IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
〈あった、ここだ。・・・。〉
その日シャルロットは、織斑邸の正面に立っていた。
住所を再三確認したので、間違ってはいなと信じ呼び鈴を押す。
ピーンポーン、ピーンPON☆
「!?」
変な呼び出し音に、シャルロットは驚く。
〈・・・出てこないな。・・・ん?出ないときはここを押して下さい?〉
しばらく待っていたが、家から誰も出てくる気配がなかった。ふと、近くにあったボタンが目に入ったので、押してみることにした。
ポチッ・・・チュドォォォォォォォォォォォォン!!!
「ふえっ!?」
え?セリフが原作と一緒?偶には原文リスペクトしても大丈夫でしょう。・・・多分。
「シャルか。どうした、何か用か?」
「派手に素早くか・・・。一夏らしいや。」
気がつけば、シャルロットの背後に一夏が立っていた。
流石に見切ることはできないが、どこに現れるかは大体想像できるようになって来ていた。
「ソレ褒めてんの?」
「え、ええっと・・・。」
答えに迷うと言うことは、そういうことである。
「まあいい。ちょっとホームセンターまでひとっ走りしてくるから、入って待っててくれ。」
だからといって、それを気にする一夏ではないのも、また確かな事実であった。
ドンッ!っという衝撃音とともに、一夏はシャルロットを残し走っていく。
〈・・・暑いし、言われたとおりにしよう。〉
残されたシャルロットは、突っ立っていても仕方がないので、一夏の言った通りにするのであった。
「悪いな、待たせた。」
10分ほどで一夏は戻ってきた。
「いや、大丈夫だよ。」
シャルロットは、家に入ってみたものの応接室は見当たらなかったのでリビングで待っていた。
「ところで、何の用だ?」
「え、えっと、・・・来ちゃった♪」
本当には一夏に合いたくてきたのだが、それを言うほどの度胸を持ち合わせていなかったのでそう言う以外に方法は無かった。
「合いに来るほどか?」
「・・・近くまで歩いてきたから。」
頬を赤らめるシャルロット。
もっとも、一夏がそれに気づくはずは無い。唐変木でなのではなく、単純に興味が無いから。
「まあいい、何か飲むか?」
「プロテインとかしかないんじゃないの?」
「他にもあるさ。」
そこまで筋肉マニアじゃないと笑い飛ばす。
「例えば?」
「バリウムとか・・・後は液体金属。」
「・・・。」
「冗談だよ。」
まさかシャルロットが無言になるとは思っていなかったので、どうにも調子を上げることが出来ない。
「今朝作りたての麦茶で良いか?」
「うん、いいよ。」
その返事を聞いた一夏は、台所へと向かっていく。
しばらくの間、棚から何かを取り出すような音がしたあと、大量の水が流れる音が聞こえてきた。
「何か凄い音がするけど!?」
水道でも破裂したのかと思ったシャルロットは、慌てて一夏の元に走って行く。
「あぁ、鈴のヤツが来たらこのぐらいないと足りたためしがない。」
そこで彼女が見たのは、大樽へ麦茶らしき液体を注ぎ込んでいる一夏だった。
「」
「お待たせ。」
放心状態になっている間に麦茶を移し終え、コップにそれを注いでシャルロットの前に置く。
「・・・。」
「どうした?」
そのコップを、得体の知れないものを見たような目で見つめるシャルロット。
「いや、コップあるんだなーと思って。」
「タライがよかったか?」
足りないのかと思った一夏が、それを棚の中から引っ張り出してくる。
「い、いや、これで十分だよ。」
慌てて否定を行い、腹がタプタプになることは回避する。
そのとき、玄関チャイムが鳴り始め、それが半分と鳴らぬうちに勝手口が開く。
「一夏さん?いらっしゃいますか?お邪魔しますわよ?」
尋ねてきたのはセシリアであった。彼女は、一夏の許可を得ることなく家に上がっていた。
「せめて呼び鈴が鳴り終わるぐらいまでは待て。後、玄関から入れ。勝手口は駄目だ。」
「あら、シャルロットさん。ごきげんよう。」
ふと、一夏以外に人が居ることに気付き、挨拶をする。
「聞いてるか?」
「話し終わるまでは待ちましたわよ。」
いつものメンバーの中では、かなり良識的な受け答えである。
「これ、おいしいと話題のケーキを買ってきましたわ。」
「あぁ、どうも。」
セシリアから受け取った箱を一夏が開けると。
「あれ?6個あるよ?」
やけにケーキの個数が多いことに、シャルロットは疑問を覚える。
「皆さん集合しそうな気がしましたので。」
「奇遇だな、俺もそう思ってさっき皿を買ってきたところだ。」
何故そんなことを予想できるのか、シャルロットは不思議で不思議で堪らないといった感じの表情をする。
「では、頂きましょう。」
「みんなが来そうなら、待った方が良いんじゃないの?」
「ケーキは鮮度が命だ。早く喰うに越したことはない。」
もっともな考え方にも思われるが、一夏とセシリアとて気がするだけで約束などは一切していないので、実際に来るかは分からないのだ。
「そ、そうなの?」
「あぁ、そうだ。それに、どうせ食べてたら皆来るよ。」
犬じゃないのだからと思ったものの、それは口に出さないでおいた。
その間にも、一夏は皿を並べセシリアがケーキを置いていく。
「あぁ、こいつは最高だ。」
一口食べただけで、かなりレベルの高いお店であることが分かる。あの一夏にそう言わせしめるほどに高いクオリティーだ。
そこへ、間を見計らったかのように呼び鈴が鳴る。
「ホラ来た。」
それだけ言って動かない一夏。
「?」
シャルロットが頭にそれを浮かべたときだった。
「邪魔するぞ、一夏」
突然、フローリングの一部が剥がれ、箒がその下から現れる。
「一夏いる?」
更に、鈴が天井板を外して現れた。
「鈴、屋根から入るのは止めろ。」
「篠ノ之さん!?何てところから入ってるの!?」
一夏が凜にしか注意をしなかったため、シャルロットは代わりに注意したつもりだったが。
「シャル、そこは箒専用の床下入り口だ。」
「」
そういえば、過去に床を切って現れたこともあったなと、頭痛とともに思い出す。
『大佐、いらっしゃいますか?』
そのとき、玄関のほうからラウラの声が聞こえてきた。
「ラウラだな。行ってくる。」
そう言うと、一夏はフォークを皿の上に置いて、リビングから出て行く。
玄関で、2人が話をしているのが聞こえる。それから直ぐ、2人分の足音が近付いてきた。
「む、靴は3足しかなかったが?」
ドアを開けてリビングを見たラウラが、不思議そうにそう呟いた。
「なーに細かいことまで気にしてんのよ!」
「お前が大雑把なだけだ。」
「」
一夏の有無を言わせぬ口撃に、鈴は黙るしかなかった。
「ケーキがあるんだが食べないか?セシリアが買ってきてくれたんだが。」
「「「食う。」」」
いつものことなので、一夏がそれを引きずることはない。
「ところで、俺の家に何しに来たんだ?」
「何となく集まってそうだったので。」
セシリアの返事は、1人を除いたものの代弁であった。
そして、その1人というのは・・・。
「麦茶飲みに。」
鈴である。
「寮の冷水機でも飲んでろ。」
「無理に決まってるでしょ!」
「腹出せ!出せッてんだこのぉ!腹かっさばいて冷水機ぶち込んでやるぜ!お茶パック飲めば麦茶出来るようになぁ!」
どこから取り出したのか、一夏はメスを右手に冷水機を左脇に抱えて鈴を追っかけまわす。鈴も、やられては敵わないと逃げる。
「まあ待て一夏。ケーキが台無しになる。」
「(取り乱して)すまないと思ってる。」
そう言われて、大人しくケーキを食べる。
「ところで大佐。この後の予定は?」
粗方食べ終えたところで、ラウラが話を振る。
「ない。」
「一夏、久しぶりに筋トレしないか?」
「いいな、乗った。」
箒からのまさかの横槍に、一同が顔を青くする。
「!!!よぉ。・・・よぉ待ちなさいよぉ!おたく等にいいゲームを見させてやろうってんだぜ?」
慌てて鞄をあさり始める鈴。
ドサドサドサッ!っと、どうやって詰めていたのだといいたくなるほど大量のカードやゲームが出てくる。
「花札に人生ゲーム・・・それに何だこれ?」
「知らない方が良いわ。」
見慣れぬゲームだと一夏が拾い上げたものを、鈴は電光石火で取り返し鞄に放り込んだ。
「だが、お前の好きなゲームばかりだ。違うか?」
「勝てるゲームを出す。ソレが鉄則でしょ?」
要は、まだ遊びなれていないゲームだったので、遊びたくなかったというだけのことなのだが。
賑やかに遊び続けていると、時計の針が頂点に近付いていた。
「そろそろ昼だな、何がいい?」
「大好きなスウェーデン料理はアザラシの子供、クジラのケツ、夏が旬だ。だが今食いたいのは・・・チャイニーズだ。」
「・・・冷やし中華で良いか?」
ラウラのそれを聞いて、一夏はこのクソ暑い中炒飯を作る気力はあっても食える気がしないので、涼しくなれて簡単に作れる中華料理を提案したつもり・・・だったが。
「日本食じゃないソレ。少なくとも中国にはなかったわね。」
流石は中国に帰っていただけのことはあると、一夏は感心したように頷く。
「そう言えば、中国じゃあ足が付いているものは椅子以外食べるって聞いたな。」
「椅子以外?なーに寝言言ってんのよ。人間以外なら何でも・・・何言わせてんのよ!」
「言ったのはオメェだぜ。」
一夏は、実を言うと中国じゃ食えないものはないのかと言うつもりであったので、これでもまだ抑えていた方である。
「うるさい、うるさい、うるさい!!私が作ってやるわよ!」
何に触発されたのか、鈴はキッチンへと消えていった。
「お待たせ。」
ズドンッ!と、大皿をテーブルの上に置く。
「酢豚か。」
冷やし中華の話をしていたので、てっきりそれを作ってくれるものばかりだと思っていた。
それを見て、ラウラが呟く。
「凰、一つ聞くが酢豚以外のレパートリーはないのか?」
「実を言うと作れない。文句ある?」
「いや。」
結局、人口密度千%で机を囲み、熱々の酢豚を貪っていると、そこへ。
「良い匂いがすると思ったら、また随分と集まってるな。えぇ?」
変な時間に、千冬が帰宅してきた。
「珍しいな。会議でも抜け出してきたのか?」
「休憩時間ってものはある。」
私だって休まなければやっていけないといった仕草をしてみせる。
「分かってるよ。」
「食ってくか?」
学校では千冬を恐れている(当社比)鈴も、ここでは大胆な口調で話す。
「昼飯が死ぬほど食いたかったんだ。もう半日もマトモな飯食ってねえやってられっか!」
小皿(これも当社比)に取り分けられたものを、音速で口に運ぶ。
「午後は?」
「クソッタレ共と会議だ。嫌気がするね。」
「適当にあしらっときゃいい。役人なんぞクソッくらえだ。」
パンチするような仕草をしながら、一夏が笑う。
「そうするつもりだ。じゃあ、行ってくる。」
「教官!ご武運を!!」
ラウラの見送りを受け、千冬は普通に出て行った。
「さて、何時までいるんだ?布団はないぞ?」
「寝袋で構わん。」
さっそく止まる気満々の面々。
「なら、晩飯の買い出しに行かなくちゃ。」
流石に冷蔵庫の中が心許ない。一度時間を確認し、買い出しに行く時間を計算する。
「では、私が――」
「「「お前は止めろ。」」」
セシリアがとんでもないことを言う前に、先制して黙らせる。
「・・・家の車をお出ししますわ。」
「どうも。」
流石に彼女も分かってきたようだ。
「山田君、何だそれは?」
夜。山田先生と千冬の姿は駅前のバーにあった。
「安定剤です、飲みます?」
「いやぁ、どうせなら・・・酒がいい。」
おつまみか何かだと思って聞いたため、がっかりしたように酒を煽る千冬。
「ところで、今日は帰省されるんじゃなかったのですか?」
「仕事が増えたんでやめた。それに、奴らが集まってたんでな。逃げてきた。」
「奴らって、例のメンバーですか?」
「あぁ。」
そっけなく返したが、非常に危ない状態である。周りから見ればではあるが。
「ISが6機集結ですか。世界相手に戦争ができますね。」
「ISなんざなくたって、私と一夏、それから篠ノ之がいれば宇宙ごと消せる。そうだろ?」
「」
酔っているなと感じた山田先生だが、千冬の言っていることは残念ながら事実であった。
「ところでな、この書類を――」
「どうせそんなことだろうと思ったよ。」
突然、低い声が聞こえてくる。
「い、一夏!何故ここに!?」
「料理ができるまで散歩だ。」
さらりとそういってのけた一夏だが。
「・・・ここって織斑先生の家から10kmぐらい離れてますよね?」
「走ってくりゃどうってことない。」
「・・・ランニングじゃないですか?」
逸般人であることを失念している山田先生、いい加減学習しろ。
「少し黙ってろこのスイカ野郎!ベラベラ喋りやがって!」
「まあ、落ち着け。氷バケツを向けられちゃあ、書類が濡れて・・・。」
一夏は、いつの間にか小脇に青い大きなバケツを抱えている。
「安心しろ。ここにある。」
「!?!?!?」
気がつけば、一夏に書類を奪われていた。これはまずいと、千冬が逃げ出そうとしたとき。
「酔い覚ましだ!受け取れ!イ゛ェアアア!!!」
「ウワァァァァァァァァァ!!!」
ザバァッ!と、過冷却水を頭かぶらされたのであった。
A おい、あの歌は何だ。
B うるせえ、俺は眠いんだ。
A 眠いか、眠らしてやる!
ドベキシッ!
B オフィッ・・・【0/1】