デート・ア・ライブ 黄金の精霊   作:アテナ(紀野感無)

53 / 68
「ずっと感じてた覗き魔…なんだ、君か」

「ルシフェル?今度はどうしたんだ?」

「ああいや、帰ってきて早々悪いんだけど、ちょいとまた用事ができてしまった」

「今度はどうしたんだ?」

「士道に迷惑はかけないから、そこだけは安心してくれ。それと、だ。今から我が宿主達がくるんだろう?ここで席を外しておくべきだと思ってね。また明日、会おう」




52話 取り返しのつかない"ごめんなさい"

「……ぷはぁっ、はあっはあっ。ゲホッゲホッ」

「ちょっと大丈夫?」

「問題なし。少し息が詰まってただけだから」

 

やっぱ生身で精霊と対峙はかなり毒らしい。虚栄を張るだけで精一杯だった。

 

「琴里、わかったでしょ?こっちがその気じゃなくとも、向こうは殺しに来る。それでも、ルシフェルを救うと言うの?私が未だに思っていることだけど、君たちの言う救いは私やルシフェル、狂三達にとっては迷惑極まりない事なんだよ。それでも、ルシフェルを救うと、言えるの?」

 

「当たり前じゃない。ルシフェルも、貴女も、狂三も、全部ひっくるめて救うに決まってんじゃない。人間(わたしたち)のしぶとさナメないでよ」

 

「……そう。分かってたけど、本当にそれを貫くんだね。じゃあもう私から言うことはないよ。よくよく考えれば、士道を殺すと言っていたそこのガブリエルですら心を開かせれたんだ。実績は十分ある」

 

しばらくは、予定通りルシフェルのことは任せるとして……

 

「じゃあ、琴里。一つだけ……お願いがあるんだ」

 

「ええ」

 

「……その前に、あんまり人に聴かれたくないから、琴里以外は出てもらってもいいかな?聞かれたくないわけじゃないけど、ちょっと……ね。君らからの謝罪は受け取ったし、元々君たちを恨んでるわけじゃない。それだけは信じて欲しい」

 

「わかったわ。みんな」

 

琴里に促され、十香や四糸乃達が令音さんに付き添われながら部屋を退出していった。

特に四糸乃から心配そうな目をされたけど、ずっと続く痛みを堪え笑って手を振った。

 

「あー……しんど」

「大丈夫なの?本当に」

「大丈夫か大丈夫じゃないかで言われたら……大丈夫じゃない、ね。体のあちこちが痛い。特に胸」

「刺されてるんだから当たり前よ。で、四糸乃達に聞かせたくないことって何?」

「うん、ちょっと調べて欲しいことがあって。流石に、純粋無垢な四糸乃の前だと言えないことでね」

「?」

 

いまでも、少し考えるだけで頭が痛くなる。

でも、逃げる訳にはいかない。

 

「DEMのメイザースの直属の部下……マイラ・カルロスについて、調べて欲しい。できれば、数年前の、イギリスでどうなったのか、どういった人生を送ってきたのか、今現在も生きているのか、死んでいるのか」

 

「良いけれど……最後の方の意図がよくわからないわ。理由を聞いてもいいかしら?」

 

「うん。今のマイラは、私の知ってたマイラじゃない。それどころか、私の大切な人の命を奪った、殺しても殺しても憎しみが消えることのない、そんな相手。……はは、今でもアイツのことは殺したいほど想い焦がれてる」

 

思わず、怒りのまま周りに霊力の余波をぶつけそうになる。

なんとか、なんとか抑え込む。

 

「ごめん取り乱した。アイツは私の知ってた、優しくて私が唯一人生で恋焦がれたマイラ・カルロスじゃない。それは分かってる。

アイツは私に『マイラ・カルロスは殺した』って、言っていたから、別人だと、ずっと思ってた。

 

そう思わなきゃ、やってられなかった。でも最近、それを覆されるようなことがあったんだ」

 

「?」

 

狂三から聞いた事だから、信頼がそこそこできる情報なのも、タチが悪い。

だけど、私が私でなくなる気がして、信じたくなかった。

 

「崇宮真那、彼女の頭にあった機械を取り除いて、洗脳状態に近かった彼女を救ったのは、貴女達ラタトスク。そうでしょ?」

 

「……ええ。そうよ」

 

何かを察した琴里は、ゆっくりと肯定した。

 

「なら、マイラは。アイツはどうなんだって思ったんだ。アイツらは、DEMは精霊を狩る為ならなんでもする。

なら、アイツらがマイラに目をつけて、洗脳するなんて、当たり前にやる。そう思わない?」

 

琴里は、無言で頷いた。

 

「だから、マイラについて、調べて欲しいんだ。もしアイツが私の知ってるマイラで、洗脳されているだけだとしたら……アイツは私のせいで狂ったようなもの。だから、必ず私が救う。

 

でも、もし本当に赤の他人だとしたら、あのマイラ・カルロスは、私がこの手で、必ず、絶望の底に叩き落とした上で、殺す。これだけは、何があろうと、譲れない。絶対に」

 

「分かったわ。貴女に他人を殺すと言う行為をしてほしくないけれど、今それを言っても平行線になるだけだもの。明日にでも、クルーに伝えて調べてもらうわ」

 

「うん。ありがとう琴里」

 

何か言いたいことがもっとあっただろうに、全部飲み込んで私のお願いを聞き入れてくれた。

 

「他は無い?無いなら行くわよ」

 

「はい?」

 

「検査に決まってるでしょうが。曲がりなりにも、貴女死にかけたのよ」

 

「……あ、あー、うん、んじゃ私眠くなってきたから寝るね」

 

「逃がさないわよ」

 

「いやいや、私大丈夫だから!ちょっと咳止まらないのとズキズキ胸が痛むくらいで大丈夫だから!」

 

「大丈夫なわけ無いでしょうが!ほら、行くわよ!」

 

あの手この手で回避しようにも、最終的には連れて行かれてしまいました、はい。

嫌なもんは嫌なんだよなんだよ悪いか。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「神夏さん、どう…したんですか」

『まだ痛むのかい?』

「んーんー。ぜーんぜん。ちょっと、ね」

 

検査が終わった頃に四糸乃とよしのんが迎えにきてくれた。

五河士道が晩御飯を作っておくから来てくれ、との事らしい。

 

ルシフェルが確実に居るだろうが、それ以上に頭の中を別のことが支配していた。

 

 

 

(神夏ギル、今一度確認したいんだが、ルシフェルは君に7割の力を返した。そうだね?)

 

(はい。それは確かです)

 

(そうか。それ以外で体に何か違和感はあるかい?)

 

(違和感というか、私の中に王様の存在を全く感じないのと、そもそも今まで感じ取れていた霊力を一切感じ取れなくなったのと霊力を一切扱えないですね。何か検査で分かったんです?)

 

(詳しくは分からない。私たちの観測機器でも、君から一切の霊力を感知できない。普段みたく、霊力を隠しているわけではないんだろう?)

 

(ええ)

 

(一つだけ、異常は見つかるには見つかった。君がずっと痛みを感じていたその右腕と、胸に)

 

(まあ、そりゃ異常はありますよね。で、どんな異常で?)

 

(()()()()())

 

(はい?)

 

(わからないんだ。というより断言ができない、が正しい。そこに何かがあるだろうというのは分かる。明らかに刺さっているような状態だからね。けど、いくら検査しても何も無いし、そこにあるのは鎖のようなものを埋め込まれたと言えばいいのか、何かがある痕だけなんだ。君の使える能力で鎖といえば、私たちは一つしか思い当たるものがないし、それならば全部辻褄は合う。君の違和感を聞くまで、はだが)

 

(鎖……天の鎖ですかね?王様が使っておられて、不可視化にしてれば、確かに全部辻褄合いますけど……。でも前は天の鎖を王様からの罰で縛られたことはありますが、その時は王様の存在はちゃんと感じ取れていました)

 

(そう。それに前琴里が似た状況になった際も検査をしたのだが、琴里の場合は霊力を使えないと言うよりは強引に抑え込まれていたに近い。霊力は確かに扱えなくなっていたが、観測ができなくなったわけじゃない。ともかく、この件に関しては再度調べてみるとするよ。

 

あと一つ、これは伝えるべきか否か、クルーの中で物議を醸していたが、伝えるべきだと結論に至った)

 

(?)

 

(神夏ギル、君は--------)

 

 

 

「んー既にいい匂いがしてる。すき焼きかな?」

「ほんとです!いい匂い…」

 

五河士道の家に近づくたびに、すき焼きの匂いはより強まる。しばらく何も食べてないから余計にお腹減ってきた。

 

「神夏さん…?」

『入らないのー?』

「いや、うーん。入りづらいというか。色々あった後だし、ね」

 

特に士道とは顔を合わせづらいというか。

 

「……」

 

四糸乃が少し強引に腕を引っ張って中に入れてくれたおかげで、やっと中に入ることができた。

 

「四糸乃は……」

 

「?」

 

「ルシフェルが、怖くないの?あれだけ明確な、人間以上の殺意を直に感じたのに」

 

「怖いです……。でも、十香さんや士道さん、琴里さん、それに神夏さんが守ってくれるって、言ってくれました。だから、大丈夫、です」

 

「……そう。強いね。私はそんなふうに人を信じるのはできなかった」

 

「え?」

 

「何でもないよ。うん、もう大丈夫。行こうか」

 

「はい…!」

 

幸い聞き取れていないようで、四糸乃を先頭に居間までゆっくりと歩く。

 

「士道……さん。お待たせ…しました」

「お待たせ」

「いらっしゃい神夏。四糸乃もありがとうな」

 

台所には士道が立っていて、何かまだ作業をしているらしい。……シンクに壊れた跡があるのは、うん、見なかったことにしよう。

 

「もうすぐ出来るから、待っててくれ」

 

士道に促されてテーブルの近くに座る。

 

「そういえば士道。ルシフェルはどこに行った?」

「ルシフェル?あー、その。急に用事を思い出したって言って、どこかに行ったっきり帰って来てないんだ」

「ふーん。それは残念。いたら今すぐにでも殺してしまおうと思ってたのに」

「おいおい……」

「冗談だよ。少なくとも四糸乃の目の前ではしないよ。

 

 

……今は、ね」

 

 

しばらく経ってから、出来上がった鍋を士道が持ってきてくれる。そのタイミングで琴里や十香、八舞の双子も姿を表した。

 

「ほぅ、黄金の。やっと前と同じになったか」

「安堵。貴女が戻って良かったと、心の底から思います」

 

「いい加減前の私は忘れてよ。頼むから。あと黄金のは辞めて。なんか、うん、恥ずかしい。で、十香は何故にそうも敵対してるの?私何もしてないでしょ」

 

「……なんか、お前と士道が隣同士にいるのが、こう、モヤモヤするのだ」

 

「あっそう。ならこれからは極力、士道からの誘いも断るよ。別に私は士道と一緒にいたいとは微塵も考えてないからね。それでいいかい?」

 

「むぅ……いや、それは違うというか……」

 

「?」

 

「だから、その、違うんだ!いてもいいが、私のいる時にしてもらう!」

 

「はいはい。分かりました」

 

いつもの十香の敵対心を適当に流して、すき焼きの鍋から自分と四糸乃に具材をよそう。

うん、本当に美味しいんだよな士道の料理は。

 

「士道、おかわり」

「はいはい。そいや神夏。一ついいか?」

「ん?」

「大したことじゃないんだけどさ、俺のこと、士道って呼んでくれるようになったんだな、って思って。それが少し気になってさ」

「あーうん、大した意味はないよ。琴里とこれからよく話すことになりそうだからごちゃごちゃになりそうってのと、記憶がなくなってた時の名残り。どーにも、前の五河君呼びも、五河士道呼びも、しっくり来ないんだよね。嫌なら前の呼び方に戻すけど?」

「いやいや、そのままで頼む。気になったって言っても、俺としてはとても嬉しいんだ」

「嬉しい……?変わってるね。そのうち誰かに騙されるんじゃない?あのやたら君に好意寄せてる白髪のASTの人間にとか、ちゃんと気をつけなよ?」

「はは。善処するよ」

 

実のところは、なんか士道呼びでないと、嫌な気になるというか、そんな下らない理由なんだけど、死んでもそれは言わない。

 

今も士道が近くにいないとかなりモヤモヤするし。

何なんだこの気持ちは。

 

「……」

 

「どうしました?」

『そんなに強く握っちゃってー。何かあったのかい?』

 

「えっ?あ、いや、ごめん四糸乃。違うんだけど……無意識、らしい。何で……」

 

四糸乃が食べ終わり、食器を運ぼうと立ち上がった。

 

たったそれだけなはずなのに、私は四糸乃の手を掴んでいた。

 

離そうにも、意思とは真反対に、四糸乃がどこか遠くへいくのではないかという思いが強まって、段々と息が苦しくなってくる。

 

なぜか、目の前の風景と、かつての風景が重なって見える。

 

厳格なはずなのに、頭がそれを理解しようとしない。

 

「はっはっ……」

「神夏さん⁉︎」

「神夏!」

 

心臓が痛い。頭が痛い。なんだこれ。こんな……さっき…まったく……

 

「うぅぅ!あぁっ!」

 

何も、わからなくなった。

 

急に、周りが、真っ暗に。

何も……聞こえ……

 

 

 

 

「神夏……」

 

四糸乃にしがみついていた神夏は、俺を見ると途端にその手を離して、俺の胸にすがった。

 

「ねえ、ねえ、そこに、いる?」

 

神夏は虚な目でずっと似たような事を言いながら誰かの存在をしきりに確認していた。きっと探してる人は俺じゃない。

 

 

けど、だからと言って何もしないのは意味が違う。

 

 

「ああ。いるよ。だから……」

 

縋っていた神夏の肩を強く抱きしめ、安心させてあげれるような言葉を、必死に紡ぎ出す。

 

「ねえ、マイラ。ずっと、私と、いてくれるって、約束……のに、なんで……」

 

「ずっと一緒にいるから、安心してくれ」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。

 

私のせいだって、本当はわかってる。私が嘘をついていたからだって、本当はわかってる。

 

ずっと、謝りたかったのに。謝れなかった。

嘘をついていてごめんなさいって、謝りたかった。

でもできなかった。きっと、本当のことを話したら私の元から消えちゃうんじゃないかって、怖くて、ずっと言えなかった。

 

ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「神夏」

 

「……?」

 

泣き崩れていた神夏の肩を少し持ち上げ、神夏の顔を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫だ。何があっても俺は神夏の味方だ。何があろうと、たとえ神夏に殺されそうになっても、俺は神夏の傍に居続けるよ。絶対に、寂しい思いなんてさせない」

 

「でも、でも、私の周りからは、みんな……みんな、いなくなっていく」

 

「俺は絶対にいなくならない」

 

「みんな、みんなそう言った。でも……」

 

「じゃあここで約束をするよ。俺は絶対に君を見捨てないし、君を裏切らないし、君に寂しい思いはさせない」

 

「……本当?」

 

「ああ」

 

神夏は少し困惑しながら俺に向かって小指を差し出してくる。

 

「指切り、して欲しい」

 

その言葉を聞いてすぐに理解し、神夏の小指に自分の小指を絡ませる。

 

「約束だ。俺は絶対に君を、見捨てない。何があっても、君を助ける。だから神夏も俺を、信じてくれ。俺との、約束だ」

 

「うん……うん……」

 






「やあやあ覗き魔」

「……いつからバレていたんですの。そんな素振りはなかったはずですわ」

「士道と共にいる時からかな。監視の仕方が雑すぎるんだよ。もう少し殺気を抑えた方がいいんじゃない?」

ずっと見張っていたザフキエルの分身体と自身を囲うように、本体に情報が行き渡らないように霊力の壁を張る。これならザフキエル本体が来ることはない。

「そうですわね。わたくしたちには、もう少しアグレッシブに貴女の首を狙えと、言っておくとしますわ」

「そうするといい。それだと私としても殺しやすいからね。手始めに、うん。君は喰べさせてもらおうかな」

「あらあら。わたくしの真似事はよしてくださいまし?とっても、とぉぉっても不愉快ですわ」


「ああ、だからこの言い回しを選んだんだよ。私とて君みたいなマガイモノを喰べるのは死んでも嫌だが、今はそうも言ってられない。それに、本体じゃなく、分身体である君なら、色々と都合がいい。精々這いつくばって逃げなよ。……来い『堕天王(ルシフェル)』。うん、分身体とはいえ、君の霊力は美味しそうだ」

サブタイトルあったほうがいい?

  • あったほうがいい
  • 無くてもいい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。