今日も夢を見る。
黄金色の大地の世界、それが俺の見る夢だった。
その世界の俺は、少し若い――見かけだけでなく、牢獄に居た時とも下層に居た時とも違い、もっと明るく熱意を感じる別の自分だった。
エリスに聞くと、やはり願望や思っていることを投影することが夢には多いようだ
しかし、何度も続きを見られる夢などあまり例が無いため不信の目を向けられた。
自分の故郷の小さな街から飛び出してから、月日が経とうとしていた。
俺は、この地域一帯――ノーヴァス・アイテルの領主の元で騎士見習いをしている。
正直な所、騎士とは名ばかりで基本的に荒事が必要な可能性がある時に駆り出され、それ以外の時は他所で用心棒などをする。
必要なときに使われる出来合いの兵士と言っても良かったが、村を飛び出してきたので後ろ盾が無かった俺に取っては悪くない始まりだった
「カイム、今日は領主様の所? ご飯用意しておくけど、夕方には帰ってくる?」
家から出ようとした所、同居している幼馴染のエリスに声を掛けられる。
「そうだな……多分夕方には帰ってくるとは思うが、時間が確かじゃない。今日はヴィノレタで食べてくるから大丈夫だ。」
エリスの飯は裕福な医者の家庭で育っただけあるのか中々美味かった。
しかし、毎朝晩食べていると正直他のものも食べたくなって来るものだ。
「カイム、あの女に近づくのはやめた方がいいわ。酒場の女なんてみんなに色目使うんだから。」
相変わらず自分に色目を使ってくる男と俺に近づいてくる女にはなかなか苛烈な事を言う。
というか、酷い偏見だ。
「なんでそんなにメルトが苦手なんだ? ただ飯を食べてくるだけだ。」
「私はカイムを心配してるだけ、女に甘いから色んな女が近寄って来て悪いのに引っかかりそうで。」
同じ村に住んでる時からエリスは俺と他の女が話そうとするだけでコレだ。辟易する。
この街に来たのは、兄が国家試験に合格し国の役人になったと聞いたからだ。
優秀だと褒められた兄にいつも対抗心を燃やしていた俺は、兄に追いつこうといつも必死だった。
居てもたっても居られなくなった俺は、誰にも言わずに一人で家を飛び出そうとして居た。
しかし、家を出る早朝にはエリスが旅の荷物をまとめて俺を外で待っていた。
エリスは俺について行くと言って譲らず、今に至っていた。
領主の視察の護衛で、町の外を馬で走る。
「カイムと一緒に暮らしているエリスという女だったか……アレとは付き合ってないのだったな、本当か?」
領主のリシアだ、父を病で最近亡くしていた。
まだ子供と言ってもいい年齢の女の子だが、聡明でしっかりと領主の仕事を果たしている。
しかし話して見てもこの通りで、中々一筋縄ではいかない厄介な領主でもあった。
「よく言われるが、エリスとは兄妹みたいなもんだ。どっちが兄とか妹とかは無いが。」
俺の家には兄に大きな期待を寄せる両親、エリスは両親が厳しく家に居場所が無かった、お互いに家に居づらかったので外で剣の稽古をしていると、何時の間にかにエリスが俺を見ていたことが良くあった。
幼い頃からなんとなく一緒にいる関係が今まで続いて居た。
「ふむ、アレだけの美女とずっと一緒に居るというのにおかしな……もしかして、カイムは不能なのか?」
「そんな訳あるか。 というか領主としてそういう言葉を使うのは辞めろ……お前の執事に怒られるのは俺なんだぞ。」
わざとらしく汚い言葉を使うリシアに辟易する。
小さな村出身の田舎者だった俺は、最初は貴族と話す事に慣れてなく荒っぽい言葉を使ってしまい、面白がってリシアも隠れて真似するようになった。
それ以来、リシアの執事に目を付けられている。
「いいではないか、街の人間の文化を学ぶのも領主の勤めだ。」
「それに、馬の走る音でよく聞こえまい。」
イタズラをした後のような笑みを浮かべるリシア。
全くこのお転婆お姫様は……
話しながら進んでいくと、周囲に畑が多くなってきた。
目的の大規模な畑を作る予定地まで、半分といったところか。
「カイムがお父様に雇われた後少し経ちお父様が亡くなり、もう半年、か、早いものだな。」
リシアには少し暗い表情が見えた、そこであえて茶化してみる。
「正直な所初めはリシアが領主になって不安があったが、立派な領主っぷりで驚いている。」
「褒めているのか、貶してるのか分からんぞ、取り敢えず人が真面目な顔で話してるんだから茶化さず聞け。」
「すまなかった、続けてくれ。」
少しムッとした顔をしたが、すぐに元の顔に戻し落ち着いて話し始める。
「前から言っていたことだが……カイムお前に頼みがある。」
「この地域が安定化し、一段落着いたら騎士として正式な契約を結びたいと思っているのだが、どうだ?」
「何度も言ってるがそれは願ったり叶ったりだ、思ったりで、むしろ早くて驚いてる。」
そう言うとリシアは、少しホッとした顔をした。
「分かった、ありがとうカイム。」
「元々騎士見習いになる時にすぐに正式な騎士になることを前提にお父様は話していたが、待たせてすまなかった。」
「前領主も亡くなってタイミングが悪かったしな、仕方ない。」
少し時間は掛かったが文官に付いた兄に近づけた形になる。むしろ前進したのだ。
「ふふ、カイムも私の騎士になったらこき使ってやるから安心すると良い。」
邪気の無い顔で楽しそうに笑う。
「ああ、お手柔らかに頼む。」
目的地に到着し行動を開始した。
聴きこみなどの調査をしたところ、畑の土の質などは申し分ないが、野盗が出没することが増え被害により土地を捨てる者も一人出てきているという。
野盗が増えて困っていて何とかして欲しいという住民の請願は前からあったそうだが、実際に調査に乗り出してみると思ったより問題は深刻そうだった。
巡回の兵士を増やすことや野盗のアジトを探すことなど、対応策はとりあえず決まったがどうなることやら。
店頭の灯りに照らされる石の道を進んでいく、街に戻り調査結果をまとめたあとにヴィノレタへ向かっていた。
ヴィノレタにはこの街に来て以来世話になっていた、都会の流儀に不慣れな俺だったがメルトは良くしてくれた。
「いらっしゃい、あらカイムじゃない。今日はエリスと一緒じゃないの?」
「いつもいつも一緒じゃ居られない。 とりあえず、軽くビールと何か今日のおすすめで頼む」
「そんなこと言っちゃって、エリスが可哀想。」
「いいから早くしてくれ、仕事帰りで腹が減ってるんだ。」
「分かったわよ、ちょっと待っててね。」
少し待つとビール、ソーセージと付け合せ、オニオンスープがテーブルに運ばれる。
ビールはこの街は名産になるだけあってコクを感じさせる旨さだ、ソーセージにはこれが欠かせない。
俺の村では少し高価な酒だったが、こちらでは比較的安いため、ヴィノレタによく飲みに来ていた。
ゆったりと飯を食べていると入り口の鈴が鳴る。
「あらティアちゃん、どうしたのこんな遅くに?」
メルトの知人らしい女の子が入ってきた。
どうやら、農民の女の子が市場で少し余った作物を売り歩いているようだ。
商談はトントン拍子で進み、二人はゆっくりと雑談をしていた。
「ありがとうございます、全部買ってしまって頂けるなんて。」
「良いのよ、今日は市場行く暇がなかったし助かったわ。」
保存の効く食材を使った料理が多かったのは、そのためだったのか。
「だったら丁度いい。メルト、他にも肉料理でも作ってくれないか?」
「分かったわ、ちょっと待っててね……そうだ! ティアちゃんもせっかくだから食べて行きなさいよ」
「もう時間も遅いし、売りに来てくれた御礼に奢るからさ、どう?」
「そうですね……すいません、もうそろそろ真っ暗になってしまうので帰らないと。畑の近くは怖い人達も最近出てきますし」
少し思案する顔をしながらも首を振る。
……予定地の近くにも野盗が出てくるらしいが、近くに住んでいるんだろうか。
「……すまない、騎士見習いのカイムという者だが、今の話についてちょっと聞いて良いだろうか?」
「カイム、ティアちゃんは良い子なんだから簡単にナンパしちゃダメよ。もっと知り合ってからじゃなきゃ……」
「えっ、私、そ、そういうのはちょっと……」
顔を赤くする女の子、素直過ぎるのも考えものだと言いたかったが飲み込んだ。
やんわりと任務の話だと言い、事情を聞き始めた。