少女漫画みたいなことがしたかった、擬きの赤主従のお話。

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ヒーロー遠坂凛とヒロインアーチャーが少女漫画をしながら第五次聖杯戦争を勝ち抜く話。
凛の性格が若干ヒーロー改変され、アーチャーが若干乙女改変されてますが、根本的な変化はないはず。
最初からガンガン凛ちゃんが押してます。

と思って息抜きに書いていましたが、勢いで書き過ぎて若干キャラ崩壊が否めない上に、少女漫画要素は薄いです。
ひたすらギャグで、書きたいところだけ書いています。




少女漫画な弓兵陣営

 完璧だと思った。

 取って置きの宝石を溶かした陣に、私の最高コンディションになる深夜二時での召喚。

 これで最優が引けなくて、何を引くと言うのか。

 確かな手応えに、私は確信しか抱けない。

 間違いなく―――セイバーを引いた。

「…………」

 と、思いたいが……何故だろう。

 完璧な状態で召喚の儀を行ったにも関わらず、何故か目の前の召喚陣に魔力の固まりひとつとない。

 あれ……もしかして、やらかしたかな?

 代々受け継がれる遠坂の常時発動型遺伝奥義『うっかり』は、いざと言う時に大ポカを宿主へもたらす忌むべき遺伝因子だ。

 これにより、私の華々しい人生に汚点が一つ二つ……周囲に認識されない程度には押さえてきたが、今回はやらかしてしまったかもしれない。

 頭上で騒音がしたのに、ハッと地下室から地上へ駆け出した私は、バクバクと早鐘を打ち始めた心臓に手を当てる。

 もう起きてしまったことは仕方ない。どんな結果になっていようと、この私が引いたのだ。悪い結果になっているはずがない。

 幸い、私のうっかりは、一位が二位に落ちる程度。このくらいなら何時でもフォローできる。

 今、私がしなくてはならないことは……。

「やれやれ、乱暴な召喚―――」

「大丈夫!? 怪我とかしてない!?」

 立て付けが歪んでしまったドアを蹴破って入ったリビングには、滅茶苦茶となった家具の上で寛ぐ赤い男―――サーヴァントがいた。

 私はそのサーヴァントに駆け寄り、手を握って解析をかける。

 魔術回路―――正常。

 魔力パス―――正常。

 霊核―――損傷なし。

「何をしている」

「ああ、ごめんなさいね。こちらの不手際でこんな荒っぽい召喚しちゃったから、何処かに異常でもあったら、と思って。でも、これなら大丈夫そうね」

 軽く手を払われてしまったため解析は途中だったが、最低限のことは知れた。

 不審そうに私を見るこのサーヴァントは、間違いなく私のものだ。

「ところで、早速で悪いんだけど、クラスを教えてくれる? それと真名も」

「……クラスはアーチャーだ。真名については教えられない」

「教えられない? ……あ、そう言えば私の自己紹介がまだね。うっかりしていたわ。こういう時は訊いた方から名乗るものよね。私は遠坂凛よ。この冬木の地のセカンドオーナーを担っているわ」

「なるほど、それでこの魔力か。どうやら、私は(・・)当たりを引いたらしい」

「ええ、是非誇ってちょうだい。それで、貴方の名前は?」

 魔力の馴染みを感じたのだろう。

 感慨深そうに頷いたアーチャーは、次に困ったような顔をした。

「……思い出せん」

「え?」

「思い出せん、と言ったのだ」

 おもいだせん……あー、思い出せんね。

 つまり、自分の名前がわからない、と。

「え????」

「言っておくが、これは君の言うとおり、そちらの不手際だぞ。あんな召喚をされたせいで、どうやら記憶に混乱が見られる。生前については殆どわからなくなっているな。まあ、戦闘には支障はない。問題ないだろう」

「それって大問題じゃない!!!!」

 悠長に肩を竦めるアーチャーに、私は詰め寄った。

 ぬかった!

 これから共に死地を駆ける相棒にこんな致命的な欠陥を与えてしまうとは!

 これじゃあお父様に顔向けできない!

「本当に何ともない? 回路の調子は? 戦い方とか……」

「やれやれ、一辺に訊かれては答えようがないな。そんなに自分の道具の不備が気になると?」

「……」

 アーチャーのその自分を道具としか思っていない物言いに、私の動きは止まった。

 確かに、サーヴァントは使い魔で道具だ。

 彼の言っていることは、魔術師として正しい。

 だけど、私は道具を使い捨てにするような奴らとは違う。

 道具は使えば使う程に、使い手に馴染んでいく。意思のないものでも、それは使い込んだだけ使い手に最適な形へと変化していき、相棒とも言える存在になるのだ。

 それはもう、ただの道具ではない。

 私は、私のサーヴァントにそんな自分を卑下するような認識を持って欲しくはないし、やりづらいったらありゃしない。

 て言うか、自分を道具だと認識するってどんな英霊よ。その認識からしてろくな生前じゃないことが丸わかりだわ。

「……訂正して。貴方は道具じゃないわ」

「甘いな。魔力は一流のようだが、魔術師としての心構えがなっていない。これでは先の認識を訂正しなくてはならんな」

「…………」

「一流の魔術師であるなら、非情であれ。道具に意思を求めるな。私を君の手足と思え」

「………………」

「であれば、後のことは私に任せて自分の身の安全を考えたまえ。君はこの屋敷に隠っているだけでいい。私が全てのサーヴァントを屠り、君を聖杯へ導こう。私の勝利は君のものだし闘いで得たものは全て君にくれてやる。なに、心構えは兎も角、素質として君は十分に優秀な魔術師だ。君に召喚された私が、最強でないはずがない」

「……………………」

「そうだろう―――お嬢さん?」

 ブッチィィ!

 私の中で、何かが切れた。

「ええ、そう。ええ、そうね……あったまきたーー!」

「!?」

 余裕を持って優雅たれ。

 我が父より受け継ぐ遠坂家の家訓など、頭の彼方へと追いやれた。

「いいわ! そんなに言うならこっちもそれ相応の対応をさせてもらおうじゃない!」

「まさか!」

「そのまさかよ! こっのわからず屋っ!」

 驚くアーチャーの前に、私は左手の甲に刻まれた令呪を掲げた。

「――――Anfang(セット)……! Vertrag(令呪に告げる)……! Ein neuer Nagel(聖杯の規律に従い、)Ein neues Geset(この者、我がサーヴァントに)

z Ein neues Verbrechen(戒めの法を重ね給え)―――」

「待て、正気か?! まさかそんなことに礼呪を使う奴が……」

 アーチャーはぎょっとしたように私へ待ったをかけた。

 だが、そんな制止で止まるようでは遠坂凛ではない!

「うるっさーい! いい? あんたは私のサーヴァント! なら! 私のサーヴァントは幸せにならなくちゃ嘘ってもんでしょうが! つーかつべこべ言わずに幸せにされろ!!」

 令呪が一画弾け飛び、アーチャーの表情に変化が現れる。

 どうやら勢いで使った令呪が効いているらしい。

「っ……か、考えなしか君は! こんな大雑把なことに令呪を使うなど……てか何ださっきの命令は!?」

「言葉の通りよ、アーチャー。貴方は私のサーヴァントになった以上、何がなんでも幸せになってもらうし、してやるわ」

 ドン、と座っているアーチャーの顔の横に手を通し、背もたれとなっている家具に体重をかける。

 身長差はあれど、座っているアーチャーを立っている私が見下ろすのは簡単だ。覆い被さるように立つ私を見上げるアーチャーは、心底困惑してます、と言った顔で見たげてくる。

 あら? こうやって見ると、意外と童顔ね。

「いいわね、わかった?」

「……しかし、だな」

「わ・か・っ・た・?」

「……了解した」

 ふむ、このサーヴァントは押しに弱いと見た。

 ここから攻めるのが吉かしら?

「よろしい。せっかくだから、呼び方もマスターなんて固っ苦しいのじゃなくて名前で呼んでちょうだい」

「それでは凛と。……ああ、この響きは実に君に似合っている」

「あら、ありがとう。私も貴方の名前を知ったら、呼んでみたいなー……」

 もしかしたら、アーチャーはなかなか気障な性格をしているのかもしれない。

 普通、名前くらいでこんなこと言う奴なんて居ない。

 ちょっとドキッとしたのはナイショだけど……。

「さーて、じゃあまずは……さっそく、デートでもしましょうか」

「デート?」

「そ、デート。朝までリビングお掃除デート。早く終わればその後は私とふかふかベッドで夢のデートもできるわよ。」

「大丈夫か、凛。もしかして疲れているのか? いや、疲れているんだな? 召喚の後だ。それも仕方ない。掃除は私がやっておくから君は早く寝なさい」

「いいえ、デートをするわ。じゃないと貴方は幸せになれないもの」

「何故、デート=私の幸せになるんだ。まるで主人公のモテない親友ポジみたいなキャラを当て嵌めるんじゃない」

「お父様がうっかり買った大きいネグリジェあるんだけど……うん。アーチャーでも入るわね。それ貸してあげるから、ちゃっちゃと片付けて一緒に寝るわよ、アーチャー」

「視界の暴力を生もうとするな。私に似合うと思っているのか?」

「似合うと思うわ。大丈夫、絶対似合うわ。きっと」

「地獄に落ちろマスター」

 

 

 

少女漫画な弓兵陣営

 

 

 

 目を覚ました時、隣にアーチャーが居なかった。

 残念。昨夜の髪を下ろした姿もなかなか好きで、起きたらじっくり見たいと思っていたのに……まあ、サーヴァント(死者)に三大欲求は不必要だから、こうなることは予想してたんだけど。

 結局、掃除デートはアーチャーが修復魔術も使えたことで二時間で終わり、そのまま嫌がるアーチャーにネグリジェを着せる攻防を二時間。ネグリジェについては渋々諦め、一緒にベッドインしたのが深夜五時過ぎになっていた。

 毎度のことながら、頭が重い……。

 のろのろとベッドから這い出て、寝室を出る。

 窓から差し込む日差しは、私の頭とは違ってはっきりとしていて、廊下に影をつくって追いかけてくる。

「……廊下温かい……そっか……一人じゃないんだ……」

 いつもは私一人しか居ないから、冬の朝は屋敷全体が冷え切っている。

 なのに今日は、まるで春のような温もりが私を包んでいた。

 そのせいで余計に蛇口から出てくる水の冷たさに身が竦むが、これならいい眠気覚ましになるだろう。

「っふう」

 濡れた顔をタオルで拭えば、漸く頭が冴えてきた。

「……ああ、こりゃ遅刻だわ……」

 そんな私の目に飛び込んできたのは、鏡に写った時計。

 時刻はとうに登校時間を過ぎていた。

 そう言えば、アーチャーに指摘されるまで、家中の時計が一時間早まっていたことを忘れていた。どうやら今回の引きの悪さの原因はそれらしい。

 でもまあ、アーチャーに不満はない。

 セイバーでないのは勿論残念だし、ステータスは低いが、その辺りは腕の見せ所と思えばいい。

 サーヴァントだけで勝つのも一つだが、それでは遠坂凛の力とは言えないのだ。

 英雄と張り合うのも憚られるが、魔術師としての素質ならアーチャーにだって負けるつもりはない。

「それにしても……ちょっと見栄を張り過ぎたか……体だっるいったらありゃしない」

「だから先に寝ろと言ったのだ」

 リビングの扉を開け、疲れの抜けきっていない体にため息を吐けば、いい香りのするアーチャーが声をかけてきた。

「おはよう、アーチャー。今日は随分といい香りね」

「君の素晴らしい頭を冴えさせるにはピッタリな銘柄を見つけてな。僭越ながら、淹れさせてもらっだぞ」

「ローズマリーね。香り、味、共に満点だわ。とっても美味しい。流石は私のアーチャー」

「お褒めに預り光栄だ。そして行儀が悪いぞ、凛。あと近い」

 お盆にのったカップを取って味わえば、最高のできだった。

 その満足の出来に微笑めば、満更でもなさそうにアーチャーが応え―――そして避けられた。

 なによ。ちょっと近いくらいで、それって失礼じゃない?

「五ミリの距離を避けない人は早々いないぞ。まったく、我がマスターは無防備過ぎる。私だからいいものの、普段からそれでは気があると誤解する男も多いだろう」

「失礼ね。貴方以外にこんなことしないわよ」

「そうかね。ならば安し―――ん?」

 テーブルにお盆を置いたアーチャーが、そこで動きを止めた。

 まるで不可解なことにでもかち合ったかのようだ。

「……凛、一つ訊くが、勘違いなら訂正してくれ。今、私以外にはしない、と言ったか?」

「ええ、言ったわよ」

「つまり、私に気があるとか言い出さんだろうな?」

「それ二つ目よ―――ええ、そうよ。察してくれてよかったわ。貴方、なんだが鈍そうで長期戦を覚悟してたのよね」

「は?」

 ビシリ、とアーチャーが完全に固まった。

「もしかして、私の命令ちゃんと聞いてなかったの? 私、()()()()()()()()()って言ったのよ?」

「つまり、」

私が(・・)、貴方を口説き落として幸せにする(・・・・・)の」

「…………」

 アーチャーが、私から距離をとった。

 ばびゅっと壁際まで。

 あまりの早さにビックリしたけど、やっぱりそれって紳士としてはどうなのかしら?

「そう言う反応も可愛らしくて好きだけど、やっぱり告白されといてそれは失礼じゃない?」

「すまない、なんか女難な相があったようななかったような……冬……川……落ちる……う、頭が……」

「なによそれ? 思い出したの?」

「……いや、そんな気がして……」

「貴方一体何処の英雄なのよ。ますますわからないわ」

 ハッキリしない己のサーヴァントにため息を吐きながら、何もしないから、と手招き。

 本当に避けた理由がわからないのか。素直にアーチャーは私の隣まで戻って来た。

 見れば、浅黒いからわかりにくいけど、ちょっと頬が赤い。

 どうやら照れているらしい。

「脈ありかしら?」

「揶揄うな。まったく、冗談にしても何にしても、趣味が悪いぞ、凛」

「あら、私は本気で言っているわよ? 貴方は確かに私のサーヴァントで、英霊で、既にこの世にはいない死者。でも、それが何?」

 私は真っ直ぐアーチャーを見た。

 アーチャーも真っ直ぐ私を見た。

 そこには、何故と問う疑惑が渦巻いている。

「貴方は私のよ。何であれ、今こうして私の目の前に居て、動いて、話して、感情があって、そしてあたたかい」

「……凛」

「貴方は今こうして私の世界に居る。それでいいのよ。いずれ居なくなるにしても、それは生きている私たち(生者)も同じ。貴方は十分に私に愛される資格があるわ」

 確かに、最初は勢いだった。

 アーチャーがあまりに自分を卑下するから、頭にきて令呪を使った。

 でも、今はそうじゃない。

 単純だけど、温かかったのだ。

 アーチャーと眠ったベッドは温かかった。

 一人じゃないベッドなんて、本当に久し振りだった。

 それだけで、私はアーチャーを愛しいって思えた。

「私、見る目は確かなつもりよ。バカにしないで」

「……そう、か……」

 アーチャーが真っ赤になっていた。

 どうやら口説かれ慣れていないらしい。

 やっぱり……かわいいなぁーこいつ。

「そうだ。出かける支度をして、アーチャー。街を案内してあげるから」

「出かける支度? いや、そんな必要はないだろう。出るならばすぐに出られるが」

「そうじゃなくて……ああ、そっか。霊体になれるんだっけ?」

 サーヴァントは非戦闘時に魔力の消費を抑えるため、実体ではなく霊体になる。

 霊体は、言うなら透明人間。

 物理的干渉を受けないが、同時に現実への干渉ができない状態を言う。

 まあ、エーテルで体を作らなくて済む、安上がり状態と言うことだ。

「でも、それじゃあ意味がないわ。何か外でも違和感ない格好にしないと」

「格好はどうにでもなるが、何をするつもりだ?」

「何って、デートよ。デート」

「……またか」

 アーチャーが空になった私のカップへ、おかわりを淹れてくれる。

 ちょっと昨日は押し過ぎたようで、アーチャーの反応が素っ気ない気がする。

 だが、その程度で負ける遠坂凛ではない。

「ええ、またよ。街を案内してあげるから、それなりの格好になってもらうわ」

「一応訊こう。霊体という選択肢は?」

「ないわ。何? 貴方は私に恥をかかせたいのかしら? 私に一人でシャドーエスコートさせるつもり?」

「ふむ、それは少し見ていたい気もするが……女性に恥をかかせたとなっては男の沽券に関わる、か」

 顎に指をかけ、アーチャーが思考する。

 だが、それは一瞬だけで、すぐにこちらへ視線を戻した。

「了解した、マスター。お手並み拝見といこうか」

「ええ、私に身を委ねなさい」

 

「ごめん、貴方のことは愛しいって思うけど、貴方のファションセンスは頂けなかったわ……」

「君も似たようなものだと思うが……」

 深山町から新都へ、と街中を回ってセンタービルで夜景を眺める私たには、ちょっと結構疲れていた。

 何でって、そりゃデート開始のお着替えタイムに三時間もかかれば萎えるってもんよ。

「大体、百歩譲って上下黒パジャマは許すけど」

「パジャマ……」

「裸ジャケットとか燕尾服とかはないでしょ。つーか何処からそんな知識が舞い込むのよ。聖杯? それも聖杯知識ってやつなの?」

「君だって刺さるような赤のへそ出しシャツに、あんな丈の短パンはないだろう。時期を考えなさい。時期を。あといきなり金髪にしようとするな」

「何でかしらね……なんかそうしなくちゃいけない気がしたのよ」

 という訳で、私の格好は無難にいつもの赤いタートルネックにスカート。アーチャーはグレーのシャツに黒のパンツ、あとオシャレ眼鏡ってのをしている。

 この格好のアーチャーの何がいいって、髪を下ろしているところかしら?

 世の中にはこの眼鏡がいいって子も居るらしいし、わたしもぐっとくるけど、今回の高ポイントは、それをかける理由にある。

 アーチャー曰く、眼鏡をすると少しはマシに見えるそうだ。見た目年齢的に。

 そう、こいつはどうやら童顔なのを気にしているらしく、眼鏡や髪型で誤魔化しているのだ。

 これをかわいいと言わずして何と言うのか。

 私のアーチャーが滅茶苦茶かわいい。

「凛、随分と険しい顔をしているが、何かあったのか?」

「別に? アーチャーがかわいいなーって」

「マスター。その慧眼が飾りでなければわかると思うが、私は歴とした男だ。あまりそう言ったことを言うなら侮辱として受けとることになるが?」

「でもちょっと頬赤いわよ」

「錯覚だ」

 アーチャーはふい、と顔を背ける。

 うんうん、図星なのね。

 思わず緩んでしまう表情で回り込めば、ますます顔を背ける。

 そう言う所とかがかわいいってわかってないわね。

「凛!」

「あははっごめんなさい。ところでアーチャー、どうだった? この街は、貴方の戦い方に適している?」

「まったく……ああ、問題ない。聖杯戦争の舞台は主に夜。これだけの狙撃ポジションがあれば、闇に紛れて敵を射つなど容易いだろう。遮蔽物の有無に関しても、やり方次第ではどうとでもなる」

 記憶喪失であっても、流石はアーチャークラスの英霊。

 意図があったにしろ、私にとってはただ見て廻っただけの街案内だったにも関わらず、しっかりと有用な仕事場を見繕っていたらしい。

「それにしても、初めからここに来れば歩き回る必要もなかったのだが」

「実際にその場に行かないと街の全景はわからないわ」

「そうでもないぞ」

 アーチャーは背けていた顔を私へ向け、それから川の方を眺める。

「弓兵は目が良くないと務まらん。あの橋のタイルの数くらいは見てとれる」

「びっくり。アーチャーって本当にアーチャーなんだ」

 私の目からはどう頑張っても、タイルどころか骨組みの数すら危うい程にしか見えていない。それを正確に捉えられると言うのなら、それは正しく人智を越えた力だろう。

 アーチャーの能力に感心していると、ふと何者かの視線を感じた。昼の公園で感じたものとは違う、しかし、何者かが私を見ている。

 まさかと思い下を見れば、ビルの傍に一人の男が立っていた。

 赤みがかった髪の、我が校のお人好し――衛宮士郎だ。

「……まさか、ね……」

 彼が衛宮士郎であるならば、これはただの気のせいだ。

 このビルの高さ、その屋上にいる私を視認するなど、魔術師でもない限り(・・・・・・・・・)不可能だろう。

「……アーチャー、行くわよ」

 私はそのままビルを立ち去った。

 家に着いたら、またアーチャーと一緒に寝よう。

 暖まっていた体が冷えてしまったけど、明日からなら、また元に戻れるはずだ。

 

「という訳で、今日は夜の学校デートよ」

「何が『という訳』なのだ」

 今度は私が通う穂群原学園の屋上。

 空には星が輝いており、太陽もとうに隠れて闇の世界へと様変わりしている。

 さて、私がこんな時間まで学校に居る理由だが、勿論理由があるわけで、風に外套を遊ばせるアーチャーも、ツッコミこそすれどきちんと把握している。

「ここが基点みたいね。まいったな……これ私の手に負えない」

 一日振りに登校すれば、学校に結界が張られていたのだ。

 しかも性質の悪い、しかし三流魔術師に魂喰いを目的としたもの。結界内の人間の体を溶かし、にじみ出る魂を強引に集めることを目的として張られたもののようだ。

 サーヴァントは英霊――つまり幽霊だ。

 死者は成長しないため、サーヴァントの力量はマスターの能力値によって左右され、固定される。

 では、そのサーヴァントを手元に置いたまま強化するにはどうすればいいか? 答えは、サーヴァントそのものにドーピングを施し、強化する。

 その主な手段こそが『魂喰い』であり、それによりサーヴァントは内包魔力を増やすことができる。要はマスター外からの魔力補給だ。

「気に入らないわね……アーチャー、何か武器出して。飛びっ切り切れ味のいいやつだと尚いいわ」

「……あるにはあるが、一体何をするつもりだ? この結界は、君では壊せんのだろう?」

「ええ、でも抉り剥がす(・・・・・)ことはできる」

「なんだよ、消しちまう――あん?」

「……は?」

「サーヴァント!?」

 なんとタイミングの悪いことか。

 声をかけられた方を見れば、そこには青を基調とする赤い槍を担ぐ男が居た。

 間違いない。奴はランサーのサーヴァント!

(四方を囲まれたこの場所で闘うのは不利……アーチャー、場所を移すわよ)

『…………』

(ちょっと、アーチャー?)

 返事がないのを不審に思い、アーチャーを仰ぎ見れば、何故か唖然とした顔で私を見ていた。

「……アーチャー?」

「……ランサー、少し時間をくれ。確認したいことがある」

「奇遇だな。オレもちょっとばかし、その嬢ちゃんに訊きてえことがあるんだわ」

「え? 私?」

 何故か、初対面でいきなり意気投合するサーヴァント二人。

 え? 私何かまたやらかした?

「凛、君はどうやってこの結界を壊す気で居るのだ?」

「……どうって、そもそも前提が違うんだけど。私、これ壊せないわよ」

 ただし。

「壊せないのは結界の基点となっている部分なだけで、その周辺はただのコンクリートだから、地面ごと剥がしてプールにでも移動させようと思ったのよ」

「…………」

「…………」

 何故か、アーチャーとランサーに唖然とした顔で凝視された。

 しかし、それも数秒のことで、先に動き出したのはランサーの方だった。

「あーはっはっはっはっ! 最っ高じゃねえか嬢ちゃん! いいねぇ、大胆で。そんで度胸もある。アンタみたいな奴がマスターなら文句もなかったんだがねぇ」

「何言ってるかわかんないけど、サーヴァントの取り替えの要求ならお断りよ。私のサーヴァントは彼だけで十分だし、満足している、わっ!」

 言葉の終わりと同時に、私は体に魔術をかけて走った。

 コンマの速度で屋上のフェンスを越え、校庭へと飛び降りる。さらに加えて重力の魔術もかけ、一気に地面まで近付く!

「アーチャー! 着地任せた!」

 言うが早い。

 私の体は暖かくて硬い腕に包まれ、垂直落下から斜度がつけられる。

 念話なしでの移動だったが、アーチャーはしっかり付いて来てくれていたようだ。

 やっぱり、私たちって息ぴったりね。アーチャーは最高のパートナーよ。

 

 やらかした。

「…………明日から……どんな顔であの子に会えばいいのよ……」

 声が、震える。

 私の前には、一人の男子生徒が倒れている。

 ここは学校の廊下で、その上には真っ赤で大きな水溜まりができている。どう見ても助からない出血量で、傷口は心臓ときた。

 まだ奇跡的に息があるみたいだけど、それも時間の問題だろう。

 そんなほとんど死に体となっている奴の正体は、同級生の衛宮士郎。

 あの子の――想い人だ。

「……まだ、手はある」

 私は胸元から家宝のペンダントを取り出した。

 この中には代々込められてきた魔力があり、それを使えば、もしかしたら心臓を修復できるかもしれない。

 成功すれば、時計塔なんて一発合格のようなもの。

 その代わり、失敗すれば全財産つぎ込んで手にした宝石をドブに捨てるような愚行となる。

 だが、やるしかない。

「……まったく、心の銭肉だわ」

 私は宝石に魔力を込めた。

 

「またやらかしたーー!!」

「近所迷惑だ!」

 アーチャーに抱えられながら夜空を駆ける。

 今日二度目の全速力で、私は深山町にある武家屋敷を目指す。

 結論から言えば、衛宮士郎の蘇生は成功した。

 ただし、記憶の改竄をし忘れて来てしまったため、戻ったランサーに殺される危険性がある。

 家宝を使い潰したのだ。一夜でも越えてもらわなくては私が困る!

「あいつ、死んでたらただじゃおかないから!」

「凛、見ろ!」

 アーチャーに促されなくとも、私の視界にはバッチリ見えている。

 大きな武家屋敷から一瞬立ち上がった光と魔力の渦、それから暫くしてすぐにランサーらしきサーヴァントが立ち去っていく姿。

「……何かあったみたいね」

 今のランサーの動き。明らかに警戒の色を持っていた。

 となれば、彼が立ち去った場に警戒すべきもの――敵であるサーヴァントがいる。

「まさか、もう一体!? 急いでアーチャー!」

 道路に降り立ち、私は武家屋敷へ駆けた。

「待て凛!」

 途端、目の前で火花が散る。

 アーチャーが制止を促したと同時に、彼の剣と敵の剣がぶつかり合ったのだ。

 今の私は、あと一瞬でもアーチャーの反応が遅れていれば、それこそさっきの衛宮士郎のように死んでいただろう。

 こんな序盤の序盤で、歴代一の早さでの脱落……笑い話にもなりはしない。

「ぐっ!」

 アーチャーの口から苦痛の音が溢れる。

 点々と、道路に赤が散った。

 見れば、アーチャーの脇腹には浅いながらも傷ができており、そこから出血したことが窺えた。

 ブチリ、と何かが切れる。

「私のアーチャーに何やってくれてんのよ!」

「な!?」

 その声は誰のものだったか。それを確認する暇はない。

 私は全身に強化の魔術をかけ、目にも止まらぬ速さを持って相手の懐へ潜り込む。そしてそのまま掌底を鎧に包まれている鳩尾へ打ち込んだ。

「だらぁああ!!」

 だめ押しとばかりに、指の間に仕込んでいた風の宝石を起動させたが、そちらは対魔力によるものか、消し飛んでしまった。是非もない。ならば、力業で吹き飛ばすまで!

 これで、少なくともアーチャーが立て直す間はできた!

「な、なんという無茶をするんだ!?」

「言ったでしょ。貴方を私が幸せにするって。こんなところでリタイアされちゃあ困るのよ!」

「だからと言ってサーヴァントに挑むマスターが居るか!!」

 仰天するアーチャーの言う通り、英霊に人間は敵わない。

 だから、さっきのは偶然だ。

 偶然にも飛び出して来た私に驚いた。

 それが偶然にも、敵に隙をもたらした。

 そして、私はその隙に偶然にも潜り込めた。

 果てには、偶然に偶然が重なり、私の攻撃は綺麗に決まった。

 全部偶然による奇跡の産物だ。

 だが、その偶然でも起きた以上はそれが現実。

 私のアーチャーに敵が傷を付けたのは、拭いようのない現実であり、それが私の怒りに触れた。

 つまり、誰であろうと許さない。

 ぶっ飛ばす。

「さあ、下がってなさいアーチャー! ここで奴を叩き潰す!!」

「下がるのは君だ!!」

「と、遠坂!?」

 と、ボルテージが上がってきたところで、目的だったけどすっかり忘れていた、間違いなく今日が厄日である一般人……いや、()一般人の男が現れた。

「どうも、こんばんは。衛宮くん。無事だったのね」

「あ、こんばんは……じゃなくて、なんで遠坂がこんな所に……」

「早速で悪いけど、ちょっとそこ退いてくれない? あいつが殺せない」

「あいつ? って、セイバー!」

 衛宮くんは私の視線の先に目をやり、そこで何かを構える敵に駆け寄っていった。

 ははーん、つまり。

「常に優雅に……ボッコボコよ!」

「だから待ちたまえマスター!!」





という話が読みたいんだ……。

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