IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
B:180°だ、この歴史的大バカもんが。
「ちったあ傷は治ったかよ?」
一夏は、銃撃を受け保健室で治療を受けていた楯無の見舞いに来ていた。
「マナーがなってない生徒ね。せめて『さん』くらいは付かないわけ?」
日本人の礼儀としては、それぐらい必要だと思うんだけどなーと、ベッドに腰掛けた状態、世間一般でいうところの上目遣いというやつを楯無は実行する。
「何で?必要か?」
まあ、この男に限っては通用するはずがないというのは分かりきっていたことだが。
「いや、そう言うんじゃないんだけど。」
それでも何とか分かって貰おうと、楯無が少し考え込んでいると一夏がおもむろに口を開いた。
「じゃ、刀奈か?」
「!?!?」
刹那、楯無は目を大きく見開いて驚く。それは、少なくとも何年も前に隠した本来の名前だったからだ。
今の一瞬に動揺を外に出してしまったことは楯無自身も分かっていたが、挽回の方法が思い付かず金魚のように口をパクパクさせる。
「安心しろ。誰も聞いちゃいない。」
パイプ椅子にドカッと腰掛けながら、さっさと再起動するように楯無に呼びかける。
「ちょっと待って!何で知ってるのよ!?」
もっとも、理由を教えて貰ったからと言って、それで「はい終わり」と済ませられるレベルの話ではない。彼女、もとい彼女の家からにしてみれば、それは情報漏えいに該当する話だ。
「役所に行ってチョチョッと手先を動かすだけで、その程度のことは調べられる。違うか?」
しかし、一夏の口からはにわかに信じがたい答えが返ってくる。
「私の戸籍は存在してないはずなんだけど?」
「そうか?だがあったのは事実だ。」
愕然とする楯無に「親の優しさかもな」と、珍しく気の効いた言葉をかけた。
「それで?怪我は?」
世間話をしに来たわけではないので、一夏はさっさと話題を切り替える。
「弾を一発も撃ち込まれたのよ?遺体に決まってるでしょ。」
「そうか?じゃあ、AEDがいるな。あのオレンジのヤツだ。」
先ほどの仕返しにと微妙なニュアンスを使ったが、一夏には的確に聞き分けられた。
「あ、あの一夏くん?冗談だよ?」
「刺激が欲しいかえぇ?ビリビリするような刺激だ!刺激が欲しいだろ!」
その手には、いつの間にやらAEDが握られていた。勿論、電源も投入済みであり、攻撃開始も時間の問題である。
「いやー!結構!遠慮させて貰うわ!!」
「いつまでお堅い女ぶってるんだ。安心しろ。急所は外してやる。」
「しなくていいわよ!弾ももう取りだしたし!!」
そもそも電気ショックに急所もクソもないでしょと、楯無は必死に静止を呼びかける。
「分かったなら、体の調子がどうかを答えるんだ。」
「もう傷口は塞がったわよ!」
グッとパッドを近づけられて、彼女は慌てふためいて服を捲り上げ、わき腹を一夏に見せつける。ストリップかな?
「見なさいよ、ほら!」
気持ちが先走っていることに、彼女は気が付かない。
「分かったよ。分かったから腹を仕舞え。」
そこで一夏は動揺することなく、お前のドテッ腹に用はないと切って捨てるが。
「ちゃんと見なさいって言ってるでしょ!!ホラホラ!!」
「見てる。あまり騒ぐな、傷口が開くぞ。」
「あっそう。じゃあ、本当に塞がっているか、触ってみなさいよ!!」
変なテンションのスイッチが入ってしまったのか、楯無は執拗に一夏へそれを迫る。最早、いつもの方法に頼らなければこれを止める手立てはないなと彼は諦める。
「お前もセラピーが必要だな。」
いよいよ末期の症状が出てきたなと、一夏は呆れた様子だ。
「なぁぁ!?一夏くんは、私がおかしいって言うの!?分かったわ!だから触ってみなさい!そうすれば、治っているって分かるから。」
「分かった。だから仕舞え。」
「そうやって逃げ――」
「時間だ。」
直後、入口のドアが開き千冬が入室してきた。
「何をやっとるんだ、楯無。」
保健室に近付いた時点で室内の状況を正確に把握していた千冬は、冷静な対処を行う。
「お、織斑先生!?」
楯無は、想定外の刺客の登場に硬直する。
「い、いけませんよ!」
しかし、千冬の話を聞いていいたはずの山田先生は、いつも通り悪戯に被害の拡大に走る。
「教育的指導で――」
「山田君、黙っててくれ。話しがややこしくなる。」
「織斑先生!!女子生徒と男子生徒が、鍵が掛かっていなかったとは言え密室で――」
妄想に入ると、止められなくなる。テロにはテロで立ち向かうと、千冬は山田先生の意識を刈り取った。
「この手に限る。」
「そいつを待ってました。」
〈こうなったら、アレをするしかないわね。〉
ドス黒い会話をする姉弟を見ているうちに楯無の頭は一度クールダウンして、そしてやる気スイッチがONになった。
「面倒くさい前置きはなしにして!ここに宣言するわ!」
それから何日か後の夜の一年生寮。その食堂で、1年生の生徒を集合させその前に立った楯無は拳を突き上げてポーズを決めていた。
「OK!」
それを気に食わなかった一夏は、ロケットランチャーで彼女を吹っ飛ばした。勿論、周囲の物体に損害は出していない。
「残念だったわね!トリックよ!」
しかしそれは、水でできた楯無の化身であった。一本取られたよと、一夏は楯無の話を聞くことにする。
「腕を上げたな。見破れなかった。話してみろ。」
「ふっ、これからは楯無お姉さんを甘く見ないことね。」
「で、宣言って何だ。」
褒めたらすぐにこれだもんなと、早く話を始めるよう発破をかける。
「無粋なんだから。一夏くんは、口の利き方を学んだ方がいいわよ。」
「あたしもそう思うわ。」
腕を組んだまま、鈴が楯無に同意を示す。
「良く言うよ。」
「宣言って何よ。」
そして、鈴は舌の根が湿気っているうちに同じ言葉を楯無に浴びせるのであった。
「・・・一週間後。」
しばらく黙り込んだ後、急に楯無はそう告げる。
「何が?」
「一年生対抗一夏争奪代表候補生ヴァーサス・マッチ大運動会を開催するわ!!」
一夏が聞き返すと、待ってましたといわんばかりに楯無はそれを宣言した。
「よく一息で言うな。」
「えぇ、わたくしでもあの長さを噛まずに言い切る自信はありませんわ。」
「で、何の詠唱だったのだ?」
「さあ、長くてよく分かんなかったわ。」
「」
が、彼女の努力(?)は、一番伝わってほしい人達には微塵も伝わっていないようだ。
「宣言は終わりか?」
「えぇ。今から説明するわ。」
まだタイトルを発表しただけだったが、一夏たちからは「まだ喋るのか」と思われていた。
「目的は二つ!一つは、優勝者には一夏くんと同じ一組になる権利を与え、それ以外の代表候補生は別クラスに移動。そして、一夏くんと同じ部屋で暮らす権利を与える。」
彼女は記憶の中から、一夏と同室で生活するのがどういうことかを抹消していた。それは、一夏と同じ部屋で生活する過剰なまでの苦しさ(主に筋トレが)に耐えかねて、である
「待て待て待て、最後の大佐と同じ部屋で暮らすというのは何の拷問だ?」
ゆえに、すぐさまラウラが制止に入った。
「おいラウラ。俺はそこまで鬼か?」
それも、当の本人が目の前にいることをはばかることもなく、である。
「アンタの筋トレ、篠ノ之さんしかついて行けっこないわ。」
「慣れればどうと言うことはない。」
それを何と受け止めたのか、鈴へ箒が反論する。
直ぐさま、箒は鈴へ反論した。
「篠ノ之さんだけですわ!」
そして、箒へセシリアが反論の一撃をお見舞いする。
「というか、誰得なのよ。その何たら運動会。」
鈴は、ここで言い争っていても仕方がないと発案者に話しをぶつけ、「現実を見ろ」と、楯無へプレッシャーをかけていく。
やはり、彼女は即答することが出来ず、あごに手を当てて考え始めた。
「ずっと温めていらしたってところでして?」
「みたいね。でなきゃ、こんなこと思い付くはずがないと思うもん。温めすぎて、腐っている気がしなくもないけど。」
その様子から、鈴とセシリアの二人はそう結論付けた。
「・・・。」
楯無の様子に変化が出たのは、その直後のことだった。
「どうした、冷や汗なんかかいて。」
「・・・注文しちゃったわ。」
「「「」」」
それが何を意味するか知っていたので、一夏たちは一斉に黙り込む。。
「というわけ――」
「「「断る。」」」
そして、一夏たちの専売特許である強引でことを推し進めようとしたので、こうやって使うんだと言わんばかりに強引でお返しする。もっとも、この手法は圧倒的な格の違いがあるからこそ出来る芸当であるのだが。
「だが、手伝いだけならやってやる。」
「私達を運動会に参加させない。それが条件だ。」
そして、その発注の中に食い物が含まれていることを、一夏と箒はしっかりと知っていた。だから、逆行しているとも言える救済措置を、二人は提案したのである。
「し・・・仕方ないわね・・・。」
あわよくば巻き込んでやろうと言う魂胆を楯無が持っていることは見え見えではあったが、一夏には寧ろ、それがどの様に実行されるのか気になってしまい、一切の躊躇いもなく判断を下すのであった。
「契約成立だ。」
「それでは、これよりIS学園大運動会を開催します!」
それから一週間後、楯無の口から公約通りに大運動会の開催が宣言された。
「「「ワァァァァァァァッ!」」」
宣言の瞬間、グラウンドにいた多くの生徒が歓声を上げる。この後の惨劇を想像することもなく、だ。
「それでは、選手宣誓!織斑一夏!」
「・・・。」
突然、楯無からそのように発表がなされたが、一夏はシレッと無視する。巻き込み方が、あまりに強引すぎたからだ。
「大佐、呼ばれました。」
「契約違反だ。」
一夏がロケットランチャーを構えた。
「安心して。競技には出場しなくていいから。てか、しないで。」
「OK!」
まあ、ここでどでかい花火を打ち上げることもないだろうと、一夏は列からゆっくりとした足取りで出て、生徒達の前へと出た。
「選手宣誓。」
ゆっくり、ハッキリとした口調で始める。
『織斑君頑張って!』
『格好いいところ見せて!』
それを緊張と取った、何も知らない生徒達が、声援なのか煽りなのかよく分からない声をかけてくる。それは、一夏に先ほどの楯無の言ったことを反故にしてやろうと言う気持ちを芽生えさせる原因となる。
「よーく聞け手前ら。ちょっとでも競技の手を抜いてみろ、嫌ってほど鍛えてやる!みんな覚悟はいいか?それでは始めよう、キャプテン・一夏のワークアウトだ!」
「「「キャァァァァァァァァァァ!!!」」」
その宣言に、多くの生徒達が歓声を。
「「「ギャァァァァァァァァァァ!!!」」」
一組の生徒と一夏のことを知っている一握りの生徒達は、揃って悲鳴を上げて逃げ惑う。
「・・・あの、一夏くん?運動会だからね?」
まさかこの様な形で破壊に掛かって来るとは予測していなかった楯無はリカバリーが思い付かず、騒動の沈静に手間取る。
「手遅れ。」
勝ち誇ったように、一夏は楯無を指で作った銃で撃ち抜いた。
「
「操り人形だよ!」
戦闘の火蓋は、今、まさに切って落とされた。
そして、二時間後。
「何だ!全員寝ているのか?」
グラウンドの中央に立つ一夏の周囲には、息も絶え絶えになった女子生徒達が転がっていた。
「ぎ、ぎぶ・・・。」
近くに転がっていた生徒の一人が、最後の力を振り絞ってそう訴える。
「設営を手伝った。もっと(根性を)見せろ!」
「やり過ぎだわ!い、一夏くんたち!それぐらいにしとかないと、もうみんな限界よ。」
放送席に籠もって高みの見物を決めていた楯無は、スピーカー越しに一夏へ訴える。しかし、敵は一夏だけではないのだ。
「それがどうした!いつもやっていることだろう!今更御託を並べるな!」
「この程度でか?我がドイツ軍なら新兵でも楽々こなせる。」
「全くですわ。どうしてIS学園に入っただけで油断するのでしょうか。わたくしでも努力を怠っていないというのに。」
「まあ、織斑筋が相手だし・・・仕方ないわね。」
箒は当然として、ラウラ、セシリア、鈴などが余裕そうに振る舞う。ま、少し怪しいのはいるが一夏とドンパチした後も元気に動き回れる連中だけがグラウンドの中で立っていた。脳筋の典型だな、過激派もいいところだ。
因みに、怪しいのとはシャルロットと簪のことである。
〈・・・デュノア社のテストパイロットは、これに耐えられるかな。〉
因みにだが、シャルロットは会社の職員のことを思い返していた。彼女らも相当な手練れの筈なのだが、こんな過激な訓練は受けていない。ここに来たら目の前のスゲー筋肉によって木っ端されること間違いなしだと、彼女は感じていた。
〈・・・何で、これだけできて私を仲間にしようとするの?〉
そして簪は、なぜ一夏達から目を付けられたのか理解できず、ただただ、困惑を深めるばかりであった。
『IS《冬の帝王:MAD版》、2018冬の陣』分の小説版はこれで終わりだ。
だが、必ず戻ってくるぞ!