IS《ISの帝王:小説版》   作:只の・A・カカシです

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第30話 お前は一体何だ?

 水面が光ったのを、ラウラは見逃さなかった。

 「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 その声を聞き、皆は一斉に散会する。

 直後、それまで居た場所を敵の弾がズドドドドドドドドドドドッ!っと通り抜けていった。

 「「どうして分かった?」」

 箒と一夏は、直ぐさまラウラに尋ねる。

 「光った。水面が光った。」

 「成る程。・・・!!避けろ!!」

 教えて貰ったことを直ぐに実戦できるのは、彼らがただの脳筋でないことの証明になるだろう。

 「何て弾の数だ。奴はエネルギー切れ知らずか?」

 そのエネルギー半分分けて欲しいと、一夏は思わず感想を漏らす。

 「分からん。それに、ステルス状態で水中にいられては、攻撃されるまで何も見えん。」

 「ですが、それも無理のようですね。水蒸気のせいで、水面すら見えませんわ。」

 やはり、相手は馬鹿でない。躱され始めたことを察し弾を変えたのか、水面は水蒸気で見え辛くなっていた。

 「「何!?」」

 スドォォォォンッ!【23000/40000】

  【8901/24000】

 そのせいで、反応が遅れた箒とラウラは諸に被弾してしまう。

 「大丈夫か!?」

 大丈夫ではなさそうなことは一目見て分かるが、それでも咄嗟に出てしまう言葉でもある。

 「大佐!スラスターに異常が!」

 「私は大丈夫だ。だが、音速の戦闘は厳しい!」

 驚くほどのスペックは無い(軍用機としては)と聞いて、全員で包囲すれば読みを間違っても叩けると高を括っていたのが仇となり、逆に2人も離脱させざるを得ない状況になってしまった。

 「クソ!」『シャル!船の待避は?』

 百戦錬磨の一夏は、この後の行動をもう決めていた。

 『どのくらい逃がせば良いのか分からないけど、音速で3秒くらいは離れたよ。』

 『OKだ。シャル、箒とラウラが被弾した。今から2人とセシリアを帰すから、合流してくれ』「セシリア!2人を援護しながら、待避しろ。シャルも直に来るだろうから合流してくれ。合流地点は任せる。俺は、此処で奴の足止めをする。」

 貧乏くじは俺が引くと、一番体の頑丈な俺が残るとそう告げる。

 「了解ですわ!お気を付けて!」

 「大佐!すいません、直ぐに戻ります!」

 「任せたぞ、一夏。」

 彼女らも、残れば残るだけ不利になると分かっているので、全く躊躇うことなく後退を開始する。

 一夏は、彼女らの後ろ姿を見送ることなく・・・と言うよりもその余裕も無く水面を注視する。

 直後、ザバァ・・・っと水を滴らせながら、銀の福音は海中より姿を現す。

 「出たな!」

  ズババババババババババババッ!

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ズドンッ!【75731/99999】

 構えていたチェーンガンをぶっ放し、直ぐさまロケットランチャーに持ち替え攻撃を行う。そこに、一切の躊躇いはない。まあ、当然か。

 「La!!」

 競技用ならばこれでダメージを与えられる(絶対防御?ただのティッシュですな)のだが、相手は軍用機。予想以上に硬い。

 「グッ!?・・・クソ!付いてこい!」

 予想以上の戦闘能力に、一夏は久方ぶりの長期戦を覚悟した。

 

 〈クソ!エネルギーが!このポンコツ!〉

 10分後。長期戦を見据えた動きを取っていたのにも拘わらず、白式はエネルギーが底を尽きかけていた。

 「La!」

 「!!」

 スドッ・・・【1/99999】

 「うぉ!?」

 動きの重くなった機体では、高密度の弾幕を避けることなど不可能。もろに喰らった一夏は、高度3kmの高さから真っ逆さま。

 ズザァァァァァァァァン!【9999/9999】

 小島へと墜落墜落。衝撃で、白式は解除されてしまう。

 「クッ!」

 痛みを堪え、何とか木の陰へと移動し、うずくまる。

 〈ここまでか・・・。〉

 迫ってくる銀の福音を見ながら、一夏は覚悟を決めた。

 「La・・・?」

 しかし、至近距離まで迫っていた銀の福音は、全く一夏の方を見ること無く別の方へと去って行った。

 「(ISがないと)見えないんだ・・・。」

 

 ザク、・・・スパッ・・・ギ、ギ、ギッ・・・っと、森から音が聞こえていた。

 「出来た・・・。」

 あれから、数時間後。木を切り倒し、ツタで作ったロープでトラップを仕掛けた一夏は、汗だくになりながらそう呟いた。

 

 「うおおおおおおおおおおお!!!」【20012/99999】

 島の頂上に立っち、展開出来る程度に回復した白式を纏い、ありったけの声で海に無あって叫ぶ。

 直ぐにISを収納し、再び身を潜める。

 〈来た・・・。〉

 直後、視界の遙か彼方より飛来する物体があった。

 「La・・・La?」

 首を傾げながら辺りを見回す銀の福音。

 ギリギリと木が唸る。一夏がツタのロープを切ると、爆弾付きの矢が飛ぶ。

 ズドォォォォォォォォン!【87001/99999】

 「La!?La!!」

 何処から攻撃されたのか分からず、銀の福音はやたらめったらに撃ってくる。

 勿論、その頃には一夏は悠々離脱している。

 ゴッ!【81042/99999】

 「La!!!」

 また別の仕掛けを発動させ、休む間を与えず攻撃を続ける。

 「いいぞ!付いてこい!」

 ここで、一夏はISを部分展開する。

 それを捕捉した銀の福音が、真っ直ぐに突っ込んでくる。しかし、一夏は直立不動のままで、逃げようとしない。

 「La!!・・・La!?」

 直後、銀の福音は地面から跳ね上がった網に絡め取られる。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ザクッ!【21533/99999】

 振り上げられた雪片が、銀の福音の装甲を削ぐ。

 「はぁ、はぁ・・・。」

 「La!」

 「!?」

 流石は軍用機と言うべきだろうか。銀の福音はその活動を止めるどころか、未だにピンピンしている。

 ズドンッ!【2401/9999】

 反撃を受け、一夏は斜面を転がり落ちていく。

 感度を人間でも捉えられれるように上げたのか、銀の福音は勝利を確信し一夏にゆっくりと近付いてくる。

 「La~♪」

 だが、ここまでは計算の内。

 〈いいぞ、そのまま来い。〉

 「La?・・・・・La?」

 だが、不運なことに銀の福音が仕掛けへと接触し、まだそれが残っていることに気付かれてしまった。

 「来やがれ!どうした?殺れよ!殺せ!どうした、こいよ!俺はここだ!さぁ殺せ!殺せ、殺してみろ!どうした!ここだと言ってるだろうが!どうした!さぁ殺せ!殺してみろ!」

 それを誤魔化そうと、一夏は大声で挑発を試みる。

 「・・・La!」

 その手には乗るものかと、銀の福音は仕掛けを回避するために飛び上がった。

 「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ズドドドドドドドドドオォォォォォォォォッ!【10144/99999】

 狙ったかのようなタイミングで、ラウラの声とともにレールガンが銀の福音へ着弾する。

 「大佐!五分死(ごぶじ)ですか?」

 初めて見るボロボロの一夏に、それでも彼が死ぬはずはないとラウラは冗談交じりに尋ねる。

 「安心しろ!ピンピンしている。」

 もし、寝転がったままで言ったのであれば、かけらも説得力がなかっただろう。一夏は、立ち上がると、体をパンパンと払った。

 「一夏さん!」

 「あぁ、ありがとう。」

 セシリアが、一夏に手渡したもの。

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 そう、お馴染みロケットランチャーである。それも、ISが使うことを前提に作られた超強力な代物。

 「さっきのお礼だ!受け取れ!!」

 ズドォォォォォォォンッ!ズドォォォォォォォンッ!ズ、ズドォォォォォォォンッ!【974/99999】

 「チェストォォォォォォォォォォ!!!」

 ゴギッ!【0/99999】

 派手な花火の後には、見るも無惨な姿の銀の福音が海へと落ちていった。

 

 「いやぁ、久しぶりに手応えのある良い敵だった。」

 旅館に戻った5人は、夕食を摂った後、部屋に集まり雑談に興じていた。ただ、鈴だけは何故かこの場に居なかった。

 「えぇ!!私も大佐をあそこまで追い詰めた奴は初めて見ました!」

 「だな。私も、一夏とちふ――織斑先生以外で苦戦したのは初めてだ。」

 「繰り返し聞くけど、一夏と篠ノ之さんは本当に民間人なんだよね?」

 しれっととんでもない話をする3人を、シャルロットは引き攣った顔で見詰める。

 「あぁ、そうだ。」

 「あぁ、今はな。」

 「今、は?」

 そこに、引っかかりを覚える。因みにセシリアはと言うと、聞くこと自体が無駄であると悟り、傍観に徹していた。

 「知らないのか?ラウラがいつも俺のことを大佐って呼んでいるだろ?」

 「それは知ってるけど・・・まさか、一夏ってドイツ軍の退役軍人!?」

 驚いたように、シャルロットは声を出す。

 「違う、ちふ――織斑先生について行っただけだ。」

 「なんでドイツ軍に?」

 更にシャルロットが切り込もうとしたときだった。

 「「・・・デュノア、そこから先は聞くなよ。俺(私)だって忘れたいことだ。」」

 千冬が部屋に現れ、聞かないようにと念(威圧)を押す。

 「・・・織斑、少し手伝ってくれ。」

 「あぁ、了解した。」

 どうやら他に用事があったようで、千冬は一夏を連れて直ぐに出て行った。

 「行っちゃった。・・・そうなの?」

 それでも聞きたいシャルロットは少し声を落として、ラウラに尋ねる。

 「あぁ、色々あったのだ。色々と。教官と大佐にはな。」

 「そ、そう・・・。」

 言いつけを守り、話さないのかと思ったときだった。

 「だが、彼らは凄いぞ!鬼ごっこと称して、教官と大佐が逃げる役でこちらは10個小隊、まあ、200人ぐらいで重火器まで持ち出して追い回したんだ。」

 パアァァァッっと笑顔になり、嬉々として話し始める。

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 想像以上にぶっ飛んだ話で、声を抑えることも忘れ叫ぶ。

 「まあ、最後まで聞け。で、10分ぐらいして気が付いたら、全員無力化されていた。」

 「・・・今の話何処までホント?」

 三周回って冷静になり、シャルロットは嘘ではないのかと疑い始めた。

 「む、ばれたか。流石にシャルロットは鋭い。実はな!重戦車5台とISも3機出していたんだ!」

 「だよねー。・・・うぇぇぇぇぇい!!??」

 想像の斜め上を行く事実に、再びシャルロットは大声で叫んでいた。

 

 「おい、鈴!コレは何だ!寝ている間に俺をこんな紐でぐるぐるに縛りやがって!!」

 気が付いたとき、一夏は縄でグルグル巻きにされ、鈴に持ち上げられて上で砂浜にいた。

 「フッフッフッ、本当に海が蒸発するか試すだけよ!」

 「よせ、鈴!止めておけ!」

 いつになく必死で止める一夏。

 「えい!!!」

 それを全く聞かず、鈴は一夏を海へと投げ入れた。

 「・・・・・何も起こらないじゃない!一夏!嘘吐いたわね!」

 流石に、一瞬でと言うのは無理がある。

 それに気が付いたのは、一夏を引き上げようと、鈴が海に入ったときだった。

 「あ、いい湯加減。・・・?いい・・・湯加減・・・!?!?!?」

 このままでは生態系に影響が出てしまうと、鈴は慌てて一夏を引き上げる。

 「ブハッ!?何しやがる、茹で死ぬところだったぞ!見ろ!海岸を!茹で蛸が上がってるぞ!」

 そう指差す先には、見事に茹で上がったタコが海岸に打ち上げられていた。そう、なぜかタコだけ。実に器用な茹で方である。

 「あ、美味しそう。」

 「だろ?拾って帰って、夜食にしよう。セシリアは嫌がるだろうけどな。」

 その頃には一夏の怒りもすっかり消え去り、タコを拾うと、旅館へと戻っていった。

 

 その同時刻。岬の先っぽに人影があった。

 「うーん、赤椿のデータ領域にも筋繊維が・・・。でも、稼働率を維持するためには必要だし・・・そもそも実体のあるデータって何さ!取り出せないし消せないじゃない!!」

 超常現象に、束は我を忘れ叫ぶ。そもそも、彼女の作ったIS自体が超常現象な気もするが。

 「うるさいぞ束!近くに旅館があるんだ、静かにしろ。」

 それを咎めるように、木の陰から千冬が現れた。

 「えー、知らないよ。嫌なら、歩道脇の下水溝で逆さまに寝ればいいじゃん。静かだよ?」

 他人のことなどゴミかそれと同等に思っている束。普段ならその様なことも提案しなかっただろうが、今日一日は彼女がゴミかそれと同等の扱いを受けたため、虫の居所が悪いのだ。

 「なら、試してみるか?」

 今にも束を連れていこうとする千冬。

 「・・・それより、ちーちゃん。今の生活は楽しい?退屈なら、私と一緒に新しい世界を作ろう!毎日が楽しいよ?」

 それを察知し、慌てて話題を変えようとする。

 「ふ、今の生活でも手一杯だ。遠慮しとく。・・・それはおいといてだなぁ。束、今日のあれは何だ?あんな安物の軍用機で――」

 もっと離れた話題を振るべきだったと、束は後悔する。

 「!!じゃあね!!元気で!また会おう!」

 なりふり構わず、束は岬から飛び降りた。

 直後、砂浜を走っていく足音だけが夜の海岸に響いていた。

 「・・・さて、タコが茹で上がったかな?ビールのつまみに分けて貰おう。」

 因みに、一夏を気絶させ紐でグルグル巻きにし、鈴に海に投げ込めと指示したのは他の誰でもない、千冬であったのは、言うまでもないだろう。




しばらくの間、投稿はありません。
MAD版が3月の終わり頃に4~5話書けたら、4月の終わりまでにはこっちも更新する予定です。
では、しばらくの間さようなら。

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