東方 ~少年の見た幻想~   作:クロス・アラベル

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……始まりは突然に……


そして誰もいなくなった。

 

 

 

 

あなたは『そして誰もいなくなった』という小説をご存知だろうか。

 

アガサ・クリスティー作の長編推理小説で世界でもとても有名な作品だ。日本でもオリジナルのドラマが放送されたほどだ。

 

これは僕のお気に入りの小説の1つでもある。

 

僕はこの小説の中の登場人物、『ヴェラ・エリザベス・クレイソーン』の考えた事が分かる気がする。一人、また一人と殺されていき、最後にはその島には自分しか存在しなくなる。とても寂しいし、悲しい。孤独を感じてもそれを誰かに聞いてもらうことさえできない。

 

何故分かるか。

 

 

 

それは……今、僕がこの地球に一人しかいないからだ。

 

 

 

これは単なる推測。だが、そう考えるのが妥当だと僕は思う。

 

少なくともこの街には人はいない。お隣のインターホンを押しても誰も出ないし、デパートやコンビニ、カラオケに行っても客はおろか店員すらいない。病院も同じだった。看護師も患者もまるで人の存在が一瞬にして消えてしまったようだった。

 

今や、どこの誰に、たとえ政府の機関であっても電話も繋がらない。

 

しかし、人間がいないのに電気や水道は通っているし、生活には問題ない。だが、テレビもあれからずっと砂嵐状態だし、スマホもうんともすんとも言わない。しかしながら、いくつかの機能が使えないだけで、幸いにもLINEも使えるのは使えるし、カメラもマップも使える。

 

もっと不思議な事に、コンビニやスーパーに売っている食品は何故か腐らない。消費期限を二週間以上過ぎた弁当も色がおかしくなる訳でもなく、カビが生える訳でもない。寧ろ、美味しい。

 

今、この世界では摩訶不思議な異変が起こっている。到底、僕には原因も分からないし、解決はできない。何故こんな事になったのだろうか。

 

 

この異変の始まりは、1ヶ月半前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のとある一軒家。

 

二階から誰かが降りてくる。ドンドンと少しばかりうるさい足音。もう1つは、静かな足音だ。

 

「兄ちゃん、おはよ!今日の朝ご飯は和食?洋食?」

 

「おはよう、夕姫。今日は、和食だよ。」

 

「ナイスタイミング!ボク、今日は和食がいいと思ってたんだ!」

 

二階から降りて来たのは紫がかった黒髪を背中まで伸ばし、髪と同じ色のぱっちりとした瞳。背丈は176cmの僕より40cmほど低い、大きめの声で、活発なそうな少女。

 

「おはよう、お兄ちゃん。いつもありがとね。」

「おはよう、琴音。よく眠れた?」

 

「うん、おかげさまで。」

 

次に降りて来たのは焦げ茶色の髪を肩まで伸ばした少女。瞳も同じ焦げ茶色で背丈は僕より15cmほど低い。彼女は中学三年生だ。

 

「夕姫、琴音、顔を洗ったらご飯運ぶの手伝って。」

 

「「はーい」」

 

まだ起きたばかりみたいだけど、今日は目覚めがいい方だ。夕姫はいつも早めに起きることがほとんどだが、琴音はゲームが好きで、たまに夜中までゲームをして目に熊をつけて降りてくることがある。

 

今日の朝ごはんは白ご飯とお味噌汁と焼き鮭、漬け物に卵焼きだ。

 

「あっさごーはんー♪」

「夕姫、気を付けて運んで!こぼしたら夕姫だけ朝ごはん抜きよ。」

 

「大丈夫、ボクそんなにどんくさくないってば!」

 

「うーん………気をつけてよ、夕姫。」

 

「に、兄ちゃんまで!?」

 

いつもの調子だし、なんの変わりもない朝だった。

 

 

 

「「行ってきまーす!」」

 

「行ってらっしゃい!」

 

小学4年生の夕姫と中学3年生の琴音がいつも先に登校するので最後に家を出るのは僕だ。

 

妹達が行ってしまったので、家の中はとても静かだ。いつもこの時間は静かに新聞を読みながら、コーヒーなんかを飲むのが日課で、今日もその例外ではない。

 

と、言っても僕はそこまでゆっくり出来る訳ではない。僕はまだ高校二年生、学校に行かなければならない。

 

新聞を読んで20分後、僕は支度をして家を出た。

 

「…………」

 

今日も天気が良い。春らしい天気だ。

 

「早く行かないとね………カズにドヤされる……」

 

『カズ』と言うのは僕の幼馴染みで唯一と言っても良いほどの親友だ。

 

自転車に乗り、いつもより少しスピードをあげて走った。

 

 

少年移動中……

 

 

先に学校に着いたのは僕だったようだ。カズはまだ来ていないらしい。

 

すると、

 

「おーい!」

 

大声が聞こえてきた。

 

「噂をすれば……」

 

「はあ、はあ、はあ………ごめん、遅くなって………!」

 

「良いよ、いつもの事だしね。」

 

「グサッ、と来るな……心が痛むぜ……」

 

彼の名は『真田 和真』。世に言う腐れ縁の親友で、成績優秀、運動神経抜群で一見、パーフェクトヒューマンに見える……………が、少なくともパーフェクトではない。弱点は多く、時間に疎く、短気で何事も早く終わらせようとする癖がある。ただし、曲がった事はあまり好まない。かれこれ12年の付き合いだ。

 

「よっしゃ、今日も一日頑張るか!」

「その勢いで授業中に居眠りしないように頑張って。」

 

「辛辣ぅぅぅう!?」

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「はーい、それでは出席をとります。」

 

朝礼の出席とりが始まった。今日は一人休みなのか、廊下側の一番後ろの席が空いていた。僕は窓側の一番後ろなので誰が休んでいるかがわかる。あの席にいたのは………瀧さんだ。このクラスで一番背が高く、189cmあるらしい。

 

名前を呼んでいき、とうとう最後の人まで言った。

 

…………違う。おかしいな……瀧さんを呼んでない………僕達の担任の先生は毎日の癖でいつもクラスの全生徒の名前を呼ぶ筈だ。一応知らせておこう。

 

「先生、一人休みの人がいますよ。」

 

「休み?………休みなんか誰もいませんよ?」

 

「えっ?だってそこの瀧さんの席が空いてますよ」

 

「………何言ってるの?そこの席は元々空席ですよ。それに………瀧さんって誰ですか?」

 

「………ええっ?」

 

『何言ってんだ?』

 

『まさか、お前が冗談を言うなんてな……』

 

「…………すいません……気のせいでした……」

 

『『『あははははははははははは!!』』』

 

………あれ?なんで……みんな瀧さんを知らないの?

 

まさか……冗談とかドッキリかな?にしては酷いなぁ……

 

 

 

 

「どうした?お前らしくないじゃん。冗談でみんなを笑わせようとでもしたか?」

 

朝礼が終わってから、カズが声をかけてきた。

 

「……違うよ。カズ、ホントに瀧さんのこと知らない?」

 

「知らんな……ていうか、瀧なんてやつこの学校にいたっけ?」

 

カズも同じ反応だ。カズは嘘をつく時、髪の毛をいじる癖がある。その癖のことは誰にも話していないので、カズは知らないはずだ。今はそんなしぐさを全く見せないので嘘じゃない。

 

「………」

 

「今日の朝礼テストどうだった?俺自信あるぜ。」

 

「いつものことでしょ?……」

「まあな……おっと、一時間目は歴史か……吉田先生か……あの先生さ、いつもメガネ汚いよなwwあれ一週間ぐらい洗ってないな、絶対ww」

 

カズは平常運転か……一体何が起きてるんだろう……

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「ただいま。」

 

「「おかえり!」」

 

学校が終わり、家に帰ってきた。

 

リビングのドアを開けると、カレーのいい香りが鼻をくすぐる。

 

「今日の夕飯はカレーだよ、お兄ちゃん。」

 

「ありがとう、琴音。いつも助かるよ。」

 

「ボクも作るの手伝ったんだよ!兄ちゃん!」

 

「夕姫もありがとう。」

 

「えへへ……」

 

いつも僕が帰る前に帰ってくる二人は夕食を作ってくれる。僕達には両親がいないため、夕食は夕姫と琴音が、朝食と昼食は僕が作っている。

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます!」」」

 

そして、夕食中に学校と同じようなことを聞くとは思わなかった。

 

「うん、今日も美味しくできたね、琴音、夕姫。」

 

「でしょでしょ!」

 

「良かった、お兄ちゃんがそういってくれるだけで嬉しいよ。」

 

琴音は料理が上手い。が、夕姫が少し残念な腕前で、いつも味付けなんかは琴音が担当してるらしい。

 

今日は夕姫が友達と一緒に遊んだことを楽しそうに話している。

 

「それでね、すみれちゃんといっばい遊んだんだ!凄い楽しかった!」

 

「そっか………よかったね、夕姫。」

 

「……あれ?……そういえば、日向ちゃんとは遊ばなかったの?休みだった?」

 

夕姫にはよく遊ぶ二人の友達がいる。すみれちゃんと日向っていう子。二人は夕姫よりしっかりしてるので、安心して任せられる同級生だ。話しに出てこなかったので、疑問に思い聞いて見た。多分休みだろう。そう思っていた。

 

でも、答えは違った。予想外であり、世に言う『デジャヴ』を感じた。

 

「………何言ってるの、兄ちゃん?『日向』って、誰?」

 

「………え⁉︎……日向ちゃんだよ!いつも一緒に遊んでる子だよ!すみれちゃんと日向ちゃんと一緒に!」

 

「……ボク、日向なんて友達いないよ?」

 

「……⁉︎」

 

「………お兄ちゃん、どうしたの?お兄ちゃんらしくないよ?」

 

……学校の時と同じで、忘れている。存在そのものが消えてしまったように。

 

「………いや、なんでもないよ……」

 

これは、異変の始まりにすぎなかった。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

それから、一週間後。妹である夕姫も琴音も消えてしまった。一日を費やして町中を探した。が、見つかることはなかった。

 

異変が起き始めてから、1ヶ月。恐ろしいことに誰もいない日々になれ、一人で生活している。

 

どうかしているのはわかってはいるものの、この異変の原因はなんなのか、解決方法すらわからない。

 

そして、今日も誰もいない学校で自主学習をし、家に帰って、夕食をした後、二階の僕の部屋で本を読んでいる。

 

………一体、どうなるんだろう。このまま、僕も消えるんだろうか……しかし、今から二週間前に町からほぼ全員、僕を抜いて消えてしまった。それから、二週間も経っているのに、何故僕だけ消えないのか。それも気になるところだ。

 

まぶたが重くなってきた。考え過ぎて疲れたのか、体もだるい。

 

時計をみると12時前だった。そろそろ寝るべきかな?そう考えた、その時。

 

 

不自然にドアが閉まる音がした。そして、誰かが歩いて床が軋むような音。

 

 

「………⁉︎」

 

急いで振り向いた。が、そこには誰もいなかった。

 

「……気のせい?」

 

そう言った、直後。部屋の外、廊下から足音が聞こえる。

 

「……⁉︎」

 

気づいた時には扉を開けていた。

 

そこには誰もいなかったが、階段で下へおりる人影を一瞬見た。

 

「誰ですかッ⁉︎」

 

そう聞いたが、答えずに下の階に降りていった。その姿を追いかけて階段をおりる。

 

階段をおりると、玄関の扉を開ける音がする。

 

玄関に行くと、人がいた。

 

綺麗な金色の長い髪。あまり見ない紫のワンピース。

 

それだけしか、わからなかった。

 

「あなたは………誰ですか?」

 

そう聞いた時、その女性は振り向いてこう言った。

 

『………貴方は一人で寂しくないかしら?』

 

上品な喋り方。顔は暗くて見えなかったが、少し笑っている気がした。

 

「さみしいですよ……でも、誰もいないんです………僕とあなた以外…」

 

『………そう…』

 

「………あなたは知ってるんですか?この異変の原因……解決方法を……」

 

『………残念ながら、どちらとも私には分からないわ。』

 

「……そう、ですか………」

 

『……貴方、私達の世界にいらっしゃらない?』

 

「………世界?」

 

私達の……と言ったけれど………訳が分からない話しが出てきた。

 

『ええ。《幻想郷》というところなんだけれども……』

 

「……幻想…郷………」

 

幻想郷。そんな言葉、聞いたことがない。

 

『幻想郷は全てを受け入れるわ。……貴方も、ね。』

 

「………僕がそこにいって、何のメリットがあるんですか?」

 

『……一人では無くなるわ。人はたくさんいるし……少なくとも、暇では無くなるわね……後一つ………私がこの世界の異変を解決してあげるわ。』

 

「…!」

 

『……その間、幻想郷で暮らさない?』

 

「……」

 

そう言われて、僕はその《幻想郷》と言う世界に興味を持った。

 

「………分かりました、行きます。」

 

『………そう、良かったわ……それじゃあ、今すぐにとは言わないわ。……準備も兼ねて…そうね……明日の8時、またこの家に来るわ。いいわね?』

 

「……はい。」

 

『それじゃあ、また明日。』

 

そう言って、その女性は家から出て行きました。

 

「……あ、名前聞くの忘れてた……まあ、いいか…………」

 

その後、僕はリュックサックに必要そうなものを入れ、準備も済まして明日に向けて寝た。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

そして、約束の時間。

 

チャイムが鳴ったのは8時ぴったりだった。

 

『じゃあ、行きましょうか。』

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

『幻想郷に行く前にいくつか助言をしておくわ。』

 

「助言、ですか?」

 

『ええ。一つ、幻想郷についたら、博麗神社に行くこと。博麗神社ではできるだけ多くの賽銭をすることをオススメするわ。』

 

「………博麗、神社……」

 

『一つ、幻想郷には人間を食う妖怪がいるの。気をつけた方がいいわ。』

 

「……妖怪……」

 

『それぐらいかしら……後は博麗神社の巫女に聞いてちょうだい。』

 

「……分かりました。」

 

『それでは……幻想郷にお一人様ご案内。』

 

女性がそう言った時、僕の目の前に変な裂け目のようなものが現れた。

 

その裂け目の中に向かって歩き出す。

 

『……そういえば、貴方の名前を聞いてなかったわね……最後に聞いておいていいかしら?』

 

そして、裂け目に完全に入った時、その女性は僕の名前を今更だが、聞いてきた。そして、僕は答える。

 

「……瑠奈。霜咲 瑠奈です。」

 

僕は霜咲瑠奈。普通の高校二年生だ。

 

僕は今、異世界への道を歩く。

 

まだ見ぬ世界、《幻想郷》へ……

 

 






次回 『幻想郷と瑠奈』
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