IS《ISの帝王:小説版》   作:只の・A・カカシです

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B もう終わりか?
A まだ終わってないぞ!

※月曜まで続きます


第40話 冥土喫茶

 〈スッキリするな。〉

 今日もいい汗かいたと、一夏がシャワーを浴びていると脱衣所の方からなにやら人の気配がしてきた。

 「ん?」

 『ちょ!一夏君!脱衣所のドアが開かないんだけど!?』

 その犯人は、このところ一夏の部屋にことあるごとに侵入してくる楯無だった。

 「?嘘つけ。鍵なんかかけてないぞ?」

 こればかりは一夏が言っていることが正しいのだが。

 『えぇい、開けなさい!』

 このところ散々騙されていた(自爆含む)こともあって、まったく信用していなかった。

 「自分で何とかするんだな。」

 『・・・いいのね?』

 「何がだ?」

 はっきり言って、鈴やラウラの暴れたことを考えれば、楯無の本気など恐れるに足らない。なので、好きにさせやっていた。

 『開かぬなら、バラしてしまえ蝶番!』

 その直後、明らかにISでぶっ壊しましたという音が木霊する。

 『グエッ!?』

 そして、蛙が潰れても出そうにないぐらい芸術的(素っ頓狂ぷ)な声が聞こえた。

 「大丈夫か?」

 一夏が体を拭き終えて覗いてみると。

 「一夏君!助けて!」

 「そんだけ話せるなら大丈夫だな。」

 元気そうに挟まれていたので、放っておくことにした。

 『ちょっとぉぉぉぉぉ!!!』

 抗議を行う楯無。どっからその声が出るのかと、一夏は首を傾げる。

 「お前のミスだ。潰れても知らんぞ。」

 風呂場から脱衣所に出てきた一夏は、既に服を着ていた。

 「こんなの家庭用じゃないわ!金庫の扉よ!」

 「・・・助けてやるから静かにしてくれ。」

 いい加減耳が痛くなってきたので、助けてやることにする。

 「ワァーオ。凄い筋肉。私には分かる、鍛えてるだけじゃないわ。ソレは人を殺せる筋肉よ。」

 「まだ、殺したことはない。」

 人聞きの悪いことを言うなと言いながら、楯無がもがき苦しんでいたドアを片手で持ち上げてどける。

 「!?」

 そして工具を楯無の手から取ると、さも当然のようにドアを付け直した。

 「これでいい。」

 「・・・開かないんだけど?」

 一夏が動作確認をした後に、鍵が掛けられていないことを見て開けようとした楯無だったが、やはりドアを開けられない。

 「そうか?」

 一夏が引くと、ふつうに開く。

 「・・・このドア立て付けが悪くない?」

 「いいや、立て付けは悪くない。箒も鈴も、セシリアでも開けられる。」

 つまり、楯無にはまだ筋肉式ドアは早いということである。

 

 「会長~。だいじょーぶ~?」

 あれから何日か経った。楯無は酷くぐったりとした様子で、生徒会室のソファーに座っていた。ぐったりしているといっても、クマがあるといったことはない。

 「あら・・・本音ちゃん・・・。」

 声色だけは、普段と何も変わらない

 「お疲れだね~。お茶飲むぅ~?ご飯食べられないなら、栄養ドリンク持ってくるよ~?」

 「栄養ドリンクとプロテインで・・・。」

 そう、彼女がぐったりしている原因は筋肉痛であった。

 なぜ、暗部の党首である彼女がこのようになっているのか。

 「お帰り。ウエイトにするか?ベンチプレスにするか?それとも俺と一緒に体幹でもするか?」

 まあ、当たり前といえば当たり前なのだが、素質があると一夏に目をつけられたからだ。

 〈もう嫌!〉

 楯無は、ベッドにダイブした。

 

 

 

 遂に学園祭の当日になった。一夏と箒は、厨房で忙しなく動いていた。

 「織斑君!クレープ3つ入ったよ!」

 「篠ノ之さん!炒飯2つ追加で!」

 喫茶とか言っておきながら、何食わぬ顔で中華が用意してあるあたりが1組である。

 「グゥレイトォォォォォ!」

 謎の感嘆詞を発しながら、箒は中華なべを振るう。

 「お客の回転が落ちてきたわ!」

 これは、お客の食べる速度が遅くなったのである。

 「誰か厨房に行って連中に急ぐようにハッパをかけて!」

 決して一夏たちが遅いのではない。が、その分を料理提供の速さで補おうとしているので、一概に的外れとも言えなかった。

 「二人とも急いで!後、チーズとペパロニのグッチョマイピッツァも追加で!」

 「やってる!クソ!久しぶりすぎて、(料理の)腕が落ちてる!」

 「だが、今はやるしかない!」

 はっきり言って、これだけのバリエーションをこの手際と精度で作り上げられる方がおかしいが、二人はまったく知らなかった。

 「ねえ一夏。僕はメイド服がいいって――」

 「良いとこに来た、それ運んでくれ。」

 「・・・。」

 当然、ゆっくり話す暇などはなかった。

 

 

 

 「一夏さん!私は燕尾服が良いと思いますわ。」

 学園祭一日前のこと。一夏がセシリアとシャルロットの服装に付いて話し合っていた。

 「あぁ、いいな燕尾服。」

 「燕尾服・・・。」〈僕はメイド服が。〉

 当事者であるシャルロットは、、話の流れが速すぎて割って入ることが出来ない。

 「燕尾――」

 そこまで言ったときだった。シャルロットのおでこから上がパッカーン☆と外れ、中から知らない女性が出てくるなりこう宣言した。

 「服を買うならレゾナンス!!!新作!人気作!!!充実です!」

 「「!?!?!?」」

 あまりの超常現象に一夏(とセシリア)は珍しく目を白黒させた。

 

 

 

 小ネタ終了。話を学園祭当日に戻す。

 「なあ、何か匂わないか?」

 「2組が中華でもやってるんだろ?これは酢豚だな。」

 そういえば酢豚だけしか提供しないというストイックな模擬店(というか、普通は1クラスにつき1~2種類)だったと2人は思い出す。

 「大佐ァ、篠ノ之!代わりますぜ!」

 と、そこへラウラがやってきた。

 「ラウラ、大丈夫なのか?」

 繁忙期なら無理だろうが、今は少し客足が減っていた。一夏に鍛えられていたラウラには丁度良いくらいだ。

 「セシリアにも手伝わせまさぁ。」

 思わぬ人物をラウラが推薦してきたので、一夏が驚く。

 「!?死人が出るぞ!」

 「大丈夫でさぁ。死ぬ気で仕込んでおきました。」

 教えているときにセシリアの料理を口にして死にかけたので、その恐ろしさは身をもって理解していた。タフネス設計の彼らでも、セシリアの料理には耐えられない。だからこそ、食えるもの(ちゃんと旨い)が作れるようになったと断言した。

 「「よし、任せた。」」

 ラウラが言うのだから間違いないと、二人は休憩に出ることにした。

 「ちょっと良いですか?」

 一夏が教室から出てくるのを待ってたかのように、一人の女性が話しかけてきた。

 「何だ?」

 「私こういうものです。」

 名刺を差し出し、軽くお辞儀をする女性。

 「IS装備開発企業?お宅も暇だねぇ。」

 この暇と言ったのは、『筋トレしろ』ではなく『俺に言っても無駄だぞ』である。

 「まあ、そう言わずに。」

 「カタログ見せてくれ。」

 「えぇ、どうぞ。」

 特にやることもなかったので、話だけは聞いてやろうと一夏は思った。

 「・・・ロケットランチャーはないのか?チェーンガンも書いてないな。」

 「え、えぇまあ、追加装甲や補助スラスターの企業ですので・・・。」

 それは、言うまでもなく一夏に喧嘩を売る台詞であった。

 「お前ら一体俺に何の恨みがあるんだ!ご先祖様でもお墓にブチこまれたのか!?寄って集って俺を落とそうとしやがる!手前、空飛ばしてやろうか!?」

 マシンガントークでそう吐くと、女性を左手で掴み上げた。

 「ホラよ!」

 そして、窓からPOI☆っとなげすてるのであった。

 「ウーワァァァァァ!!!」

 今回は一般人ではなかったのでクッションは用意されていない。ベキッ☆っと、地面にめり込んだ音だけは聞いて、一夏は時計を見た。

 「・・・そろそろか。」

 

 

 

 遡ること3日。五反田食堂の2階、五反田家の住人の1人である弾は漫画を読んでいた。

 気持ちよく本を読んでいるときに限って、邪魔は入るものである。今回の邪魔は、電話だった。

 『弾か?俺だ。』

 「一夏か。どうした?」

 電話に出ると、聞き飽きた声がスピーカーから流れてきた。

 『学園祭の入場券があるから送――』

 不穏なことを言い始めたので、慌てて弾は電話のバッテリーを引き抜く。

 残念ながら、その程度で諦めてくれる一夏ではない。数秒後には固定電話が鳴り始める。

 まずいと思ったが、とき既に遅し。

 「はい、五反田です。・・・一夏さん!?はい、行きます!!」

 丁度電話の前に蘭がいたため、速攻で出られてしまう。

 「まて、蘭!!」

 「お兄ぃ、一夏さんが学園祭の招待状くれるから行くよ!!!」

 「」

 慌てて制止にかかったが、これまたとき既に遅しであった。

 

 そして3日後。

 「やめろ!放せ蘭!!」

 弾は情けなく蘭に引きずられ、IS学園まで連れられて(連行ともいう)きていた。

 「すいません!1年1組の教室って何処ですか?」

 「誰かの招待ですか?チケットを確認させて貰える?」

 「はい。」

 そういえば手続きがまだだったと、蘭は落ち着いて招待状を()()取り出した。

 「・・・織斑君のお知り合い?あら?招待は一人一枚の筈なんだけど・・・?」

 「よく来たな弾に蘭。」

 丁度いいことに、送り主が来ていた。

 「織斑君これは?」

 虚は、2枚のチケットを振ってみせる。

 「一枚は凰鈴音の登録じゃないか?」

 「あら、ホント。ごめんなさいね。」

 ちゃんと見ないといけないわと、虚は蘭にチケットを返した。

 「・・・あ、あの!」

 そのとき、弾が意を決したような声で虚に話しかけた。

 「?何ですか?」

 「散歩には良い天気ですね!?」

 「?そうね。」

 反応を示してもらえたことで頭の中がパアッとなって、そんなことしか言えなかった。

 「何してんだ弾?」

 「いや、何でも・・・。」〈しくじったぁぁぁ!!!〉

 今のは忘れてくれと心の中で願う弾。まあ、気にしなくても一夏が覚えておくことはないが。

 「そうか。そう言えば美術部が面白いことやってたな。最初はそこだな。」

 蘭は、一夏が案内してくれるとあってワクワクしていた。

 「何があるんですか?」

 「聞かねえ方が良いぞ蘭。何があるのか・・・。」

 大方予想がついていた弾は、ゲッソリとしながらそう言った。

 「黙ってて!」

 「いわれなくても。」

 蘭には受け入れてもらえなかったが、話すのも疲れるのでそうすることにした。

 

 「爆発は芸術だ!」

 連れられていった先(美術室)で、入室するや否やそう声を掛けられた。

 「!?」

 「ホレ見たことか・・・。」

 驚く蘭に、弾は憔悴しきった顔で俺が正しかったろという。

 「一つやらしてくれ。」

 そんな2人を放って置いて、一夏は美術部に話しかける。

 「?君にできるかな?」

 そう言いながら、美術部員はとてつもなく頑丈そうな箱から、線たくさんついた何かを取り出した。

 「・・・これとこれと・・・それからこれだな。ニッパーを。」

 一周ぐるりとそれを回し見て、目星をつけた一夏。

 「はい。」

 「どうも。」

 受け取ったニッパーで、迷うことなくプツンッ!と線を切る。

 「「待って!まだ死にたくない!」」

 これはマジの爆弾だと、二人は否応なく分かってしまう。

 「安心しろ。この大きさならかき氷山盛りぐらいの威力で済む。」

 「ソレは済むとはいわねえ!」

 更に2本、続けて小気味よくプツンッ!プツンッ!とカットする。

 「これで良し。」

 「「」」

 その頃には、後ろで兄妹が腰を抜かして座り込んでいた。

 「クソッ、やられたわ!」

 悔しがる美術部員。それは、本気の悔しがりに見えた。

 「聞くのが怖いんだけど、ソレって失敗したらどうなるんですか?」

 蘭が、恐る恐るといった感じで一夏に尋ねる。

 「見るか?」

 「「いや結――」

 やらなくていいと言ったのに、一夏はおもむろに結線しなおして、先ほどは障りもしなかった線を引き千切る。そして、それを窓からブン投げ捨てる。

 チュドォォォォォォォォォォォォン!っとグラウンドの上空でそれは盛大に炸裂した。

 「ああなる。」

 特に驚く様子もなく、一夏は淡々と話す。

 「何処がかき氷だ!」

 「埋め込み式かき氷器に比べりゃ大したことはない。」

 「埋め込み式って・・・地雷・・・ですよね?」

 やや顔色を青くして、蘭が尋ねる。

 「気にすることはない。さあ、鈴のところに行こう。」

 「「・・・。」」

 まあ、生きている次元が違うのでお気になさらずに。

 とは言え、五反田兄妹にはIS学園で何が催されているのか分からないのでついていくしかない。

 「よお、流行ってるな。」

 1年2組の教室には入ると、そこにいた鈴に一夏は声をかける。

 「久しぶりです、鈴さん。」

 「あら、蘭じゃない。元気そうね。弾は、まぁいいわ。」

 席に着くと、直ぐに水が出される。

 「水が冷えてるな、えぇ?」

 弾は、暑かったから丁度いいというつもりで言ったのだが。

 「溶鉱炉がお望み?」

 「お前等が言うとシャレにならん。」

 物騒なことを言われたので黙っておくことにした。

 「ところで・・・すまん、電話だ。」

 電話ではなく、それは紛れもなく個人間秘匿通信である。

 『大佐ァ!交代お願いしたいのですが!』

 『篠ノ之さん!!!そろそろ限界ですわ!』

 ふと時計を見ると、正午が近付いていた。変わってやらなければ、あの2人では役不足だ。

 『直ぐ傍にいる。待っててくれ。』

 『よし分かった。』

 一夏と箒は、返事のタイミングをきっちりずらし互いに被らないようにした。

 「用事ができた。後は適当に見て行ってくれ。」

 「あの、一夏さん。」

 戻ろうとする一夏を欄が引き止めた。

 「何だ?」

 「ISの使用は国際法で禁止されているのでは?」

 「クソッタレ共の作ったルールだ。守る価値はない。」

 「」

 蘭は目を丸くしていたが、それが正常な反応である。

 「オーダーは?」

 10歩で厨房に戻り、ラウラとセシリアに注文は何が入っているかを尋ねる、

 「ケバブが3つですわ!ラウラさんは?!」

 「ピロシキは今できた。イノシシのステーキが今から、1つだ!」

 もはや喫茶店は、装飾を除くと見る影もなくなっていた。

 「よし。分かった。」

 一夏が調理を始めた。そこへ、箒も戻ってくる。

 「篠ノ之さん!抹茶点てられる?」

 待っていましたといわんばかりに注文が入る。

 「「それは茶道部に行ってもらえ!織斑先生が何とかしてくれる!!」」

 出来ないから断ったのではない。単純に、千冬が最も上手いと言うだけのことである。




(腹筋を)やり過ぎだが・・・良い。

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