IS《ISの帝王:小説版》   作:只の・A・カカシです

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第27話 シュロの木陰で肌を焼くか

 「あぁ!!見ぇたぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 バスの車窓に、クラスメイトの一人が大きな声でコメントした。

 この日、IS学園1学年の生徒は、校外特別実習に向かうべくバスに揺られていた。

 「でけぇ水たまりだな。」

 「違うよ、この織斑筋!」

 「違うのか?じゃあ、小っさい池だな。」

 長時間、バスの狭いシートに筋肉をねじ込んでいた一夏は、その鬱憤を晴らすようにジョークを連発する。

 「それも違う!海だよ、海!」

 興奮気味に話す生徒を、誰も止めようとはしない。もうじき旅館に到着するのだと言うにも拘わらず。

 「海?そりゃ丁度良い。学校生活で白ポケちまった――」

 「肌を早く棕櫚の側で焼きたいねって言うんでしょ?」

 「・・・何で分かった。」

 遂に一組のノリが分かってきたのか――

 「前に言ってたでしょ。」

 と、一夏は思ったのだが、以前に自分が言っていたのを頭のいいシャルロットは覚えていただけのようだった。

 「そうだったか・・・。」

 「あ、一夏!!見えてき――」

 「シーッ・・・。周りをよく見てから騒げ。」

 テンションが上がっていたシャルロットは、周りが急に黙ったことに気がつかなかった。

 「・・・・・何で皆静かなの?」

 「旅館に着くからだ。」

 「良い子にしてろってこと?」

 いまひとつ要領を得ないのか、質問を繰り返す。

 「違う。・・・黙って(心の)準備をしとけ。遅れても知らんぞ」

 「???」

 真面目モードに入ったクラスメイトに、シャルロットは頭の上に『?』マークを浮かべる。

 その答えが分かったのは、旅館の前でバスが停車した瞬間だった。

 「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 一夏の掛け声に驚いた運転手は、ドアを開ける操作をしようとした手を引っ込める。

 ドアが開くまでに時間が掛かると察した1組の生徒は、窓を開けて飛び降りる。

 「ハッチ(荷物室)開けろぉぉぉぉぉぉ!!」

 ドサドサドサッ!!

 「整列うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 この間、10秒足らず。

 「見ろ、あの間抜け面を。他クラスの連中、まだバスの中で風船膨らまして遊んでるぜ。」

 当然、他のクラスはようやく降りる準備を始めるところ。1組の異常ぶりは、止まるところを知らない。

 「み、皆さん!バスはドアから降りてください!」

 一時は周りの流れに乗って窓から出ようとしていた山田先生ではあったが、胸部装甲が邪魔で窓を抜けられなかったことで常識を取り戻していた。

 「山田君、何寝ぼけたことを?ここは幼稚園じゃないぞ。高校で!しかもIS(兵器)を扱ってる。他クラスが相手じゃ訓練にならんと分かったら、他の分野を訓練するのは当然だろ?」

 「バスを飛び降りることが我が校の教育なんですか!?」

 「我が校?私のクラス、だろ?」

 「」

 さも当然のように言い切った千冬に、山田先生は黙るしかなかった。

 ワイワイ、ガヤガヤ

 「見ろ、連中ようやく降り始めたぞ。」

 「ただのカタツムリですな。」

 「馬鹿言え、デンデンムシの方が速えよ。奴ら、角出したら外出だからな。」

 「「・・・違えねえ!」」

 その2種類に何の違いもないと気づき、笑う1組であった。

 

 5分後、ようやく全クラスの整列が完了した。

 「揃ったか?・・・諸君が整列するまでに――」

 「「「勿論、私らはマッチョになったで。筋トレで!」」」

 真面目な話をしようとした他クラスの先生の話に割り込み、筋肉のアピールを始める1組。

 「1組は少し黙ってろ。」

 「「「・・・。」」」

 他クラスが乗ってくれないため、一組は反応に困った。

 「諸君、この旅館が3日間お世話になる花月荘だ。従業員に迷惑をかけるなよ。壊したら、直ぐ元通りに直せ。OK?」

 「「「OK!」」」

 しかし、話す先生が千冬に代われば、1組は水を得た魚。

 「・・・織斑さん?今、何と?」

 「「「よろしくお願いします!!」」」

 「元気があってよろしいですが・・・、何か誤魔化されたような気が・・・。」

 それは千冬も同じで、チョチョッとした失言も、1組が気合と元気でパパッーと掻き消してくれる。

 「乗り込めェェェェェェェ!!」

 挨拶をしたなら、後は乗り込むまで。一斉に旅館へと走る。

 「窓に鍵掛かってるよ!?」

 「馬鹿者共!旅館ぐらい玄関から入れ!!」

 とは言え、流石にこれはやりすぎであった。

 「・・・まぁ、何というかパワフルですね。・・・こちらが噂の?」

 係わらない方が良いと判断したのか、清洲さんの興味は一夏へと移る。

 「そうだ。清洲さん、こいつが噂の男、織斑一夏だ。」

 「よろしく。」

 そう言って、手を差し出す一夏。

 「言い旅館だ。何部屋あるんだ?」

 「100部屋以上あります。各界の要人も、よく来られます。」

 それを聞いた千冬は・・・。

 「クソッタレ共のお守りして嫌気がしないか?」

 自虐ネタをぶち込んでいく。

 「ああ、アンタみたいなのは特にウンザリだろうな。」

 困惑した清洲さんに代わり、一夏が突っ込みを入れる。

 その様子を遠巻きに見ていた従業員は、近くにいたIS学園の生徒に尋ねる。

 「アイツ、(千冬様に対して)何様のつもりです?」

 「自分がナンバーワンだって思ってるだけだろ?・・・私もそう思う。怒らせない方がいい。」

 聞かれた生徒(1組)は迷うことなく答えた。

 そんなことを知る止しもない3人は、話を続ける。

 「いい男の子ですね。しっかりしていそうな感じを受けますよ。」

 「(拳で)試してみるか?」

 笑顔でそう言い放つ一夏。

 「いえ、遠慮させて頂きますわ。骨が惜しいですから。」

 そもそも、しっかりというのを物理的な意味で言ったわけではない。旅館の女将たるもの、そんな下品なことは言わない。

 だが、脳筋のこいつらには通じないし、いつものノリが抜けずつい言ってしまう。

 「清洲さん。人間には215本も骨があります。1本ぐらいなんですか!ドカンと行ってみてください。」

 「織斑先生のそれは当てになりませんので、丁重にお断りします。」

 一夏と千冬が対人(物理)のプロなら、清洲さんは対人(対話)のプロ。ちょっとした挑発程度では動じない。

 「千冬ね・・・織斑先生。そろそろ海に行かないか?こんな所に立ってちゃ、焦げちまう。こんがりと真っ黒にな。」

 調子の崩れた一夏は、ようやく当初の目的を思い出す。

 「では、ごゆっくりとどうぞ。」

 「「世話になる。」」

 気が付けば彼ら以外は既に中に入っており、バスも回送されていた。

 「しおりに書いてなかったが、俺の部屋は?屋根裏で寝ろってのかい?」

 旅館の廊下を、千冬の横を歩きながら一夏は笑う。

 「安心しろ、ちゃんと部屋だ。・・・私と一緒のな。全く。上の連中、何を考えてるんだか。」

 「ああ、全くだ。」

 「それより織斑。今日は自由行動だ。棕櫚の木の下で、肌でも焼いてこい。」

 「そうさせて貰うよ。」

 部屋に着き荷物を置くと、一夏は手早く着替えビーチへと向かう。

 「箒か。今から浜に行こうと思うんだが・・・どうだ?」

 その道中、箒に出会った一夏は、一緒にビーチへ行かないかと誘う。

 「いいな、乗った。・・・ところで、そこに何か生えてないか?」

 「生えてるな、ウサギの耳が。」

 見て見ぬ振りが出来ないものを見てしまい、二人はしばらく考える。

 「「・・・ほっとくか。」」

 そう言って立ち去ろうとした瞬間だった。

 空気を切り裂き、何かが高速で落下してきた。グングン近付いてくるそれは、巨大なニンジン。

 「フンッ!」

 「キエェェェイ!!」

 それを読んでいた『漢・一夏、魂のスカイアッパー』&『乙女・箒、魂の一閃』をまともに打ち込まれたニンジンは、カキィィィィィィィンッ!っと乾いた金属音を響かせながら、空へと帰って行った。

 「で、暫くしたら、この生えてるのから出てくるんだろ?全く、便利な体だ。変えて欲しいくらいだ。」

 余韻に浸ることなく、地面に生えるウサギの耳に向き返る2人。

 「馬鹿なこと言ってると、時間切れになるぞ。そうだ、中庭の小石でも積んどくか。どうだ一夏?」

 「いい案だ。ちょっと待ってろ。拾ってくる。」

 そう言うと、音も立てずに走り出し、ズドッズドッっと重そうな足音を立てながら戻ってきた。

 ズドドォォォォン!!!【0/100】

 大きな石の下へと、ウサギの耳は消える。

 「これで良し。」

 「随分と小さいな。もっと大きいのがなかったか?」

 「贅沢言うな。コレが最大だ。さて、海に行くか。」

 「いや待って、岩サイズですわよね・・・ですわよね?」

 一夏と箒からしてみれば大したことのない大きさだったが、一組慣れしたセシリアも2人の脳筋振りには引いた。

 「篠ノ之束の残基は215もあるのよ?1回くらい何よ!」

 「」

 驚かれ慣れているので、先回りして疑問に答える箒。

 「ああ、ところでセシリア、今から海に行くんだが一緒にどうだ?」

 そんなことよりも、余計なことで時間を食ってしまった一夏は、一刻も早く焼きに行きたい。

 「ええ、行きますわ。勿論行きますとも。そこで、ですわね。私の背中にサンオイルを――」

 「奇遇だな。俺も持ってきたんだ。何かSW30って書いてあるけどな。」

 セシリアの言葉を遮って、どこからともなく取り出したのは。

 「・・・それはエンジンオイルですわ!」

 「ん?何が違うって?」

 違いの分からない筋肉に、セシリアは説明を始める。

 「いいですか!?サンオイルというのですわねぇ!」

 「よし箒。自分の世界に入った。行くぞ。」

 勿論、そんなことを聞いて貰えるはずもなく、放っておかれるのであった。

 

 「あ、織斑筋だ!」

 ビーチに付くなり、そう言われる。確かに、上半身裸で歩いていればそう言われても仕方はない。

 「え、嘘!?私の水着変じゃないよね?」

 「大丈夫よ。あなた変なのは中身だからどうしようもないもの。」

 「わー、体かっこいー!ランボーみたい・・・。」

 様々な会話が交わされる中から、一夏はそれだけは聞き逃さなかった。

 「おい、誰がスタ○ーンだって?シュ○ルツェネッガーだろ!」

 「・・・うん、まあどっちでも良いんだよ!どっちでも!それより後でビーチバレーしようよ!」

 どちらもかっこいいので、言った本人的にはそこまで重要ではなかったようだ。

 「時間があればな!お、なんだこの砂冷たいぞ!」

 「それ、織斑君の筋肉がおかしいんだよ。きっと。」

 勿論、突っ込んだのは1組の生徒ではない。

 「そうか・・・じゃ、シュロの下で肌でも焼くか。」

 出鼻をくじかれ、いつもの8割までテンションが下がる。

 いつもより重そうな足取りで、ビーチの上を歩いていると。

 「いぃぃぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」

 「演出ご苦労!」

 柄にもなく君付けで一夏を呼ぶ鈴。

 ベギョッ!【1300/1600】

 「ぐべっ!?何すんのよお!」

 肩に乗ろうと、ジャンプ一番した鈴だったが、あえなく地面に叩き落とされる。

 しかし、直ぐさま持ち上げられると・・・。

 「空飛ぶか?ほらよ!」

 ドボォォォォォォォォォォォンッ!!!

 海へと投げ込まれた。その距離、10m以上。

 「ギャァァァァァァァァァァァ!?冷たい!冷たいわよこの水!一夏も早く来なさいよ!」

 「止してくれ。海を蒸発させようってのか?」

 鈴としては水温を上げて欲しかったのだが、とにかく肌を焼きたい一夏はそれを断る。

 「いぃぃぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 またしても、それを阻止する奴が現れた。

 そう、先程サンオイルのうんちくをたれていたセシリアだ。

 「おい、折角シュロがあるのに何で傘さしてんだ?」

 「違いますわよ!一夏さんにサンオイルを――」

 「よし任せろ!」

 ダバーーー

 塗る間も惜しいと、一夏はオイルをひっくり返す。

 「アァァァァァァァァァ!?!?!?だからそれはエンジンオイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!ンンホォォォォォォォォオッォォォォ!!!」

 何かに目覚めてしまったようだ。

 「おい、誰かティンd・・・火打ち石持ってないか?」

 「あるよー?」

 「丁度よかった。コイツに付けてやってくれ。さっきからオイル臭くて敵わん。」

 一夏のせいなのだが、焼く邪魔をされた側としてはこのぐらいないと腹の虫が治まらないらしい。

 「オッケイおりむー、着火して?」

 笑いながら火打ち石を手渡す布仏。

 「ちょ、ちょっとお待くださいな!?何故私は燃やされそうに!?」

 「安心しろ。エンジンオイルはそう簡単には燃えん。」

 セシリアは、慌てて起き上がる。

 「そういう問題ではありませんわ!ああもう、オイルを落とすので少し泳いできます。」

 環境保護?知らない言葉ですねと言わんばかりに、セシリアは海へと入っていった。

 「一夏、私達も行くわよ?」

 いつの間にか、鈴は海から上がってきていた。

 「そうだな、久しぶりに私達もやるか。」

 「仕方が無い。2人が行くなら着いていこう。」

 だが、そこは脳筋。いつの間にかシュロの影で肌を焼くという当初の目的を忘れてしまった。

 そして、海にダイブ・・・するかに思われた次の瞬間、水しぶきを上げながら走る、一夏と箒がそこにいた。

 「「「!?!?!?」」」

 「は、反則ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 想像を絶する筋肉振りに、あの1組の生徒さえも驚きを隠せないでいた。


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