スイーツに砂糖は要りません、いや本当に   作:金木桂

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お久しぶりです、色々とごちゃごちゃやってましたが投稿することが出来て良かったです。

そして、恋愛タグ遂に入れちゃいました。もう取り返し付かないですからね、フラグの無い暴力をお楽しみ下さい。


黒い胡蝶蘭は斯くして蕾を広げる

 

シャロさんがウチに泊まって今日で三日目となった。ついでに長かった春休みも今日で終わりである。無念。

 最初こそ落ち込んでいたシャロさんだったが、今では甘兎庵で働きつつ新しいバイトを探している。というか昨日は二件もバイトの面接に行ったようだ、相変わらずフットワークが軽い。「甘兎庵じゃダメなの?」と姉は上目使いで訊ねたものの僕と姉に同僚として絡まれたくないので嫌とのこと。解せぬ。

 

 そんな訳でシャロさんのお泊り会は今日までとなる。本当は昨日で帰る予定だったらしいけど、昨日も予定が何もない上に家も隣とあって普通に泊まっていた。実際一旦帰っても夜にウチの風呂場を借りてくるんだから変わらないしね。というかもうシャロさんは甘兎庵で暮らせばいいんじゃないだろうか。何せシャロさんの私室まである始末である。それにお祖母ちゃんはシャロさんの御両親とも面識があるようだし、近所ということでシャロさんの事をお願いされているようだ。ホントもう住めばいいんじゃないだろうか。

 

 それにしても。

 シャロさんについて考えるたびに僕の脳裏には昨日の早朝の記憶が思い浮かぶ。──ぶっちゃけると「好き……」と言われたのは初めてのことであったし、何より寝言な上にその相手はシャロさんではあったが中々に嬉しいものだった。疑似恋愛でもした気分だった、いやそれはギャルゲでかなりの場数を踏んでいると自負しているけども。やはり現実は熱量が違った……本物の言葉ではないのが悲しいところだが。現実でも虚構恋愛をしていると如何に。

 こうして考えるとクラスメイトが馬鹿みたいに「彼女欲しい~!」と叫んでいるのも納得のいくものがある。恋愛というのはきっと一種の麻薬のようなもので、それは互いに互いを想い、受容し、求めることで成立するのだろう。人はみな依存できる異性というものを上辺ではどれだけ否定しても欲しているのかもしれない。例えそれが画面から出ない相手だろうと。うん、ここでオタクの話をするのは何か間違っている気がする。今のはなしで。

 

 まあここまで来ちゃった訳だし正直言うと、僕も彼女は欲しい。今まではきっと僕も一般的な中学生に漏れず、自分の心に鍋蓋を敷いていたのだろう。だからこの感情がシャロさんの寝言告白事件によって一気に爆発してしまった感があるのは否定できない。

 ただその彼女像があまりにも漠然としていて彼女とかそういうのが考えられないのも事実だった。二律背反かもしれないけど多分世の中の恋愛弱者はそういうものだと思う。加えて恋愛を非現実的なものとして捉えているためか、寧ろ相手に求めるハードルが上がって更に恋愛という概念が昇華しているまである。何これ、いつから恋愛って無理ゲーと化したんだろう。自分で自分の首を絞めている感覚すらある、アレ、もしかして詰んだ?

 

 と言う訳で。そんな自身の緊要な願望に気付いてしまった僕は、真面目に仕事を熟しながら身の回りの人間関係について思い返さざるを得なかったのである。

 

 まず一番に出てくるのは姉。名を宇治松千夜、正真正銘の僕の姉であり鬼畜和菓子の二つ名を冠している女の子だ。性格はともあれ、容姿に至っては言うことは無く大和撫子を体現したようなプロポーションを持っている。大和撫子と称するにはちょっと童顔気味ではあるけど後数年もしたら立派な身内贔屓なしに美人へと成長するだろう。

 確かに僕の有する小さい人間関係の中では一番気が合っているような気はするけど、だが姉だ。姉である。この一点だけで最早語る必要が無い程の障害が伺える。パトラッシュ、近親相姦は業が深すぎるよ……ってことで何も言うこと無し。次。

 

 姉、と来たら次点で出てくるのはやはりシャロさんだろう。付き合いも家族を除けばダントツで長い、容姿もどこかの貴族令嬢を思わせるような気品さのあるまごうことのない品行方正な美少女だ。ただしメンタルは少し弱く、リゼ教(狂)でもあるのが偶に傷だけど。

 だが恋愛と考えると、何だか違う。あまりにも身近すぎたからだろうか。そもそもシャロさんは揶揄われたときの表情の方が印象的過ぎて中々そういう風に考えることは出来なかったし。向こうもそういう感情が突沸してくることは無いと思う、却下の方向で。

 

 後はこの春に出会ったいずれも違った可愛いらしさを持ったチノ、リゼ、ココアさんだが……ココアさんについてはまず一回しか会ったことないので実際は良く知らなかったりする。でも見た目通りの性格でとても明るい雰囲気はあった。うん、全然情報が無いから語ることも特にないや。

 「なんか扱い酷い!?」という脳内ココアさんの悲鳴を聞き流しつつ次に浮かんだのはリゼ。あの時は場のノリで決めてしまったが、年上なのに敬称無しとはどうなのだろうか……と悩んでしまう個人的に今一番どういう扱いをすればいいか分からない存在である。生真面目なので基本はまあ揶揄う方向で方針は決まってはいるけど。恋愛対象としてはミリオタ気味なのでそういう目ではちょっと見られないなぁって感じである。ノリで一回告白したけども。今気づいたけど僕、ノリでやらかし過ぎでは?

 

 そしてラビットハウスのドンと言えばこの人、香風チノだ。小さくマスコットのような背丈ながら日々背伸びしてカフェを回していたスーパー女子中学生である。怪奇!喫茶店の喋るウサギと腹話術と言い張る美少女店主!と掲示板でも話題である。ちなみにスレ建てしたのは僕、レスは一つも付かなかった。今日もラビットハウスでは閑古鳥が鳴いている。

 だがだがしかし。知っての通りチノはその小学生みたいな体躯もあって、イマイチ恋愛対象というよりは近所の妹的な扱いになってしまうのである。それにチノは僕に対しては好意的どころか毒舌だ、うん、無理。確実に駄目だ。

 まあそういう訳で、どうにも僕の周りは容姿端麗ながら少し変わった女の子しかいないのである。

 

 

 ──と、そこまで考えたあたりで僕は思った。

 出会いがないなら作ればいい。この時代ネットを使ったりすれば簡単に出会えるのだ。出会いは、作れる。

 

 と。そんな理由もあって仕事を終えた僕は取り敢えずパソコンを開いた。出会い系サイト──は流石に怖いので、最近流行りのSNSにでも登録すれば何とか相手も見つかるのではないかという、まあ。我ながら浅い魂胆である。

 しかし有名SNSにアカウント登録しようとURLを開いたとこ、そのページはブロックされてしまう。……画面を見るとアクセス制限されているらしい。いや初めてこのパソコンにフィルターが掛かってるの知ったんだけど。てかなら何で掲示板にはアクセスできるの。

 

 全く以ってこの不遇には納得いかない。金時は激怒した。金時にはパソコンが分からぬ。しかし金時は人一倍悪意に敏感であった。

 いや、しかし姉に相談したところで僕以上に機械音痴であるので時間の無駄だよなぁ。そう思って、残ったのは必然的にこの家に泊まっているシャロさんだった。

 

「何よ?私も今忙しいんだけど」

 

 即断決行してシャロさんの私室に行くと、シャロさんは只ならぬ雰囲気で机にあるスーパーのチラシを熟視していた。横にはシャロさんの横顔をずっと円らに観察する姉の姿もある。いや本当に何してるんだこの姉。偶に長年寄り添ってきた僕でも分からないUMAみたいな行動を取るときあるな本当に。

 

「実は僕のパソコン、今日気付いたんですけど年齢フィルター?みたいなのが掛かってて。そこでシャロさんに御助力をお願いしたいなぁと思いまして」

 

「お姉ちゃんに任せなさ~い!」

 

「絶対僕のパソコンに触るなよ、絶対にだ」

 

「えーっ……」

 

 アンタが触ったら確実に変なことになるからやめて。具体的には設定がグチャグチャになって無茶苦茶になる。カオスは御用じゃないのである。分かったらそのキーボードをカタカタする仕草を今すぐ止めろ。

 

「でも、私も別にパソコン詳しくないわよ」

 

 シャロさんは未だチラシから目を離さずに髪を弄る。そう言えばそうだった、シャロさんはそもそもパソコン持ってないんだった。何せ風呂すら無い家だもんなぁ……。

 「何よその目は……」と機嫌を害したような呟き無視して僕は心の中でシャロさんに不憫ポイントを100点あげた。ちなみに500点で甘兎特製きんつばをプレゼントである。

 

「ところで仮にそのフィルターを解除できたとして何する気なの?」

 

「いやちょっと……SNSにでもアカウント作って甘兎庵を盛りあげようかなぁと」

 

 思わず逃げてしまった。いやでも姉とその幼馴染に「いやぁちょっと僕も彼女欲しくなってまいりましてなのでちょっくらSNSでナオン一本釣りでもしようかなぁと思ったんですよ~お恥ずかしながら」なんて宣われる訳がない。僕はまだ小学生気分で一緒に風呂に入ろう誘ってくる姉とは違って羞恥心くらいは備わっているのだ。

 それにしても我ながらとても良い言い訳が出来たと思う。実際甘兎庵のSNSを開設するはかなり広告効果もあるだろうし、何とも論理的だ。うん、上出来も上出来。グラミー賞でも受賞出来そうなくらいだ、グラミー賞が何か知らないけど。なんて思っていると姉が口を開く。

 

「それ良いわ~!私もやりたい!」

 

「中二病的な言葉を使わないと誓うなら良いよ」

 

「グッ………………いいわ!受けてたつわ!」

 

「いま凄い迷ったわね……」

 

 しまった。まさか中二病ワード禁止でも引き受けるとは考えてなかった。無条件で断っていれば良かったな。これは失敗したかもしれない。

 と、自分の発言を悔やんでいると姉は「それで?」と不穏な言葉を発してきた。

 

「えっと……それで、とは?」

 

「お姉ちゃんだから分かるわ。今誤魔化したでしょ?」

 

 そう話した。思わず僕は姉の持つ翡翠色の瞳に覗き込まれる。数秒間、互いに互いの目を直視するような水面下の攻防が続く。

 そして暫く経ち、先に白旗を上げたのは僕だった。

 

「……はい。甘兎庵のアカウント作るって言ったのは嘘です……が何か文句ある?」

 

「うわっ光の速さで開き直ってる……」

 

 よくよく考えれば僕は別に真実を言う必要性は無いんじゃないか?恋愛したい!彼女欲しい!なんて姉に言える訳も無いし。寧ろ人間として正常な欲望である、よって黙秘権を実行する!

 

「真実を開示して。そうすれば許してあげるわ」

 

「はい。ごめんなさい」

 

「アンタたち上下関係あったのね」

 

 いやまあ基本的にはないけど。こういう時の凄みを醸し出した姉には弱いのである、本人は無意識らしいけど。これだから天然って怖い。

 

「……で、本当は何をしようとしてたの?」

 

「いやあのちょっと……ネットで女の子ゲッチュ!みたいな?もう良い年齢だし彼女の一人や三人くらい欲しいな!みたいな?」

 

 我ながら酷い言い分だ。こんなんになるならメーカーのコールセンターにでも電話すればよかった。

 見ると、姉とシャロさんは絶句している。正確に表現にするなら、シャロさんはまたやらかそうとしたな……と言った様子で呆れていて、姉は無表情で、何を考えているか分からない。……何だかまた一波乱が起こる気がしてならないのは何故だろうか。しかしこの場において、僕には発言権は無い。覆水盆に返らず、そんなしょうもない諺が脳裏を過る。現実逃避の顕れである。

 

 嵐の前の静けさの如く、一分間の沈黙が過ぎた。──まだ誰も動かない、なんて僕らしくも無く油断をしていたのだろう。唐突に姉は徐ろに僕の頬に触れる。その手は暖かく、そこはかとなく慈愛が籠っていた。

 

 

 

「金ちゃん……じゃあお姉ちゃんはどうかしら?」

 

「……へっ?」

 

 ──そして、とんでもない爆弾発言をしでかした。僕は硬直する、ついでに言うとシャロさんも固まった。今度は完全にフリーズしたようだ。いやそんなこと、ってかそれはやべえって。パない、マジパなくてヤバいから常考。

 これでも一応姉とは斯く13年の付き合いであるので自然と分かってしまう。ロマンチックもヘチマも無い空間なのにも関わらず、上気して紅く染まった頬。今にも一筋の雫が滴りそうな潤んだ瞳。緊張でぎこちない小さな息遣い。あ、これマジだ。僕は確信した。

 

「……いいえ、今のはちょっとズルだったわ。言い直させて頂戴。

──金ちゃん、好きよ、異性として。私と付き合って」

 

 それは、コチラが恥ずかしくなってくる程の男前で、何ともストレートな告白だった。異性として意識されている、それは本来嬉しいはずの感情だ。事実、今の僕は非常に熱い。まるで夏中の砂浜に立っているような感覚。緊張、虚を突かれた初めての告白。その硬くなった相貌からは十二分に真剣さが伝わってくる。普段一緒にいるのに全く気づかなかった──なんて、野暮な事は一切考えられない程に真面目なシーン。

 しかし、だがしかし。僕と宇治松千夜はどれだけの言葉を費やしても実の姉弟であってして、血族なのだ。その事実は幾ら歪めようとしても変えることは出来ない。

 

 確かに僕も、家族ではなかったら靡くくらいには姉は魅力的である。それは当然だろう。何だかんだで、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を体現しているのだ。性格だって僕と似通っている。鬼畜染みたところはあるが根本は優しい心の持ち主なのだ。

 ──そう、僕だって姉の事は好きだ。だけどそれは姉として、家族としてであって一人の女の子としてではない。何よりそれはいけないことだ。姉が幸せになれない。姉弟で恋愛関係になるなどこの社会では言語道断で、僕がそれを受け入れれば姉は世間からは好奇と偏見の目で見られることとなる。それは僕は嫌だ。僕の望むことではない。社会から虐げられる姉の姿など見たくない。

 

 勿論こんな考えはただの方便で、欺瞞で、エゴイズムだ。僕は自分でも致命的なくらいに分かっていた。正しい形は人それぞれで、見え方もそれぞれ違う。兄と妹で恋愛と言うのは虚実ではなく、現実にあることなのだ。そういうカップルだって世の中にはごく極少数ながら存在している。世間は未だ冷たいながらもLGBTを許容し始めている世の中なのだ、元々男女である姉弟が恋愛しても受容して暖かく接してくれる人間も多いかもしれない。そう、結局は気持ち次第なのだ。それも姉のではない、僕のだ。

 

 心臓の鼓動がバクバクと急かす。まるで早く答えろと言わんばかりに。言われなくても僕だって答えは整った。姉は一世一代の覚悟でこの場に臨んでいるのだ。ならば、僕もそれに礼儀を払うのが道理だろう。拳を握り締めて、重い唇を無理矢理動かした。

 

 




胡蝶蘭の花言葉は純愛。黒色は無いそうです。
今回はここまで。そこそこ次回は早めの予定です。
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