IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
「・・・おい、一組の連中、誰も来てないぞ。」
「これは、遅刻か?奴ららしくもないわ。」
校外特別実習2日目の朝、そこには1組が誰も居ないという奇妙な光景が広がっていた。
ここは四方を切り立った崖に囲まれており、出入りできるのは1カ所しかない。・・・普通の人間なら。
「時間でも間違えたんじゃないのかしら?」
そう話す彼女ら背後の崖から、音もなく人影が下りてくる。
崖を下りきると、無音のままに彼らの死角をすり抜け整列を済ませる。
「そんなマヌケなこ――!?おん!?!?」
「何だ?・・・は?いつの間に整列した?」
気が付けば、先程まで誰一人としていなかった1組が全員揃い整列し終えていた。
「俺たちなら、瞬きする間に整列できる。忘れないことだ。」
「「「」」」
本当にこいつらと訓練して、生きて帰れるのだろうかと不安になる生徒達だった。
「揃ったな。では、班ごとに分かれてISの装備試験を行え。専用機持ちは、専用パーツのテストに当たること。では、始め!」
「「「はい!」」」
集合点呼を終えると、直ぐに実習が始まる。
「篠ノ之、ちょっと来い。」
自分の班とともに移動していた箒を、千冬が呼び止める。
「何だ?重りでも付けて実習させようってのかい?」
「あぁ、そうだ。」
千冬がそう答えた瞬間。
「ちーちゃ~~~ん!!」
砂埃を上げながら、唯一の出入り口から真っ直ぐに突っ込んでくる人影があった。
「私を覚えてるかね?ちーちゃん!」
両手を大きく広げ、クルリと一回転する。その姿に、その場に居合わせた一夏、箒、千冬の3人はイラッとする。
「誰が忘れるものか、このゲス野朗。ISでどれだけ苦しめられたか・・・。」
「え~?誰も苦しんでな――」
「「「ISごときが俺(私)の動きに付いてこれると思うな!!!」」」
最後まで言わせずに、彼女の話をぶった切る。
「グフフフ・・・、相変わらず、容赦ない愛の表現だ――」
\デェェェェェェェェェェン!!!/
万物は叩けば治る理論を唱える一夏が、チェーンガンを構える。勿論、撃つ準備は出来ており、合図があればいつでも撃てる。
「ごめんなさい!悪かったよ!!だからチェーンガンは仕舞って!!!・・・ぐへへ、久しぶりだね、いっくん。大きくなったね、胸が。」
彼女は反省しているのかしていないのか。恐らくは後者だろうが、そこを気にするほど3人の神経は繊細でない。
「毎日、鍛えているからな。で?何のようだ?」
「お、織斑先生?ここは関係者以外の立ち入りは禁止なのでは?」
あたかも彼女が最初から居たかのように接する3人に対し、山田先生は慌てて止めに入る。
「気にするな。諸君、こいつが伝説の天災、篠ノ之束だぞ。失礼されないように気を付けておくこと。」
まるでゴミか何かを紹介するような雑さに、彼女はツンデレだと頬を赤らめる。
「んも~。ちーちゃんったら恥ずかしがぁぁぁぁぁぁ!!!」
「口開けろ!あけやがれこのぉ!舌ぁ引っこ抜いてラボに送ってやるぜ、舌が授業の邪魔しないようになぁ!」
丁度口を大きく開けたタイミングを狙って、束の口に手を突っ込み無理こじ開ける千冬。彼女は、干物を絞ってジュースを作れる握力を持つ。これには、流石に篠ノ之束も無条件で降伏せざるを得ない。
「ぐぬぬぬ、相変わらず血も涙もない脅しだね。」
脅しでなく実際にやられそうだったのだが、終わったことだと束は笑い飛ばしていた。
「姉さん。何しに来たんだ?」
その様子に、実の妹も堪忍袋の緒がほつれてきた様だ。
「箒ちゃん!流石我が妹!よく聞いてくれた!!!コレを見よ!!」
「箒、昼飯なに食う?」
「折角の旅館だ。チーズとペパロニのグッチョマイピッツァがいいな。」
これを見よと言って登場する目での間に、一夏と箒の興味は失せていた。
それにしても旅館でピッツァ食いたいってのは、如何なものでしょうか。
「聞いてー!お願いだから無視しない――」
グサッ【1000/15000】
「グボヘッ!?」
2人の会話を邪魔した束は、箒に刀で容赦なく胸を突かれ赤い液体を吐き出す。
「突きますよ?」
「酷い!突いてから言った!しかも、日本刀の切っ先で突いた!」
残基が減っちゃったじゃないかと、怒る束。
「痛くないでしょ、このくらい。」
見れば、傷跡は何処に見られない。勿論、身代わりなどを使ったわけではなく、正真正銘本人が刺されたのだが。
「む~、箒ちゃんが酷い!!束さんジェラシーだよ!よって、カモーン!」
何がよってなのかは分からないが、その掛け声とともに空から何かが飛来し、ドスッ!っと音を立てて着地する。
「何だ?この金属製の端材入れは。」
バタンッと金属のドアが開く・・・と言うよりも倒れ、中から現れたのは、真紅のIS。
「コレが!箒ちゃんの専用機!その名も――」
「早く言ってくれ。待っている間に、(筋トレで)だいぶマッチョになったぞ?」
残像が出来るほどの速さで腕立て伏せをする箒は、文句を垂れる。
「・・・その名を『赤椿』。全スペックが現行のISを上回る、お手製のISさ!さあさあ、フィッティングとパーソナライズを始めよう!!」
「・・・随分と貧相な機体だな。」
眉間に皺を寄せながら放った箒のその言葉に、眺めていた1組以外の生徒は理解が及ばずに困惑する。
「フッフッフ。驚くことなかれ!箒ちゃんの得意な近接格闘――」
「あれ?篠ノ之さんって、チェーンガンぶっ放してなかったっけ?」
即座に飛ぶ疑問。
「・・・だけじゃなくて万能型に調整したから安心だね。っと、話していたら終わっちゃった!流石私!」
慌てて何か追加のパーツを付けたのは見え見えだったが、それを指摘してあげる優しい人は1組に居合わせなかった。
「・・・あの専用機って、篠ノ之さんが貰うの?・・・邪魔にならないかな?」
「だよねぇ。絶対邪魔だと思う。」
何処へ行っても尊敬の眼差しが集まる筈の束だが、1組の生徒にとっては尊敬すべき存在ではなくなっていた。でなければ、こんなことは言われない。
「フッ。歴史を勉強してみなさい。人類有史以来、平等になっ・・・邪魔?寝言言ってんじゃないわよ。束さんの最高傑作だからね!・・・ところでいっくん。白式見せて。」
徐々に扱いがぞんざいになっていると気付いた束は、相手にするのを止める。もっとも、1組の生徒も別に彼女の相手をしてあげている訳では無いのだが。
「気が済むまで見ていってくれ。何なら持って帰ってくれて良いぞ?動きにくくてしょうがない。」
一夏に全力で投げつけられたISを束は難なくキャッチすると、機械にセットする。
「・・・不思議なフラグメントマップを構築してい・・・あれ!?コレ筋繊維だ!え?なんでデータ領域にまで筋繊維が出来ちゃってるの!?」
「良い傾向だな。」
それを聞いて、呑気に返す一夏。まあ、ISのことは彼女以外に理解できないので仕方のないことではあるが。
「良いわけないよ!まあ、自己進化するようには作ったけどさぁ・・・。というわけで、箒ちゃん。テストフライとしてみよう!」
どうやら制作者にも分からないことだったようで、それとなく話題を切り換え誤魔化すことにしたようだ。
束の指示に従い、箒は赤椿を宙に浮かせる。
「どう?感触は?」
良い仕上がりになっているはずだよと、胸を張って言い切るが。
「ただのカカシですな。」
飾りとしては言い見栄えと言うのが第一印象のようだった。
「カカシな筈無いよ!!いいよ、見せてあげよう!『空裂』出して!行くよ!コレ撃ち落として!!」
その声とともに、空に的が現れる。
箒は、現れた的に向け指示された武器で攻撃を行う。ズバァァァァァンッ!と派手な音とともに空が赤く染まる。
「やることが派手だねぇ。」
この性能には、あの箒もご満悦の様子だ。
「でしょ?コレで分かって貰えたかな?」
「あぁ。白式よりは使えそうだ。」
その横で、一夏がやや羨ましそうな目を向けていたのは言うまでもない。
ムードがよくなってきた・・・と思っていた矢先、ドタドタと足音を立てて山田先生が駆け込んで来た。
「大変です!織斑先生!コレを!!」
来るや否や、何かを千冬に手渡しながら告げる。それを見て、千冬は。
「特命任務レベルA?ハワイ沖で行っていた実験機の暴走でか?」
と機密事項を思いっきり声に出していった。
「先生!機密事項です!」
まさか漏らされると思っていなかったのか、山田先生は大慌て。
「機密事項?コレが?寝言言ってんじゃねえよ。」
「す、すみません・・・。」
しかし、千冬の一言で鎮圧されてしまう。良い上下関係だ。
「織斑、ちょちょっと指先の運動をかねて行ってこい。メンバーは任せる。OK?」
まるでお使いか何かを頼むように告げる。頼まれた側も、散歩にしか成らないだろうと思っているのだから何も言うことはないが。
「OK!箒、ラウラ、それからセシリア。暇だったら、シャルも突いてきて良いぞ?」
どうやら、一夏の中ではシャルロットは最初から行くことが決められているようだった。
「ダメだよいっくん。ここは、赤椿の高速性能を生かして――」
「何、時間はあるんだ。皆でのんびり行くよ。」
何故か執拗に赤椿を使うよう迫る束だったが、彼らに受け入れられることは未来永劫にないだろう。
太平洋上に、6機のISが飛んでいた。
メンバーは、一夏、箒、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット。
『名前は銀の福音、スペックも、驚くほどではない。超音速飛行をしているのだけは気を付けろ。』
千冬からの無線をキッチリと耳に入れ、一夏はそれを皆に確認する。
「・・・と言うことだ。ささっと片づけて昼飯にしよう。背中とお腹がくっついちまいそうだ。」
突拍子もなく、呑気なことを言い始める一夏。
「まだいいじゃないか。私なんか出る前から空腹過ぎてお腹が痛いぞ?」
「はは、僕も・・・。」
箒に続いてそう言うシャルロットの顔は、いつになく引き攣っていた。
「シャルのは緊張だろ?違うか?」
「う、うん、多分そう・・・。」
ズバリ言い当てられ、シャルロットは居心地悪そうにする。だが、それらのことを分かった上で一夏や箒は話をしていた。
「スクランブルは初めてか? ビビったっていいさ。私だって未だにビビってる。」
「ラウラさんも?正直言って・・・変な気分だね。恐ろしい事なのに・・・。」
「ああ、ワクワクしてるんだろ?なーに恥じる事はないさ。それはいたって自然な反応だよ。筋トレに似てる。やると・・・病みつきになる。」
何気なく筋肉ネタをぶち込む一夏。
「それは一夏だけじゃないかな?」
それに突っ込みを入れるシャルロット。そのお陰か、いつもの調子を取り戻しつつあった。
「それはど――」
「いましたしたわー!!!」
突然セシリアが叫ぶ。
「どこだ?雲が多くて見辛い!」
「右前方だ!!」
瞬間的に戦闘モードに切り替わるのは、流石と言うべきだろう。
「よし、俺と箒が正面で足止めをする。後は好きなところから回り込んで撃ってくれ。散会!」
スラスターを全開に吹かし、いつもの3割増しで襲いかかる。それもそうだろう。お腹が空いているのは、マジだから。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
バキィッ!【91999/99999】
「あいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ズドッ!【89522/99999】
当初の予定に沿い、一夏と箒の突撃(拳)が炸裂する。
「La!」
しかし、今までの敵とは違い、相手は軍用機。黙ってやられてくれるわけがなかった。
「うおッ!?」
シュバババババッ【98999/99999】
弾幕の密度が高すぎ、接近していた一夏は躱しきれず幾らか被弾してしまう
「クソッタレが!」
バキィッ!【87888/99999】
もっとも、その程度で怯む一夏ではない。そのまま体当たりを喰らわせ、海へと叩き落とした。
「一夏、大丈夫か?」
「気にするな。掠っただけだ。」
駆け寄ってきた箒に、大丈夫なことをアピールする。
「大佐!奴は何処へ!?」
少し遅れて、ラウラもやってくる。
「海の中だ。叩き落とした。油断するな。まだ――」
とどめは刺していないと言おうとしたときだった。シャルロットが驚いたように海面を指差していた。
「い、一夏、あれ!」
「なんだ、あとに・・・あぁ!?なんで船が!?」
その先には、一隻の漁船がいた。しかも、足の遅そうなボロい漁船。
「ほっとくか?」
「いや、後から難癖付けられるのがオチだ。」
知らぬが仏を一夏が提唱したが、一発で却下された。。
「クソッ!教師いねえのかい!用があるときは近くにいたためしがねえや。廊下で素振りをしてりゃすぐ現れるのによぉ!」
やや起こり気味の箒は、周囲に先生がいないかを探す。勿論、居ないのだが。
「ここまで救援には来ない。戦闘領域を超えてまで来るガッツは教師にない。」
ラウラも、その辺は分かりきったことだろうと諦めたように言った。
「仕方ない、シャル。お前が一番防御が堅い。アレを守っててくれ。」
その瞬間、海中からババババババババババババババッ!っと無数の弾が飛び出してくる。
「「「!!!」」」
意表を突かれ慌てて回避。辛うじて被弾はゼロで済んだ。
「クソッ!姿が消えた!そのくせ攻撃してくる。これは厄介だ。」
彼らは油断して居なかった。戦うときは、相手が格上だろうが格下だろうが、常に全力で叩きつぶしてきた。そんな彼らですら見えない敵とどう戦えば良いのか、このとき本当に迷っていた。