烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど!   作:ぴんぽんだっしゅ

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12.渦の中心にはいつも

西内を向かえ撃つと決定が下った夜。

月の光差し込む自身の屋敷のさっぱりとした廊下に腰を降ろし月光浴と洒落こんでいたわけではなかろうが吉田孝頼はちびちびと酒を手酌しながら楽しんでいた。

 

「昔は、……姫様はこんなに小さくて。……腰を折らねば目線が合うこともなかった……ん?いや思い違いかね」

 

あの姫様だ……初顔合わせからじぃぃと顔を覗き込んできたのではないかと酔った老将は思い直した。思えば、おかしな姫様だった。

 

「幼少の折、乳母や侍女を撒いてまで野山を駆けていましたな。どこを探してもそんな姫など居はしますまいよ。小昼以外には。耳にした事も無い、せっかく姫に生まれたのですからその綺麗な顔に傷などつけたらなんとするのです?いや……小さな童の頃はその通りだった。いつ見ても草葉か樹の枝かのいずれで引っ掻いたのか……顔も肌も引っ掻き傷ばかりつけておりましたな」

 

およそ、姫には似つかわしくない傷を肌のいたる所には無数につけていて侍女が己の不幸を恨みながら卒倒することもあったの。そんな昔の事をしみじみと懐かしく思いながら月に、握った升を差し出す。

 

「そんな姫様も明日には初陣。武士となったのだ、何時かはその時はくる。経験を姫様と言えど積まねば生き残れぬ。……戦場には、絶対勝つ、絶対敗ける、絶対生きる。それら、絶対などいう言葉、御座いませんぞ!──この、孝頼の先には死なせはしませぬ。絶対は戦場には御座いませぬが、姫様にだけは西内の汚い手を触れさせはしませぬ。月の、お月様に誓いましょうや」

 

滔々(とうとう)と誰に聞かせるわけでも無い独り言。

酔って、その熱で、想いの全てが零れ出していた。孝頼はそれに気づかずに升を口に持っていきぐいと傾けて少なくなってきた中身の液体を流し込む。冷たく冷えていたが、喉でひどく熱を持つように感じていた。辛口の酒だ。

 

「ふふ、そう言えばこの酒も姫様の作では無かったか?大明神から出たには出たが、裏には小昼が絡んでおったと耳にしたような」

 

寺子屋擬きを始めた時、小昼は最初『寺子屋だから、まずは寺でしょう』と安易に寺社に近づき、気付いてみると酒作りを伝授したり、色々と繋がりを作っていた。当初の目的である、寺子屋を開くにはその時は至らなかったが大明神から孝頼はこの時、『あれな姫様は神童だから、しばらく此方で預かりたい』と申し出を受けていた程、当時のしわがれ神主を言い負かして寺社に新たな風をふきいれたのである。孝頼も国親も断らなかったが、当の本人が『写経は古くさいので性に合わない。まー遊びには行くから』と取り付くしまもない程ばっさりと神主の申し出を撫で切りにしたので神主の願いは叶わなかったようである。

 

「神主の紹介で大工衆や鍛冶やら鋳物の職人とも仲良くなにやら始めたのもあの頃でしたか。南蛮のものを欲しがる、変わった童でしたな」

 

小昼は大明神の神主やら太夫の紹介で神社から繋がるありとあらゆる職人にこの時、顔を合わせている。

職人たちからどこでこのような技法を?技術を?と聞かれることがいつもの如く発生したがその都度同じ言葉を返していた。『一条の叔父様のとこで。中村には舟で持ち帰られた未だ見ぬ技法も技術もやってくるのですよ』と。それに職人たちはそりゃそうか、と納得したものだった。

 

一条房基の対民貿易の大成功は知らぬものは居なかった。その一方、一条房基と小昼のべったりな具合はあまり知られていなかったのだが。

 

だからこそ、中村に岡豊のものが知らぬ技法があると言われればそれだけで皆がこうして納得し、信じきってしまうので小昼にとっては非常に助かる魔法の言葉として使い回せたのだ。

 

それだけで終らない。町の中心に広場を作らせダンスを小昼みずから指導して踊らせたのだ。小昼いわく『静か過ぎる、皆が疲れた顔をして歩いているのです。皆の顔に笑顔を取り戻すには──ダンスと有れば歌です!』なんとも無茶苦茶な姫様であった。

 

壇州(ダンス)とは沢山あって南蛮では毎日毎夜踊られている、と小昼は孝頼に説明を求められて答えている。

歌が欲しい、と道すがら思い付く歌詞(フレーズ)を教えてと小昼は岡豊の人々の声を聞き、それを取り入れた歌を作っている。

 

それから広場では毎日のようにその歌が流れることになった。『岡豊サンバ』という。岡豊はもちろん、安芸や大平、同盟筋の片岡にも広まっていくことになるのだがその話は特に意味は無いので、忘れてくれていい。娯楽と楽しそうなことは広まっていくのが他よりとても早いと言うことなので。

 

「サンバとな……なんですか、それは」

 

「時代物の舞踊と言えば……判るわね?あれしかないじゃない、マツ◯ンサンバなのですよ」

 

孝頼が不思議と思って聞くとそれに返ってきた小昼の言葉は態度は酷く興奮したものだった。普段の約三割増で。歴女である小昼は、もちろん八代将軍が暴れまわるあのバッサバッサのチャンバラを披露するこれぞ時代劇というあの番組のファンだった。再放送だろうが。

つまり、そこから繋がって主役の俳優のことも好物にしていたのだろう。

 

「判るわね、と申されても。一条さまにそのような御趣味はございましたかな?はて、この爺は耳にしておりませんな」

 

「な、……解せぬ」

 

しかし、そのことを孝頼はもちろんこの時代の誰も知らない。とかいっても、小昼の取り入れたサンバは賑やかな舞踊として民に染み込んでいったこと事態は小さな童の思惑の一面としては大成功である。吐いた言葉とは裏腹にやってやったと顔は笑っていた。

 

「舞踊好きの山田元義があれなサンバを見て、これは舞踊ではない!が、心ここにあらずという気持ちはある。といったとか。ふふ、味方だけでは飽きたらず敵までを踊らせる、姫様の才覚は衰えを知りませんでしたな」

 

ダンスにかこつけて仇敵であるはずの山田を引っ張り出して岡豊に縛り付けるに成功していたのである。

これには微妙な誤算も付いてきた。山田元義は中村式舞踊(民衆がそう呼んだ)を気に入り、一時同盟を嘆願してきたのである。

 

冷たい視線を投げつける国親の前で、小昼のことをベタ誉めにし山田元義は期限付きでも良いから、舞踊を学んで自分のものとしたい。と岡豊に滞在して踊り惚けていたのである。

山田元義は仇敵、山田の当主である。苦々しくも実力の足りなかった国親はこの申し出に応とする。YESと答えたようなものだった。

 

小昼と山田元義の接点を作るのは父として腹立たしく、おまけに仇敵なのである。

腹の中は暗く溶けるような熱で煮えくり返っていた。

 

『その首、必ずや父上、ごるいるいの先祖の墓前に本山と吉良の首と共に並べて供えとしてくれるぞ』殺気を出来るだけ殺して、同盟を受けておきながら殺す事しか考えてない復讐の鬼、それが国親を国親足らしめていたといって過言では無かったのです。

長宗我部兼序が寺領を助けて取り戻そうと働いたことを逆怨みして徒党を組んだ反兼序連合軍によって長宗我部は一度滅亡している。

これは、先祖に対しても恥ずべき異常事態でその辱しめを注いで綺麗さっぱりするためには連合軍の歴々の首を墓前に並べ、それを供養とすると国親は国親なりに考えていたのだ。

 

「元義は何年後かには舞踊を持ち帰って、同盟も切れた。今なれば殿の。いや、長宗我部全体の悲願の一婁にようやっと取り掛かれる」

 

山田元義との同盟は決して本来の同盟のやくわりを果たさなかった。

元義の家臣と、当人の元義との間では空気が全く違っていたので、山田が岡豊に攻めかかることは無かったかも知れないが山田の兵が悪さを働いてもおとがめなしといった有り様だった。

といっても、お陰で香宗我部が怒って襲いかかってくる事態になっても同門である山田の香宗我部への援軍を気にすることは無くなったのは大きかったようだ。

岡豊の喉元まで攻め行った香宗我部は岡豊を無視して本山へ強襲を掛けてはいたが領内での勝手はさすがに目に余る、と長宗我部国親も吉田重俊ら一団を派遣して香宗我部を撤退させる。

「思い返せば……。あちこちを引っ掻き廻している渦の中心にいるのは、いつも姫様でした」

 

酔いが回ってきた孝頼は廊下に大の字に寝転がって笑う。実の子ではなかったが、実の娘より手を焼かされ、手をかけたまさに掌中の宝でもあった。そんな小昼が明日は初陣とあって思いもひとしおだったのである。そして、孝頼のまどろみはまだ続く。




ここまで読んでくれてありがとう!バトルしーんは苦手なので伸ばし伸ばしに更新しているのがみえみえになってたり───
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