烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど!   作:ぴんぽんだっしゅ

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47.岡豊の歌にて候う

今、小昼の目の前には今年の春に頭の中で思い描いたような、目覚ましい発展していく岡豊の城下が広がっています。

 

その周りには大きいものは三階立てにもなるアパートが指定した通り、整然と団地らしきものを型作り郊外が出来ていく。

 

ちょっと、この辺りでは見ることができない規模の町になってるのです。中身スカスカで、名産品などの無い外見だけ立派な都市なんですけどね。

 

人を抱えてから産業を生めばいいじゃない、そうして根付いて貰えれば良いのですよ。

 

露天で、何かを売る売り子の景気のいい呼び込みの声。

壇洲をしているのか、太鼓や笛、かすかに琴のような音色も風に乗って離れた丘の上にある二の丸にまで届けてくれています。

 

多くの子供たちの笑い声や、奥様方の井戸端会議のような喧騒に混じって『町』を表す賑わいを感じさせてくれます。

 

変わらぬ岡豊の昼前、小昼日和の岡豊の風景が城下では展開されていました。

 

春頃の侘しいシャッター街のような岡豊の姿は、どこにも見当たらないまでに現在の岡豊の町は、賑わいを見せてくれているのです。

それというのも、労働力になってくれた流民や河原者をするしかなかった新領民が、岡豊を選んでくれて居着いてくれたお陰だったりします。人が集まれば職人さんも仕事を求めてやってくると言いますし。

 

小昼のお陰も一割、いや二割くらいは無いとは言いませんけどね。

 

ダンスを踊るために毎日のように太鼓の音が鳴り響く岡豊の町は、琉球航路で涌き南蛮船までやってくるような経済が爆発バブル中の中村のようには行かず、まだまだ課題を抱えているのかも知れませんけどね。仕方ありません、海が無いですし。

 

皆の、明るい声をいまこの二の丸で聞けるだけで、小昼は十分満足しているのですよ。うんうん!

 

「にーさまの見た事ない景色でしょう。これをにーさまに見て欲しかったのですよ!」

 

指を差して、目覚ましく日々変わっていく岡豊の町並みを見させてあげようと、ほらあそこ!と声をあげたその時。

 

《1553年》天文22年─土佐・岡豊城二の丸

 

長宗我部小昼

 

「あれ?……にーさま、にーさま、おーーい!聞いてる?」

 

いきなり首や肩に掛かっていた重みが軽くなったなと思うと、にーさまは小昼の右手にずり落ちて地面にぺたんと座り込んで……。

 

一心にお経を唱えるお坊さんのように、ぶつぶつ、モゴモゴ何か、極小さな聞き取れないうわ言を呟き始めた。これ、あかんやつなのでは……。

 

「あ、……済まぬ。妄想の虜だよ、……ぼ、僕は」

 

気付いたのか。自分の今の有り様を見てもにーさまは、改めて言ってることも不思議なことを口走るのです。

 

ひきこもりニートは大変ですね。

自分が措かれている状況も良く判ってないご様子とは正にこのこと。

 

「しっかりしてよ。一人じゃずっとは立ってられないくせにいきなり、力抜くなんて。腑抜けてるわね」

 

「あ、……ああ……」

 

普段喋らないから、喋りかたも滑らかでなくぎこちないのですよ。

これを建て直すのはなかなか骨が折れそうですね。

 

でも、本山を侮らせる計略だったのですからにーさまは家のために頑張った(?)のでしょう。

 

これからは、嫡男として振る舞うようにと父上から言われたようで、皆を引っ張れるカリスマに成長できるよう頑張って欲しいものです。

 

いまのままじゃ、部屋から無理やり連れ出された平成のひきこもりとなんら変わらないのですよ。

 

自分の意思で歩くということも、長い距離はしばらく無理でしょう。

 

城と城下を往復すらできそうにないような体力してそうに見えるのです。

 

にーさまはすらっとして女性的で、ちら見なら胸のつるぺたな中学生女子。

jkの女の子のようですよ。

髪も手入れはあまりされてなく腰まで長いあまいろのストレートで。

 

小昼が、おもちゃにして女装させて遊ぶのも納得していただける、まさに姫若子の逸材。

 

髭とか生えそうにない色素の薄い肌してますし、生まれる時代が違えばその手の業界がほっとかないふたなり子と言って良いでしょう。

心配になってきます、ほんとについてるのかな、にーさまは。

 

「それにいきなりぶつぶつモゴモゴと、坊さんか狂人みたいな事始めないで?心配するじゃない。にーさまは我が長宗我部の嫡男なんだからさ」

 

「そ、……その座を……あ危ぶんで……武士となったくせ……に」

 

あー今のにーさまと昔のにーさまを比べても、家督が危ぶまれても当然なひよっこな外見してますよ?

 

自覚ないんでしょうか?

むー……鎧着れるんですかね、この細っこい腕とぺたんこな胸板と触れたら折れてしまいそうな首で。

 

足だって、白魚のような足だって言えば風聞は良いですけど、言い方を変えると骨と皮だけの足なのです。

こんなみそっかすな足で、何十キロの重みを纏って動けるでしょうか。

 

ぜったいに無理でしょう。戦場に送った方がバカなのですよ。

 

なんか顔を真っ赤にして恥ずかしがってるのか、怒ってるのか判んないですけど、文句を言える存在になってから意見を言って欲しいものですね。

 

にーさまを改めて観察してると、よくこんな今の姫若子から未来で鬼若子に覚醒できたなと思うのです。

 

ふぃー、こんなにーさまを相手にしてるだけで爺と居る十倍程度は疲れます。

 

ほんとですよ、頭を使わないでもフィーリングだけで側に居れる爺は、非常に楽な相方だったのだと、にーさまを相手にするとそのことに気づけて新発見でした。

 

と、何が気に触ったのかぽろぽろと水の滴を瞳一杯に湛えて溢れさせる決壊寸前になってるのです、にーさまが。

 

何、この可愛い生き物。まるでわんこみたい。

 

にしても、どーして小昼を見ながら泣くのですかね?

 

「はい、どうぞ」

 

「……う、……うん」

 

懐から丁度、設計図を書くために忍ばせて置いた紙があったのを思い出して、にーさまにこれ使ってと差し出す。

 

にーさまは受け取りはしたのだけど、そこからが長かったのです、何やら悩んでいるようなのですよ。

 

何を、悩む必要があるのです?涙を流していて、紙を差し出されたらそれを使って拭うでしょう?それが普通のあり方です。

 

使い終わったらありがとうとお礼を言い、感謝を述べます。そこまでセットで普通のあり方だと思うのです。

 

しかし、にーさまは紙を凝視してにらめっこ。一向に涙を拭う、または涙を止めるといった行動を起こさないのですよ。

 

困った……このポンコツどうしてくれよう!

 

「こ、……小昼、……僕のためにこんな紙を……。あ、有り難く使わせてもらう」

 

と、思って白い目でじぃっと尚もにーさまを見下ろしていると、小昼を見てそんな事を言って上気した頬を朱に染めてにっこり微笑むのですから。

……ほんとについてますか?

 

「いいから……さっさと拭く!拭いたら、お礼を言う!それで小昼は満足するのですよ。まったく、紙一枚で拭くか拭くまいか一分以上も頭をフル回転させるなんて、にーさまくらいですよ?そんな勿体無い頭の使い方をしない!この頭の使い道は民を導く術を紡ぎ出すためのもの。そうでなくては読みに読んだ本の中身が無駄遣いなのですよ」

 

本の虫だったから、顔の表情筋が固くて同じ動作しかもしかして出来ないという奴ですか?

 

にしても、どこからどうみても可愛い女子という見方しか出来ません。

 

可愛くて儚げな女子から、妙に愛らしいにこにこ笑顔を見せられた気分ですよ。

 

あー小昼の周りに、こんな感じのほわほわ女子いないからですね、菊さんや女武士の面々は小さな時から暴れまわっていた印象ありますもん。

小昼に、こっち系の女子は免疫なかったですもんね。にしても、可愛い。

 

にーさまなんだけど、妹を見てるみたい。

間違ってもねーさまじゃないよ、姉っぽさは微塵もないのです。

 

紙を使ってくしくし涙を拭きながらも頬はほんのり上気したまま。

長い髪が邪魔なのでしょう、一生懸命人差し指で払う仕草をするのです。

 

男はがさつな位がいいとは聞きますけど、このにーさまを男としては見れない小昼の瞳には確かにがさつなくらいで丁度良いのかもしれません。

 

にしても、ほんとについてるのかな。

 

手入れさえしてあげればこの子は輝くダイヤモンドの原石だと思いますよ。っと、いかんいかん。にーさまだったわ。

 

そんなやりとりをしてると、にーさまが何かに気づいたみたいで、ぴくんと跳ねるように静かに動いたのです。何その反応、小動物なのですかね、にーさまは。

 

耳を澄ませると歌が聞こえてきます。

 

 

 

 

♪今ー日っも、明日もっ明後日も〜、戦っ戦、戦続きの毎日で〜。

 

♪周ーりの、全てーが、てきだっらけー長宗我部ーは四面楚歌。

 

♪弱味ーを見っせたっらーそっこまでさー。鬼の、とっの様、国親さ〜。

 

♪昨っ日、拾われった、命だけーどー、今日ーも戦うー、まほろば(住みよい土地)のためー。

 

♪我ら長宗我部〜!

 

 

おー今日も歌ってるのか、あれ。城下にしばらく留まってたらしい旅の遍路が唄ってた歌らしい。

「♪今ー日っも、明日もっ明後日も〜、戦っ戦、戦続きの毎日で〜。

 

♪周ーりの、全てーが、てきだっらけー長宗我部ーは四面楚歌。

 

♪弱味ーを見っせたっらーそっこまでさー。鬼の、とっの様、国親さ〜。

 

♪昨っ日、拾われった、命だけーどー、今日ーも戦うー、まほろばのためー。

 

♪我ら長宗我部〜!

 

「こ……小昼、そ、……その歌は?」

 

不思議そうに小昼を見あげてにーさまは訊ねてくるのです。小首をちょこっと傾げて。いちいち仕草が女子力高いな、にーさまは。

 

まーそれだけ、頭でっかちの精神お子ちゃまということなのでしょうね。幼児期は男子も女子もこんなものだった気がしますよ。

 

「皆を鼓舞する歌だそうですよ。いま戦ばかりだけど、負けるものかと一生懸命に一心不乱に戦い続ければまほろば……住みよい土地が岡豊に出来上がると歌っているのですね。素晴らしいと思いませんか?」

 

歌の内容は、岡豊の周辺は敵だから岡豊に住むと戦だらけで大変だ、とも読めるんですけどね。

まー頑張れば住める土地が手に入るからガンバローぜ!と士気を高める効果があるそうです。ようするに軍歌ですよね、それって。この歌声は子供の声だと思うのですがね。大丈夫なんでしょうか、岡豊は。

ゆくゆくは各地へ侵略に出ていく大秦(はた。うずまさに似てても違う)帝国に飛躍して育たないかと不安になりますね。

 

土佐は遍路(へんろ。各地を朱印を納めて廻る。又は各地各地に経を納めて災禍を払うと言われる)が有名ですから、色んな思いをもった旅人がやってくるんでしょうね。

だから、こんな軍歌ちっくな歌も独自解釈されて、子供にも歌われるのかも知れませんけどね。

 

子供が平気でこの歌を歌っている内は岡豊は戦時真っ直中ということでしょう。

このような軍歌が聞こえなくなり、廃れたその時、岡豊はどのように、小昼にその姿を見せてくれるのでしょう。

今はそんなことも楽しみにして戦をするしか有りません。

 

出来ることをひとつひとつ、積み上げる様にこなしていくしかないんですよ。

 

もちろん、町づくりもそのひとつに含まれます。

 

岡豊に暮らしてくれる住人が安心して今よりもっと便利で過ごしやすい町づくりをしていけば、戦なんて無駄なことだなと大人たちも気付くんじゃないでしょうか。

天皇さんはあまねく全ての民の安寧を願って祈りを捧げ、経を奉納しますが、それは天皇様たちの出来ることをひとつ積み、ひとつ積みを繰り返した成果がそれだったのではないでしょうか。

小昼たちが出来ることは安寧を願ってくれる事しか出来なくて歯痒く思っている人たちの代わりに戦って勝ち取った上で、安寧を築く事だと思うのですよ。

それにはまず、室町を脱っし将軍を廃して一度ちゃぶ台返しをするしかないと思うのです。

今ある全ての権威を壊し、見直して泰平が約束されるようになれば天皇様を戴き、日本という国から戦は無くなると思います。

それには国全体の貧しさもそうですし、隣にある他人のものに手を伸ばして自分のものにしてしまう道徳の無さも根本から叩き直さないとダメダメなのです。

本来の日本人というのは他人の為にも献身する優しさの塊のような人種だったはずなので、手と手を取り合い、協力する……今ある大名同士の軍事同盟を、六十八州の皆でやればいいそれだけのことでしょう。

貧しく飢饉に苦しむ国あれば、施しと二度と飢饉にならぬ国づくりを献策してあげ。

逆に度重なる水害に苦しむ国あれば、小さな堤から始めてそれを次々と積み上げることで巨大なフーバーダムにもなるのですから氾濫に懲りずに工夫と発想の転換で水を大量に使用してそれこそウラル海を枯らした木綿なんかを上流各地で栽培するなんかして──」

 

「こ、……小昼、いま何を!う、海が……枯れる?」

 

「あ──」

 

やってしまったのですよ!

大きく育つ岡豊は小昼の我が子のようにも思えて、気分をアゲアゲにしてくれやがりました。

 

「そ、それ以外……も、も本を読み続け……て、……幾年、も……本だけ、……読んで……う、……ぐすっ……ううー」

 

そのせいで、にーさまの気に触れてしまったようですよ。うるうると潤み始める瞳。その大きな瞳いっぱいにまた決壊しそうな湖が湛えられていく。これは氾濫します!

 

「ああ、泣かないで?にーさま」

 

「ぼ、僕……は、本……本だけを、読んで幾年幾年(いくとせいくとせ。信じられないくらい長い年と宗親は言いたい)も……そ、……それなのに……」

 

本の虫のプライドずたずたってとこでしょうか。ぐずぐずと泣き止んだばかりのにーさまの顔は、二つの滝を仕上げて止むことない涙のスジを両の頬に引いていた。

 

「小昼だって国づくりには一考あるんですよっ!」

 

むー本の虫の癖にカンが鋭いですよ。

思わず強めに言い返してしまいました。こんなとこをねーさまが見たら、小昼はやはり虎の娘でしたねなんて言われるのでしょう。

 

普段から勉強などしてる風にない小昼がにーさまの考えの及ばない知識を持ってたら、それはもー『変』だと気付きますよね。

思っちゃいますよね。

そうならない方がおかしい──ん?

ディープな視界の海に潜ってることなんて、今日の、今に限らず、あちこちであったような。

 

今ここでにーさまにいい気分で頭の中の引き出しに閉まってある前世知識で持って、小昼の一考をそれとは知らずに語っていたせいでにーさまは傷ついた。

なら、爺や父上、はては池内の前やなんかで、やっちまってないとは言い切れないのですよ!

にーさまは家族だから気が抜けていたから、たまたまって事も無くは無いでしょう。

 

それはでも、都合が随分と良い考え方と思います。

まだ、目の前でぐすぐす泣き止まないにーさまみたいに知識量豊富で、知識こそ生き甲斐みたいな人たちの前じゃ無かったから、別段、変に思われなかったということは無いですか?

 

そうです、にーさまは古今東西の手に入る本は堺商人に伝をとってまで、膨大な知識を蓄えてきているのです。

この、知識の化け物みたいな本の虫のちっぽけなそこにすがりついているしかない、肝心要の知識で上回ってしまったから、今のこの妙な空気になっているのですよ。

 

……と、いうとですよ?

にーさまの居る前でこの次は無駄に壮大な考えをしなければ、この問題を切り抜けられるのではないでしょうか。

 

幸いにーさまは頭でっかちの精神はおこちゃまな平成日本の良く居る典型的なマニュアル人間のミニマム版みたいなもので相違無いと思います(ここは一息で。噛み締めるように読むと何か悔しいから)。

 

人生二度目のこの小昼からすれば口先三寸(くちさきさんすん)でちょちょいと丸め込めるってもんですよ。きっと。たぶん。

 

「ところで、にーさまは甘いものなど好きでは無いですか?嫌いでしたか?」

 

「っぐす、……甘い?」

 

「美味しいですよー!ハチミツたぁっぷりいれてですね。丁度、蜂蜜を手に入れてますから──そうだ!ぜんざいを作りましょう!」

 

どの辺りから口を突いて頭で思ったことがダダ漏れしてて、にーさまが聞いていたか判らないですけど、流石精神おこちゃまなにーさまはもう『甘いもの』に思考が切り替わったようですよー、ふぃー生き延びた気分なのです。

 

大きく綺麗な瞳をキラキラ輝かせて、羨望の視線を小昼に向けてきてくれるのを見るに、誤魔化しは成功ですね。今のような強引な話のすり替え、このような時は古今東西甘いものがべすとまっちなのですよね。

 

「ぜ、……ぜんざい!……食べたことない、今食べれるのにゃ?」

 

興奮気味に小昼の腕を引っ張って立ち上がりながらもぜんざい!どんな食べ物?楽しみだよ♪とほんの少しまで泣いていた赤鬼が現金なくらいにこれでもかって満面の笑みで、頬にチーク痕が浮かぶように朱を差す。

ぜんざいのような甘味ひとつでこの甘い表情が買えるのなら、誤魔化し関係無くまた今日の日のように蜂蜜をたっぷり用意しても安いと思えるのです。

──ん?小昼は別にショタではないですよ、にーさまは女子に見えますからレズ気が出てるってわけでも無いのです。これは文字に現すならそう──母性なのでは無いでしょうか。そう、たぶん!

 

一人で食べる用にぜんざいのための小豆を買い、蜂蜜を取ってきて貰っていて良かったのですよ。本当に良かったです。

 

外では食べれませんから二の丸にある、食堂へ行きました。

 

「いただきます!」

 

「い、い?……感謝しますにゃ!」

 

いただきます、はまだ慣習じゃないのですよね。お坊様のなかにはいただきますがちゃんと言える人も多いのですけど、にーさまも一瞬、小昼の事を凝視しつつ、それでも甘味の甘い匂いとかぐわしいまったりとした蜂蜜の香りに勝てずに小昼の変わった行動なんて頭からすっぽり抜けてぜんざいの器に木製スプーンを潜り込ませて一掬い。んまーい!という表情が出ると次には、

 

「んんっ……甘い!」

 

と思わず心からの叫びを聞かせてくれます。ニコニコと天使スマイルも忘れません。とても幸せそう。

見ているこっちも幸せになるってものなのです。

 

「んっ!おいしい!」

 

小昼は慣れてるのでお箸でいただきますよ。さらさらっと流し込めるので。

 

ただどうしても出来立ては熱いから、初めてのにーさまにはそんなものなのですよとスプーンを進呈しました。

 

──ん? ぜんざいを食べて和んでますけど、何か忘れてるような……まー忘れてるような事は、そんなに大事なことじゃないでしょう。

今はぜんざいを食べて幸せそうなにーさまが幸せ。幸せそうなにーさまを見ながら眼福眼福と小昼も幸せなのですから、それでいいじゃないですか。

 

コストの高い砂糖も使いましたよ?これくらい贅沢したって許されていいと思うのですよ。

 

小昼は働いているのですから、ご褒美を小昼が小昼に与えても良い!そう思うのです。

 

「爺や父上にはナイショ!ね……っ?」

 

「こ、……この甘いのが、……砂糖」

 

「ぶ……武士一人をっ!……引き抜けるほどのものなのにゃあっ」

 

それは小昼がやったからもういいの!もー!美味しく食べた後でそんなこと言わないで下さいよ、にーさま。

 

 


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