烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど!   作:ぴんぽんだっしゅ

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34.香宗我部

来ました、香宗我部。

ロマンと古代が棲む地。

 

平成時点では香美(かがみ)とか野市とか呼ばれる地域が香宗我部の領地となる。

香美郡は北部を山田、南部を香宗我部が割拠している形。詳しくは、五十蔵さんとか西内さんとか専頭さんというのも領地をもってあっちに付いたり、こっちに付いたりしているらしい。

 

香宗我部に近年勝ち続けてるのは五十蔵勢で、元々は香宗我部依りの勢力だったとか。

どこの勢力も泥舟には乗りたくないってわかんだね、小昼だって沈みかけの船は勘弁なのです。

 

今はそれが、香宗我部です。

小昼が言うとこの泥舟は、任された香宗我部なのですよ。

親泰、あなたって史実では凄かったんだね、やっぱりと思わされちゃいました。

 

香宗我部って、香宗川と物部川という大きな川を領地にもってますが、プラスになる処かマイナスになっている物部川。話だけは聞いて措きました、後日、現物を直に見に行くのです。

 

香宗川は流域に村村が起つくらいに恵みの川と聞きました。それでも、野分けな台風と重なると、氾濫して集落を飲み込むなど被害を与えるのだそうですよ。

この村なんかもこっちも又、後日。

 

に、してもこれを聞かせにここまで出迎えた人物が問題だったんだよ。

 

香宗我部秀通って言います。

 

……こないだまでの敵大将なのですよ。

 

そうです。

 

家臣になったとはいえ、孫娘でもおかしくない小昼に愛想笑いを浮かべながら出迎えついでに道々に見えるあれこれのガイドをやってたりする、今、小昼たち一同の先導に立って。

 

小昼達は、岡豊からここまで馬を走らせて半日、物部川には香宗我部に川船を連結させた舟橋を架けさせて物部川の東岸へ到達。

 

そこは水神を祀る古い神社が建ってました。なんという名前の神社なのでしょう?

立て直しが必要なくらいボロい外見の神社でしたが大きさは立派でした。

 

小昼が跳ねられなかった首、池宮肥後守と言うらしいんですね。お爺さんは言いました。今の香宗我部には質を買い戻す金など無いと。

 

わかる気がします。

 

神社は戦国時代は神だのみな処も多くあって、やれ寄進だ、それ寄進だ、って大事にしているものだったんですけどね。

 

岡豊なら大明神。あれは立派な神社だと誇れます。

本山に遠慮しないとなので父上が完璧に直したりは出来ないので、元が立派だというのが大きいんでしょうけど。

 

ここで出迎えた秀通一行数十と合流。対して、こちらは護衛に付けられた江村親家、福留政常を含めて十五名。

特に喧嘩が始まるイベント発生でもなく、無事に神社を後にして、道通りに香宗我部城を目指したのです。

 

ガイドを秀通が務めるのですが、そこは池内さんとか村田さんの立ち位置なのでは?

芦田さんでも充分務めを全うできる。

 

「服属したとは言え、まだまだそれを由としない者も沢山居りますゆえ。万が一の事を想定しての秀通どのが来たのでしょう」

 

「爺、今腰のものを抜かれたら、全滅だよ?判ってる?」

 

「秀通めがそう出たらば、我らは死に。秀通も又一族族滅しますが。そのような手は打ちますまい」

 

「どうだか……。こないだまで殺し合い憎み合い恨み合いした訳でしょ」

 

「左様ですな。親秀どのはそれを嘆いておった、ここだけの話ですが──秀通を暗殺する決断もされたのですよ」

 

「……はあ」

 

「元親どのの此れからに全ては掛かっておりますよ」

 

目の前には城。そのバックには金剛山という小高い山。城の左には、川が流れてます、これがもう一つの川で香宗川ですね。

 

「着きましたぞ、元親どの」

 

「爺、見えてるよ。……に、しても………………これ?」

 

 

 

あとは何もない。そう、城下町が無いよ、香宗我部。

城門を南から、小昼たちは迎え入れられます。

香宗我部の今ある家臣たちでしょう、皆揃って身綺麗な格好で出迎えてくれたのですよ。

 

爺と二人でのひそひせ話も、何ひとつ建設的で無かったわ。思わず小昼の口元からため息も零れてしまっても何ら、おかしくありませんでしたね。

 

うーん、この……。なんとゆーか、田舎侍感の漂うよわっちい城……どーにかなんなかったのかな?

 

えーと、入城しての最初の会談の結果。

小昼が城主をかっさらうことになりました。って、どーしてそーなった?

 

城を差し出すし、領地も差し出すから香宗我部の家名だけは潰さないでくれって泣きつかれました。

父上の、我が家の突きつけた条件丸飲みですね、良い心掛けだと思う。

 

ただし、裏があります。現在の当主は目の前のこの人じゃない。後ろにいる弟でガイドを道すがらしてきた秀通だ。

この秀通が用意した着替えが振り袖なんだよね。

裳着とも言うんでしたっけ。

今のいままで専用襦袢に陣羽織が小昼の正装だったんですよ。

 

振り袖っぽい着物は豪華で見映えよいけど、まるで時代がずれた七五三。

櫛や化粧に細々とした装飾すればホントに七五三にしか見えない。思えない。

歩きづらい、これ。

 

評定を行う広間で会見をしたんだけど、ここ全面板張りだよ。しかも、岡豊は小さく区切って住みわけてたのにこの広間だけでワンフロアぶち抜きと来てる。

 

豪快な甲斐武田の血なのか、単に鎌倉時代から頭の中がアップデートされてないのか。後者だと思うけどね、にしてもだだっ広い。

 

岡豊と比べて、評定の間って十数人は並べたと思うけど香宗我部の城は百人は楽々並べる。

リフォームしないと使い辛いね。小昼の声が下座の奥に座る家臣に届かないまであるよこれは。

 

「拙者の声、聞こえますか?」

 

試しにそう聞いてみたら、全体から「「「『応』」」」と豪快な野太い声が返ってきましたよ。

統治する立場に小昼が任されたと実感した瞬間でした。

背中がぞくり。

悪い意味じゃなくて、良い意味で鳥肌が立ちます。

 

百人からの武士、ううん……ここに入りきらなくて外で土の上に直に正座してる家臣も含めて、二百と少しの武士の責任を受持つ立場に立ったわけなんですから。

 

但し、泥舟と判明してます。少なくとも一千貫は借金を抱えてると見てます。

 

そして、池宮さんの口振りと覚悟から見るに、香宗我部にその一千貫を返せる宛が無いということ。

百貫も宛は無いのかも知れません。

 

秀通がガイドをしながら呟いた愚痴っぽい言葉に、

 

「物部川のこちら側まで大谷、五十蔵に侵入を許してしまい、民は食うに食えなくなっておるのです」

 

なんて事が当主の口から不用意に飛び出す辺り、マジで首が廻らない財政になってるんだって頭を抱えたくなったのですよ。

 

五十蔵は山田勢力。

つまり、山田が香美郡の北側から中央部に伸長して香宗我部側は打つ手が無い。

押し返そうと戦をするも、山田が後詰めをするから勝てる目が無かった。そうなんです、これってつまり。

 

戦に勝ったために我が家は泥舟に乗り込んでしまった。

そう言うことなんですよ。

香宗我部に成り代わって、五十蔵とそのバックの山田とガチでやり合うってことが確定しました。

 

そこに更に、香美郡の東部からは天敵・安芸家に攻勢を掛けられて負けに転んでいるなんて話が出てきたりする。

 

安芸に負けてるのは知ってましたけど、地図を開いて貰って説明を詳しく受けると背中からへたっと倒れ込みそうになっちゃいましたですよ。

 

「えーと、そうなると金剛山は大谷の領地なんですか?」

 

すぐ目の前が金剛山です。ええ、城の目の前がですよ。何を言っているか解らない。小昼もよく解んない。

「北には五十蔵、西には大谷、東に拝原、南に中家と公文家……っ公文!?」

 

だけど、そうです、敵を領内に置いてのほほんとしているのが、今の香宗我部なんですよ。

それにしても、公文……公文ですか。確か、父上が言ってましたよね。

 

公文は天竺の縁故がある、と。天竺が応援を頼めば断れずに毎度毎度やってくると。

 

……え?安芸の領地ですよ。香宗我部の南って、というよりは安芸は赤岡浦と呼ばれる海岸線を維持してるだけで、実行支配していないとのこと。

 

領主は中家と公文家だと言うのです。

……てか、公文てこんな距離を香長平野でもないとこから香長平野の西の端まで参戦してくるんですか、……ご苦労様です。ほんとに。

 

父上の口振りから、物部川沿いくらいに領地あるのかと思ってました。いや、マジで香宗我部来て最大にビックリする瞬間でしたね。

公文家は史実では父上に投降して領地と城を差し出しているんですけど、国親の代でここまで攻め込んでたんですね。

 

つまり、安芸とバチバチ火花を散らしていたって訳なんだなぁ。

 

姫若子・元親の代から安芸と激戦を演じた風に思えますけど、実は国親の、父上の代から姫倉城を巡って月見山を境にしての激しく争うみたいですよ。

 

ある事が有名で公文の事は知ってましたし、父上の家臣だと思い込んでたくらいです。長宗我部の臣下と史実では伝わってて、てっきりそうなんだと。

 

公文が今の小昼のご近所という事実。しかも、姫倉城や月見山の麓に城が、領地・岸本がある。

 

あの公文重忠、あの安芸国虎と小昼が戦で争って、土御門上皇の月見山を奪い取る!

 

そうなると、史実が、今の小昼の肩にのしかかってくる、そんな風に思えて仕方ないったら。

 

パワーバランスで言うと、安芸は東を殆ど治めてて、海部の三好勢を睨める室津城を擁して阿波に攻め行って居ます。

海部室津間は人家の殆どない山間部なので、主なのは海戦だそうですけどね。

 

そう言った状況まで作り上げたのは安芸備後守元親で、国虎の祖父に当たるみたいです。

 

この祖父元親の代の香宗合戦、香宗我部城攻防戦で香宗我部は大敗。嫡男だった秀義の切腹によって合戦は手打ちとなったと話を聞きました。

 

親秀と、その横で補足する親秀よりがっちりとした一回りも大きな武士、池内真武が話して聞かせてくれましたよ。香宗我部が今置かれている現状でした。

親秀が負けて、それを継いだ秀通がより状況をマズくしたってことですか。解りたくないな。

 

「納得しました。岡豊より悲惨ですね……えーと、逃げていいですか?」

 

「ご冗談を。安芸を打ち破る戦力を整えて貰えるとの事で御座いますれば」

 

池内真武に鋭く睨まれた。百人からの二百以上の冷ややかな瞳に晒されるのは耐えれませんね。

 

「元親どの。冗談はほどほどにの」

 

横で秀通から突っ込みが入る。

 

爺からも咳払いがひとつ、聞こえて。

 

静まり返る広間。でも暑苦しい武士の物言わぬ迫力と熱で、その静寂が喧騒にも思えるのです。

魂の声と言いますか。心からの声と言いますか。

こう、言って聞こえるのです。

 

これ以上ふざけた事をいったら殺す!

 

そう、聞こえたんです。

あっちからもこっちからも。

父上を通しての、腹を割って話せる家臣と向き合うのは今までもありました。

だけど、ここは香宗我部。

決して長宗我部小昼をウェルカムしてる空気じゃあないのですよ。軽口のひとつも命取りに変わってしまったみたいです。

 

本心を出しただけなんですよ、小昼はね。

そもそも、香宗我部の人たちは甲斐武田、新羅三郎の嫡流一条氏の血って言うプライドが高い。

 

殺気だつ武田武士を前にして、更に嫌気が差してきたのを感じちゃいましたね。

あーあ小昼、この人たち合わないかも……って。

 

武士の信念、武士の矜持か何か。それって今出してきます?

 

確かに小昼は女武士です。

それどころか、元服して初年度です。まだ、一年経っていない。

 

若僧が!って事なんでしょうね。

そっちがそうでるなら、こっちは老害が!って事で家老以下刷新してもいいんですよ。

……って、やりませんけどね。いきなりの刷新なんて命取りもいいとこでした。

それこそ、中高の生徒会レベルにも至らない政治しかできない未来が待ってそうなのですよ。

 

読み書き出来る方がこの中の息子の世代に、何人居ることでしょう。

 

……ん?ウチの生徒で独占したらどうでしょうか。それだと、誰をどう任命してなんて考えずにどうとでも出来るじゃないの?

 

いいアイディーア!

 

いいえ。

 

たぶん、反発が強くて全く先に話が進まないんでしょうね、村衆も香宗我部からいきなり梯子を外しちゃうと不安がるでしょうし。

 

これは小昼、ストレスマッハで精神病むパターン入りましたか?

 

「元親どの。安芸を長宗我部は約束通り、やっつけていただけるのじゃな?」

 

そのストレートな親秀の問いにテンポ良くこう返してやりました。

口には出しませんけど、勝手にやってくれって奥底で犇々と思いつつ。

 

「戦うのは香宗我部から変わらないよ。父上の後詰めはくるでしょう、でも──来る前に負けては意味がない。持ちこたえられますか?」

 

「約束が違いませんかな?」

 

最後に間を空けて、含みを持たせた問いを投げ掛けます。すると、親秀の静かに怒る烈迫を感じました。

そうだ!そうだ!と後ろからヤジも上がって。

でも、小昼聞いてませんよ??

 

「知らないよ、約束なんて」

 

「元親どの、約束はこうです。我が長宗我部は安芸を倒す。その代わりに従属を約束させたのですじゃ」

 

センターは小昼が座り、その左手には秀通が座り、右手は爺が座ってる。

下座よりちょっと高くなってる六畳間くらいの上座。

下座と同じ板張りで、権威を示す意味合いでも持たせたのか一段高く、使われてる板材も質のいいものを使っている、なんてゆーか……雛壇だよね?これ。

ま、一段しか無いんだけど、そこは違うとこだけど。

 

「爺、無茶よ。安芸の領地はこれだけあるの」

 

顔は前を向いたまま。小昼も爺もバトルを始めました。ええ、二人とも譲らない口論です。

 

下座の一番前、親秀と上座の小昼との間には大きく紙に書いた地図が敷いてあります。

大雑把に土佐の形に書いてみました、どうでしょう?

 

「安芸は三好を見ないといけないのです。姫倉に出せるのは三分の一の戦力と予想できますな」

 

話の論点は安芸の動きに刷り変わっています。

攻め込むより建設的なお話。

爺の言った、姫倉と言うのは安芸の最前線の月見山の山頂に築かれた要所を守るための城。

 

どれくらいの領地にどれくらいの人口かは判然としませんが、かなり、うんうん……広いっ!

岡豊一帯と比べると広いっ!香宗我部と比べると更に広い──こんなトコに喧嘩売れって冗談でしょう?

 

十倍はあるわよ。あれのどれくらいの割合が山なのかも知れないけど。

 

「爺、そんなこと言ってくれるけど。安芸が滅ぼされるなんて事になる前に本山がずっとずっと勢力を伸ばすよ?それでいいの?」

 

見える範囲の武士の皆さんは小昼も含めて地図の上に目を釘付けにして、余りの大きさに息を飲む。

一斉に息苦しく、空気が変わったのが解る。無謀だ。

だけど、小昼は知っているの。安芸は全力出しても一万に届かない。だから、一万の戦力を養えるようなら滅ぼせることを。

デデンッ問題。さあ、その一万の戦力、どこから引き出すでしょーかっ!

 

A.本山の戦力をかっさらう。

 

はい、そーです。義兄上、ねーさまの治める本山から何から何まで養分にして、奪って、戦力を用立てて、初めて!

 

安芸を滅ぼせる!

 

「長宗我部は本山とは友好高き家ですぞ?」

 

爺も小昼も前を向いたまま口論は続きます。

香宗我部さんをそっちのけに我が家の話に展開していくのですよ。

 

香宗我部や細川みたいに小競り合いしてて和議に持ってくようなちまちました戦なんかはしない、ガチでオラオラ系の武家である本山を完膚なきまでに味わい尽くしてやがらないとそれは不可能だってんですよ!

 

「父上の性格知ってるくせに!」

 

その養分にしないといけない本山が波川を、吉良を襲って領地を広げる未来がある訳で、つまり、そうなることで水面下でしか見えてなかったものが姿を現す。父上の復讐の炎が。

 

薄くなった本山家の後詰めを物ともせずに雪崩れ込んで一宮、秦泉寺、安楽寺山と攻め抜く。走り抜ける。

そうなれば安芸に構っていられない。

そうして安芸に攻め込まれて窮地に陥ったんだよね。

 

「元親どの、孝頼どのも。何も我ら香宗我部が今すぐに安芸を倒せと申しているのでは御座いませぬ。秀義の無念、世間に晒した恥、それらをすすげれば我ら、何もいいますまい。香宗我部士分一同が滅亡に至っても長宗我部に仕えますぞ!」

 

確か、隠居したこの好好爺が秀通を暗殺して親泰に当主の座を差し出したって話。

まあ、そんなの、誰がどー考えたって長宗我部が上書きしていいよーに書き残したに決まってるんだけど。

あの父上ならやりかねないから困る。

親秀の外見はとゆーと体格は普通かな。顔はインテリやくざって感じかな。それはどーかな、まあ、若頭くらいはよゆーで一捻りにしそうよ。

 

野の虎って通称もうんうんって思っちゃったくらいだもん。

で、この好好爺である。どっちが腹グロで話をねじ曲げてるかとか一目見たら解ったわ。父上、それはないでしょう。

 

歴史は勝ったもの勝ちでなんとでも書き直せるっていくらなんでも酷くない?

 

えらくドタバタしましたけど香宗我部の城は有り難く貰いました。

小昼もこれで一城主。

 

ぬふふ、安芸国虎に負けない香宗我部に仕上げて見せるわ。

山田?そっちは岡豊で持ってくでしょ?

 




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