烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
初めて小昼が房基に出会った切っ掛けは我が家と、我が家のお隣さんである──大津城の、いわばご近所問題。
復興してすぐ問題は山積みだった我が家と、お隣さん……天竺家は仲が取り成しようにも悪かったらしい。
「花ァ氏ィイイイ!
大概にしとけよ?その薄ら笑ってる首は軽かねぇんだろうが」
「愚直よな国親。野の虎とはよくぞ言うたものよ、知の才は母の肚の中に置き忘れたと見える」
「キサマ、その首すぐにも頂戴するぞ!花氏ッ!」
天竺家は細川家の分家、庶流でその細川家のある田村城や、横山家の花隈城の援軍を頼りに攻めてくる。
何度も何度も。
それを父上は撃退しながらも、怒り心頭。
その暗いエネルギーは間を取り持った一条家の調停を受けても澱みのように残滓が溜まっていく。
「許さんぞ、許さんぞ許さんぞ許さんぞぉ!花氏!」
それは二度と滅亡などさせられてたまるかという父上の意地だし、武士の矜持とでもあったんだろう。
つもり積もったそれが噴出して、総攻撃があったのです。
一門を束ね、一族総出で大津を落としました。
これで天竺を滅ぼせたし、大津も手に入った。ホクホクなのです。
処が……。
当主、天竺花氏は取り逃しているし。
天竺家の残党が細川を毎度の事のように頼ったその結果。細川家は一条に和議の調停を申し入れて、天竺花氏は大津に復権。
但し、一条家が代官として津野さんを赴任。
これも一条と戦って負けて服属したばかりの事で、働き振りを見せろ的な計らいもあってのことかも知れません。
それは小昼にあんまり関係無いことだったんですけどね。
天竺家に興味余り無いし、確かに大津は欲しいですよ?川を下って入江から海に出れるから大津あれば海運に力発揮出来ますし。
でも、一条とガチでやりあうのは父上だって違うって思ってるぐらいに恩が我が家にはありましてね。
父上が養育してもらったし、一条房家だけど……母上とくっつけてくれた仲人だし、それも一条房家だけど……領地復興させて御家再興させてくれたし、それだって一条房家だけど。
うん、そんなこともあって、一条家には恩義があって一条家を敵に回してまで、天竺と噛みつき合いしたいと思ってはいなかったんだ父上は。
そこで大津城にてわだかまりの両家を取り持つ手打ち式が催され、そこには一条家当主として戦に明け暮れるもとい、オーバーワークでひいひいいっている一条房基こと、一条の叔父様がもちろん居たという訳。
本当なら天文16年に起きるはずのこの戦、天文15年に起きたのです。
これ、我が家である長宗我部が飛躍する夜戦で重要なイベントだし、割りと歴女内でも有名な合戦だったので、転生直後から気にしてましたはい。
だもんで、直後から違う……何か違うと感じていたのかな。
土佐に産まれ落ちて、今生のねーさまとはしゃいで笑ってバカをし倒した。
それでねーさまは本山へ嫁ぐって時にも、これと同じ違和感を感じていた。
それが何かって事にその場ですぐ気付け無かったんだけど時間がそれを教えてくれて気付けたんだったっけ。
時間が気づかせてくれたって言えば。この房基の大津入りも実際は無かったんだよね、ホントならこの時期、一条家は伊予で戦争してたはずだから。
そんな武闘派な公家の一条房基に会えるチャンスはもう指折り数えるくらいしかない。
そう、放っといたら自殺しちゃうんです。公家として絶頂なくらいに成功して官位は金で買える!をやってみせた実践者。そのくせ、そんな全盛期にあっさりと何の問題もなさそうなのに自殺してしまうんだな〜。
小昼は歩いていける体じゃない、まだ小さい存在だったからこのチャンス逃すものかと、爺を引き連れて参陣しましたよ。ええ、大津城の手打ち式に。
岡豊から近いですもん、大津。
そして、それまで一条さまがとか一条さまがとか我が家を取り巻く上で幾度も一条家の話題が上がったので父上に言っておいたのですよ。
一条さまに会いたい!と。機会があればな、って父上には返されてその時はそれで流されたりしたんでしたっけ。
あれはまだ、喋れるようになったばかりの事でそれは『どうしてこの子はそんなことを気にするんだろう?』なんて変に思われてたりした頃なんですが。
歴史が好きならあってみたいじゃないですか、名君って呼ばれた人物のホントのトコを見たいじゃないですか、違う?
そんな訳で一条房基と会えるって大津に乗り込んだのです。
父上も日頃から一条家の話題の度に言っていたので、小昼が大津にこのタイミングで現れても特に怒ったりはありません。
この機会にって小昼を紹介したのです。
その後、大津城の一室でぶっちゃけました。ええ、父上にも話してない事を全て。です。
それは、自殺を思い止まらせたいとかそんな一心から──こんな金づる逃したら勿体無いじゃん?
本心は至ってシンプル。我が家のビンボーさ加減にうんざりだったのですよ。
房基を何がなんでも失わせない為に、歴史の大きなねじ曲げでもないですけど、必要だった。たぶん、地図書いて見せるだけで言い分信じる房基も、それはどうなのって、どうかしてるぐらいの天然さを醸し出してたと言うしかないけど。
「これはえぞ、で、これはからふと、それでこっちがたかさごなの。で、もちろんのことこの大きいのが明帝国!」
「なんと──して、こちらは?」
「しんたいりく、アメリカ!」
早速、疑いもせず雑に書かれた地図を指差し房基と小昼で。遊びじゃないよ、必死だったんだから。
未来──平成の知識を房基に披露して見せてると突然。ぽつり、と。
それまでの興奮気味の声音から若干トーン下げで訊ねてきた。当然のことで聞きたいことだったのでしょうね。それは、
「で、……俺の死のあと。一条は。我が一条家はどうなる?死ぬ、と言われた今……無性にそれを耳に入れたくなったのだ。いや、ここまでやってきたのだ……」
「ああ、長宗我部のにーさまがまるっと滅ぼしちゃいますよ。四国はにーさまのものになるし」
房基はポカンと呆けてましたね、それ聞いて。聞き方が焦れったいのです。ストレートに『一条はどうなる』でいいじゃないですか。まどろっこしいので即断。即答。
一条は滅んだのよ。
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時が止まっていた。その時が突如として動き出す。
「国親の娘と言ったか。よし、国親殺そう」
「ち、父上はちがうし。いちじょうにおんぎ、かんじてるし!」
大津のお城の一室。
父上と天竺花氏の手打ちを結ぶ為にやってきた房基は、今の今まで魂が抜けていたものが戻ったと思うような風で言い切った。
房基、おまいは仲を取り持ちに来たんだろーが……。
時が戻った瞬間、吐き出すように口走ったその言葉は、底冷えのするゾッと凍りつくような声音だった。
房基はぶっちゃけ切れ長の小さな瞳で整った顔立ちの公家顔、麿顔をしてるんだけど白粉を塗りたくったあのおじゃる丸な白さではない。
目の前の麿さまは怒りを通り越した、何かのように。暗い陰が差した顔付きに変わってしまったのです。
さっきまでは興奮を隠そうとして隠せず、少年のように猫猫しい好奇心を剥き出しにして、小昼に向かって射し込んでいたその切れ長の瞳からの眼差しが。今は。
獰猛で、殺意に充ち満ちた……まるで瞬時になんでも凍り付かせる冷凍ビームみたいで。
「ちちうえのゆいごんがきょーれつで、にーさまは。いだくにはおおきすぎる、たいがんをねがったのですよ──とさとういつという、おおきなゆめです!」
時系列のねじれが始まりますってワケで
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