローだろうと警官だろうと…護るべき存在を未来へつなげるって、生易しいことじゃねェぞ。その為にどれ程の犠牲を払うのか、どれ程の憎しみと哀しみを生むのか、今のお前にわかるか? 英雄は弱くても立ち向かわなきゃならねェん――」

 

 ボガアァァン!!

 

「「「!?」」」

 剣崎の言葉を遮るように響く爆音。その方向へ顔を向けると、炎が上がり異様な煙が上がっていた。

 剣崎は出久達の〝個性〟をある程度把握している。自分の記憶の中ではあのような〝個性〟を使う者はいなかった。そう考えれば…何が起こったのかは明白だ。

「……来やがったか、(ゴミ)共」

「刀真、向こうは任せて。その子を守って」

「わーってるよ、子守ぐれェは」

 御船は羽織った羽織を大きくなびかせてその場を去り、救援へと向かった。彼の姿が見えなくなってから、剣崎は思考に浸った。

 あの光景から、恐らく森には毒ガスが撒かれているだろう。プロヒーローであるワイルド・ワイルド・プッシーキャッツや雄英教師陣がその程度でやられるとは思えないが、最悪の事態を想定した方がいいだろう。(ヴィラン)の実力も数も未知数…少なくとも前回の反省は踏まえているだろう。

(こっちには戦えない少年(ガキ)が一人……守り切れるか……)

 剣崎としては洸太も戦闘に参加して自分の援護をしてほしいが、さすがにそれはできないだろう。敵を潰す戦は得意だが、敵から守る戦はあまり経験が無いので不安要素は残るが、そうも言ってられない。

 その時だった。

「よォ、ここは見晴らしが良いな」

「「!!」」

 突如響く、第三者(おとこ)の声。その声に反応した洸太は震え、剣崎は臨戦態勢に入る。

 そこに現れたのは、身長181cmの剣崎ですら見上げる程の身長があるフードを見に纏う大男だった。顔はマスクを付けてるので表情は読み取れないが、殺気が漏れており殺す気満々であるのが嫌でもわかる。

「てめェ殺気漏れてんぞ。ブランクがある俺よりもキレが悪ィってのに、よくあからさまなウソを言えるモンだな」

「……んだよ、バレちまってんのか! コートのお前、かなり出来るだろ?」

「てめェの想像を絶する程にな」

 すると大男はマスクを外してフードを脱ぎ捨て、タンクトップ一丁となって笑みを浮かべた。それと共に腕の皮膚から筋肉繊維が飛び出し始める。

 剣崎は冷静に見据えたままだが、洸太はそれを見て目に涙を溜めた。そう、二人の前に現れた大男こそが、ウォーターホースを葬った〝血狂い〟マスキュラーだったのだ。

「景気づけに一発やらせろよ!!」

「っ!」

 

 ドォォン!!

 

 轟音と共に地面がクレーターのように凹む。

 マスキュラーの悪意と殺意に満ちた剛腕。剣崎はそれを刀で受け止める。人を一撃で殺せるであろう絶大な破壊力を、正面から受け止めた相手にマスキュラーは目を見開いて驚いたが、すぐさま笑みを浮かべた。

「スゲェな……俺の一撃を受け止めるなんてよ! 生きてた頃は刀一本で俺らみてェなのと渡り合ってたんだろ? 天下の剣崎さんよォォ!!」

「俺を知ってんのか三下……てめェはそっちの世代(・・・・・・)じゃねェだ、ろっ!」

 剣崎は力を込めてマスキュラーを強引に弾く。

 弾かれてバランスを崩したマスキュラーは、剣崎の間合いに入らないよう距離を取ってから拳を構える。

「てめェ以外にも来てるだろうが……とりあえず俺のことをどこで知った? インターネットだけじゃねェだろ」

「ああ……もっと具体的で正確さ、あんたをよく知る女から聞いたんだよ。なァ先輩?」

「何……!?」

 マスキュラーは後ろを指差す。

 彼の背後から現れた女を目にした剣崎は目を見開き、そして苦虫を噛み殺したかのような表情を浮かべ目に憎悪と怒りを孕ませた。

 そう、女の正体は16年前に刃を交わせたあの〝ヒートアイス〟熱導冷子だったのだ。

「てめェ……まだ生きてたのか? ――ハッ、そうか。一対一(サシ)じゃあ俺に勝てないと踏んで三下共と手ェ組んだってわけか」

 剣崎は冷子を嘲笑う。

 ヒーロー達は(ヴィラン)共を相手に命懸けで戦う。覚悟ある者・信念のある者ならば「卑怯者」などの女々しい言葉はあまり口にしない。ただ、剣崎は「所詮は(ヴィラン)か」と呆れたのだ――どこの馬の骨とも知れないぽっと出のチンピラと手を組んだことに。

「お前を手に入れるまで私は死なんさ……私だってあんな小童共と手を組むのは嫌なんだが、お前を手に入れるためならばプライドも捨てるさ」

「我欲の為に誇りを捨てたか……死に損ないのアバズレめが、まだ正義に歯向かうか、そんなに俺に殺されたいか」

「……」

「まァいい、今度こそ息の根を止めてやらァ」

 一瞬にして放った肌を刺すような冷たい殺気が、剣崎から放たれる。

 並大抵の者ならば戦闘の意思をも削ぎ落とされてしまい恐怖で呼吸すらままならないだろうが、マスキュラーと冷子はむしろ歓喜していた。

 これを待っていたのだ。互いに全力で戦う殺し合いを。

「少年。俺は全く関係はねェが……事のついでだ。どの道こいつらは皆殺しの予定だから、お前の両親の敵討ちしてやるよ」

「っ!!」

「嫉妬してしまうではないか……死人に振り向き私を無視するのか?」

「てめェに振り向くぐれェなら死んだ方がマシだ」

 

 それぞれの因縁に終止符を打つべく、剣崎は刀を構えるのだった。


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