烏なき島の蝙蝠─長宗我部元親(ただし妹)のやっぱりわたしが最強★れじぇんど! 作:ぴんぽんだっしゅ
《1553年》天文22年七月十五日─土佐・大津城
長宗我部小昼
昼には決起式をやったそうで、大津に着いたら大将筋や各軍団長なんかは大津城を出て移動を始めていたことが発覚。
出陣式も平行して行われたとかで房基は大津に居たのに、父上や各武家の連れてるはずの兵たちの姿も最後尾なのかな?
数百くらいしか残ってない。
……気がする。
ってわけで疑問を房基にぶつけてみたんだ。
「なんで居んの?逆に万の兵が居たって噂を聞いたのに今は数えるくらいになってんの?」
大津城の天守。そこに房基と小昼が二人きり。
梯子?のような細い階段の下には誰か来たら知らせるよう、側近の広江家の誰かさんが居るとか、で。れっつ密談。
「安芸の到着が遅れているのと、中村の武家でも御荘や二宮、為松など着いてないからな。だからまだこうして暇つぶしに娘に会ってやっているというわけだ。兵が出ているのにも訳がある、室津だ。海部から攻囲されているとの一報が先日届いた。して、室津を取られて持ちこたえられると安芸の傘下の国人が耐えれず、寝帰らざるをえなくなるという。三好の前に海部からと言うわけさ」
安芸が何やら大変な感じかな?
しかし、海部。……海部ねぇ。
「海部って……三好長慶の養女だか妹だかを貰って準一門扱いだったわ。なるほど、三好が先に攻めてたのか……それで?」
三好攻めの前に、安芸と海部が始めちゃってましたか。
「あのな、聞いてたかい?室津が落とされると安芸が崩される。室津に後詰めを入れるとなったよ。海が三好に染まると商人も三好に廻る。食うものが調達出来なくなるからな」
お……?
「……ん?つまり、軍は兵糧が充分じゃない??はぁー?攻める以前の問題でしょ、それは!」
大問題発生!房基、兵糧なしで戦するつもりだってよ!敗けしか見えない。
ゲームだと《兵糧が尽きた》が浮き上がってのテロップ画面。
つまり、敗けだ……よね?
「無理を通すのだ、一条が兵糧は持つと決めたよ。摂津や堺、播磨、紀伊の商人の船で食うものが室津に集められる。三好にそこは妨害させては不味いことになる。十数日は持ち寄った兵糧で持つだろうけどな」
これから買う?いや買ってて、届けさせるのか。
んー、なんてゆーか自転車操業?上手く回せたとして、いや……回るのか?そもそもの話。秋の刈り入れ前に米が大量にあるわけ?
「初っぱなから負け戦じゃない!食うも食わずじゃ戦えないよ!それ、父上や皆に知られたら……」
武士は食わねど高楊枝じゃないの。腹が減っては戦はできぬ、でしょうよ。
カッコだけで戦は出来ないんだから。
「声を荒立てるな。兵糧が足りないとは言ってはいない。……なに、すぐには気付かれはせんよ。島井宗室が解るか?
博多からも米は届く。少し、調達に時間が掛かるだけだ。何、二十日もすれば中村に届く。そこから室津に入れさせればよいだろ?」
中村に二十日で、そこから室戸岬ってことか。いったい何日腹を空かせた兵士が彷徨く事になるんだか。
多すぎるくらいでいい。少ないのは絶対まずい。足りないのは、戦どころじゃなくなるよ。
「希望的観測じゃダメだよ。兵糧が足りなくなれば兵が逃げ始める。バックレられたら持ちこたえられないよ。敵はそれでなくても、強大な三好なんだよ!」
一条が戦う相手は、現時点日本最強軍団なはずの三好。それと細川。
侮っては勝ちは拾えません!絶対!
「一条の米は蓄えの九割を出している、負け戦にしない為にも二万の兵が集まった。勝てなくても結果さえだせばよいさ。敵の大将首がぽとりと落ちてくれれば、な」
二万。土佐じゃ多い。九州難民が流れ込んで食うものありつけるならって参加してる気がする。
「三好長慶の首が二万じゃ落ちないよ」
それでも日本の副王は伊達じゃない。畠山や六角と戦った時、両軍合算して二桁の兵を戦場に送り込んだはず。二万、これで足りる……か?
「三好長慶は京にいる。元より、三好長慶の弟が阿波を守っているという話だ。弟のどれかを落とされると、長慶も京で偉そうな顔をしたままでは居られなくなるだろう?俺の役目はそれだ。一条は公家で武家の真似事をしてると思ってる奴等だ。たっぷり、油断してくれることだろうさ」
だろう運転が多くなるのは仕方ないけど、さ。
三好だって百戦錬磨。
だからこそ、畿内の戦は片付かないんだし。
油断……しちゃうかな?
「油断してくれることだろうさ。って、それ前提で戦するってどうなのよ。確かに、公家に武家を倒せるわけないわ!なんて思ってるか知んないよ?でも、小昼の知ってる三好は六角、畠山、朝倉なんかかな?連合軍を相手に充分持ちこたえた立派な武家だよ」
「しかし、その言い方をみるに『勝ってない』な?そこに我らの勝機はあるんじゃないか?小昼よ、聞かせてくれ。誰の指揮でどこに配置し、誰の首を取れば三好は傾くか」
うぇーい!小昼、官軍の大将に献策することになりました。いいのか、それで?
そうね……じゃあ。
「ボンバーマン松永と、裏取引すれば中から壊れるはずだよ。後のことは三好三人衆が勝手に三好をバラバラにしちゃう。だから、松永弾正に御手紙書いて後は待てば」
松永久秀が三好のなかに居るのはデカい。どんなに屈強で難攻不落だろうと、内から開けば門は開き、脆く崩れる。
「ぼん……何だ?「松永弾正よ!」そうか。それでは時間が足りなくなるんじゃないのか。山科どのは天子さまに『賑わいを取り戻した都』を見せたいといっているんだから、……な」
ううむ……。この三好討伐の芯はそこでした。老い先短い天子さまに、焼け野原でない京の都を一目見せてあげたい、的なそんな思いや願いでしたっけね。
公家だけじゃなく京に住んでる人達も思いは同じでしょう。洛中もずっとボロボロなままだって話だもん。
「う……。うん、考え方を変えましょう。ならば、取る首は阿波大将・三好実休義賢。指揮は房基。配置は土居宗珊に兵を付けて甲浦から揚げて─」
長慶の弟であり、阿波の総督である義賢が倒れれば三好も息は続かなかったはずですからね。
「甲浦をまず取らねばならぬな。道は三方あるぞ?白地の豊永方面。奥物部から阿波山間越え方面。室津から海岸部から上がる方面。どこに誰を就かせればよいか?」
室戸岬=室津。豊永は北東方面。奥物部は……剣山の南の辺りか。なら……。
「阿波山間越えは時間が掛かるだけだよ。ここは少数、山に馴れた武家をあてるといいかな。豊永方面だけど、その言い方だと豊永は─」
「うむ。なしのつぶてだ。返答なしだよ。三好を宛にしてるのだろ」
思った通り。房基は壁のある方向を向いた。あっちが北かな?豊永のある、香川(讃岐)がある。豊永は三好を切れなかった。三好が負けるなんて、思えなかったんだね──
「続けるね。豊永方面は元からここで戦をやってた本山勢、山田勢がいいかな。残りは一条房基の本隊が順当に室津から上っていくのでいいんじゃない?」
「なるほど。さすが、俺の娘だ。早速、地図に書き付けておこう。それと、三好にしっかりと怪文書なるものを送り付けておいたぞ。三好は白地に大軍を集めた様子。本山にも三好の文を数度に別けて送り付けた。豊永は血の海が広がることになるな」
うわ、うっわ!
豊永はこの時点で戦場に大☆決定!
ここ……山の中ですよね?
ゲリラ戦はこの時代もやってたのかー?
「そうなると、戦功一位は本山かもね。三好義賢は白地に入るかも。三好から一条に書状とか来てない?」
大軍が白地に入ったなら、それを率いるレギュラーを務められる有名どこが入るよね。総督自ら出てこないとも限らないよね。
偽書状、あちこちに撒き散らしたとかナイス!
三好を盤上にあげれた訳だ。釣り出せたなら、釣り上げるっきゃないね。れっつフィッシュ!
「無いな。まさか、今の時点で一条が起ったと三好は思ってないのではないか。御旗はまだ届いてないしな」
御旗…?あー、とそれってつまり。
「御旗……?」
「官軍という考え方だよ。娘よ、知らぬか?錦の御旗と言うわけさ。俺たちは官軍なんだから当然、用意させている」
やっぱりか。大政奉還でも公卿の誰かさんが長州に作らせたよね。
「勝てば官軍。なるほどなるほど。納得したよ、じゃあ。官軍なんだから、他国を混ぜてもいいわけよね?書状を官軍付けで近隣に出したら?」
土佐vs阿波って決められたものじゃないし、援軍を沢山かき集めてもズルじゃないでしょ。
「ふむ。紀伊畠山や播磨赤松か?」
あーそれも近くていいかめだけど!
「もっと大きな後ろ楯あるでしょ?大内、大友よ」
「大内は毛利に苦戦。大友は大乱の様相の真っ直中。戦をやめて駆けつけるか?」
なー??大内と毛利。
いやでも……無くは無いの……かな?
大友は戦まだやってるの。
「官軍、錦の御旗がなんとでもするわよ。何のための朝敵認定なのよ。朝廷、ひいては国の敵って事よ。停戦させようよ、そこは。……えーとじゃあ四国を動かしましょ。留守を脅かすかも知れない、河野や西園寺を起たせろって言ってんの」
伊予。一条や本山が手薄だから、土佐に雪崩れ込むかも知んない。ここ、フリーのままは不味いよ。
「俺は河野の武家を知らぬ。西園寺ならば各家を奮い立たせられるかも知れねども、西園寺は俺の目先の敵だぞ?知ってるだろうが、祖父、房家から引き継いだ不倶戴天。それと、三好を討つために結べ、と?」
小昼も村上水軍と来島水軍と法華津水軍と……宇都宮と。有名どころしか出てこないかな。
「我が家は本山と山田と吉良と大平と細川と天竺と、この戦で今だけは仲良くしましょって、事になってるはずなんだけど?房基のは出来ないの?」
「正直、話を最初に戻すが……兵糧が足りぬ。兵が増えれば口が増えれば、な?伊予の兵がやって来た、さあ米をどうする」
それは、口が増えるんだから確かにそうだ。
あー。だったら、河野と西園寺に出させればいんだよ。
「増えた家から持ってこさせる。阿波からぶんどる。以上。はい、解決」
それに乱取りすれば……って、え?
それを聞いた房基の顔がみるみる落ち込んだみたいに色を失う。
「……官軍が乱取り、勝手を許すと?阿波は朝廷を憎みはすれ、感謝はせんだろうな。俺は権阿波守。乱取りを阿波でさせては官位に泥を塗る。ひいては朝廷に泥を塗るようなもの。それはさせてはならないんだよ。娘よ、言う分には勝手かも知れぬが。俺が何であるかも考えてくれ」
うわー!官位てめんどくさいったら!
「ヒャッハーさせればまだ勝ち目があるのに、それをさせない訳じゃ?」
「ヒャッハー……?先の世の言葉か。勝手働きはさせぬ、大義名分は阿波の静謐さ。それを俺が自ら壊しては民に笑われる」
阿波の静謐って、ようは制圧して畿内の戦に兵を出させない為じゃない。
「笑われるだけならやれば?負けてすべて失うより、上等だよ。何のための権阿波守。何のための官軍。すべて朝廷に仇なす三好をやっつけて天子さまに喜んで貰うためでしょ!」
天皇がため、朝廷がため。畿内の戦を一旦終わらせてかりそめでもいい。平和になんないと。後奈良天皇さんが都見物なんて出来ないんだから。
なんか、それを聞いた房基の顔が和らいだみたいな気がした。あ、笑った。
「……悪に染まっても、勝つ。ということか。すべて朝廷。すべて天子さま。ひいては国がためか。……そうだな!決めた、勝つ!なんとしても国がため、天子さまを喜ばせるがために戦う!さすが、俺の女神だ。娘よ礼を言うぞ、ふっきれたわ!山田と話が付き次第俺は、室津へ向かう」
ふっきれた。それはいいけど、最後におまけついてたな。えっ?山田が?
「……え?山田と?あいつら、まだぐずってんの!」
「ぐ……?まあいいか。そうだな、山田は使者だけは出しては来たが返答は後回しにしている。この責任どう着けような?」
責任か……責任ねー。うーん。
「元義は蟄居してんだから、出てこれるでしょ。暇なんだから。罰は必要かも、ね。山田からは領地ぶんどれば?」
「ふっふふふふ!この機にぶん取れというか。まぁまぁ、そうだな。領地差止めとでもするか。働きによって返すとすれば、拍車も懸かろうよ」
差し止めは生温い。どーせ、我が家の養分になるんだから、先になるか後になるかの差。房基がやってくれてもいいのよ?
「いやー踏み潰してくれていいよ。その方が小昼的に助かるもんね」
「そうは行かぬ。使者だけでも寄越したのだ、義が俺は無いと諸々から思われる、三好攻めどころか向かう先から崩れるよ。皆後ろを気にしはじめるからな」
義、義理かな。悪いのは山田ってことにしてふるぼっこしてくれたら後腐れないのにな。
「サーベル突き付けて従わせるってやり方もあるのよ。前例を作れば、あのようになりたくないって。従いますって。小昼はそう思うな」
「いや、義理を欠いては為らぬ。娘よ娘。そこは小昼と俺の違いだよ。俺にもそれは譲れぬよ」
「なにやらとかんたらを秤に乗せたら、って奴か。そんなの気にしなくても……何せ戦国の世。勝った方が正義だってことでしょ、なんとでもなるって」
勝てば官軍。勝った方が歴史を作るのです。甘い顔してたら舐められますよ。
足を引っ張る問題児の背中には常に、サーベルなり錐なり槍なり突きつけときゃいいと思うんだ。
軍規を乱す奴は斬って捨てるから、ああはなりたくないって思わせて従わせるってワケで。
「く、くくくっ……無茶苦茶だな。確かにな、勝たねばめくらか間抜けという風潮はずっとある。今、それで良くとも……負け戦で逃げ帰った後、一条に義はあったか、房基は軍を率いる器であったか、そうなりはせぬか?」
なるほど!
「ようは、信頼の事を言ってるのかな?うーん。……酷い大将だと思われて裏切られるって事を言ってる?」
「そうだ。俺は津野と大平、吉良も抱えているだろ?どの家も腹に一つ持った武家だ。三好が終わった後、これらが勝手をしないとは言えぬな」
「山田に対する姿勢一つで変わるかな?」
「さぁな。津野は祖父が従わせたが、父が倒れると謀反した。一度あれば二度が無いと思えん。津野は武門の名家と自負がある家だからな、隙を見せれば突いてくる」
謀反が一条全体から起こる的な見方もあるってわけだね。確かに。津野は名門として明治にも残ってました。分家だったけど。
「山田を無下に扱えば次は自分等と思うって事なんだね」
「そうだ。さすがに話が長くなってしまったな、そろそろ山田も着くだろう。話を元に戻すぞ。河野を動かせということだったな、西園寺もか。……正直、動くかな?」
河野が動こうものなら、海が三好に有利になることは無いもんね。村上水軍と来島水軍と法華経で南北から三好の水軍を圧迫出来る。それに──
「朝廷の使者を寄越せとか、無茶苦茶は言わないと思うよ。河野も半分は三好と揉めてるとこだから。西園寺は知んない。三好のあとでふるぼっこしてもいいし」
東予河野は三好から攻勢を受けてなんとか弾き返してたとか、そんな話だった。
天正の陣で滅ぶ金子を使ってもいいし。
「ふる……つまり袋叩きか?河野がそれを許すと?」
「河野も西園寺と揉めてるでしょ」
「それでも、さ。一条と西園寺なら西園寺を取るだろう。宇都宮の事もある、伊予を一条の戦に引っ張り出すのは難しいな」
官軍に加わらせるのに、首を縦に振らない事がある?
皇族の御曹司が戦うって言ってるんだよ?
断りようがないのに、断れちゃうって何なのよ。
小昼と、平成と戦国の思考の差があるんだなー。
「書状出すだけでも、意味はあるよ」
「よし、出すのは俺じゃないからな。出させておくか。ふー……退屈はしなかったな」
そろそろ終わりに近付いて来たみたい。房基も座を崩して自由な姿勢で両手を背に突いてる。
「地図書こうか?安くしとくよ?」
「それを一つ頼む。阿波の山間の地図など、喉から手が出るくらい欲しい」
はっきりした地図が無いと作戦自体が破綻することもあるからね。書いてもいい。
でも、隠密働きの出る幕を潰してないか心配にもなるわけで。
「甲賀や伊賀を連れてこさせて中村で養育してんでしょ。こんな時使うためじゃないの?いつやるの!今だよ!」
「忍者は俺の護衛だ。山に放ってどうする?」
「地図作れるんじゃない?」
小昼も書けるけど、忍者が二桁から三桁居るんだから使い所だと思ったんだよね。でも、房基の頭にはそれは最初から無かったぽい?
「小昼。小昼をいつ使うか、今だよ。そうじゃないか?」
城の大体の位置と規模くらいは書いといてあげますか。ついでだから、ついで。
「ん。解った。小昼の科白をそのまま使っておうむの真似されるよりずっと気が楽だから」
地図を書いて、小昼は大津を離れて岡豊への帰路に着いたのです。
その後で山田と一悶着あったと知ったんだ。吉田の爺の弟、吉田重俊が、ね。