烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
《1553年》天文22年七月─土佐・岡豊城
長宗我部小昼
小昼です。おはようございます。今日もお天道さまはギラギラしてますか。
見上げると、空は雲が出ていてその切れ間から陽光が差し込んでいる状況なので、時間なり風の流れなりで曇り空になって少しは過ごしやすい一日になるかも知れません。
暑くて動けないよりは動き回れる曇りの方が幾分マシな気がしますね。
小昼てば、自分で言っちゃうのもなんですが基本的に忙しい身なので。
小昼が積極的に動かないと、岡豊は劇的には変わらないのですよ。
もっともっと大きくして、優秀な職人さんに居着いてほしいですからね。南部と言わず、根来や雑賀の人、国友や島津の熟練の技を岡豊に持ち込みたい。
一条の伯父様の伝で中村には国友や雑賀は入り込んでるのですが、中村にまだまだ岡豊は敵いませんからね。
て、わけで日々の成長が欠かせないわけなのです。
時代最強の信長の時間稼ぎ的な邪魔は取り合えずしてますけど、どんな歴史の流れの振り戻しがあるか判りません。
今からじゃ遅いかも知れません。
でも、対抗は出来ると思うのです。やれる限りやりきっただけの戦力を保有してから迎い討てば悲惨な末路を秦氏一族が辿ることは無いと思うのですよ。
例えば、西国が一枚岩になるとか……って、有り得ないか。とも手放しで言えなくない、一条は大内とも大友とも繋がりがあるわけで、三好の戦如何で西国が官軍に急成長して、幕府を倒して江戸を経ずに維新が起こる可能性が微レ存。
大内は少なくても4ヵ国、大友は3ヵ国。一条が4ヵ国で摂津に向かわずに九州山陽山陰を纏めて平定すれば……あるいは?
無くは無いのですよ。
毛利は?はて、そんな重箱の隅をつついて奇をてらった策で乗っ取ったから大きくなって自由にやれた智謀の塊は相手にしませんよ。
山陽が固まる=河野の混乱に漬け込めなくなりますからね?
元就を尊敬こそしても侮ることはしません、敵に回していい思いするわけないこと解っているから、相手したくないのですよ。
そう、絶対大軍にしちゃいけない近隣の大名なんですから。だから、大内に任せますね。
房基が生きている、つまり一条に御曹司がいてしかも頼れる存在であるならば、大内にも無理に九州を攻める必要ないでしょうしね。
対明貿易は大内もやってますから、屍を積み重ねてまで博多に拘らないでしょう?隣に不倶戴天の敵が現れたんですもん。
あ、陶とか反義隆派は全員強力な力で失脚してもらいました。大内当主・大内義隆がそこは動いたのです。
聞いた所、陶は山口にすら居ません。今は公家の屋敷に軟禁ですかね、嫌っていた公家と歌詠みの日々は最悪でしょうから一番の罰となったでしょう。
大内で失脚者が多く出れば大友でも同じように、ふふふ。
立花や一万田は息をしてませんよ。彼らは、隠岐経由で竹島警護の任について貰いました。島流し。帰ってこれない島流しですよ。
彼らだけじゃないですよ、後々面倒になるから、龍造寺を襲わせて龍造寺はお寺に帰らせました。
詳しいことは大友義鑑に会わない限り解らないのですけど、松浦や有馬を巻き込んで大きな戦が先月にあったようです。
鍋島信生(直茂)くんは、陶とかと同じで公家預かりです。中御門家が手薄だったので、大友名義で銭を出させて押し付けたそうです。ただ、一族再興は願えないかも知れませんねえー。
義鑑がハッスルハッスルするたびに、鍋島と龍造寺の首が飛んだということですから。
あと、宗麟様(義鎮)はクリスチャンが好きだったのを知ってますから、大友の重荷を解いてあげました。
廃嫡のうえ、ザビエルの忠実な下僕やってますよ。
──ザビエルは春に岡豊に来てくれるように手紙を書いたのだけど来てくれません。
あ、ザビエルには是非会いたかったので房基に頼んで帰国を思い止まるように伝えたんです。何を贈れば喜び、思い留まってくれるかと考え、聖書の一篇を手紙に書いてイエスの教えは根付いてますよとアピールすることにしたんですよ。
これが、うまくハマって功を奏したようで、彼はまだ山口や摂津を忙しく動き回ってるようです。
馬車を作って贈ればもっと喜んで、南米系の植生を手に入れやすくなるかな?
てなわけで、今──九州は盛大に噴火してます。小昼のせいじゃないですよ?
とんでもない!
まさか、大友家が内乱始めるなんて思うわけ無いじゃないですか。
しかも内乱にかこつけて伊東にも飛び火するなんて、誰の書いたシナリオなんでしょうね?
小昼?小昼は知りませんよ。小昼は自分が生きるために精一杯です。
ただ、房基が頭を抱えてたことは知ってますよ。
小昼が大寧寺のこと、義隆の蜜月、あと面白おかしく二階崩れ周辺の大友の人間の動きを喋ったってだけですからね。房基にだけ。
そこから房基がいろいろ人事異動を各所に手回ししたことやなんかの結果が、今の九州に現れた戦乱なんでしょうか。
地味に、少弐が息してるのはびっくり!
あー訳を知ってる人間が発言力も権力もある人間と繋がると、こんなシナジー効果が。とも思いますけど。
小昼、悪くないですよ?
これをちゃんと知ったのは房基決起の日だったんですもん。
それまでも上よ下への騒ぎになってないから大内が倒れてないのは、なんとなくわかってたんですけど。
今吹き荒れてる九州の嵐は全く存じ上げませんでしたよ。
大内はまだ保ってる方ですけど、大友は中身がガタガタになってしまっているのが丸わかりです。
粛清と失脚に上がった家のリストが凄い。ほぼ、人間が首と胴をすげ替えられるくらいには一新。
ただね龍造寺を滅ぼしたのは、間違いだったと思うんですよ。耳川を早めただけでは?
家中が纏まらないから弱いとこを突かれて、宗像なんかにも負ける羽目になったんですよ。
阿蘇に逆侵略されて、菊地を再燃させるガソリンに火を入れるとかね。
内乱が終われば北九州4ヵ国は大友に転がり込みます。そうすれば……うん。無理かも、大本命の大友の芯がグラグラだから、そうなると島津王国の統一が現実に見える結果を生むだけかも知れませんね。
どーしてこーなった!
小昼はたった二つの話をしただけなのに、こんな不思議なことはありません。
いいぞ、もっとやれ!なんて、小昼はいい子だから思ってないですよ?
きっと、今の大友内部は疑心暗鬼の凶風が吹き荒れているんでしょうね。
大友にいいように転んでいない。房基はそう言ってました。大友は表向きは勝っているようですが、その実のとこ内部では城主同士で斬り合いやら、刺客スナイプやら、毒の仕込み合戦らしい。
人間の暗部が全て吹き出したらこうなったみたいな、悲惨な運命ですね。
なにかこう、小昼って玉藻の方とか西太后みたいな表舞台に出ちゃダメな人間の典型みたいな気もしてきます。とも言われようと悪いことしたつもりも一欠片もないのですよ……。
小昼は房基に思ったことを話しただけで。こうしたら大友を救えて、房基に助けになるんじゃないかなーとは言ったりしたかも知れません。
具体例が竹島島流しとか陶の公家軟禁でしたね。宗麟様の入信も隆信の出家で寺へ返す案も話したかも知れません。
よくよく思い出してみれば熱くなった小昼は『こうなれば面白い』なんて思って房基にべらべら喋っていたかも。
なんて事はありましたが──空は青いです。ちょっと雲が多くて曇天となりそうですけど、そこは気にしてはダメなとこですよ。
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「ひめせんせー、本日のご予定は何で御座る?」
あ、御座るちゃん。
「報告に上がってた職人衆の成果を見に行こうと思うんだ。弥三郎くんにも見せようと思ってて」
「わたしも、同行よいですか?街中では護衛は要らないと重々ご承知で御座る……。わたし武士にはなったものの、菊さんや吉田の姉妹ほど功もないで御座る。彫り師の真似事も興味が有るで御座る」
御座るちゃんこと、中島家の金鶴(かねる)ちゃんだ。
朝稽古でにーさまを体操させるとこから初めていた所、女武士の輪からちょっと外れてこっちに来ていた。
朝の体操と言えばそうです、国民的某ラジオ体操。
にーさまの基礎体力の向上のために、某ラジオ体操もどきを取り入れてみた。
珍しいもの好きの女武士たちも何故かその位置に加わっていたりするのは、誤算ですけど『新居弥三郎』と思われているにーさまを、彼女たちのおもちゃにされたりしないように少し距離を取っているという訳です。
特に、鷲羽さん。がしがしこね繰り回したり仲間内でするみたいに肩や背中をバシバシ叩いてしまう癖があるみたいで、小昼ならともかく……もやしっ子にしか見えないダイエットを拗らせた拒食症患者のようなにーさまがぶっ壊れてからでは遅いのでそういう意味でも、線を間に引いて二の丸の裏庭で例の体操をしているんです。
それはそれとして、彼女が言う通り、功というのは戦に参加したからといって、そうそう転がっているものじゃなかったですね。
小昼も武将首はあげれてないですし……。
にしても、御座るちゃんは彫り師の弟子にでもなりたいと言うのかな。
それはそうとにーさまに、弥三郎くんにラジオ体操を仕込んでます。にーさまてば激しく動けないので、ぎこちないことこのうえないのはご愛嬌。
「弥三郎くん、手をまっすぐ伸ばすとこから始めよう」
「ね、……眠いにゃ」
「次はこうやって、腰を右に曲げて折る運動ーっ」
「こう、にゃっ?……曲が、……らないっ」
「普段動かさないからですよ。弥三郎くん、次は左ですっ」
「お……にぃ……」
「──まだまだっ次は深呼吸でーすっ!はい、小昼のやること真似してっ──すー、はーっ」
「すー……はぁー……けふん」
深呼吸するまでにも座り込んじゃうくらい、某ラジオ体操やりきる体力もないなんて。
にーさまが閉ざした十年近い年月は、やはり長すぎたとでも言う事は明白でしょう。
「これが、一日の基本だよっ」
それでも小昼はぜんぜん諦めないよ!
にーさまは嫡男として立派に育て上げて見せるのですよ。
鬼若子は伊達じゃないぜ!って思わせて下さいよね。
周囲より三倍は凄いのです。
「い、……まは……ぜぇ……む……」
この血色不良男児をそこまで躾直せるかが肝になりますね。難題です。
目の前のにーさまを見てると、ぶっ飛ばして罵詈雑言を浴びせてしまいそうになるのです。甘ったれめ。本当に生えてるんですか?えとせとらえとせとら。
それでも、少しずつ忍耐はついてるとは思うの。例えば、百歩歩くのに休憩が一回必要だったのが百五十歩で一回になったくらいで、五十歩百歩ていどの僅かな忍耐力なんですが少しは変わっているのが、まるでシュミレーションゲームをしていてパラメーターが増えて選択肢が追加されるみたいな、不思議とそんな『小昼はプレーヤー』で『にーさまは選択したキャラの一人』と、そんな風にも思えるのですよ、そう考えると対抗キャラは大人の色気・房基とか男の逞しさ・親家とかでしょうね、ふふふ。
そう思えるようになると苦労が労苦に感じなくなるのはいとおかし。
つまり!にーさまというキャラのパラメータ上げのために小昼は毎日プレイしてるの!と考えると……うーん。課金ガチャとかアイテムが欲しくなりますよ。
意識のすり替えに失敗したみたいです。
にーさまの、引きこもりの攻略本やマスターブックをぷりーず!
ここのとこ数日の経験で育児ノイローゼが小昼解ったような気がします。思ったように育ってくれない。嫌な感情が蓄積されてく。ぶちまけられない暗い暗い思いは疲れた体に鞭を撃ち、何もかも原因は我が子(選択キャラ)だと思えてくる。だから、それで……あぼんしちゃうと。肯定はしたくありませんが、味わうと否定も出来ませんよ……。
選択キャラみたいに、少しは労ってくれると体に鞭を撃ってでもキャラ愛で突っ走れるというものではありませんか。
どこまでも幼子を体現するにーさまに、小昼を思いやれなんてまだまだ無理なんでしょうけど、結構精神的に逃げ場が無くなっているのは確か。しんどい。だるい。もうやだ!
[NEW]─ねぎらいの言葉『頑張ってるね、偉いよ』を覚えた。……とか出ないですもんね。
はい、現実逃避現実逃避。
はぁ……サイダーに癒されるとしましょう。……今は我慢、我慢の時。雌伏して飛躍するにーさまの覚醒を待つ段階なんじゃないかと、嫌になる思考をリセットする毎日だったり。
ダメな子ほど可愛いにも限度があり、天井が用意されていると思うのですよね。