IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
ラウラと楯無は、千冬に指示された区画(仮称)3へ向けて進行していた。
「おかしいわね・・・。」
その道中、楯無がしきりに携帯端末を操作しては砂嵐の画面を開いてそう呟いた。
「何がだ?」
その呟く声が大きかったので、構って欲しいのかと思ったラウラは怠そうに声を掛ける。
「カメラが写らないのよ。」
「そうだろう。停電しているのだからな。」
バックアップの非常電源システムを当てにしたのが大間違いと、彼女は吐き捨てるように言った。
「違うわよ。私個人で仕掛けていたのよ。バッテリーが切れたのかしら。」
「切れたらさっさと入れろ、この間抜け。」
また初歩的なミスをやらかしたのかと、うんざりした様子のラウラだったが。
「でも、昨日しかけたばかりなのよ。」
それを聞いた瞬間に、コロッと態度を変える。
「・・・お前のか?」
そういって差し出したのは、カメラセットであった。
「いつの間に・・・。」
「変な電波が飛んでいたから、テロリストのものかと思って取り外した。三時間前の話しだが。」
「」
楯無は、まさかラウラ(一夏たち)が電子系も強いとは思っていなかったこともあり、このことを知らせていなかった。それが裏目に出てしまい、彼女は愕然とする。
「ん?どうやら、私達はついているぞ。近いな。左か?いや、右からも音がする。どっちがいい。」
しかし、のんびりするほどの時間は与えてもらえない。ラウラが戦闘態勢に入った。
「じゃ、右で。」
耳を澄ましてみると右は分からなかったが左からだけは少しだけ音が聞こえたので、楯無は躊躇なくそちらを選んだ。
「分かった。後で会おう。」
楯無と分かれて五分が経過した。音は徐々に近く大きくなっていき、ラウラが腰のナイフに手をかけた瞬間だった。
「んん!?大佐!ここで何を!!」
マンホールを開けて出てきたのは、なんと一夏であった。
「帰ってきても出迎えはなし。シャッターを壊そうにも、こういうときに限ってISもロケットランチャーも持ち合わせてない。素手でやっても良かったが時間がかかる。仕方ないから、側溝に飛び込んでここまで来たんだよ。」
「なるほど。」
マンホールをきれいに戻し、服のほこりを払いながら彼は説明した。
「ところで何の音だ?・・・銃声か。サプレッサーを使っているな。」
「!大佐、生徒会長のヤツが行った方向です!」
ハッとした様子で、ラウラが状況を・・・というか現状だけを告げる。勿論、言わずとも理解しているということが明らかだからだ。
「携帯を持ってるだろ?大丈夫だろ。」
「そうでした。」
ISの駆動音は聞こえないし、一人でも十分であると判断を下した。
「まあ、行ってやるか。」
意外な行動に思えるが、それは楯無を心配したらではない。ただ暴れたいから向かうのである。
その頃、楯無は必死に応戦していた。
「もう、何で私ばっかり外れを引くのかしら!」
消音機の付いた銃が、『パスッ』とか『プシュッ』とか、しょっぱい音でBB弾(当社比)を撃ってくる。
それは、たがわず楯無の体に命中していたが、彼女は痛がる様子がない。それもそのはず、それは楯無ではなく・・・。
「残念、水よ!」
彼女の分身であるからだ。
「ポチッとな!」
「「グアァァァァァァァッ!?!?!?」」
直後、その分身が大爆発を起こし、近くにいた侵入者2人がものの見事に吹っ飛ばされる。
「クリア・パッションの威力はどうよ!ロケランの比じゃないわよ!!」
ヤケクソ気味の楯無であったが、頭は冷静だった。
「撃て!撃てェ!!」
消音装置にもう用はないと言わんばかりに、堂々とマシンガンを乱射してくる侵入者。楯無は、じっと息を潜める。
「撃ち方やめ!・・・隠れん坊かよ!ようしイイだろう、付き合ってやる。見て来いカルロ(仮)。」
楯無が出てこないのを不気味に感じたのか、隊長らしき男が部下に指示を出す。ほどなく、かすかな足音が近付いてきた。
「行くわよ!楯無ファイブ!!」
刹那、5人の楯無が物陰から飛び出した。
「うわぁぁっ!?」
パニックに陥る侵入者。
「!?!?二手に分かれろ!油断するな!」
二手では全然対処しきれるはずもないのだが、それ以上には散会できないための苦肉の策。もっとも、それは愚作であったが。
「うわぁー!?」
「こいつ!爆発する!!た、隊長!!」
「!?こっちにもいるぞ!」
「逃げるぞ!!退け!?退くん――」
「「うわぁぁぁぁぁ!?!?!?」」
纏まっていないことで爆発の威力が隅々まで行き渡り、侵入者はたちまちに片付けられてしまった。
楯無が侵入者と戯れていたその頃、千冬はというと。
「っく!!・・・ブリュンヒルデ!?生身で来るとは、本気か?」
ISを装備した侵入者との戦闘に入っていた。
「悪いな。まだ、ウォーミングアップ中だ。」
敵の質問に挑発で返し、手首や足首を軽く回してさらに煽る。
「・・・。」
「どうした。一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう。来いよ。怖いのか?」
「今行ってやる!」
余裕そうな表情に、ISの操縦者は痺れを切らして突っ込んだ。
因みにだが、箒はというと。
「・・・・誰も居ないではないか。外れか。」
ただ学内を散歩しているだけだった。
一方、最初の部屋に残されたシャルロット&簪は、電脳世界へとダイブしていた。
まあ、ダイブしたのはシャルロットのみで、簪はオペレータをしているのだが。
「うーん、凄い学校だね。さっきの部屋の耐久構造なんて、核シェルターの比じゃなかったし。」
電脳世界へと入り込んだシャルロットは、自分の感覚を確認しながら簪とおしゃべりをしていた。
『・・・私も・・・それは見た。』
同意を得られ、彼女は「ねー。」っと短く返した。
「・・・でも、何だろう。鈴とかラウラとか、篠ノ之さんに至っては竹刀で破壊しちゃうし・・・。本当に人間なのかな?」
『それは・・・間違いない。』
間違いないとは、生物学的に人間であると言うことを肯定してのものである。
「はー・・・。じゃあ、僕らもやろうか。何をすれば良いの?」
確認を終えて、いざ作戦に取り掛かろうとしたときだった。
「参ったなぁ、急がないと。」
わざとらしく懐中時計を見つめながら、白ウサギが一羽、彼女の目の前を通り過ぎようとした。
『捕まえてもら・・・そいつを捕まえて!!』
いつもは大人しい簪が大声を出した。
「えぇ!?こ、これ!?」
その変貌振りに、シャルロットは少したじろぐ。
『早く!』
「分かった!」
刹那、シャルロットのホログラムがかすんだかと思うと、次の瞬間には白ウサギを右手で鷲づかみにしていた。
『』
「これでいいのかな?」
『・・・シャルロット。・・・・・あなたも大概人間じゃない。』
システムの速度を大きく上回ったシャルロットの反応と移動速度。簪は、大きな衝撃を受け、そう感想を述べた。
「えぇ!?」
そして、その称号を授けられたシャルロットは、まさか自分が筋肉識に染まっているなどとは一ミリも思っていなかったために、驚愕して立ち尽くした。無論、右手の力を抜くことなくである。
そして、後ろから楽しそうな話し声の聞こえてきた子守中の鈴はというと・・・。
「ちょっと!誰も来ないじゃない!暇!!一人ぐらい、ここまで抜けて来なさいよ!へたれ!!」
侵入者に向けて、護衛らしからぬ暴言を吐いていた。
再び、一夏とラウラに話は戻る。
「この部屋なんだ?分かるかラウラ。」
2人は音を頼りに進んでいるために、実際に学内のどのあたりを進んでいるのかいまひとつ理解できていなかった。
ゆえに、この様である。まあ、非常時には壁をぶち抜きながら進むのが普通なので、問題ないといえば問題ない。
「いえ!知りません!」
仕方ないと、取りあえずドアを開けてみる。理由は、中から物音がするからだ。
「激アツ!大当たりです!!」
ドアを開けた瞬間、中から大声がしたかと思うと、数秒の間をおいて弾丸の雨が一夏たちのいた場所を襲った。そう、『いた』場所を
「遅い、これが本当にバルカン砲か?」
「ラウラ、戦闘機の乗りすぎだ。ガトリング砲だ。」
「!そうでした。」
撃ち始めたときには、既に山田先生の操るクアッド・ファランクスの銃身のところに立って放物線を眺めていた。
「お、織斑君とボーデヴィッヒさん!?」
「山田先生!そのクソッタレガンを寄越せ!俺の気が変わって、クアッド・ファランクスを剥ぎ取る前にな!」
バキッと嫌な音を立てて、ガトリング砲が一門もぎ取られる。まだ回転中の砲を、である。
「あぁ、報告書が!!」
山田先生が悲鳴を上げたのは、言うまでもない。
一夏が武器の仕入れを済ませたころ、千冬はまだIS相手に遊んでいた。
ゴスッと重い音を立てて、パンチがISの装甲にダメージを入れる
「いい加減にして貰おう。」
急に、ISのパイロットが口を開いた。
「何を?」
「貴様!素手でISと殴り合うなど常識的じゃない。非常識。」
「そうか?」
押されているから苦し紛れに放った言葉と言うのは明らか。
「・・・目的は無人機の残骸とコア。それから白式だろう?」
千冬は、相手の目的を知っているので、わざと時間稼ぎをしてイラつかせていた。
「そうだ。場所を吐いて貰おう。」
「第一倉庫の中だ。」
ISが銃を展開して千冬に銃口を向けた。無駄な動作だと何故分からないのだろうか。
「あ、職員室の机の中にしまったかも知れないな。」
しかし、ISはそれを聴いた瞬間、銃口をわずかに逸らす。
「どういうつもりだ?」
「いや、道義心に駆られて意地悪なIS委員会からISを持たせてもらえない貧しい国に配っちまった記憶もあるな。」
「・・・貴様!」
遊ばれていることにようやく気がついて、ISのパイロットは銃を構えなおした。だから当たらないって。
「吐かしたきゃ、力ずくでやってみろ。」
「ふん、その強気がいつまで持つか楽しみだ。」
まだ攻撃が髪の毛にさえ掠っていないのに、これだけ強気でいられるのはISの絶対優位を信じて疑わないからだ。
「私には特殊部隊がバックについている。それでもまだ、生身で挑んでくるか?」
「部隊?もう、ほとんど残ってないだろ。」
『』
そこで、目の前の千冬のことも忘れて無線機に耳を傾ける。待てど暮らど、一切応答がない。
「・・・ヤロォー、ブッコロッシャァァァァァァ!」
ISが銃を投げ捨てた。撃つだけ無駄と気がついたのではなく、単に怒りに任せてではあるが。
そして、その隙を突いて千冬から一発お見舞いされる。
「ISなどに乗るから動きが鈍くなる。クラシックが一番だ。」
不意に、千冬が明後日のほうに視線をやった。
「っく!ふざけやがってぇ!
好機だとばかりに、ISのパイロットは千冬に右ストレートをお見舞いした。
刹那、バンッという音が聞こえ、千冬は吹き飛んでいく。
「どうだ!ISを甘く見たな。」
「あぁ、いいパンチだった。お陰で距離が取れたよ。」
が、受身を取るとか痛がる様子はまったくなく、それどころか先ほどよりも元気になっている。
「何?」
数秒後、地鳴りのような音が、廊下へ不気味に反響し始めた。
「一夏!」
「OK!」
その声に合わせ壁が崩落したかと思うと、その瓦礫を超えて一夏が25mmの7連装ガトリング砲を小脇に抱えて登場。
「(ISの絶対防御から)出てこいクソッタレ!」
豪快にぶちまけ始めた。
ISをもってしても反動制御で手一杯なそれを、4分の1とはいえ小脇に抱えて撃たれてはISのパイロットも堪ったものではないはずだ。少しずつ押され、彼女はうめき声を漏らす。
「っく!?」
10秒後、弾が切れてガトリング砲は沈黙する。
「弾切れか!ざまあ見ろ!モンキーが調子に乗るか――」
それで打ち止めと思ったISのパイロットだったが、それはかすかな希望から出た言葉だったのかもしれない。そして、誰が足元にクレイモアを埋められていると想像できるだろう。
「IS学園へようこそ。」
一夏の声を聞きながら、ISは重力に引かれるがままに床へ倒れた。
Q 一体いつ寝てるんだ?
A 俺もそう思ったぜ。目が覚めたらショールームのバスタブに頭突っ込んで寝てた!