烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど!   作:ぴんぽんだっしゅ

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10.手合い

きぃえええぇええええええっ!

 

烈迫の気合とともに打ち込まれる正上段。

 

それを、

 

「ひっ」

 

「あっ」

 

「はぁーっ」

 

すんでのとこでかわす。

爺との稽古。あれは本気で打ち込むのは一発としてなかったんだなーと感じてます。

マジ震いで両手で握った木刀の切っ先がブレてる。

 

稽古でならまいったさせることが出来た、爺の。爺じゃなくなって宿老・吉田孝頼となって敵に向かうシーンを今間近に見てるのです。

これでその敵が小昼ではなかったらどんなに頼もしく映ったことか。

敵に回すと、ただただ恐ろしいだけです。

ぴんと跳ねた鼻の下の口ひげですら威圧感あります、普段はそんなこと思ったこと無いのに。これこそが、殺気!という奴なんでしょうね。

 

「ううっ!」

 

いや、考えてるより。避けること。避けるより打ち込むことを考えないといつまでも終わりませんよ。

 

とは、いえ。長引かせられればそれだけで吉田孝頼より優位に立てます。ええ、爺は爺なのです、若さで大勝利しているのですよ。

 

「はぁっ」

 

とか言ってる内にも、必殺と書いて必ず殺す一撃が振り下ろされ、

 

やぁあああああああっ!

 

「おおっ」

 

そのたびに怖じ気づきそうな、普段とのギャップに戸惑う心に奮い立たせるのに必死になってるんですが。

若さで大勝利しているからと言って、絶対勝てると誰が言った。小昼、勝てる気がしませんよ。

 

正上段から打ち込むと、返す刀ですかさず払い胴。

それを刀を寝かせて両手で受けてようやく止めれる。

ほんと、武士は歳をとっても武士だねー。単純に筋肉量でも負けてるから、本気で小娘が勝てる気がしない。

 

「ま、まいり──」

 

「まだまだぁあああーっ!」

 

いや、タップしようとしたんですって。

それを吉田孝頼はさせてくれません。

構えを解いて握った木刀を下げた所を、木刀の切っ先を小昼の木刀の切っ先に当てて打ち上げ、無理矢理に構えを戻させる、と。

 

これをやられるだけで腕がしびれる。

もうやれるだけのことは試して、やられっぱなしなので後は降参するか。爺の体力の衰えを待って逆襲するか。くらいしか選択肢がなかったりするのですが、吉田孝頼はまいったをさせてくれません。成立させてくれません。

 

木刀を投げ捨てて踞るのも手としてありますが、流石にそれをやってしまうと周囲に吉田重俊、江村親家、吉田康俊、国康、家康叔父上ズ、中島親吉、広井さん、他家臣団に。長宗我部三兄弟、つまり弥三郎にいさまに親泰、親貞も見ています。見られている……。

 

三兄弟は言ってみればこの世界でイレギュラーな小昼の最初の友達であり、最初の生徒でもあり。

そんな三兄弟たちにみっともない姿だけを見せたくは無かった。

 

なので、吉田孝頼が認める形の終わりじゃないと終われないのです。兄弟姉妹の意地かも知れません。

 

ぐぐっ。

三兄弟の座っているのは今丁度、吉田孝頼の肩越しに見える位置で。その時視線がぶつかりました。

次の瞬間、それまで苦い顔をして観戦していたにいさまが眉を釣り上げて叫んだのです。

 

「なにやりよるにゃあ!それでも、武士かにゃっ!本気出せぇーっ」

 

三兄弟は小昼の生徒であり、友達であり、おもちゃでした。小さい時から猫語に近い土佐弁に仕込んでます。お陰でにゃあにゃあ可愛いのなんの♪

 

父上のにゃあにゃあは三兄弟の影響です。小昼はさすがに虎の餌付けはしてませんよ。

 

えと、何が言いたいのかと言うと──にいさまが叫んだのです。普段から、モゴモゴ言ってるだけでちゃんと喋ることも少なく、青瓢箪みたいな弥三郎にいさまが。

それは、空気を変えるには充分すぎる隙を吉田孝頼に作らせたんですって。

 

爺も弥三郎にいさまの不甲斐なさを心配してましたから、その場全体に響くほどの覇気ある叫び声に感慨無量なとこがあったのかも知れません。

勝負の決着は一瞬で着きました。

 

「隙ありぃいいいっ!」

 

何気に言いたかった一言をマジで叫べました。

 

この瞬間、この隙しかないというヒトコマ。

 

まさに瞬くような時間。

 

隙を逃してはならないと脳内が叫びます。

時が止まったように爺の、吉田孝頼の小手を中段の構えをしたまま動きが緩んだその隙に一気に間隔を詰めた小昼が木刀を握った指を叩きました。

 

真剣なら指斬って落としてる指切りが決まったのです、それはもう見事に。

自然、カランっカランと木刀は握った手から爺の足元に転び落ちました。ニュートンさん仕事してますね。

これで、死ぬ気の手合いは勝負が決したのでした。

 

 

 

 

やぁあああっ!

 

小手を決めるとまた止まったように感じた周囲の時間が戻って来て、動き始めます。

 

「どうです?爺。爺は指を切り落とされているのです。ですから、やり返すことは出来なくなったでしょ?わたしの勝ち……ですね!」

 

「強く、なりましたな元親どのは。この孝頼、まいりましたぞ」

 

太い木刀。向き合う二人が互いに握るそれは立派に凶器。

あーと色々あって爺をまいったさせた。

 

周囲の観戦した家臣団から、一門衆からワッと歓声が上がったのを最後に緊張の糸が切れたのか、膝がガクガクと笑いだし、その場に座り込む。へたっと。

腰から柔らかい土の上に座り込んでようやく。

 

「やった。えへへへ……爺に、吉田孝頼に勝った!めちゃめちゃに怖かったけど、勝てた!やった、やった……やった!」

 

やったね。これで、前々から言ってた初陣が決まった。

 

相手は西内。山田の五家老だ。だけど、山田って当主が遊興三昧で戦が勝てなくなって、この西内にほとんど実権握られるようになるんだったよ。本来なら。だけど、この世界だけ若干違うみたいで西内が猛将なのは変わらない。けど、山田元義がやんちゃなとこが本来と違う。

 

本来ならさくさくっと倒してる天竺や、細川なんかが息してる時点で。あーこれって小昼が嫁入り断ったからなんだなって思うよ。

 

小昼の嫁入りで準一門化した池と攻めとった細川の領地とで戦力がいまの倍以上になってるはずだもん、単純計算で。

 

それが無いからな。

 

我が長宗我部に優秀な人材を遊ばせておく余裕は無いんだ。

何にせよ、既成事実をつくって弥三郎を完封する。

にいさまがでしゃばると家が傾くような政をやるってわかってるもんね。

 

あーその為にも周辺で生意気な真似をしてくれてる山田を攻めよう。

 

本山はまだ刺激したくないから、その辺の勝ち方も重要だと思う。まーやってみないと判らないか。

敵は西内。丸に三つ柏、だったっけ?西内の陣旗って?

 

 

山田なら剣片喰。どっちが出るかなー?




戦闘シーンにちゃんとなってるか心配……

ここまで読んでくれてありがとう!


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