烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
食堂を後にして、お腹も舌も満足させてあげたので。お天道さまも燦々!
お仕事、がんばろー!
こんにちは。にーさまを連れ出すために岡豊をテクテクしてます、小昼です。
今日はもひとつオマケが、護衛兼人生探し兼にぎやかしな御座るちゃんこと金鶴さん。
一応、歳上なはずな中島一族の娘さんなのです。落ち着いているように見えて、行動力がいざという時に出ないとのこと。
外見涼やかで内心汗ダラダラなんて訳なんでしょうね。
小昼はすぐ顔に出るらしいから、その阿弥陀顔が羨ましいんですけど。
なんてこと思ってる内に製紙工場着きました。すみません、盛りました……。
紙漉きですから、精々工房ですね。
それでも、父上の肝いりなので三百人くらい収まる体育館には見える規模の大きさが外見はあります。
中で働いてるのは十数人なんですけどね。
紙漉きの機械というか機材というかは4つ。
こうぞとかムクノキとか桑とか材料を叩いて砕いてしてる人が見えて。
工房の両側にずらっと紙漉きして濾した紙が干されてて。
よくある和紙工場な様相ですけれど、煙が充満してます。
ちょっと工場見学は難しいみたいですね……換気扇もないし、一日中煮たり蒸したりしてるんだから煙は仕方ないのかも知れません。
次に向かったのは建具屋。
歯車を作ってくれているはずなんですよ。
小昼のプランでは木型をまず作ってですね、それを元に青銅化、鋳鉄化してく狙いがあるのですよ。
歯車さえ量産出来れば蒸気機関が作れるじゃないですか。
まーまだ?木型の時点で依頼した小昼と受注した建具屋さんの間で相違が出てて完成してないのですけども。
「この歯一本一本が等間隔になるように作って。と言っておきましたよね?」
「お嬢ちゃん、だから半年はかかるよって言ったろう。うちの仕事は嬢ちゃんのものだけじゃないんだからな」
堂々めぐりなのです。
仕事はそうですが、小昼の依頼はもっとずっと高尚で素晴らしい文明の利器を得る為の第一歩なんですよ。
まー出来るかどうか、まだまだ解らないんですけど。
ピストンやバルブだってこの先作らないとダメですしね。夢はおっきくディーゼル機関!
「これは何よりも急いで作って貰わないといけないのです。水車だって、これから他所で予定する試作のためにも木型がどうしても必要なのですよ」
「木型ならこれで大丈夫だろう?」
出てきたのは、歯車でした。どうみても歯車でした。ただ、
「等間隔ではないでしょ。ここに一寸二寸のズレがあります!等間隔ではないと水車は回らないの」
そう。等間隔じゃないのでこの歯車は使えません。試作をやったところで壊れるのが目に見えてます。
……はぁ。真剣に作って欲しいのですがね。
「儂はやるだけはやった。後は弟子を使ってくれ、儂は襖を作らなきゃならんからな」
「むー!もうっ!どれだけ大事なことか、解ってない!」
とまあ、空気の温度が互いに違っててお話にならなかったのですよ。
とりあえず、弟子という松五郎さんの手を借りることに。けど結局、まだまだ水車は実働できなそうです。
「うちの師匠頑固で。すいません……」
松五郎さんがそうやって謝ってくれている肩越しに彌源(やげん)さんの鋭い眼光。
その手には、襖の部品なのか木組みが掴まれてて鉋(かんな)で面を平らにしてる作業のように見えた。
にーさまや御座るちゃんが空気を読んで、好奇心も飲み込んで小さくなっててくれるのが唯一の救いかな。
ここで騒ぎは嫌だった。
怒鳴ってしまいそうだったんだもん。
歯車の小さな模型でも作って、噛み合わないと動くものじゃないって解って貰った方が意欲湧くかも?
図面引くだけじゃダメなものもあるという事。頑固な広井の爺さんだからダメだった事もあるかもだけど。
次に小昼が向かったのは、建具屋さんの向かいにある彫り師。双六の盤や、将棋なんかを作って売っていた。
今は白黒(リバーシ)やチェスも作って売っている。
そんな一方、独楽やけん玉にも手を出すし招き猫と達磨とこけしも店には並んでいた。
木材で楽しむのに全力な恵運さんは摂津の出だそう。壮年の男性。
「お嬢、今日は何を思い付いたんですか?」
「タケトンボ」
「ほう。よくある奴じゃないですか、何ぞ工夫がされてるんですかな?」
「羽の削り方がね、紙に書くとこんな感じ」
「へえ。揃えるわけでなく片側を右を削ればもう片側は、左と。なるほど」
小昼から上手く新しいアイデアを引き出すのを得意としている……らしい。
隠しているつもりもないけどね。聞かれたらそれに近いもので恵運さんの納得いくもので答える。
だから、積木なんかも店の隅にあったりする。
大きいものだと店に入りきらない、懸垂台とか。
「張り切り棒はどう?」
「前転もこの通り。逆上がりも──見事に出来ますよ」
前転や逆上がりする為の鉄棒ならぬ張り切り棒と命名してみました。木製で鉄棒とはこれ如何に?ですもんね。
恵運さんの作を見てるとうまく乗せられたなぁって思うんです。
「よく、……作れましたね。小昼の頭の中で思った通り、設計図そのままの出来映えじゃないですか!」
「はっははは!苦労はしますが、出来上がりに満足し。更にはこれで遊ぶ子らを愛でて満足もできます。苦労が苦労でないと思えて、また作ろうと思うんだ」
滑り台にシーソーにブランコにグローブジャングルもどきもあったりして。
さながら、小さな公園ですもん。これが店の裏手に広がっている様はまさに公園。
さりげにベンチなんかもある心遣いが小憎らしい。今はうんていを作成中と言う。小昼がそうなんだ。と答える後ろではさっそくにーさまと御座るちゃんが遊んでいる姿が。
恵運さんの作のこだわりはなるべく釘を使わずに嵌め込み式などを駆使して作れるってことらしい。
高い技術が必要だし、この公園にあるものは非売品だ。恵運さんが楽しむための趣味だっていうんだから、あとは子供たちに解放しているんだって。
「今、天から降ってきました。書き付けますね──題して、紐渡しの関」
「ほう。紐ですか……ほうほう、なるほど。《ぶらんこ》の枠を二つ。その間を綱が渡る、ふむー」
恵運さんの腕を見込んで新しい遊具を授けます。ロープウェイなのです。ターザンロープともいいますよね、あれです。
ただ、これには非常に難しいかも知れません。滑車を多用していますから、まず滑車から作らないとですもん。
木製だと、井戸用の滑車で大丈夫かもだけど、壊れる未来しかない。
せめて鋳物製かなぁ。滑車同士を組み合わせて回転塔も実現可能かな。
「あ。それと、遊具では無くて少し困っているものがあって……こちら、作って貰えるかな?」
「……ほう。どれどれ、これはこれは──簡単では無いがやってやろうか?」
「いいの!?」
「白黒がね。売れるんですよ。稼がせて貰った分、恩返しさせてくれよ」
恵運さんにも歯車の件、相談してみた所──やってやろうか、なんていうから頼んでしまった。
恵運さんって彫り師の領分を越えてる人だから出来なくはないよね。
恵運さんの言うことには、白黒で稼がせて貰ったから恩返しだ。なんて。
あれ、白黒はどうも大名なんかも商人を差し向けて買っていくらしい。
珍しいものは必ず堺商人が持ってるんだし、すぐにコピーされるから全力で作るものじゃないんだって。
碁石でリバーシも出来ちゃうしね。恵運さんとお弟子さんの木彫りのリバーシの方が小昼は好きだよ。暖もりがある気がしてこっちの方が絶対いい。
それはそうと後世には恵運さんの功績が、遊具作りの第一人者とかって言われていたりしそうと思う。まだ何か思い付いたら一言くれいなんて言うんだもん。
楽しくて仕方無いのか、単に子供が集まって遊んでいるのを眺めてるのが好きなロリコンなのかちょっと判んなくなってきたよ。
「まーだー遊んでないのにゃー」
「御座る御座る」
歯車の設計図を渡して、恵運さんの公園もどきを後にした。もちろん、ぐずるにーさまや御座るちゃんを遊具から引き剥がすのは忘れない。
やっぱり回転遊具は戦国でも人気でした。怪我するから周囲にネット敷いてね、と言うのも忘れずに。
次に向かったのは南学をやって薬草とか珍しい花を集めてるという城下の外れ、肥料工場の近くに住んでる、学者さんの家。
南学というのは南村梅軒と言う山陽は山口の大内氏に仕えていた処を土佐に招かれてやって来た教師が土佐で広めた教え。それ全般を南学というんだとか。
招いたのは吉良宣経(きらのぶつね。 1540死亡説、1551年死亡説あり。伊予の守を一条房家から貰っていて、しかもコレ。
“「本山茂辰、吉良駿河守《吉良宣直》が贄殿河(仁淀川)に出て狩猟するを伺ひ、七百余兵を二手に分け、一手は吉良の城を襲ひて此れを取らしめ、一手は贄殿河に向かふ。時に駿河守は如来堂と云える島に上り、鵜をつかわせ居たる処へ、ゆきとうの山陰より時を作りて弓、鉄砲を打かくる。是を見て駿河守船に乗らんとせしが、流れ矢眉間に当るにつき腹掻切って死す。」”
と、吉良家滅亡時の古文書にあり。宣直が1540年死亡説では……、無くは無いだろうけど9割鉄砲無いので。当然ながら、1562年に茂辰によって吉良家が滅んだ説を取り入れます俐。ちなみにその翌年に長宗我部に吉良は占領されてるんですが)。その宣経が数年前に亡くなると南村梅軒は大津の南、五台山村吸江庵(きゅうこうあん)に住居を移して新たな生徒に学を広めているんだって。
「天海って言うんですか」
庭にお邪魔した小昼は学者さんの名前を聞いてちょっとびっくり。大胆な名前だよねー、天海って。その由来を聞くと納得できたけど。
「某は吉良の出で。出家して梅軒どのに付いてきた次第。某、武士として生きて何を残せるかと考えた所、何も残せは出来ぬと行き着いた。して、弘法太師(空海)どののように立派な志を持って生きるために家も名も捨て改めたというわけでな」
吉良。……って父上の復讐の目的の一つなのです。その名を捨てたので、岡豊でのほほんと学を重ねる身で居られるけど、ホントなら首だけになってるとこだよ。吉良の名を持ってやってくるなら。
ただ、南学というのは仁義道徳を解いた朱子学がベース。儒教とも融合して独自の教育文化になっていたりする。その南学の祖が土佐にやってきて最初に弟子としたのが、吉良宣経兄弟で、吉良主従と次期当主・吉良宣直だったんだよね。史実通りなら。
「岡豊がどういう場所か判っていて?」
小昼のその言葉に、仁王立ちだった天海がすぐそばの縁側にとすんと座り込んでこちらを振り向くと気勢を吐いた。
「然り。行き場のない者を無下にしないといい、今の繁栄を手にしたと言う。某、全てを捨てた。行き場のない者の一人だ」
にやりと笑って。我、意を得たりと言いたげに。それまで無表情の仏頂面顔だった天海が阿弥陀のように微笑んだ。小昼にはそれが黒いオーラに見えた気がするんですけど!
「……ぐ、解せぬ……。武士の、戦国の世で。武士を捨てるなんて」
確かに岡豊は救えない日々を送っているだけの人たちに救いの手を差し伸べていますよ。労働という奉公でそれを返しては貰いますが、餓死させないように、一人でも救えるように。
寺社より有り難い存在だと言われて、岡豊に住み着く人々は日を追う毎に増えてますよ。
仇を逃がすような、政策になるとは思ってなかったのです。まさか、吉良の宣忠系の人間が岡豊にやってくるなんて思うはずがないじゃないですか!
大平元国に唆されて兵を挙げて岡豊を襲った一派、だと聞かされて育ったのですから、直接小昼がどうしなくても聞き付けた臣下にも斬られてもおかしくない存在なんですよ。吉良というのは。
それがお坊さんの格好で岡豊に暮らしてるんです。
「兄者が死んで、南村梅軒どのに誘われたのだ。某、あのまま家に居れば血にまみれた生を送ったであろう。梅軒どのは出来たらば某に全てを学んで欲しい、同行し同じように学を広めようと言って説得してくれたのだ。武士として十分に家に尽くした、もういいではないか。とな」
「それで全てを失って草いじりの毎日?」
いつの間にか天海の視線は庭に青々と伸びる草に向かっていた。当然、気になる。小昼が選んだ武士の道、侍としての人斬りの生をそれを捨てた吉良宣義の考えとは何なのかって事を。
「お嬢さん、草だって生きている。我らと同じなのだ、手をかけてやれば恩を返してくれる。実や花を付けてな。その逆、手入れをせねば枯れる。つけたであろう実や花は見せてはくれぬ」
「何を言いたいの?」
うん。学者肌気取りの侍くずれの頭の中は、……小昼にはちと難しいようです。
哲学ですか?そうですか、小昼には必要ないです。岡豊が富んで。家族と岡豊の皆が笑って暮らせれば。そうなれば、晴れて小昼はお役御免。諸国行脚して私欲目的の握手会の旅に出られるんですよ。
三好を黙らせられれば、一先ず……長慶と握手してサインしてお茶会しながら、阿波くれない?なんて話したい。きゃー!!><
「……はぁ。岡豊のために駆けずるお嬢さんなら同志かとも思ったが違ったようだ。俺がいいたいのは、恩と奉公。草とて恩を恩と思い綺麗に咲こうと全身で答えてくる。しかし、兄者の子はそうではないと言いたかったのだ」
「吉良宣直……。今の吉良峰の当主か」
一条兼定がステAll一桁なら、吉良宣直はステ全部1。これぞ暗愚。劉禅とタメ張れる数少ないバカ殿。
戦争が近いの解ってて準備もしないで遊んでて殺されたってゆー。
南村梅軒の講議を居眠りして、全く聞かなかった。
史実では、吉良宣義も余りの当主の放蕩ぶりに抗議の諫死したほど。食を絶って餓死して見せて抗議したんだけど、それを見ても何も変わらなかった、逸材中の逸材!
但し、バカの逸材だ。
「小昼、斬ってしまえ。吉良はわが家の仇にゃっ!」
「黙って!──そう。あなたが誰か判った。その上で小昼は、長宗我部元親として吉良宣経の弟である、一介の僧・天海を見逃すわ」
にーさまや父上には悪いけど、斬ったらダメな人よ。
なんせ、賢くて、武家で、分別のできる尊敬すべき大人よ。
「小昼っ?」
「弥三郎くん、この人は全てを失って、世を捨て草いじりをやってるただの僧よ。教えを乞うならいいけど、問答無用で斬ってみなさい。我が家の信用ガタ落ちよ。民心が離れたら、それを持ち返すなんて首を獲るよりずっとずーっと難しいよ」
そう。なにより、南学の祖・南村梅軒が懇願して連れ出した人なんだもの。それを斬ったとなったら南学の連中から恨まれるし、吸江庵はまず敵に回るでしょ?得無いじゃないですか。
南学は仁義道徳を解いた教え。今の小昼に、仁義は味方してくれそうに無いのですよ。
「……むう〜!教師として使えるから生かすということだにゃ?」
「うん。そういうことだから、天海ってお坊さん。岡豊の子たちに学を広めてね。梅軒どのも呼んでくれてもいいし」
「某を使う、と?あまつさえ、我が師・梅軒どのに教えを乞うと言うか」
草をいとおしい視線で見詰めていた目が小昼に向く。
吉良宣義こと天海は斬られる覚悟でもしていたのか、どこか驚いた表情で。
だーかーらー!斬るわけないでしょーよー!
「小昼は必要ないから、いいよ。どっちかってゆーとお坊さんの育ててる草の方に興味あるってわけ」
行き当たり上、吉良がうんたらな話してたけどさ。
目的は忘れちゃいけない。薬草なのです。
「ふはははは!誰ぞ。大病でもあるか。ここには、牛蒡、にんにく、シソ、生姜、茗荷もある」
「そう。多分それとは別のが欲しくなる。大病になってないかもだけど、弱ってる爺さんを助けるってゆーか、命を繋いで欲しいの」
牛蒡って薬草なんだ?知らなかった……。きんぴらごぼうが食べたくなってきちゃったなぁー。
「小昼……ま、まさか」
にーさまに目線を送ると蒼い顔をしてる。勘違いだよ、それは。心配しないで。
「ううん。岡豊の人じゃないから安心して」
「ふ、生を繋いでどうとする?人の生は予め決められたものよ、そうは思いませぬか」
天海は、そう言うと目を細めどこか小昼のずっと向こう──吉良のある吾川郡にでも思いが募らせたのか、それからまた阿弥陀顔に戻って微笑んでから再び、視線が小昼に戻ってきたんですよ。
哲学こじらせくんに、小昼も皮肉を思い付きましたよ?
「ふふふ。生を改めたお坊さんが言うと説得力たぁっぷり。生を繋ぐことで、それを生き甲斐にしてる人間の助けになるわよ、そうじゃない?」
「ははは!言い得て妙に思う。実に愉快。人を生かすに違う者の生を繋げる。然り。兄者の生が続いておれば、天海は居らなかったやも知れぬ。そう言うことだな?」
吉良宣経は賢君だったんでしょうね。ともすれば家督を争って血を流す間柄の兄弟なのに。なにせ、戦国の世。
それなのに、宣経の死を悔しがっていたんだ。
「お坊さん、余り難しく考えなくていいよ。そういうことだから、薬が欲しいんだよ。梅軒どのに聞いてもいいし、小昼の頼むものを天海どのの伝で手に入れて欲しいんだ」
「承知つかまつった。あ、いや。承りまして御座いますよ、お嬢さん」
「武士言葉でもいいよ。小昼、それを気にしないから。それと……弥三郎くんに勉学させてあげて欲しい。本が教師だったから、片寄った学問なのよ」
にーさまに小昼から教えると変に勘繰るからなー。
プライドがぐっさぐさなんだろうとは思う。だから、南村梅軒とか天海なんですよ。
本だけで学ぶと一方的だもん。教師と生徒。質議をやって答えの出ない答えを求めて欲しい。
名付けて、会話のキャッチボールでメンタル向上作戦。
にーさま、変にプライド高いとこあるからなぁ。
「某で良いなら。……おお、今は刀も槍も無いぞ?髷もこの通り。そう言うわけでよろしくな、弥三郎とやら」
今も歩みよった天海に対し、吉良は仇と聞いて育ったにーさまはロクな感情は湧いてないようで、鋭い眼光で刺すような冷たい視線を送ってたり。
天海も丸めた頭をぺんと叩いて再度、武士ではないとアピールしてるのに。
「全てを捨てた……それで吉良では無いと、小昼は納得したようだがにゃ……僕はそうではないかも知れないぞ、それでもいいのかにゃあ!?」
「構わん!」
微笑んで返す天海に、にーさまは殺せる視線で答える。
めったに見ないようなにーさまのマジな顔を見てギャップに思わず息を飲むしか出来ない。注意しなきゃと思うけどその声が出てこないんだ。
斬り合いとかしないよね?
始まらないよね?
「めったな真似をすらば、その首貰い受けるからなぁっ!」
「こら、こらこら」
「い、痛いにゃ……」
さすがに体が動いた。
腰に差したもの抜くんだもん。
これは止めないと。
小昼は信頼を失ってそれを回復させる労力なんて無駄に思うけど、にーさまなんかは大事なとこは小昼とは違うんだよね。ベクトルが。
「教師と生徒なんだから、気勢あげないの」
「あのー……で御座るが」
にーさまを小突いてぐりぐりしてたら、それまで空気を貫いて大人しくやり取りを静かに見守ってた御座るちゃんが唐突に声をあげた。空気だっただけに、ちょっとびっくりした。
「なあに?」
「ひめせんせーより、天海どのの学は優れているんで御座ろうか?気になったで御座る」
「あー優れているとこもあり、劣っている面もあり。一長一短ものね」
んー平成知識と南学とを比べるとかなんなの。それは難しいのよね。仁義道徳を学ぶと言うなら、いろいろ問題な平成道徳よりは南学推し。
総合力なら平成知識に軍配ってとこかな?
「天海どの、優れているとひめせんせーより、聞いてはこの中島吉鶴、ぜひともその教えを受けさせて戴きたく御座るがどうで御座ろう?」
あ。御座るちゃんが土下座して天海の足下の地面にひしっと張り付いた。
自分探しをしてた御座るちゃんは、まだまだ勉学の道に興味があるようなのですよ。
こうして、御座るちゃんが天海に促されて顔をあげるまで頬や額を地にこすり付けて天海の生徒となった。
「僕は、納得なんてしてないにゃ」
なんて、言いながらも晴れてめでたくにーさまも南学の生徒になったのですよ。めでたしめでたし。
小昼?ですか?
南学かー……面倒だな、仁義道徳って哲学ですよ。生死をやり取りしてる戦場真っ只中の土佐の岡豊に……哲学ですか。必要なんですかねー……恵運さんに遊具作って貰った方が有意義な時間を過ごせそうなのが、また何とも。
小昼、南学はばっくれちゃうぜってよ。なのですよ。ふふふふ。