今年中にこの小説は終わるかな……?
剣崎が出久と洸太を守るべく、冷子とマスキュラーを道連れに崖を崩して落ちた……はずだった。
「くっ!!」
冷子はレイピアを抜くと、すかさずそれを崖に深く突き刺して偶然そこにあった出っ張りを強く掴んだ。
「!」
「お、落ちて……!!」
「何て奴だ、まさかこんな手段に出るとは……」
冷子は恐怖にも似た感情を覚えながら、落ちていく剣崎とマスキュラーを見下ろす。
一方の二人は……。
「あの女……!!」
「どこを見ている、決着つけるぞ」
剣崎は崖から落ちながらマスキュラー目掛けて愛刀を投げた。
まるでブーメランのように回転するそれは、彼の首を狙って襲いかかる。それと共に剣崎はステインの刀を強く握って彼に迫った。だが……。
「らァっ!」
ガッ
「っ!?」
何とマスキュラーは剣崎の刀を受け止めるどころか、うまい具合に柄を握った。
さすがの剣崎もこれは想定外だったのか、呆気に取られた。
そしてマスキュラーは何の躊躇も無く剣崎の刀の切っ先を、彼の眉間に突き刺した。
「!?」
「ハハハハハ!! 勝負ありだな!!」
思わず高笑いするマスキュラーだが……。
「詰めが甘ェんだよ、お前ら社会のゴミは」
剣崎は狂気を孕んだような笑みを浮かべ、マスキュラーに馬乗りになった。
そして刀を隆起した筋肉繊維に突き刺し、彼の喉元を掴んで力を込めた。
「あがっ……!?」
「――ここまで来たら、刀は必要ねェな」
「何だと……!?」
マスキュラーは真下を見てみると、そこに岩があるのが視認できた。
このままでは間違いなく頭を岩に強打し、最悪の場合は即死に至るだろう。
「少年がつけたかった落とし前は、これでチャラだ。本当なら二回は殺したいが、仕方ねェ」
「てめェェェェェ!!!」
ドゴォン!
*
「くっ、何という事態だ……!」
どうにか命拾いした冷子だが、一連の剣崎とマスキュラーの戦闘を見て苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
運が悪いことに、マスキュラーはあのまま剣崎と共に落ちて岩に頭を強打した。彼の〝個性〟がどこまで
その上自分の置かれた状況は酷く、崖をよじ登るしかない。
「16年経った今も、剣崎が上だと言うのか……? いや、これは剣崎の運が良かっただけなのか……」
冷子はふと、上にいる二人――出久と洸太に視線を向けた。
自分と戦うのは分が悪すぎると判断したのか……二人は必死に逃げており、少しでも離れようと焦っているのがよくわかる。
「……」
冷子は彼らを追わないことにした。
本来の目的は爆豪勝己という少年を
なりふり構わず殺すのは二流以下……一流は目的を果たすことに精力を傾け、それを邪魔する者のみを徹底的に排除する。それが彼女の――〝ヒートアイス〟の矜持だった。
「とりあえず、剣崎をどうにかせねばな……」
*
一方、森では
奇襲だったのか、ピクシーボブは血を流して倒れており、
「ねェ、この子の頭どうしちゃう? 潰しちゃおうかしら?」
「まァまァ待て待て、早まるなよマグ姉! 生殺与奪は全て〝ヒーロー殺し〟の出張に沿うか否かじゃ――」
ヒュオ――
「「!」」
ふと、森の方から風切り音が聞こえてきた。
かなりの速度で〝それ〟は接近しており、スピナーとマグネは反射的に構えた。
ザザッ
『!!』
「間に合っ……てなかったね。一人ダウンか」
森を抜けて両勢力の間に割り込むように現れたのは、学ランの上に黒い羽織を肩に羽織り、革靴を履いて日本刀を携えた青年。〝黒の処刑人〟と呼ばれるプロヒーロー――戸隠御船だった。
その姿を確認したマンダレイや虎、雄英の生徒達は思わず涙が出そうになった。ヒーロー業界でもかなりの実力者として知られる御船が救けに来たのは、想定外であると同時に絶望の中から希望の光が差し込んだも同然だからだ。
とはいえ、相手は前回の襲撃とは別格の
「マンダレイ、虎さん。ご無事で何よりです」
「ありがとう……でも、何でここに……!?」
「刀真の要請ですよ。念の為来るように言われたので」
すると御船の言葉に反応したのか、スピナーは怒気を孕んだ声を上げた。
「貴様は……〝ヒーロー殺し〟を無残に葬った憎き剣崎の同志――戸隠御船か!? 生で会うのは初めてだなァ!!」
「いかにも。かく言うそちらは、一体どこのどなたで?」
「申し遅れた。俺の名はスピナー……
背中に背負う大剣を覆ってる布に手を取るスピナー。布に隠されてたその大剣は無数の刃物が何重にも束になっており、相当の重量であるにもかかわらず彼はそれを軽々と持ち上げている。
その大剣を御船に向け、スピナーは嫌らしく笑う。それに対し御船は、呆れたような笑みを浮かべて口を開いた。
「……フッ――あの
「何……!? 敗北者だと!? 取り消せ、その言葉を!!!」
御船の挑発的な物言いが癪に障ったのか、声を荒げるスピナー。しかし御船は取り消すつもりなど毛頭無いのか、意にも介さず言葉を紡ぐ。
「事実でしょう? あなたが崇める男は、刀真との信念を賭けた決闘に負けて死んだ。敗けた者は信念も残らず朽ち果てて終わるのが摂理……負け犬の思想は淘汰されて終わるモノ――」
「黙れ!! 貴様に「英雄回帰」の何がわかる!?」
嘲るように言葉を並べる御船に激昂するスピナー。
しかしそれ以上に激昂している者がいた。血を流して倒れるピクシーボブの同僚である虎だった。
「何でも良いがな貴様ら……!! お前らが傷付け、血を流し倒れてる女……ピクシーボブはな、最近婚期を気にし始めててなァ、女の幸せを掴もうって…良い歳して頑張ってたんだよ……それを!! そんな女の顔を傷物にし、汚して、何が夢を紡ぐだ!? 笑わせるな愚か者!! 男が一丁前にヘラヘラ語ってんじゃないよ!!」
虎の一喝が入る。
それに乗じ御船もまた、口を開いた。
「虎さん、その気持ちは十分わかります――ですが戦いは常に生き残りを賭けているんです。卑怯者なんて女々しい言葉が通じる程、甘い業界じゃないんです」
「ああ、我もわかっている」
目の前の
命を捨てる覚悟……自らを犠牲にして他者を救ける覚悟を求められるのがヒーロー業界。覚悟ある者ならば、先程御船が言ったように
「さて、三下の諸君。遺書は書いておいたかな? 僕は刀真と違って慈悲深い……退くなら今の内、斬られたいのも今の内だ」
刀を構える御船。
それに対し、スピナーは嘲笑して大剣を構えた。
「愚か者は貴様らだ、ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
御船は相手が殺す気で掛かると判断し、抜いていた刀を鞘に納めて居合の構えを取る。
そしてその構えのまま、マンダレイ達に指示をした。
「マンダレイ、虎さん! この二人は僕に任せて生徒の安否確認と迎撃を! まだ他にも刺客はいるはずです! 生徒達には〝個性〟使用の許可をして施設に戻るように指示を! 会ったら腹を括って迎撃するように!」
「な……生徒達を戦わせる気!?」
「どうせ相手は殺しにかかる気なんだ、会っても交戦するななんて守れないでしょ」
「っ――わかった!!」
マンダレイは〝個性〟である「テレパス」を用いて雄英側の者達に手短に伝える。
(オールマイト……早く来てくれ……!! 襲ってきた
一応来るとは返事した〝平和の象徴〟が救援に駆けつけてくることを祈りながら、御船はスピナーとマグネに斬りかかった。
今はただ、最善を尽くすのみ。血を流してでも生徒達を守る。
それが御船の、この場で果たすべき使命であった。