ヒーロー軍団の到着により、形成を一気に逆転された
無間軍最高幹部の札付礼二は失踪し、ホールマントは戦闘不能。ただでさえ先日の襲撃においての傷が完治していないのに、加えて脳無格納庫も制圧され、俗に言う「詰み」の状況に追い込まれた。
「……剣崎少年、よく見つけてくれた」
「長年の経験で読んだだけだ。一々調べるよりヤマ張って虱潰しに探した方が手っ取り早ェだろ」
(成程、道理で我々を早く見つけられたわけだ……)
剣崎の言葉に、シックス・ゼロは納得した。
彼は警察のような捜査ではなく、
「………終わり、だと……? ふざけるな!! 始まったばかりだ……正義だの平和だの、そんなあやふやなモンでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊すんだ!!」
「……」
ようやく信頼できる仲間が集まって来たところでの、正義の横槍。死柄木は、それが我慢ならなかった。
退却は困難を極めている。ならば、取るべき手段は徹底抗戦のみ。
「おい、黒ぎ――」
ドッ!
「ぐあっ……!」
死柄木が黒霧に声を掛けた瞬間、彼の腹部に刃こぼれが生じた短刀が深く刺さった。
黒霧は血を流し、ゆっくりと崩れ落ちるように倒れ、起き上がることも動くこともなかった。短刀を投げたのは他でもない、剣崎だった。
「――キャアァァァァ!! 黒霧ちゃんが!! 黒霧ちゃんがァァ!!」
マグネの悲鳴を皮切りに、ヒーロー側も
剣崎は周囲の視線など意にも介さず言葉を紡ぐ。
「――言ったろ、俺は生涯現役の執行人だって。てめェら全員この手で狩り終えるまで、俺は刀を鞘には納めねェ。俺の正義は誰にも砕けやしねェし、信念も屈さねェし、「全
「剣崎少年……!」
「正義の勝利ってのは絶対的なものでなければならない。正義の力を、てめェらみてェなクソ共に恐れと共に刻み込んでやる………それがこの世の正義の在るべき姿ってやつでもあるだろ?」
地獄の底から響くような声で、一切の慈悲や情を孕んでいない冷たすぎる言葉の刃を並べる。
そして剣崎は、刃こぼれが生じた刀の切っ先を死柄木に向けた。
「――俺が〝殺す〟っつったら、
剣崎は、最初から皆殺し前提だったのだ。
たとえヒーローをどれだけ憎んでも、この現代社会が気に入らなくとも、剣崎はお構いなしに想いを一蹴し、法も掟も関係無く無慈悲に刃を振るう。膨れ上がった
それが、剣崎にとっての当たり前だった。
「あ、ああ……!」
「イ、イカれてやがる………!!」
スピナーや荼毘は冷や汗を流す。
確かに
なぜそこまで正義にこだわるのか。正義の為に、己の信念の為に、悪党とはいえ目の前の命を奪いその屍を踏みつけていくのか。剣崎は命を何だと思ってるのか。
そんな疑問が、頭の中を駆け巡った。
「いいか? 人間の価値なんざ生まれてから死ぬまで均一だ。他人からどう見られどう言われても、それ以上にもそれ以下にもなりやしねェ。永遠に変動しない価値なのさ。ただ、俺から見ればてめェらの命の価値は道端の石ころ以下の価値であるだけだ」
「剣崎ィ……お前だけは……!!」
「アダルトチルドレンの虚勢……見苦しい限りだな」
死柄木の殺意を孕んだ視線を意にも介さず嘲笑する剣崎。
「さてと……俺はそろそろ移動するとしよう。てめェらの反応でオール・フォー・ワンはこの建物にはいねェことはわかった。だがお前のことを心配してるなら、どうせ
『!!』
「剣崎少年、ならば――」
「
血の通わない冷酷な声で言葉を並べ、コートを翻す。
その姿を見た死柄木は、小刻みに震える。
「こんな……こんな化け物に……俺達がこんな所で……!!」
やっとスタートラインに立てたというのに自分達が捕まるという屈辱感と敗北感と、剣崎という怪物への恐怖。それらは死柄木弔の心を追い詰める。
ようやく集めた仲間と、救けてくれる人間は誰一人としていなかった自分に手を差し伸べた先生。それらを奪い居場所を破壊しようとする剣崎に、とてつもない憎悪が沸き上がる。
その時――
「うぐっ!?」
「爆豪少年!?」
シックス・ゼロが掌から糸を放った。
それは爆豪をあっという間に拘束し、何とビルの大穴から飛び出し彼を攫っていった。
「野郎っ!」
「おい、おっさん!! 放せ、ぶっ殺すぞ!!!」
「黙れ少年……さァついて来い、剣崎!! 16年の因縁に決着をつけよう!!!」
「……後始末を頼むぜ、オールマイト」
「ま、待て! 剣崎少年!!」
剣崎は黒霧に刺さった短刀を抜くと、そのまま追跡を始めた。
オールマイトの制止を振り切り、骸骨カラス達も飛び立ってゆく。
「…………俊典、まずはこいつらを無力化するぞ」
「……ええ」
グラントリノの言葉に、首を縦に振るオールマイト。
シックス・ゼロに爆豪を誘拐されたのは悔しいが、かつて彼を追い詰めた剣崎が追跡している。爆豪の件は剣崎を信じるしかないだろう。
そう思った、次の瞬間――
バシャアァァン!!
『!?』
死柄木の左右から黒い液体が現れ、そこから何と脳無が現れた。
何の予兆も無く現れた脳無は、まるで死柄木や
しかし無限に湧き出てくるわけではなく、六体出たところで黒い液体は消えてしまう。
「これは……!?」
「間違いねェ……連合に不利な状況から一気に流れを打ち変わらせるこの仕組み……ヤツが動き始めた!!」
「……先生……!」
顔色を変えたオールマイト達に対し、死柄木は小さな声で安堵の笑みを浮かべた。
外の方でも、アジト内の喧騒が伝わったのか混乱状態だった。
「塚内! 避難区域を広げろ! 作戦は完璧ではなかったのか!?」
「おかしい……先ほど連絡が入って脳無は制圧完了と報告が入ったはずなんだが……」
「火永君達が脳無を再起不能にさせといたと言っていた。彼らは嘘はつかん、恐らく想定外の事態が起こったのだろう」
エンデヴァーが叫び、出動していた塚内と偶然現場付近にいた浦村が話し合う。
脳無は今のところアジトに現れた六体だけだが、更に増えて警察やヒーロー、民間人に襲い掛かる可能性があるので避難を促す。
「それにさっきから通信試してるんだけど一回も出ない……まさか!?」
「――もしや、奴が!?」
最悪な結果が、頭の中を過ぎった。
あの男が――オール・フォー・ワンがついに動き出したのだ。