烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
じつはな……と、意味深な笑いをこぼす御曹司の顔に戻った房基に違和感を覚えないはずがなかったのです。
こんにちはおはようございます。小昼ですよー。
まだ会談中。密談中。二人会議には家臣も家老も入ってはダメなのです。そう言う取り決めをしてるの。何のためかって?それは……品のいい姫様を演じなくてもいい。房基も座を崩して自由に出来るしwin×winの会談。話してる内容もぶっちゃけた話だし、房基は先の世の話ばかり興味を持つから、近習家臣家老小姓さん誰一人入れちゃダメダメ。
なのに、急に木戸がすすすっと開いて。
「ちょっと!会議中よ!?近寄るなってあれ、ほ……ど!?」
その気配と風を感じて振り返ると──居た。
「麿?」
麿麿しい官服姿の、偉いんであらしゃいますよん!と、派手な公家が。
顔半分は烏帽子と扇で隠れてるけど白粉の肌。妙にエネルギッシュな眼光。イメージの房通と重なる。うん!
「もしかして!──房通?」
開いた扇の向こうで眉だけぴくぴく動いた。
「なわけないか」
視線を房基に戻すと、小昼の口から房通の名が出たのがおかしいのか、小昼がわざと遊んでるのに気づいて可笑しいのか。くつくつくつとツボに入ったらしい。笑いが止まらなくなっている。
堪り兼ねて麿麿な公家さんが口を開いた。
「あんまりじゃ。麿を二人で笑い者にしてあらしゃいますのか……?」
でました。あらしゃいますよん!生で、麿の、あらしゃいます使いは初、体、験!
初めての衝撃はというと、それほどでもなかったです。はい。
その声は低くて男らしい渋い声。好みです。ただし、麿っぽさは無いね。イントネーションはこれぞ麿って感じ。
水のように流れるしゃべり方というか。
「くくくっ……これは悪い、許してくれ──山科卿」
帰ったいいましたやん?帰ってなかったの?とまた麿に視線を戻す。
「や、ま……山科言継様?」
自然とコレが山科言継の実物か。と声が口からぽろっと零れていった。
思ったより大きくないな、背が。
房基が異常な大きさなんだろうけど、頭一つ小さい。
妖怪じみた視線が上から刺さってくるみたいで痛い。
「如何にも。麿が山科権中納言言継(やなしなごんちゅうなごんときつぐ)でおじゃる」
痴漢に全身を値踏みされるみたいに舐めるようにゆっくり凝視される感覚。嫌な視線だ。
衝撃はずっと、山科卿がそこに居たという事の方が大きい。
山科卿の体の越しに後ろの山科卿が出てきた部屋が見てとれるんだけど、狭い狭い空間だ。
腰置きと脇息こそ持ってきて貰ったようだけど、清潔そうな空間には見えなかった。事実、
「これ以上、狭く、苦しい場に、押し込めれるのは耐えれないでおじゃる」
と言い、扇であおぎ始める。
暑かったんだろうな、あれ物置に使ってる部屋か、よくて鎧の櫃置いてく用の間だよね。
窓らしいのは足元の柵付きの狭い、明かりとりか、空気循環用なのかな?30センチ位の細長い穴が見えるだけ。
「房基ォオ!──あっ……!」
怒り。そして、続いて発露した感情は焦り。あの中から出てきたと言うことは、今の話を聞いていた。
房基が山科卿を押し込めて見させていたって事で──あんなことやこんなことを山科卿が聞いていたって事!
「いや、あの。こ、これは。妄想と言うか。その、親戚と伯父のつつましやかな光景の一部といいましょうか──山科卿、忘れてください。今の全部。お願いしまぁす!!」
フライング土下座した。
言い訳を考えて、でも余計怪しくなるなら、さっさと降参してしまったほうがずっと有益なはず。と、思っちゃったのでした。目が合ってべらべらと言い訳は思わずしてしまったけど、すぐに向き直って土下座。
その後、房基にべすと解答されて固まった。
「なんですと……喋った……?喋ったって、え?えええ??」
改めて山科卿の腰置きを小昼が移動させて、ついでに脇息も持ってきて三人会議になったで御座る。どうなってんの?
「うむ。中村に山科卿が来てな、俺の部屋にて小昼のメモやら手紙など目に着いたと言い、見せてしまった」
「そこから?どうして?バレちゃうの?」
扇子なのか、扇なのかパタパタと扇ぐ麿を見ながら房基の言い訳を聞く。
「すまぬ、自慢をしたかった。自慢がしたくなったのだ。山科卿の好奇の瞳に晒されてな」
「童よ。麿は聞いてしまったでおじゃる。麿を斬るか?麿を信用するのか?どっちでおじゃる?」
なぁに……その究極のどっちでshowは。
斬れば確かに山科卿の口からものは言わずにこれ以上バレないかもしれない。斬れば、一大事なんですけど!ということに目を潰れるなら。
信用するのかは、正直判らない。あったばかり、風聞だと史実通り酒の飲み比べで大名を打ち負かしたって話が噂で播磨辺りで広まってたらしい。
悪い人ではなさそうだけど、悪目立ちする人なんだよなー。酔っ払ってつい、でろくでもない話を次々暴露されたら堪ったものじゃないのですよ!
ってもなー。悪いのは房基なんだよ。
「自慢って……自慢って、こら!」
ぽかん!と房基の頭をこずいて唖然とした顔で佇む山科卿を振り返る。
「いいわ。御曹司とこういう仲なのを何一つ喋らないで。あと──斬るなんてトンでもない。S級有名人に会えて光栄ですよ」
「はい、よろしく」
「この手は何でおじゃる」
「握手。といいます。小昼のあいさつです。趣味です」
握手のあいさつは無かったのか。差し出した手のひらを山科卿に凝視され、説明する。しぇいくはんどぷりーず、みー。
「ふむー。よろしくでおじゃる」
握手が終わるとみなぎる眼光がこっちを見てきた。
「先のことが判るのじゃったな。今一番、頭を悩めておる天子様のことを話して欲しいでおじゃる」
山科卿の口からトーンが少し弱めに訊ねられる。問い1.後奈良天皇の体調。あ、それなら。
「あ、後奈良天皇のことなら──助かりません」
息をするように口から自然と解答が零れていった。
暗記問題の速答で、いいくにつくろう!室町幕府!のノリで。
したら──空気が一変したのですよ。これって小昼のせい!?
「な、なんと……」
「おい、小昼」
「すぐ改元があったはず」
もうね。大脳と小脳がね別々の信号を出してた。やめろー!あ、でも答え簡単!そんな風にね。止まらなかったのですよね。
「天子様が……」
麿麿山科卿がほろりほろりと涙を一滴。するとまた一滴。そして滂蛇のように白粉肌を幾条もの涙の川が流れて。
しばらくそのままにして、小昼とハイブリット公家は部屋の隅で。
「ストレート過ぎた?」
「改元は言い過ぎたな。しかし、知らなかった。あの天子様が」
密着する距離で、おまけに小声で周りに聞こえないように喋る。
「年でしょう。それに体に無理させ過ぎたの。武士じゃないのに、清貧な生活。体動かさない暮らしに、食もつつましやかじゃ体は保ちませんって」
万一聞かれたらトンでもないまずい話をしてるからだ。
山科卿のあの様子から、持ち直す機運があったようにも思える。そこに小昼がトドメを刺した、と。
なんとかなんないかな?
風邪には漢方だ。熱にも漢方。それくらい、山科卿でも知っているだろうし……。
体動かさない老人って、と思い、ぱっと寝たきり老人のイメージが湧いてきてパタパタと手でかき消す。
それは助からないよね。
まして、ろくな栄養をとってないはずだ。
精進料理よりつつましやかな生活してるイメージまである、後奈良天皇。
「しかし、なぁ……」
「それより、何ばらしてくれちゃってんのよ?」
湧いた怒りが思い出される。再燃した。だけど、後奈良天皇のこともチラつき、ガソリンはそれ以上そそがれなかった。
小昼にとって、重大性事件といえるのに何故だろ。後奈良天皇は有名だけで良く知らない天皇ナンバーワン!小昼の中で。房基の父・房冬の実質ワイロな献金を見破り叱ったのだとか。
「仕方あるまい。飾ってあった絵を誉められたのだ。『誰の絵でおじゃるか。見たことも無い絵におじゃる』と言うから盛り上がって、上手く引き出されたのだ」
「何、飾ってあったの」
「飛行機だ。鉄の塊が空を飛ぶとは何とも不思議だろう」
喋り終わった房基は陶酔するように目を細めウットリ。
真面目にやってください御曹司!
「バカなのっ!誰が見ても不思議だよ、それはっ」
「そして、教えて貰った紙飛行機でな。こう……飛ばせて見せたのだ。いたく気に要られてな、二人でな」
口に出しながら房基は影絵の狐か兎のように指を重ね、前後に動かす。そして重ねた指を離す。あー……うん。
いい笑顔を小昼にくれなくていい。
今、小昼は呆れタイムに入ったんだよ。
「はぁー………………ぁ」
それは、確かに紙飛行機を飛ばしている仕草のようだったよ。
三十越えの二人が紙飛行機の飛ばし合いしてたとか、微笑ましいを通り越して気味が悪いよ。
あの、モデルにした機体なしの旅客機もどきがそんなに気にいったのか房基。
部屋に飾ってあったとか。そのせいで変なことになってるけどね!
視線を部屋の中央に戻すとぽかんと茫然自失状態でどっかいっちゃってる山科権中納言。あれ、どーするのよ?
──それからしばらく見守っていると、急に視線だけがこちらを捉える。目と目が合う。山科卿の手がすすっと動いた。
「これ、娘。ちこう、ちこうよれ。早くちこうよるでおじゃる」
「あ、はい──」
呼ばれるままにすすすっと山科卿の側に寄る。
「何とかして欲しいでおじゃる。誰か良い医者を知らぬでおじゃるか?」
山科卿の泣いて赤く腫れぼったくなった眼光はそれでもいちるの望み、と藁にすがる思いで小昼に問いかけてくる。
真面目に、無理だと思う。
病人を治すなんて神じゃないと、……地域限定で神やってました。やってるけど、御神力とか小昼にないですから!
拝み倒して、奉りあげて、祈ったとこで小昼にはいーこいーこしてあげるか、黙ってサイダー差し出すくらいしか出来ません……弱い弱い神様なのです……。
「あ、はい──それなら、典直瀬どのは。どうですか?」
思い付いた名をあげてみた。
メジャーもメジャー。どメジャーな医師だ。田代喜代斎に学んで更に飛躍したこの時代ナンバーワンの医師。
「別の者をあげて欲しいでおじゃる。典直瀬どのなら呼べるでおじゃるよ」
山科卿の顔色は優れないままなのです。
「やっぱり!じゃあ片山宗仙!」
顎を触って、考え込むように山科卿は目を閉じた。
「宗仙どのにも診察して貰ったでおじゃる」
さすが山城の医師となると誰も呼んでるのか。そうなると……地方のメジャー級にお越し戴かないとなのかな?
「むむむ、許義後どの。島津の御典医です。漢方の本場!」
よく知らない。秀吉関係の話で聞くくらい。老人の姿をしてたイメージがある。倭寇に連れてこられたらしいエピソードがあったかな?
「おお!その方は知らないでおじゃる」
小昼も知らないからね。
「甲斐の徳本!永田徳本!」
今どこにいるのかな、今川義元や武田信玄の話で耳にする医聖だ。
でも、確かいつもいつでも登場した頃にはおじいちゃんだった。
「耳にしたことはあるでおじゃる」
顎に指を這わせたまま、目を閉じて考え込んでから山科卿。くわっと目を開くとふっと頬を緩ませて返事を返す。それは『我、意を得たり』とした……単なるドヤ顔で。
「民間医療のスペシャリストで医聖と呼ばれてます」
「そのお二方にすぐに会いにいくでおじゃる」
その瞬間、望みは繋がれたと言わんばかりに立ち上がって此方にそう言うと立ち去ろうとする山科卿。かなり、焦っているのが判る。時間が惜しいんだよね。
「田代喜代斎。李朱医学で多くの人を救いました。古河公方のもとに居ます!」
その背を目で追いながら、脳の引き出しをせっせっと開けていく。メジャー所しか出てこない。
でも、後奈良天皇って病になると余りもたないんじゃなかったかな?
医師たちが間に合うのかな。
今から集めてて……しかも極秘になるよね、崩御を匂わせたらまずいもん!
「書状を書くでおじゃる。今の天子様は荒れた世しか見たことがあらしゃいません。せめて、せめて復興した京だけでも見て戴きたいでおじゃる」
立ち去ろうとした足がぴたと、止まり。流れるような所作で振り返ると、また視線が合った。
悔しそうな顔に口を歪ませ、目尻に力いっぱい皺を集めて熱く熱く語る山科卿。
お酒が、お酒さえこの場にあればあんなに急いで帰ろうとはしないんだよね?
おじゃるくんの言うことは最も。見せてあげたいよ。といって三好が京を出るまでは小競り合いが続くんだよね、確か。
そうか、後奈良天皇に見せてあげたい京があって、それが叶わないから、三好を誅せよ!に繋がるわけか。
三好が居なければ、小競り合いだってないかもだもんね。
なるなる納得。
だけど、誅せよ!言ってるのが山科卿発言の線、濃くなってきたよーな。
後奈良天皇が言ってないなら朝敵には出来なくて、一条とその仲間たちで阿波血まみれツアーになんない?ね、これ。
どーなんの……?
小昼、しーらないっと。
山科卿の願いは解るよ?歴史番組の後奈良天皇しかしらないけど、エピソードがどれも悲惨だもん。一番悲惨な天皇、荒れた京しか知らない天皇、贅沢を一切しなかった天皇。凄いよね、ギネス級だよ後奈良天皇は。
助けられるなら助けてあげたいよ。
でも、別に医学生でも医師でもないから、わからないんだよ。
ペニシリン?ドラマは見てたから手順解るよ!でも、時間が。時間が足りない。
後奈良天皇の残された時間じゃ!
万策つきたーーー