IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
A まだ終わってないぞ!
※月曜まで続きます
〈スッキリするな。〉
今日もいい汗かいたと、一夏がシャワーを浴びていると脱衣所の方からなにやら人の気配がしてきた。
「ん?」
『ちょ!一夏君!脱衣所のドアが開かないんだけど!?』
その犯人は、このところ一夏の部屋にことあるごとに侵入してくる楯無だった。
「?嘘つけ。鍵なんかかけてないぞ?」
こればかりは一夏が言っていることが正しいのだが。
『えぇい、開けなさい!』
このところ散々騙されていた(自爆含む)こともあって、まったく信用していなかった。
「自分で何とかするんだな。」
『・・・いいのね?』
「何がだ?」
はっきり言って、鈴やラウラの暴れたことを考えれば、楯無の本気など恐れるに足らない。なので、好きにさせやっていた。
『開かぬなら、バラしてしまえ蝶番!』
その直後、明らかにISでぶっ壊しましたという音が木霊する。
『グエッ!?』
そして、蛙が潰れても出そうにないぐらい芸術的(素っ頓狂ぷ)な声が聞こえた。
「大丈夫か?」
一夏が体を拭き終えて覗いてみると。
「一夏君!助けて!」
「そんだけ話せるなら大丈夫だな。」
元気そうに挟まれていたので、放っておくことにした。
『ちょっとぉぉぉぉぉ!!!』
抗議を行う楯無。どっからその声が出るのかと、一夏は首を傾げる。
「お前のミスだ。潰れても知らんぞ。」
風呂場から脱衣所に出てきた一夏は、既に服を着ていた。
「こんなの家庭用じゃないわ!金庫の扉よ!」
「・・・助けてやるから静かにしてくれ。」
いい加減耳が痛くなってきたので、助けてやることにする。
「ワァーオ。凄い筋肉。私には分かる、鍛えてるだけじゃないわ。ソレは人を殺せる筋肉よ。」
「まだ、殺したことはない。」
人聞きの悪いことを言うなと言いながら、楯無がもがき苦しんでいたドアを片手で持ち上げてどける。
「!?」
そして工具を楯無の手から取ると、さも当然のようにドアを付け直した。
「これでいい。」
「・・・開かないんだけど?」
一夏が動作確認をした後に、鍵が掛けられていないことを見て開けようとした楯無だったが、やはりドアを開けられない。
「そうか?」
一夏が引くと、ふつうに開く。
「・・・このドア立て付けが悪くない?」
「いいや、立て付けは悪くない。箒も鈴も、セシリアでも開けられる。」
つまり、楯無にはまだ筋肉式ドアは早いということである。
「会長~。だいじょーぶ~?」
あれから何日か経った。楯無は酷くぐったりとした様子で、生徒会室のソファーに座っていた。ぐったりしているといっても、クマがあるといったことはない。
「あら・・・本音ちゃん・・・。」
声色だけは、普段と何も変わらない
「お疲れだね~。お茶飲むぅ~?ご飯食べられないなら、栄養ドリンク持ってくるよ~?」
「栄養ドリンクとプロテインで・・・。」
そう、彼女がぐったりしている原因は筋肉痛であった。
なぜ、暗部の党首である彼女がこのようになっているのか。
「お帰り。ウエイトにするか?ベンチプレスにするか?それとも俺と一緒に体幹でもするか?」
まあ、当たり前といえば当たり前なのだが、素質があると一夏に目をつけられたからだ。
〈もう嫌!〉
楯無は、ベッドにダイブした。
遂に学園祭の当日になった。一夏と箒は、厨房で忙しなく動いていた。
「織斑君!クレープ3つ入ったよ!」
「篠ノ之さん!炒飯2つ追加で!」
喫茶とか言っておきながら、何食わぬ顔で中華が用意してあるあたりが1組である。
「グゥレイトォォォォォ!」
謎の感嘆詞を発しながら、箒は中華なべを振るう。
「お客の回転が落ちてきたわ!」
これは、お客の食べる速度が遅くなったのである。
「誰か厨房に行って連中に急ぐようにハッパをかけて!」
決して一夏たちが遅いのではない。が、その分を料理提供の速さで補おうとしているので、一概に的外れとも言えなかった。
「二人とも急いで!後、チーズとペパロニのグッチョマイピッツァも追加で!」
「やってる!クソ!久しぶりすぎて、(料理の)腕が落ちてる!」
「だが、今はやるしかない!」
はっきり言って、これだけのバリエーションをこの手際と精度で作り上げられる方がおかしいが、二人はまったく知らなかった。
「ねえ一夏。僕はメイド服がいいって――」
「良いとこに来た、それ運んでくれ。」
「・・・。」
当然、ゆっくり話す暇などはなかった。
「一夏さん!私は燕尾服が良いと思いますわ。」
学園祭一日前のこと。一夏がセシリアとシャルロットの服装に付いて話し合っていた。
「あぁ、いいな燕尾服。」
「燕尾服・・・。」〈僕はメイド服が。〉
当事者であるシャルロットは、、話の流れが速すぎて割って入ることが出来ない。
「燕尾――」
そこまで言ったときだった。シャルロットのおでこから上がパッカーン☆と外れ、中から知らない女性が出てくるなりこう宣言した。
「服を買うならレゾナンス!!!新作!人気作!!!充実です!」
「「!?!?!?」」
あまりの超常現象に一夏(とセシリア)は珍しく目を白黒させた。
小ネタ終了。話を学園祭当日に戻す。
「なあ、何か匂わないか?」
「2組が中華でもやってるんだろ?これは酢豚だな。」
そういえば酢豚だけしか提供しないというストイックな模擬店(というか、普通は1クラスにつき1~2種類)だったと2人は思い出す。
「大佐ァ、篠ノ之!代わりますぜ!」
と、そこへラウラがやってきた。
「ラウラ、大丈夫なのか?」
繁忙期なら無理だろうが、今は少し客足が減っていた。一夏に鍛えられていたラウラには丁度良いくらいだ。
「セシリアにも手伝わせまさぁ。」
思わぬ人物をラウラが推薦してきたので、一夏が驚く。
「!?死人が出るぞ!」
「大丈夫でさぁ。死ぬ気で仕込んでおきました。」
教えているときにセシリアの料理を口にして死にかけたので、その恐ろしさは身をもって理解していた。タフネス設計の彼らでも、セシリアの料理には耐えられない。だからこそ、食えるもの(ちゃんと旨い)が作れるようになったと断言した。
「「よし、任せた。」」
ラウラが言うのだから間違いないと、二人は休憩に出ることにした。
「ちょっと良いですか?」
一夏が教室から出てくるのを待ってたかのように、一人の女性が話しかけてきた。
「何だ?」
「私こういうものです。」
名刺を差し出し、軽くお辞儀をする女性。
「IS装備開発企業?お宅も暇だねぇ。」
この暇と言ったのは、『筋トレしろ』ではなく『俺に言っても無駄だぞ』である。
「まあ、そう言わずに。」
「カタログ見せてくれ。」
「えぇ、どうぞ。」
特にやることもなかったので、話だけは聞いてやろうと一夏は思った。
「・・・ロケットランチャーはないのか?チェーンガンも書いてないな。」
「え、えぇまあ、追加装甲や補助スラスターの企業ですので・・・。」
それは、言うまでもなく一夏に喧嘩を売る台詞であった。
「お前ら一体俺に何の恨みがあるんだ!ご先祖様でもお墓にブチこまれたのか!?寄って集って俺を落とそうとしやがる!手前、空飛ばしてやろうか!?」
マシンガントークでそう吐くと、女性を左手で掴み上げた。
「ホラよ!」
そして、窓からPOI☆っとなげすてるのであった。
「ウーワァァァァァ!!!」
今回は一般人ではなかったのでクッションは用意されていない。ベキッ☆っと、地面にめり込んだ音だけは聞いて、一夏は時計を見た。
「・・・そろそろか。」
遡ること3日。五反田食堂の2階、五反田家の住人の1人である弾は漫画を読んでいた。
気持ちよく本を読んでいるときに限って、邪魔は入るものである。今回の邪魔は、電話だった。
『弾か?俺だ。』
「一夏か。どうした?」
電話に出ると、聞き飽きた声がスピーカーから流れてきた。
『学園祭の入場券があるから送――』
不穏なことを言い始めたので、慌てて弾は電話のバッテリーを引き抜く。
残念ながら、その程度で諦めてくれる一夏ではない。数秒後には固定電話が鳴り始める。
まずいと思ったが、とき既に遅し。
「はい、五反田です。・・・一夏さん!?はい、行きます!!」
丁度電話の前に蘭がいたため、速攻で出られてしまう。
「まて、蘭!!」
「お兄ぃ、一夏さんが学園祭の招待状くれるから行くよ!!!」
「」
慌てて制止にかかったが、これまたとき既に遅しであった。
そして3日後。
「やめろ!放せ蘭!!」
弾は情けなく蘭に引きずられ、IS学園まで連れられて(連行ともいう)きていた。
「すいません!1年1組の教室って何処ですか?」
「誰かの招待ですか?チケットを確認させて貰える?」
「はい。」
そういえば手続きがまだだったと、蘭は落ち着いて招待状を
「・・・織斑君のお知り合い?あら?招待は一人一枚の筈なんだけど・・・?」
「よく来たな弾に蘭。」
丁度いいことに、送り主が来ていた。
「織斑君これは?」
虚は、2枚のチケットを振ってみせる。
「一枚は凰鈴音の登録じゃないか?」
「あら、ホント。ごめんなさいね。」
ちゃんと見ないといけないわと、虚は蘭にチケットを返した。
「・・・あ、あの!」
そのとき、弾が意を決したような声で虚に話しかけた。
「?何ですか?」
「散歩には良い天気ですね!?」
「?そうね。」
反応を示してもらえたことで頭の中がパアッとなって、そんなことしか言えなかった。
「何してんだ弾?」
「いや、何でも・・・。」〈しくじったぁぁぁ!!!〉
今のは忘れてくれと心の中で願う弾。まあ、気にしなくても一夏が覚えておくことはないが。
「そうか。そう言えば美術部が面白いことやってたな。最初はそこだな。」
蘭は、一夏が案内してくれるとあってワクワクしていた。
「何があるんですか?」
「聞かねえ方が良いぞ蘭。何があるのか・・・。」
大方予想がついていた弾は、ゲッソリとしながらそう言った。
「黙ってて!」
「いわれなくても。」
蘭には受け入れてもらえなかったが、話すのも疲れるのでそうすることにした。
「爆発は芸術だ!」
連れられていった先(美術室)で、入室するや否やそう声を掛けられた。
「!?」
「ホレ見たことか・・・。」
驚く蘭に、弾は憔悴しきった顔で俺が正しかったろという。
「一つやらしてくれ。」
そんな2人を放って置いて、一夏は美術部に話しかける。
「?君にできるかな?」
そう言いながら、美術部員はとてつもなく頑丈そうな箱から、線たくさんついた何かを取り出した。
「・・・これとこれと・・・それからこれだな。ニッパーを。」
一周ぐるりとそれを回し見て、目星をつけた一夏。
「はい。」
「どうも。」
受け取ったニッパーで、迷うことなくプツンッ!と線を切る。
「「待って!まだ死にたくない!」」
これはマジの爆弾だと、二人は否応なく分かってしまう。
「安心しろ。この大きさならかき氷山盛りぐらいの威力で済む。」
「ソレは済むとはいわねえ!」
更に2本、続けて小気味よくプツンッ!プツンッ!とカットする。
「これで良し。」
「「」」
その頃には、後ろで兄妹が腰を抜かして座り込んでいた。
「クソッ、やられたわ!」
悔しがる美術部員。それは、本気の悔しがりに見えた。
「聞くのが怖いんだけど、ソレって失敗したらどうなるんですか?」
蘭が、恐る恐るといった感じで一夏に尋ねる。
「見るか?」
「「いや結――」
やらなくていいと言ったのに、一夏はおもむろに結線しなおして、先ほどは障りもしなかった線を引き千切る。そして、それを窓からブン投げ捨てる。
チュドォォォォォォォォォォォォン!っとグラウンドの上空でそれは盛大に炸裂した。
「ああなる。」
特に驚く様子もなく、一夏は淡々と話す。
「何処がかき氷だ!」
「埋め込み式かき氷器に比べりゃ大したことはない。」
「埋め込み式って・・・地雷・・・ですよね?」
やや顔色を青くして、蘭が尋ねる。
「気にすることはない。さあ、鈴のところに行こう。」
「「・・・。」」
まあ、生きている次元が違うのでお気になさらずに。
とは言え、五反田兄妹にはIS学園で何が催されているのか分からないのでついていくしかない。
「よお、流行ってるな。」
1年2組の教室には入ると、そこにいた鈴に一夏は声をかける。
「久しぶりです、鈴さん。」
「あら、蘭じゃない。元気そうね。弾は、まぁいいわ。」
席に着くと、直ぐに水が出される。
「水が冷えてるな、えぇ?」
弾は、暑かったから丁度いいというつもりで言ったのだが。
「溶鉱炉がお望み?」
「お前等が言うとシャレにならん。」
物騒なことを言われたので黙っておくことにした。
「ところで・・・すまん、電話だ。」
電話ではなく、それは紛れもなく個人間秘匿通信である。
『大佐ァ!交代お願いしたいのですが!』
『篠ノ之さん!!!そろそろ限界ですわ!』
ふと時計を見ると、正午が近付いていた。変わってやらなければ、あの2人では役不足だ。
『直ぐ傍にいる。待っててくれ。』
『よし分かった。』
一夏と箒は、返事のタイミングをきっちりずらし互いに被らないようにした。
「用事ができた。後は適当に見て行ってくれ。」
「あの、一夏さん。」
戻ろうとする一夏を欄が引き止めた。
「何だ?」
「ISの使用は国際法で禁止されているのでは?」
「クソッタレ共の作ったルールだ。守る価値はない。」
「」
蘭は目を丸くしていたが、それが正常な反応である。
「オーダーは?」
10歩で厨房に戻り、ラウラとセシリアに注文は何が入っているかを尋ねる、
「ケバブが3つですわ!ラウラさんは?!」
「ピロシキは今できた。イノシシのステーキが今から、1つだ!」
もはや喫茶店は、装飾を除くと見る影もなくなっていた。
「よし。分かった。」
一夏が調理を始めた。そこへ、箒も戻ってくる。
「篠ノ之さん!抹茶点てられる?」
待っていましたといわんばかりに注文が入る。
「「それは茶道部に行ってもらえ!織斑先生が何とかしてくれる!!」」
出来ないから断ったのではない。単純に、千冬が最も上手いと言うだけのことである。
(腹筋を)やり過ぎだが・・・良い。