IS《ISの帝王:小説版》 作:只の・A・カカシです
「シャル、お前の家はこのあたりだったな。」
流れゆく車窓を見ながら、一夏が確認するように尋ねる。
「そうだよ・・・何で知ってるの?!」
まだ話したことはないはず。彼女は驚いて目を見開いた。
「ちょちょっと手先を動かせば、そのぐらいのことは直ぐに分かる。」
「」
あぁ、そうだった。彼にとっては、どこかに保存されてさえいれば、いかなる個人情報であっても閲覧可能なのだ。
関心や恐怖を通り越して、呆れさえ覚えた彼女は閉口する。
「おい、このニュースを見ろ。ロシア代表、候補生を手玉に取り、条約と道徳に背く何たらかんたら、だとさ。」
その横では、ラウラが面白そうな記事を見付けて簪に知らせる。
「流石・・・お姉ちゃん。」
姉の活躍を、簪は感情を無にして称えた。
「それより一夏、腹減らないか?」
シャルロット(と簪)に助け舟を出したとすればベストのタイミングだが、単純に千冬は空腹を覚えて尋ねていた。
「飯なんか作ってないぞ。」
こんなところに来てまで持ってこられると思っているのかと一夏は切り捨てる。
「私もだ。」
「同じく。」
先ほどピッツァは飲み物じゃないと言い切ったシャルロットでさえこのありさま。一夏は少し考える。
「・・・車内販売来た。」
客室とデッキを仕切る扉が開き、待っていましたと言わんばかりにカートを押した車内販売が現れる。
「ボンジュール。サンドイッチは如何ですか?激うまだでぇ?」
目を合わせると、カートを押す若い男性スタッフがおススメの商品を見せてくる。
「これは・・・フランスパンのサンドイッチか。」
「ン、よくご存じですねぇ。正確にはサンドウィッチですが。この料理はお好き?」
「ええ、ゾッコンですよ。」
何気なく一夏が返したとき、そのスタッフは目を見開いた。
「・・・・・知ってるぞ!君は織斑一夏だね!」
「どこで聞いた。」
隠してきたわけではないが、積極的に発信してきたわけでもない。まあ、メディアが勝手に発信してくれたので、結果として顔も名前も知れ渡っているわけなのだが。
「どこでもそこでも、みんなが知ってる。サイン頼めるかな?」
「書くならギャラ上乗せ。」
「サンドウィッチ一パックオマケでいかが?」
「乗った。」
その返事を聞いて、車内販売の兄ちゃんはサイン色紙をどこからともなく取り出して一夏に手渡す。
「これでどうだ?」
どうだと言っても、本人が書き上げたものなので文句のつけようはない。
「これが君のサイン。上手いね、よく書くの?」
「滅多に書かん。飾ってくれんから。」
正しくはサインを頼まれても逃げ切っているので、事実には一切基づいていない。
「そいつぁめでたい。とにかく、君は世界で唯一ISを使える男子。僕みたいに立場の弱い男達の希望の星だよ。」
「俺を貶すつもりか!いっぱしの強者を気取っていても、俺から見れば聖歌隊のガキ以下だ!誰が怖がるか!」
サービスでスタッフを励ます一夏、
「いよ、逞しい!あぁ、それだ。あれとかこれとか、それとかって――」
それで火が付いたのか、スタッフの兄ちゃんは二〇分近くも一夏を質問攻めにする、
「いや、今日はいい話が聞けて満足だよ。これ、お礼にサービスする。」
「いくらだ?」
ドカッと机の上に置かれたそれを見ながら、一夏が値段を尋ねる、
「俺のおごりだ。食ってくれ。じゃあな。」
爽やかな笑顔を残して、そのスタッフは去っていった。
「俺の名が知られているとはな。」
「大佐は有名人だからな。」
それも世界中でと、ラウラは付け加えた。
「三人部屋が二つ?」
夜になった。寝台車へと移動してさあ眠ろうとしたとき、問題が発生した。
「六人部屋を頼んだはずだが?」
部屋を分けると金がかさむと、五人が一部屋に泊まるつもりでいた一夏と千冬。
「そんなにでかい部屋はなかったです。」
きりっとした表情で、ラウラが答えた。勿論、彼女が三人部屋に変更した犯人である。
「仕方ない。ここは私とシャルロット、そして更識が同じ部屋で寝るとしよう。」
わざとらしい演技をしながら、ラウラは続けて言う。
「おいおいおいおい。それじゃ、私の晩酌はどうなるんだ。」
「今は作戦中だ。控えろ。」
酒の心配をする千冬を、一夏が一喝する。
「仕方ない。ラウラ。織斑と同じ部屋で寝て良いぞ。」
しかし、どうしても晩酌のしたい千冬は、何とか一夏とは違う部屋をになろうとする。
「!!・・・あ!あそこにプロテインが!」
これはマズイ。咄嗟の判断で、ラウラは明後日の方向を指さしながら苦し紛れに思いつきで叫んでみる。
「「え?どこ?」」
ところが、これが意外すぎるほどの効果を発揮した。
この好機を見逃せば次はないと、瞬きする間に部屋へと逃げ込んだ。
「!!小娘めェ!?クソ、逃げたか!!・・・ぬうぅぅ、うぉぉぉっ!!」
嵌められたことに気が付いた千冬が直ぐさま攻勢に打って出るも、既に鍵が掛けられていた。
「よせ、人の備品だ。今回は我慢しろ。」
勿論、この程度の鍵を突破するのは容易い。しかし、IS学園ならまだ良いとして、外国で行うことには流石の一夏も気が引けた。
「仕方ない。寝るか。」
まんまと騙された自分の完敗と、千冬はスッパリと諦めて自分の個室に入る。
「三段ベッド。参った参った。こんなひでぇベッドは流石の俺も初めてだ・・・・・。」
幾らなんでも三段ベッドは詰めすぎだと、一夏は愚痴をこぼす。
「まったくだ。チョー最悪だ。カプセルホテルが天国に思える。」
「さっさと寝ちまおう。」
「あぁ、そうしよう。」
ぼろくそに言いつつも、横になることが出来ればそれで十分なので、さっさとベッドに入った。
「・・・俺達、ドイツにいるんだよな?」
「あぁ?寝言言ってんじゃねえよ。とっくに国境は越えたよ。」
一夏は方向音痴なのではない。いつも国境を無視しているからこその、感覚の無さだった。
「ここがパリか。暑くてやってらんねえ。」
翌朝。パリの駅に一夏達の乗車していた寝台列車は到着した。
一番に列車から降りた一夏は、周りの人達が白い息を吐きながら足早に動き回る中、薄着で悠然と突っ立っている。
「え?今、一二月だよ?」
対称に、過剰なまでの防寒対策をして列車からシャルロットは降りてくる。
「デュノア、さっさと降りろ。」
あまりの寒さに、ドアの前で立ち止まった彼女を、普段なら実力行使するところ、千冬が柄にもなく促した。
勿論、シャルロットはそれに従ってホームに出る。
「お嬢様、お待ちしておりました。お時間が迫っておりますので、お早く車に。」
そこで待っていた初老の、執事のような格好をした男がシャルロットに声を掛けた。
「うん、分かった。さ、乗って乗って。」
シャルロットは一夏達を用意された車に案内して、駅を後にした。
「そろそろか。」
デュノア社の社長は、左腕の時計をチラリと見る。彼はデュノア社の特設アリーナ前で仁王立ちをして、自身の娘、シャルロット・デュノアの到着を待っていた。
車が到着したのは、ほどなくして。すぐにゾロゾロと人が降りてくる。
「遅刻だ。」
その中の一人、筋肉モリモリマッチョマンが彼の前へと来たので文句を言う。
「道が混んでた。」
「言い訳は聞いてない。」
「事実だ。受け入れろ。」
取り付く島もない態度に、男はムッとする。
「誰だ、この男は?」
一夏のことを知らない社長は、自身の娘に尋ねる。
「こいつは筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。大げさじゃないよ?この男、パンを焼きながら筋肉を殺すのが好きなんだwwwぶっちゃけた話、一夏はお前さんをマッチョマンの変態にするぐらい、屁でもないと。」
質問の答えに、社長は露骨に眉間に皺を寄せた。
「・・・遠慮しておこう。で、本題に入らせてもらっても?」
「嫌だn」
先ほどから何かと主導権を取ろうとする一夏に、社長は痺れを切らして殴りかかるが、息をするように避けられてしまった。
「少し黙ってろこのオカマ野郎!ベラベラ喋りやがって!」
「この俺がァ、オカマだとォ?」
そこへ千冬も参戦してきて、状況は混沌を極める。
「ああそうだ!」
「おい、本題を」
「ふざけやがってぇ!!」
「本題・・・」
「イエェェェアァッ!!」
まるで眼中にないと、一夏と千冬は乱闘をおっぱじめる。列車の中に長時間いたストレスが、ずいぶんの溜まっているようだ。
「父さん、あの二人はほっとこう?」
「社長と呼べ・・・」
高圧的な態度で娘に接した瞬間、どこからともなくパンチが飛んできて社長を殴る。
その瞬間、シャルロットは殴った張本人の一夏をどついた。
「今度私の邪魔したら殺すよ?」
珍しくシャルロットが苛立っている。
「ちょっと手助けしただけだ。」
「私はその気がないんだ。」
一刻も早く用事を済ませたかったのにと、シャルロットは肩を落とす。
「で社長、本題というのは?」
「・・・」
気を取り直してシャルロットは呼びかける。しかし彼は沈黙を続け反応を示さない。
「アルベールったらまた床で寝てるのねぇ~。んぅ可愛いんだからぁ。」
一夏はデュノア社の社長の上半身を起こして、妙に高い声で呼びかけた。
「やめろ!気持ち悪い!!」
目を見開くのと同時に、目にも留まらぬ速さで社長は後退る。そして、彼は鳥肌を立てていた。
「ほら起きたぞ。」
「よくやった。社長、本題を。」
どや顔を決める一夏と、それを褒め称える千冬。
「・・・。」
「社長?」
「・・・。」
恐怖を覚えた社長は、硬直して声が出せない。
「なぁんだ、寝ちまったんですか?」
「起きてるが?」
またあの声で呼びかけられたら、今度は発作を起こしてしまうかも知れない。社長は声を絞り出した。
「そう言えばさ、先月、社長、新型のIS作ったよね?」
このままでは日が暮れてしまうと見かねて、研究員が彼らの間に割って入り本題へと誘導する。
「俺、そう言うね、わざとらしい振りって大嫌いなんだ。」
「いいじゃないですかこれ。偶にはこう言う入り方も良いって。」
折角の助け船を無下にされても、研究員はめげずに続ける。
「「「・・・・・。」」」
ところが間が悪かったため、次は誰が声を出すかでお見合いをしてしまう。
「あ、そう言えば社長さん。」
その責任を取るつもりがあるのか定かではないが、研究員はヤケクソ気味に話し出す。
「はい。」
「先げ・・・あっ、駄目だ。このまま言っちゃえ。先月のロールアウト機って社長さん、新型機出ましたよね。」
そして、ものの見事に滑ったので、ごり押しして話しを進める。
「・・・えーっと、是非とも娘に乗ってもらいたいな。」
「そうそうそうそう。OKですよ。・・・OK?じゃあ、どうぞ。」
「ほんの少しではありますが、ISの第三世代機を入荷致しました!」
ようやく、本題に入ることが出来たので、研究員は下がる。
「第三世代機!?やったぁ!フランスバンザーイ!」
一夏が両手を挙げて万歳をする。
「・・・と、俺達が言うと思ったか?」
と言うパフォーマンスをした後、完全にしらけた表情に戻った。
「俺のダチが面白がって乗ってみたがよ、危なく廃人にされるとこだった。新世代機はイジるモンじゃねぇよ、馬鹿を見らぁ!」
「・・・それ、私のこと言ってる?」
「いやぁ、その通り。」
空気になりかけていたのを心配してか、ひっそりと簪が会話に入り込む。
「シャルロットにはこの機体へ乗り換えを行ってもらう。」
開き直った社長は、一夏のことを無視して話を続けることにする。
「おぉイエイエイエイエふざけんな、こんなのアリかよ。マジで契約違反だ。目の前で話してんのにこの野郎無視しやがって!ピザのトッピングにチーズとペパロニ頼んだらトーフと魚醤のっけてきたようなモンさ!サギだよ、サギ!」
「オイオイオイオイ待てよ。待てったら~。ホントにドイツ人は怒りっぽいんだからぁw。」
一夏は日本人なのだが、突っ込んだラウラはドイツ人なので、ツルッとそう言ってしまった。
「・・・私はトーフも好きだよ?」
「嘘をつけ。」
「おい、行くぞシャルロット・デュノア」
勝手にコントをする二人は放って置いて、社長は娘を新型機のもとに案内しようとする。
「一つだけ教えといてあげる。リヴァイヴはこれまでで最高のIS。第三世代機では勝てない。」
「よろしいならば模擬戦だ。」
そこまで言うならば世代の差と言うものを体験したもらうと社長は決断を下す。
「!!主戦主義者だ!コロセ!」
網の外・・・じゃなくて蚊帳の外にならないよう、ラウラが話しに割り込む。
「では、打ち破ってもらおう、我が社の誇る第三世代機。そのISは、昴。」
「おいおいおい、ちゃんと言うてよ。」
つられたのか、あるいは本当にボケ始めたのか。これ以上脱線しないよう、研究員は急いでツッコミを入れる。
「ああ、そうか。昴とは、宇宙の中にあって一際美しく輝く星です。宇宙と言えば、そう秋桜。」
「やる気あるんかおっさん!」
発音も意味も間違いなく合っているのだが、ぼけを噛ましてきたことは確実だったので研究員は社長をぶっ飛ばした。
「Foo!ええぞぉ!あんた腕っぷし良いじゃねえか!こんな時こそ拳を使わねえとなぁ!」
その吹っ飛ばし方に、一夏は感心する。
「あのろくでなしの暴言社長を殴った気分はどうだった?」
「それは・・・最高です」
「あんた最高だよ、きっと大物になれる。」
「マジかよ」
「もちろん。こんなところでくすぶってちゃだめだ。」
「やっぱりそうか俺もずっと前からそう思ってたんだ!」
急に自身が付いてきたのか、研究員は胸を張っていた。
「・・・模擬戦は?」
そしてシャルロットは、律儀に父の話しを覚えて・・・いたのではなく、世代なんて乗り手次第で問題ではなくなることを証明したくてウズウズしていた。
「よう、やってるな」
「おはよう読者」
「あぁ」
「朝から蒸すな、えぇ?」
次は年末にMAD版で会おう!(多分)