スイーツに砂糖は要りません、いや本当に   作:金木桂

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まさかランキングにまた入れるとは思いませんでした……ありがとうございます!
今回は導入なので少々短め、あとチノ目線になります。


揺蕩う青春の多角形
再会の挨拶はまるで甘酸っぱいレモネード


 

 香風チノはまだ低い位置で街を照らしている朝日を肌で感じながら欠伸をした。反射的に開いた口を手で押さえる。

 

 4月4日。

 それが今日の日付だった。学年が二年生に上がって、最初の登校日である。久しぶりの学校はどんなだろうか、クラス替えはどうなってるんだろう──そんなことを考えていたら柄にもなくウキウキと心は弾んでしまい、昨日は寝るのが遅くなってしまった。

 

 それにしても。チノは川のせせらぎを眺めながら春休み中のことを思い出す。

 ──春が賑やかになったのはココアさんが来たのもあるけれど、金時さんが良く来るようになったのもある……あまり認めたくないけど。

 ホームステイとしておっちょこちょいの女の子が来たのはチノとしても正直嬉しい出来事だった……素直に口にすることはないが。年上なのに自分より落ち着きが無くて、それでいて自分とは真反対なほどに明るい性格で。まるで太陽みたいな人だ。もし姉がいたらこんなんなのだろうか……なんて、そんな言葉は絶対に胸に仕舞っておくつもりだ。調子に乗られたら困るし。

 

 だが、それと引き換えに甘兎庵の長男に対する感情はあまり芳しいものではなかった。チノにとって、男と言うのもあるがそれまで接した中で新しいタイプの人間で。人を揶揄ったりするのが好きで、和菓子屋の息子なのに甘いものが苦手。特に前者は、チノにそこそこの苦手感を抱かせるには十分なものだった。だから客として来ても自然と、今までの自分からは考えられないほど汚い言葉が自然と出てきてしまう。それはチノにとっても不可解で、リゼには「頼むから前の純粋なチノに戻ってくれ……!」と本人の前で懇願されてしまった。チノとしては自分が悪魔か何かに変わった自覚は無いので非常に遺憾ではあったが。

 

 ともかく、いつもよりも幾分か濃厚な春休みを終えて、それとなく充実感もあったのも事実で。

 

「……悪くありませんでしたね」

 

 ポツリと零れた、情感の籠った呟きは朝の澄んだ空気に溶けて消え行った。

 

「チノ~!久しぶり~!」

 

 と、久しく聞いてなかった少女の声が通学路に響き渡る。チノは長い髪を靡かせながら肩越しに振り向くと、朝の静かな街並みを走ってくるショートカットの藍色の髪が特徴的な友達の姿が目に入った。

 

「おはようございますマヤさん」

 

 マヤ、と呼ばれた少女は直ぐにチノの元へと追いつく。自ずとチノの隣へと並んで歩く形となる。

 

 チノにとって条河マヤとは中学一年以来の付き合いであり、数少ない交友関係を築いている内の一人である。性格は至って元気そのもので、良く学校生活を過ごすチノとマヤともう一人の少女とで構成されたグループの中では良くアクティブに他のメンバーを牽引している。チノにとっては無くてはならない日常のひとつである

 

「おはようチノ!春休みどうだった?」

 

「そうですね……カフェで仕事してました」

 

 脳裏に金時やココアの姿が浮かぶが、無視して言葉を紡ぐ。

 

「何それ、つまんなーい!でもまあ私も似たようなもんだったけどね」

 

「マヤさんはどうだったんです?」

 

「私は勉強ばっかだった.......お母さんが「春は追い込みの時期だからね!」って家庭教師の人を呼んできてさ、ホント大変だったよ……」

 

「それは大変でしたね」

 

「まあ週2回は抜け出してたから良いんだけどね!」

 

「何かマヤさんらしいです」

 

 寧ろマヤさんがずっと大人しく授業を受けている姿が全く想像できない。といってもその成績はとても優秀で、普段の振るまいからは全く想像できない一面があるけども。

 

「チノちゃん~マヤちゃん~待って~!」

 

 すると、そんな間延びしきったおっとりした声がチノとマヤの背後から聞こえる。チノが背後を見れば、見知った形相の少女が息を切らしながら走ってくるのが見える。──それは学校で良く絡む三人グループの最後の一人、奈津メグミだった。愛称はメグである。

 

「ぜぇ……ぜぇ……──マヤちゃん、置いてくなんて酷いよぉ」

 

 追いつくと肩で呼吸しながら、マヤに文句を言った。それをマヤは笑いながら。

 

「あははは!ごめんごめん、でもチノのところまでかけっこ勝負だったし仕方ないよ!」

 

「一方的に勝負仕掛けてくるのはあんまりだってー……」

 

 全く反省する様子無く自分まで気持ち良くなってくるような清々しい笑顔と、それに振り回された少女の膨れっ面を見たチノはどこか懐かしい気持ちになる。

 

(春休みは一か月も無かったのに……何だか不思議な気分です)

 

 それはチノ本人は自覚していなくとも、何だかんだで充実した春休みを満喫していたことに他ならなかった。

 

「そういえば二人とも春休みの宿題やった?」

 

 私は最初の一週間で終わらせたよ!と胸を張るマヤ。

 

「私もやったよ~昨日何とか」

 

「それギリギリじゃん!」

 

 メグはそのマイペースな性格の通り、春休みの終わる直前までやっていたようだった。チノはその光景を想像して、メグらしいなと思ってしまう。

 

「チノちゃんは?」

 

「私も最初の方で終わらせました」

 

 そう何事も無い風に言ってはみるが、理由はあった。春休みのとある日、無駄に自分のコーヒーを飲みに来ていた金時が話の流れで宿題は早めに終わらせる主義と言い放ち、あろうことか春休みの宿題も既に終わっていると宣ったのだ。決してそれに興味はないし張り合って訳でもない!が、気付けばその日に内に宿題を全てを終わらせていた。まああの人より遅れているのは何だか気に食わないという感情だけは確かだろう。

 

「ふっふ~2対1だねメグ。それじゃあ罰ゲーーム!覚悟してよ~?」

 

「えっ!いつの間にそういう話になったの!……チノちゃんはこっち側だよね……?」

 

「メグさん──とても良い人でした」

 

「既に亡くなっちゃってる!?」

 

 なんて、久々に互いに会えたからだろう。女子中学生らしくはしゃぎながら歩いていると、直ぐに中学校には着いた。

 昇降口の前の扉には大きくプリントされた紙が貼りつけられていた。そう、クラスの振り分けだ。チノはその紙を目にして自身の心臓が早鐘を打つのを自覚する。──もし。マヤさんやメグさんとクラスが違ったら、私はまた独りぼっち。そんなのは──嫌だ!

 

 込み上げる不安を必死に抑えていると、不意に金時の事を思い出した。さて、チノがよくよく思い出してみると去年の金時は常に一人だった。体育の時は必ず余り、休み時間はずっと本を読み、放課後は直ぐに直帰する。……どうにも、友達の出来なかった自分を見ているような気すらしてしまう。

 だから何かをしてあげたい、なんて気持ちは特段ある訳でもなく。なのに気付いたら、チノは宇治松の文字を探していた。

 

「あ、あった~!私たち全員おんなじクラスだよ~!」

 

「うん!やったねメグ!チノ!……チノ?どうかしたの?」

 

「……い、いえ!良かったです!」

 

 その名前を探していた為にチノはマヤの言葉に一拍遅れて反応した。そんな焦ったようなチノの顔を見てマヤが一言。

 

「ん~怪しい」

 

「これは怪しいね~」

 

 メグもそれに同調する。

 ……別に話しても良いけど、ただこの場で話すと何か誤解されそうな気がする。

 

「そ、それより新しい教室に行きますよマヤさんメグさん。もう時間が無いです」

 

 時刻は8時15分。後5分で朝のHRが始まるから嘘ではない。

 

「ゲッ!ヤバッ!」

 

「急がなきゃ~!」

 

 何とか二人の興味を逸らすことには成功したようだった。

 チノはバレないようにホッと一息して、ついでに最後にもう一度振り分けを確認する。──宇治松金時とは、どうやら今年も同じクラスであるようだった。

 

 

 

 

 

 教室は既に多くの同級生で賑わっていた。黒板を見れば自由席のようだったのでチノはメグの前の席に座った。そしてメグの隣にはマヤが座っている。直角三角形のような位置関係である。

 

「何か見覚えある人少ないねー」

 

「そりゃ5クラスもあれば仕方ないでしょ」

 

 二人はそう言って辺りを見回す。チノもそれに続いた。

 ……本当に知っている面影は数人もいない。元々クラス内でもメグとマヤ以外の付き合いはないチノではあるが、それでも一応顔だけは知っているクラスメイトは何人かいる。しかしそれすら見えないというのはそれだけ5クラスでシャッフルした影響は計り知れないという事だろう。

 ……非常にどうでもいいけど。特に思うことは何一つないけど。その中に金時の姿は確認することは出来なかった。

 

 そうしている間にもHRの時間になり。新しい担任の先生が入ってくると、諸々の予定が説明され始める。新しい担任はチノから見ても美人で、スタイルも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる──羨ましい。思わず、特に胴体の一部分を凝視してしまうが幾らなんでも失礼だろうと思い辺り意識的に目を逸らす。

 

 今日は午前授業だから早く帰れる。ココアさんも昼前には帰ってくるのだろうか。

 ラビットハウスの新たな住人の事を思いつつも、チノはついつい教室の扉へと目を走らせてしまう。既にHRが始まって30分。

 

(あの人……初日から何してるんでしょう)

 

 その日、宇治松金時が学校に来ることは無かった。

 

 

 

「今日のチノ、なんか変だねー」

 

「ねー」

 

 背後の二人が仲良さげにそう小さく言葉を交わしている事にチノが気付くことはなかった。

 

 

 

 





因みに分かる人には分かるかもしれませんが今回参考にしたのはとある魔術の禁書目録の文体です。
三期もうすぐですね。
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