デート・ア・ライブ 黄金の精霊   作:アテナ(紀野感無)

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今回は更新長引いた代わりに少し長めです()

ルシフェルの能力、よく考えたらアンリマユよりやばいのを普通に出せるっちゃ出せることに気づいたので前回の話のあとがき部分修正してます




43話 心の中のモヤモヤ

「……」

 

何故、五河士道はあんなにも私には態度が違うのだろう。

彼の言う『精霊/守るべきもの』は私も当てはまっているはずだ。

 

 

 

なのに、彼は私を畏怖の目で見ていた。何故。

 

 

 

私が他の精霊もどきと根本的に違うから?

なら、他の精霊もどきも同じようにすれば、きっと彼は私を見てくれる?

 

 

 

「…でも、○○は流石に無理があるか、たった1人の偶像だけでも無理があったと言うのに」

 

 

 

 

モヤモヤする。万能だと言う自負も、自分が特別だという自負も持っているわけではないが、それでも彼の言う『救うべき精霊』の中に私が入っていないのかと思うと余計に心がモヤモヤする。

 

理解できないことがイライラする。

 

 

この感情はなんだ?

 

 

本能的に彼とは惹かれあう運命だと言うのは理解したが、この感情は理解できない。

 

 

 

私は彼に何を求めている?

 

 

 

 

 

私は何を望んでいる?

私は彼に何をしてほしいんだ?

 

 

 

 

わからない わからない わからない

 

 

 

そんな私のことが、自分のことなのに1番わからない。

 

 

 

数多の人類の敵をその身に宿したせい?

 

一度記憶ごと消せばきっとわかる?

もしくは神夏ギルに、人間に問いただせば理解できる?

 

 

 

…今はやめておこう。五河士道と交わした約束は、守らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが…十香のいる」

「ええ、ここのどこかに捕らえられているはずですわ」

 

俺は狂三と共にデウス・エクス・マキナ・インダストリー日本支社の第1社屋の近くまで来ていた。

狂三の掴んだ情報によると連れ去られた十香はここにいるらしい。

 

「それで聞きそびれましたが士道さん。美九さんの方は説得はできましたの?」

 

「できた…とは言い難いと思う。すまなかった。せっかく無理して時間を作ってもらったのに」

 

「あらあらあら」

 

「?な、なんだ?」

 

俺が謝ると驚いた様に目を丸くした。

 

「いえ、まさか士道さんから労いの言葉をいただけるとは思っていなかったもので。うふふ、嬉しいですわねぇ。頭を撫でてくださいませんの?」

「ち、茶化すなよ」

 

そんな俺を見て狂三は面白がる様に笑いを漏らした。

 

「まあ大丈夫でしょう。会話を聞いていた限りでは危険を冒してまでこちらの邪魔をする様子はありませんでしたし。何よりわたくしを警戒させることも出来ました。ですがそれ以上に1番は……

 

神夏さんの存在ですわ」

 

「っ…!」

 

「DEM社を掻き乱すくらいなら造作もありません。精霊を数人相手するのもまあ良いでしょう。ですが一番の危険分子は間違いなく神夏さん…いまは『ルシフェル』とか名乗っておいでですが。あの方の気まぐれで文字通り私たちの生死は左右される」

 

「……」

 

確かにそうだ。四糸乃や耶倶矢、夕弦を相手してかなりの余裕を見せ、それに加えて狂三すらも圧倒した。

 

「今は士道さんに協力するという口約束を信じる他ありません。ですがくれぐれも注意してくださいまし。エレン・M・メイザースに加えて神夏さんまで相手するとなると流石のわたくしと言えども対処できません」

 

「ああ。…だけど、もし神夏が約束を破ってお前を襲ったら、その時は俺がお前を守ってやるよ」

 

「あら嬉しいですわね」

 

 

 

「私は約束は破らないよ。他のマガイモノと違ってね。ザドギエルやカマエル達とは違う」

 

 

 

「「⁉︎」」

 

突然後ろから声がして狂三と共に勢いよく振り返る。

そこにはやたら疲れた様子の神夏…いや、ルシフェルがいた。

目には何故かクマがあるように見える。

 

「…そんなに驚くことはないじゃないか。私は確かに伝えたはずだよ。我が同胞を助けるのに協力すると。裏切りを果たしたあの4人のマガイモノとは違う」

 

「裏切り…四糸乃達のことか?」

 

「ああ、そんな名称を持っていたね」

 

「ルシフェル、違うんだ。四糸乃達は操られていただけなんだ。決して神夏を裏切ろうと思って裏切ったわけじゃ…」

 

「そんなのは私にとっては関係のないことだ。勘違いしてるかもしれないが私は感謝すらしている。何せ私の力を取り戻させてくれたのだからね。ただ我が宿主を悲しませた事とそれは別の問題だ。だからせめてもの慈悲に、次会った時は苦しむ事なく命をかりとってあげよう。…話しすぎた。私は先に行っている。あとは勝手にやっておいてくれ」

 

「ルシフェル!待って…」

 

引き留めようとするもルシフェルはその場から消えてしまった。

 

「急いだほうが良さそうですわね。行きますわよ。士道さん」

 

「…ああ。十香を速攻で助けて、神夏も助けてやる」

 

ルシフェルの顔を見て、俺は動けなくなってしまった。酷く疲れたような、何かに期待するのをやめたような。そんな顔を。

 

 

神夏は必ず助けないといけないと、俺の本能が叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あら、お嬢さんどうしたの?こんなところに。危ないわよ」

 

DEMのビルの中に、1人の子供がいた。10歳前後くらいの、小さな子供だ。

黒い布が首から下を覆っている。

それを見たDEMの社員は不気味に思いながらも近づいた。

しかし子供は屈託無い明るい笑顔を向け喋る。

 

「ねえねえ、お母さん知らない?」

 

「お母さん?ここで働いてるの?」

 

「うん!ねえ、お母さん知らない?」

 

「知らないわね…少なくとも私の同僚は独身ばかりだし。ねえ、お名前教えてくれる?」

 

 

 

「私たちの名前は……

子供たちの怨念(ジャック・ザ・リッパー)

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あとね、私たち欲しいものがあるの。お姉さんのような魔導師の…心臓。お姉さん、解体するよ♪」

 

そうして子供は、二本のナイフを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり無理か。力の源がそもそも違うからか。さて、私たち…いや違う違う。私の為の検証することはしたし、私は、私のやるべきことを、やろう」

 

神夏ギルの記憶ではジャック・ザ・リッパーは魔術師の心臓を喰らい傷などを回復し力を蓄えていたが。

それをできたら霊力も増え、もしかしたらアレが無理のない範疇になると期待したが、所詮は人間だった。

単なる力の源が違うのか、それとも別の要因があるのか。

 

まあどっちでもいい。

 

「ああ、君、君。このゴミ片付けておいてよ。 さて、次は…酒呑童子でいいかな。操れば、同胞の居場所もすぐにわかるだろう」

 

心臓以外の用無しの部分はその辺の適当な人間に任せ、今度は酒呑童子を宿す。

 

「…あらあらまぁまぁ。手間が省けるわぁ。ウチから探さんでもこぉんなにきてくれはって」

 

「何よアレ…ツノが生えた…日本の昔話でいう、鬼?」

「いやそれよりも…なんて酷いことを」

 

集まった人間たちはウチの姿を見てそんなことを言ったり、さっき食べた残りカスをみてそんな言葉をこぼす。

あまりにも滑稽だ。

 

「何を言うてはるの?やっぱり人間は頭悪いわぁ。あんたらは精霊に対して虐殺をしようと企んではるやろ?それが必要なことだと言い張って。ウチとて同じや。必要なことやからやった。それだけの事や。

 

ああ。他の精霊のことを考えたら無性に腹たってきたわぁ。ほな、たあんと蕩けてもらおか。気ぃつけぇや。蕩けたモンから骨抜きにしてまうで?」

 

 

 

 

 

 

「…どうしますか。アイク。あれ以上暴れられるのも問題かと」

 

「何、気にしなくていい。どうせ彼女もここまでくるさ。それと五河士道とやらもここにくるだろう。それまでの時間稼ぎをしてもらうさ」

 

襲撃を受けたと報告があり、その様子を隠しカメラで見ながらアイザック・ウェスコットとエレン・M・メイザースは話す。横目で椅子に縛られている十香も確認しながら。

 

映像の中ではルシフェルの垂らした液体に触れた者の動きが鈍くなり、その次の瞬間にはその手に白いものを持っていた。

 

「アレは…骨?」

 

「素晴らしい。あの一瞬で()()()()()()()()()。見たところ、背骨の一部かな?もう戦線復帰は厳しいだろうね。ああ、そういえば空間震警報を鳴らしておいてくれ。その方が彼女たちもやりやすいだろう」

 

「はい」

 

ウェスコットの指示に淡々とエレンは従い空間震警報を鳴らす。

 

「おお、どうやらナイトメアも現れてくれたようだ。これは幸先がいいね。さて、どちらが先に私たちの元へたどり着くかな?」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり。他の精霊のことを考えるとよくわからない感情が渦巻く。

 

無性に腹が立つ。

 

五河士道の元へ赴けばこの感情から解放されるのだろうか。

 

 

「…?なんで他の精霊もどきが、こんな場所に」

 

 

 

 

 

 

「…」

「…」

 

俺はアレからというもの、精霊の誘宵美九と行動を共にしていた。

狂三と共に行動していたが狂三に襲われてると思った俺の実妹という真那が駆けつけて、そこからは狂三ではなく真那と共に行動していた。しかし突如昔の同僚とかいう満身創痍の女が現れ、真那はそちらに対処することになりまた1人になった。

それから1人で…正確には正気に戻ったラタトスクの手助けを借りながら進んでいた。道中、十香の天使『鏖殺公(サンダルフォン)』も顕現させることができ、無茶ながらもなんとか歩を進めれていた。

しかしどうしようもなくなった時に助けてくれたのが、まさかの美九だった。四糸乃と耶倶矢、夕弦を引き連れて助けに…いや、俺の行動の末路を見守りにきた(とは言うが実質協力し合っている)。

 

その途中で狂三と共に掴んだ()()()()()()()と言うことを問い詰め、何があったのかを聞くと美九は渋々話してくれた。

 

 

昔は純粋に歌うことが好きで聴いてもらうのが好きだったこと。

アイドルとしてデビューし順調に道を歩んでいたこと。

プロデューサーからの夜の誘いを断ると身に覚えのない思わず眉をひそめたくなるようなスキャンダルが週刊誌に掲載されたこと。

真実を一切確かめようとしない元ファンの人たちが手のひらを返し、罵倒や心無い言葉をかけてきたが、頑張ってきたこと。

 

 

そしてまたライブ会場に立ったが、声を発せなかった。歌うことができなかった。

自分の唯一の価値であった『声』を失ってしまったこと。

 

 

自分に価値を見出せなくなり、辛くなり自殺を試みようとした時に目の前に今の声をくれた『神様』が現れたこと。

 

それを聞いた俺は、美九は他人を見下しているのではなく『対等な関係』を築くことにひどく恐怖しているのではないか、と感じた。

裏切られるくらいなら、はなからそういうものとして期待しない。

他人に自分の如何なるものも託さない。

心を開いて痛い目に見るなら開かなければいい、と。彼女はそうなっていると感じた。

 

それについての問答を繰り広げながら、DEMの魔術師(ウィザード)をともに蹴散らしながら、進む。

 

「この『声』を失った私の歌なんて、一体誰が!聴いてくれるっていうんですかぁっ!!」

 

美九のその言葉に思わず、間髪入れずに叫び返す。

 

「俺が…いるだろうがッ!」

 

美九は、目を見開いて、全身をかすかに震わせた。

 

「な、何を。適当なことを!私の歌なんて聞いたことないくせに!」

 

「あるさ!一曲だけだがな!今よりも一生懸命で、格好良かった!今の歌よりもよっぽど好きだね!

誰も歌を聴いてくれない?

 

はっ!バカいうな!少なくとも何があっても離れないファンが1人!ここにいるッ!」

 

「な…」

 

「霊力なんて関係ねえ!たとえ『声』がなくたって、お前が無価値になるなんてそんなこと、絶対にない!」

 

「……っ!」

 

美九は今にも泣いてしまいそうな顔になり…しかしすぐに首をブンブン振った。

 

「そんな言葉…絶対に信じないんですからぁっ!そう言ったファンはみんな信じてくれなかった!私が辛い時誰も助けてくれなかった!手を差し伸べてくれなかった!」

 

「俺はそうは思わない!そう言った奴らが表に出過ぎただけだ!お前を信じて待っていたファンは必ずいるはずだ!でも…もし本当に誰もいなかったなら!その時は俺が!手を差し伸べてみせる!」

 

「都合のいいことを…じゃあなんですか!私がもし十香さんと同じようにピンチになったら命を懸けて助けてくれるっていうんですか!」

 

美九にとっては答えに窮するのを見たかったのだろう。だが俺はそれに一分の隙もなく答えた

 

「当然だろうが!」

 

それから美九が駄々をこねたように文句を言い、それに言い返していると、ふと今いる場所が今までと異なっていることに気づいた。

頑丈そうな壁が続き、窓一つない。まるで隔離施設のような。

 

「もしかして…ここが?」

 

十香の、いる場所?

 

 

 

「…うるさいなぁ。痴話喧嘩なら他所でやりなよ。2人とも。…ザドギエルやラファエルがなぜ、と思ったがそういう事か。ガブリエル。なんの気まぐれかな?君は五河士道を殺すんじゃなかったのか?…そんなことはさせないが」

 

「「⁉︎」」

 

 

 

突如背後からした聞きなれた声に、思わず美九と共に振り返る。

そこには、黒い荒い布を肩から被り足首まで覆われ、骸骨の面をつけて顔の上半分が隠れている…恐らくはルシフェルがいた。

 

「何をそんなに驚いている。私は同胞を助けるのに協力すると言ったはずだよ。…だがそっちの精霊もどきは、消してもいいんだが。このなぜか耳から聞こえてくるカマエルの声も。鬱陶しいことこの上ない。どんな方法を使っているかは知らないが」

 

そう言ってルシフェルは右耳をポンポンと叩いていた。…どう見てもインカムがそこについているんだが。琴里は神夏の今の状態を引き起こした原因が自分だとずっと責め、謝り続けているらしい。今の指示は、基本的に令音さんからのものだった。

 

「ほら、早く入りなよ。でないと、思わずガブリエルを殺してしまう」

 

美九はそう言われて睨むが、ルシフェルに睨まれたのか思わず後ずさっていた。

間に入り、なんとかルシフェルをなだめ中に入る。そこの中には強化ガラスにより囲まれ、椅子に拘束され眠っているのか俯いていた十香がいた。

 

「十香!」

 

叫ぶも、こちらの音声は聞こえてないのだろう。ならば、こちらから開ければいいだけだ。辺りを見渡すと、椅子に座っている人を見つけた。背もたれをこちらに向けて座っている。

 

「やあ待っていたよ。〈プリンセス〉の友人…でいいのかな?」

 

静かな言葉を響かせ、男は椅子から立ち上がりゆっくりと俺たちの方へ振り向いてきた。

 

「お初にお目にかかるね。DEMインダストリーのアイザック・ウェスコットだ。よく来てくれたね。〈ディーヴァ〉に〈アロガン〉の反転体。それに…」

 

ウェスコットは美九に視線をやり、その次にルシフェルへ。そしておれに目を向けた瞬間言葉を止め、訝しげに眉をひそめた。

 

「君は…何者だ?まさか…いや、そんなはずは…。

なるほど、結局はあの女の…」

 

「御託はいい!十香を解放しろ!」

 

鏖殺公を突きつけながら叫ぶと、ウェスコットは愉快そうに肩を揺らした。

 

「もしその言葉に従わなかったらどうなるのかな?」

 

「……悪いが、無理矢理にでも従ってもらう」

 

しかしウェスコットはくつくつと笑う。

 

「出来るのかな、君に」

 

「出来るとも。十香を助けるためなら、何だって」

 

「はは。冗談さ。私はエレンのように強くない。精霊1人と天使を扱う少年を同時に相手するなんて恐ろしくてできない。ほら、好きにするといい」

 

そう言ってウェスコットは手近にあったコンソールを操作し、十香の拘束が外れる。

 

「シ…ドー?」

 

こちらの声が通るようになったのか十香がふっと顔を上げこちらを見た。

 

「!シドー!」

 

十香はこちらに気づき、立ち上がった。身体中に貼られた電極を勢いよく外しながらこちらに走ってきた。強化ガラスに手のひらとおデコを押しつけながら今にも泣きそうな顔を作った。

 

「シドー…シドー、シドーッ!」

「おう、悪いな十香。待たせちまって。…おいあんた、ここを開けろ」

 

 

 

 

ピキリと、また頭が痛む。

五河士道と同胞の様子を見ると、今までで一番頭が痛む。

 

なんでだ。なんでなんでなんでなんで……

 

 

 

 

「ふっ。そんな立派な得物を持っているんだ。自分で切り裂いてはどうかな?それに精霊を2人も引き連れているんだ」

 

「…美九、頼めるか」

 

 

 

また。痛む。私に、頼んでくれたらすぐにやるのに。五河士道は私を頼ってくれる気配がない。

こんな壁、すぐに塵にするというのに。

 

 

 

「ああ。そうそう。一つ言い忘れていたがイツカシドウ

 

 

そこにいると危ないよ」

 

「は…?」

 

ウェスコットの言葉の意図が分からず訝しげな声を出す。

 

「し、シドー!後ろだ!」

「ぐっ⁉︎」

 

十香がガラス越しに悲鳴じみた声を上げると同時、横にいたルシフェルがいきなり消え、ぞぷという奇妙な音とともに胸に熱い感触が生まれた。

 

「え…?」

 

一瞬何が起こったか分からず呆然と声を発する。胸に視線を下ろすと、レイザーブレードの刃が生えていた。

 

「な…こ、れ、は…」

 

「…舐めた真似を。そんなに死にたいか。エレン・M・メイザース」

 

後ろに目をやると、白金のCR-ユニットをまとった1人の人間がいた。

 

「アイクに向けられる刃は、全て私が折ります。…にしてもアロガン。反転したあなたはその程度ですか。くだらない感情に流されるとは…情けない」

 

「…私の五河士道に手を出した罪、その命で贖ってもらう。今すぐ、五河士道から離れろ」

 

「ふん」

 

エレンは淡々と俺の胸から光の刃を引き抜く。

姿勢を保てなくなり、ガラスに体を押し付け、血の跡を残しながら床に倒れてしまう。

 

何も、聞こえなくなる。

 

「さあ、精霊プリンセス、ヤトガミトオカ。アロガン、カミヤギル。今から君たちの大切なイツカシドウを殺そうと思う」

 

「な…」

「させ、ると。おも、うか」

 

「無論君を野放しでは無理だ。だから殺すのは私の役目だ。エレン、任せたよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

体に、うまく力が入らない。何かをしようとすると、途端に動きが鈍くなる。

 

同胞のことを考えると、何もできなくなる。

 

 

人間が向かってきたのを見て咄嗟にハサン・サッバーハを用いて回避する。

 

「…どけ」

 

「無理です」

 

「どけ。さもなければ、お前を、殺す」

 

「万全貴女ならばその言葉に信憑性がありましたが、今の貴女では無理ですね」

 

人間の言葉の一つ一つが癪に触る。

 

「シドー!やめて…やめてくれ!私はどうなっても構わない!なんだってする!なんでも言うことを聞く!だから…だからシドーを私から奪わないでくれ!」

 

我が同胞は、必死に叫び、十全な時とは程遠い輝きの鏖殺公を、顕現させるも無意味なようだった。

どうやら、ガブリエルの声も無駄なようだ。当たり前といえば当たり前だが、今となってはそれが悔やまれる。私が逃げ出す時間すら稼げないとは。

 

「…が……あっ!」

「無駄です。邪魔はさせません」

「ど……け!」

「どきません」

 

体が追いついていないのか、目の前の人間を振り切れない。

五河士道を殺されるのを、止めることができない。

 

なんで、なんでなんでなんで。

 

 

 

なんで私は、我が同胞が()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのまま見過ごそうとしている。我が同胞は、そうなるべきではないのに。

 

 

 

『結局は貴様もその程度の存在か。我をハメた事は褒めてやろうとは思ったが…これは貴様がまた戻るのも時間の問題だな。貴様のその感情の正体を教えてやろう。

その感情は、神夏ギルのものだ。奴は嫉妬深いからな。そもそも貴様が言ったのであろう。

性格が混ざる、と。それは貴様と反英雄の話だけではない。貴様の依代は、誰だ?』

 

 

 

 

脳内から、限りなく力のないはずの英雄王ギルガメッシュの声が、聞こえてくる。

嫉妬?これが?

 

 

『神夏ギルを一時的に、僅かとはいえ表へ出したのは失敗だったなルシフェルとやら。その僅かな一瞬を掴むことなど、造作もない。貴様は、すでに万全ではない。それにだ……

 

たかだか人1人の絶望など受け入れられなくて何が英雄か。我をなめるなよ。我は。この世全ての悪を飲み干した英雄であるぞ?』

 

 

 

だめだ、今は、こいつの言葉に耳を傾ける時じゃない。止めなければ。止めなければならない。五河士道を、殺させるわけには。

 

けど体が動かない。

 

 

私がダメなら、みんな私と同じになればいい、そう思って、立ち止まってしまう。

 

 

 

そして人間の持つ刃が振り下ろされるのを、見ていただけだった。

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

その瞬間に、ヤトガミトオカは、我が同胞は、力の源から

 

 

 

私と同じになった。







…結局のところ、神夏ギルは、記憶を失った神夏ギルは、他の精霊以上に、依存していたと、そういうことなのか?だから、私はこんなにも、五河士道に私を見てもらいたいと。そういうことなのか?我が宿主よ。

であれば…やることは一つしか、ない。

私は、君の望みを、叶えよう。

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