烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
どたばたはしましたが初陣。そして、戦が終わりました。
そうなると、はい、次は何が待っていますか?ってことなのです。
そうです、論功行賞ですよ。
陣を張った妙典寺に帰ってきてガヤガヤわいわいと、喜びを噛み締めた後のこと。
誰がどれだけの働きをしたから誰に何を渡すかを話し合うと思ってたら、勝ったとはいえ追い返して御仕舞いになった訳で……。
判ってはいたけど。
取った物が無いのであっさりと終わる。地味に。
そのまま反省会に突入してく訳です。はい。
「元親どの、言うことは御座いますかな?」
(謝ることあんじゃないのか、姫様よ)
「や、舞い上がってしまった。忠告も聞くべきだったな」
(爺、勝ったからいいじゃん。仕掛けも上手くいってくれたし)
用意された椅子に座ると早速、爺の小言が炸裂する。
兜を脱いだ爺は汗に浮いたしわがれ顔で渋い表情。
んん、まぁ。小昼も、一騎駆けで奇襲したは良いものの、西内元友に押し負けていたんだから、それを後ろから見ている爺はひとたまりもなかっただろうし、だから素直に受け止める。謝らないけど。
「敵陣にひとり突出するというのは、とても危険なことですぞ。……元親どのが大事になっていないからよいものの、ひとつ間違えば落馬し、西内の身になっていたのは元親どのだったのかも知れませぬ。足軽によって貫かれ討死しておったのですぞ!」
「突出したというのは、間違いでしょう。味方も西内の兵に既に取り付いて合戦になっていたはず。すぐに伏兵からの支援があることも先に纏めて置いたでしょう。敵に負ける線は消していたんだから。あとは指揮官の、敵の首を取って仕上げとするだけだったのですよ」
爺の説教に反撃の石礫をお見舞いしてやった。
確かに落馬しないとは言えないけど。西内元友の不様な姿に自分の姿がダブる。
転んで足軽と斬り合う羽目になったかも知れない、けど。
敵の数が大体予想がついていたから、よって何も考えずに旗を持って矢を射るだけ、最悪当たらなくてもいいからそれだけをお願いして、伏兵を周囲に先に隠しておいたんだから。
「城下にて雇ったごろつきや河原者を使ったのは見事で御座いました。しかし、我らが当たってから後ろに詰める元親どのが、万を持して出陣で良かったのでは?そうであれば、肝を冷やすことも無かったのですぞ」
爺の適格にダメなとこを突いてくる小言。小昼のこと、良く見ていてくれるからこその親心からの本心が垣間見えて目を合わせられない。
そうなると、次第に目線は自然と、下がっていくわけでありまして。
「まあまあ、吉田どの。結果的に勝ったから良いではないか。若いのだ、血気に盛るとあのような真似は誰でもするものだよ。まして、初陣ならば緊張の度合いが違うだろう。あの姿、若かりし頃の自分を見ているようだった、しかし……」
爺の恨み言の応酬に手のひらをぎゅっと握りしめながら黙って俯いていると、横やりを入れて来た声があった。
その声に釣られて、頭をあげるとゴツイ凄みのある顔がそこに。確か、久礼田さん。
立ったまま座っている爺に向けて小昼のフォローをしてくれているみたい。なんていい人だ。これで、小言を聞かされるのも終わりかな?
悪いとは思ってはいても説教が長いのよ、爺は。
この久礼田さん、西内にちょっかいを掛けられていた張本人と言えなくもない。
久礼田村はこの久礼田さんの領地。数度に渡る焼き働きの挑発で、植えたばかりの稲や畑を荒らされたり焼かれたりして被害に合ってる。そんなわけで一番頭に来てるはずの。
その久礼田さんがこっちに目線を下げ、座っている小昼と眼が合う。
マジな眼だ。怒りからではない、悲しみや呆れでもない、心配してくれる眼をしていたのですよ。
「元親どの、結果良かったもの……殿になんと詫びれば良いかわからぬことになっていたかも知れんのだ。
勝手な振る舞いは二度はしてくれるな。吉田どのも儂も肝を冷やしたのは同じだからな」
爺の小言に、久礼田さんまで加わっては二倍でグサリと小昼の胸に刺さってきます。
「……」
言い返す言葉が今の小昼では見付けられません。こんな眼を向けられてまだ何か言える、そんな憎まれ役をするつもりも無い。
戦国なのです、一歩先は死地の戦場で摘めた手筈通りに動かないと死ぬかも知れないし周りも迷惑するってわけです。
「申し訳なく、出過ぎた真似でした……」
経験豊富な武将二人に完敗なのでした。きっちりと。頭を下げ、非礼でしたね、と詫びることにしますか。
大将首でも挙げていればまだ違っていたかも、なんですけどね。
この初陣自体、経験を積ませる意味があるだけで、戦の空気に触れてこいって父上にも送り出されたわけでした。何も功をあげてこいなんて言われてなかったんでしたよ。
初陣って、言ってみれば車輪付きの自転車で。転ばないように、怪我しないように周りから支えて貰ってる状態と似てます。
御膳立てをしてるんだから、それ以上のことをしなくていいって言われるのを受けとめ納得。
出過ぎた事をして、二人を心配させちゃいましたね、すいませんって気持ちからの謝罪なのです。
ここで一転、空気が変わります。重苦しい空気で説教モードだったのが目の前の二人からこらえ笑いが聞こえてくるので、顔をあげて爺や久礼田さんを見ると表情が和らいで、こんなもんで許してやるかって顔で、小昼を見る眼で語ってた。ふう……なんとか、修羅場は乗りきったぜ。
負ける気なんて、最初から無いわけなんです。
妙典寺での戦いは、戦いと呼んでいいのか判らないくらいの小競り合いでしたが両陣ともに死者も出てますし、後々知るのですが負傷者も多く、農民にどうしても被害が出てしまっていたのですよ。
見事に罠に飛び込んだ西内はそこに居るはずとは思ってもない伏兵に驚いて、逃げ道が無くなるって陣を崩して散り散りになったんだ。
そこでこれです。捕虜を幾人か捕らえているって訳なのですよ。
「ふん、敗者の集まりがこのような下衆の奇策など次は無いからな!」
「どうする?これ、斬っちゃう?」
「人質ですよ、銭や馬に変わるので斬ってはダメです」
引き続き、妙典寺の境内。
長宗我部の面々の視線の先には縄でぐるぐる巻きに縛られた西内の兵。
足軽に混じって二人ほど鎧姿の侍が。
この二人が胡座に座って吠えているとこだったりする。
この内のひとりは西内元友の弟で三男の西内今景という。残りのもう一人はこの三男の従者だという。近習って聞くとなるほどと納得。
「人質か……納得したよ。ちょっと借りていい?」
「殿に届けて沙汰が決まってからなら、一向に構わぬぞ」
「元親どの、何を始める気で?」
「あー何、ちょっと……教育をと思ってね」
久礼田さんの顔色を窺ってそう尋ねれば、久礼田さんは縛られた西内の若侍二人に目を落として特に問題ないと返してくれた。
すると、直ぐ様爺が止めに入る。変な気を起こすなと言うつもりか、斬っちゃえば?と言ったからか。
今すぐ西内と決戦は不味いとでも頭を過ったかな?顔色がしわがれた面に一層血色悪く染まって見える。
小昼の返答で察した爺が、ほうと一息吐くとそれ以上は口を開かなかった。
人質って言われてるんだから、そうすぐヒャッハー!しないから、安心してよ。
なんですが……。なっとくは行かなくっても初陣。
やったね、とは行かないんだ。
やー、やっちゃったね父上。次の戦の相手はなんと、香宗我部。親恭が継ぐはずの名の通った武家もまだ長宗我部のお隣の敵勢力ってわけなのです。
しかも、弱くはないはずのお隣のこの殿様てばなんと戦に負けてまだまだ態勢を立て直せていないってわけで、じゃあ美味しく戴こうとこうなりましたよ。
って、だからこそ香宗我部は長宗我部に下って親恭が継ぐってことになるんじゃないか。んー?あ、これは親恭が初陣だった場面だったりするー?
それがわたし、小昼に回ってきたと……。
何はともあれ、この人質使ってまずは遊びましょうか♪
西内今景─オリキャラ。西内も山田も史実ではあっさり倒されてますから資料に名前が余り無くて。オリキャラはそれこそ好き勝手やってもいいかなって。次回、おもちゃにされます。色々な意味で。
ここまで読んでくれてありがとう!納得はいかない文章になったけど、まいっか。ポチっ!