スイーツに砂糖は要りません、いや本当に   作:金木桂

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千夜ちゃん誕生日おめでとう!でも今回は千夜ちゃん出て来ません。

概括するとひたすらラビットハウスでgdgd話す回。


ラビットハウスはウサギの香り

その朝、僕は目覚めると無性にコーヒーが飲みたくなっていた。あの漆黒の湖畔のような精錬された閑静な美しさ。そして飲めば労苦が中和していくかのような優しく舌に馴染むほろ苦さ。それこそ僕が望む最高の一時を提供してくれる黄金の一杯になりうるのである。

 

その時想像した己の気分はまるで中世の上流貴族。コーヒーの坩堝にハマっていたと言っても過言ではない。

 

「金時ー、もう11時よー、早く起きなさいー……ってあら。起きてるなら返事しなさい」

 

「お姉ちゃん、ちょっと出かけるから」

 

「行ってらっしゃいー……朝ごはんを食べないなんて、もしかして反抗期かしら?」

 

断じて否である。しかしこの時の僕は、今の優雅な余韻を守る為に敢えて触れないことにしたのだ。

姉との挨拶もそこそこに、寝ぼけた眼のまま僕は優雅なコーヒーブレイクを求めて石畳へ一歩、踏み出した。

 

西欧のような木造の町並みには既に多くの人で賑わっていた。観光客もそうだが、今日は日曜だ。確か朝市も今日だった気もする……そうか、だから屋台がいつも以上に出ているのか。

独りでにそう納得していると、不意に春に似合わぬ冷たい風が首筋を撫でるように吹いた。……寒い。もう少し着込んでくればよかった。

 

何だか生地が薄いな……そう思った僕は自然と自分の服装を確認する。

 

「……あっ」

 

室内用の薄いシャツ。そして動いても汗を吸汗してくれる半ズボン。

うん、これ。寝間着だ。

 

 

 

 

そして現在。優雅で華麗な気分は吹っ飛び、ラビットハウスで落ち込みながらコーヒーをヤケ飲みしている馬鹿で憐れな少年がそこにはいた。と言うか僕だった。

 

「……それで一度帰ってからここに来たと」

 

「というかお前の姉は知ってて止めなかったのか」

 

「勿論問いただしたんですけど……案の定。面白そうだから止めなかったって……」

 

「それが案の定なのか……末恐ろしいな」

 

姉の姿を想像しているのか、リゼさんが真面目な表情で慄いている。鬼の角とか蝙蝠の翼とか生えていなければ良いのだけど。

 

「ところで宇治松さん、そろそろ昼なのでランチはいかがですか?コーヒーと卵とハムのサンドイッチ、更にレーズンのパウンドケーキも付いたおすすめのセットがあるんですけど」

 

初めて店に来た時から思ってたけど意外と香風さんは商魂逞しいようだ。まあ喫茶店はそれくらいがちょうど良いのかもしれない。まあ僕も喫茶店員なんだけども。

 

「じゃあそれお願い、後コーヒーおかわり」

 

「もう五杯目だぞ……?そろそろ止めといた方が」

 

「リゼさん、コーヒーをお願いします。私はセットの方を作るので」

 

「……了解」

 

何だか不服そうにコーヒーを淹れ始めるリゼさん、一方香風さんは裏に入っていてしまった。

そういやコーヒーと言えば、ウチのシャロは今日はどうしているのだろうか。まあ多分アルバイトだと思うけど、シャロさん万年金欠だし。お金貸すと言っても殆ど受け入れてくれないし。

忙しく働くシャロさんの姿を想像していると、手を止めずにリゼさんが口を開いた。

 

「なあ、本当に大丈夫か?幾ら好きだと言えカフェイン中毒は本当にやばいぞ?」

 

「はい、大丈夫です。一時間にコーヒー10杯はまでは行けますので」

 

「それ死ぬからな、マジで死ぬからな!?」

 

リゼさんは大袈裟だなあ、別にそのくらい飲んでもなんにも無いのに。

(注釈:普通に危険なので真似しないでください)

 

リゼさんは話もそこそこに、コーヒーを再びカップに注ぐと僕の前にそれを置いた。先程は黒の宝玉のように見えたのが今ではただの泥水色にしか見えない。なるほど、これがゲシュタルト崩壊って奴かな。

ひとしきり既に見慣れてしまったコーヒーを観察し終えると、何となくカップを揺らしてみる。別に何かを期待した訳ではない、と言うと嘘にはなるけど。しかし予想した通り、黒く漆のような表面は波を打ち、室内の明かりに反射して輝くと、電池が切れた様に小さくうねり、やがて波紋は収まった。さながら静穏な湖畔の様に。水面は神秘ささえ醸し出す。だけど僕の心は、何だか空疎だった。

 

「じっとしてどうしたんだ?」

 

「……あ、いえ。何でもないです」

 

リゼさんの純粋な疑問が浮かんだ瞳に、思わず早口で答えてしまう。リゼさんに相談することでもないだろう、そう思って返答したのが逆にリゼさんの首を訝し気に小さく傾げさせる結果になってしまったようだ。

 

「……それよりリゼさんリゼさん、彼氏とかいるんですか?」

 

「い、いきなり何だ!?」

 

「だってリゼさん女子高生ですよね?女子高生と言えば花も恥じらう、恋とスイーツで構成されたスパイスみたいなものじゃないですか」

 

リゼさんは恥ずかし気に顔を赤らめながら。

 

「い、いないに決まってるだろ!?悪いか!?」

 

「いえいえ。寧ろリゼさんはとても可愛いですし、彼氏の一人や二人くらいいても可笑しくないかなぁーって」

 

「か、かわ……!?」

 

「ランチAセット、お待たせしました」

 

「あ、ありがとう。そうだ、香風さんもリゼさんは可愛いと思わない?」

 

「……宇治松さんってもしかしてナンパ体質だったりするんですか」

 

言いながら香風さんは明確に1歩、後ろに下がった。ついでにとてもジト目でこちらを、まるで性犯罪者を見るような白い目で様子を伺っている。後例の如く、頭上のボールみたいに丸いウサギも毛を逆立てて威嚇している。だからネコか。

 

「誤解だって!ただ僕はリゼさんの己に対する自己評価が低いように思えたので、悪い男に騙されないように自分が可愛いことを自覚させようとしただけだって!ほら、リゼさんってすぐにコロッと騙されそうな雰囲気がするからさ」

 

香風さんは少し考えて。

 

「……確かに、リゼさんはそうかもしれません」

 

「チノまでそっちに付くのか!?クソ、ここは敵陣の中か……!」

 

「諦めて下さい、リゼさんは可愛いですよ?」

 

「そうです。私が言うのも変ですが、自信をもっと持ってください」

 

「そうじゃ。リゼはもっと自信を持つべきだ」

 

……ん?何か聞いたことのない渋みの効いた声が。

思わずキョロキョロと見回すが、そこにそんな声質を持ってそうな熟年の男はいない。と言うか店内はまだ昼時と言え、僕たちしかいない有様である。大丈夫だろうかこの喫茶店。

 

「そ、それより宇治松さん、冷めないうちに早く食べて下さい」

 

「あ、そう言えばそうだったね。じゃあ早速頂こうかな」

 

多少香風さんが焦燥に駆られて言ってるように見えたけど、まあ気のせいだろう。僕は疑問を心の隅に追いやると、サンドイッチを手に取る。よく考えればこのセット、コーヒー以外に冷める要素が無い気もするけどそれも敢えて気にしない事にした。

 

「そうだ、香風さん。そろそろ名字で呼ぶの止めない?何だかリゼさんと香風さんは名前で呼び合ってるのに隔絶感を抱くからさ」

 

「…そうですね」

 

そう言うと、何だか真剣に悩む面持ちを見せ始めた。僕はそれをコーヒーを飲みつつ、サンドイッチを食べつつ見守る。

その何だか言葉を発しづらい空間に見かねたのか、リゼさんが口を開いた。

 

「別にそんな気にしなくても良いんじゃないか?と言うか私は名前で呼ばれてるし別に呼んで良いよな?ええと……銀時?」

 

「それは少年某の主人公ですって。僕の名前は金時です」

 

「そう言えばそうだったな、すまん」

 

シュンと、僅かながら申し訳なさを感じているのか。未だ赤く染まった頬を軽く掻いている。何だかこちらが申し訳なくなってきそうだ。

僕は気遣うように、丁寧な声音を意識してリゼさんに話しかけた。

 

「別に良いですよ。それより天々座さんこのコーヒーお代わりください」

 

「ああ…って実は名前間違えたの気にしてるだろ!」

 

「店員さん、早くお願いします」

 

「ついに名前の欠片すら無くなった…」

 

若干落ち込みながらも、手はカップにコーヒーを注ぎ込もうと動いている。その手つきは非常にスムーズで、一切の淀みは無い。どうやら無意識で僕のオーダーを熟せるくらいにはここでの仕事に慣れているようだ。そう言えば前にメニュー表をすぐに覚えれるほど記憶力が良いとか、リゼさん自身が自負してたような。

……なんだろう。この人材、普通にウチに欲しい。

 

「き、きん…時…さん」

 

「ごめんなさいリゼさん。ちょっと面白くなっちゃって」

 

「面白くってお前なあ……」

 

「金、時…さん」

 

「ところでもしラビットハウスを首になったらウチに来ませんか?実は僕の家も喫茶店みたいなのをやってるんですけどリゼさんのような優秀なアルバイターなら年中無休で大歓迎なので、どうですか?」

 

「どうって……少なくとも今はここ以外で働く意思はないぞ?」

 

「首になった時で結構ですよ……そうだ!良ければ1日、1日だけウチで働いてみませんか!」

 

「そうだなぁ……うーん……ま、まあ1日だけなら……」

 

「金時さん!ウチの貴重な戦力をヘッドハンティングしないで下さい!」

 

香風さん、いや、チノはいつも以上に大きな声でそう叫んだ。普段の学校の言動では見れないような、犬も逃げ出しそうな程の声量である。或る意味ではスーパーレアだ。

その事実に気付いたのか、チノは頭上に乗ったウサギを胸に抱えて俯いた。

 

「チノ、漸く僕の名前を呼んでくれたね……!」

 

「何でそんなドラマティックな雰囲気を醸し出そうとしてるんですか……」

 

「いや何となく」

 

「……全く困った奴だなコイツは」

 

チノが疲れたように溜息を吐き、リゼさんがやれやれと呆れたような仕草を取る。もしあんな事を言わなければもっと良い雰囲気になったのだろうけどまあ仕方がない。僕の心はそこに無いのだから。

 

「そう言えば、金時さんの家も喫茶店を経営してるんですよね」

 

「……うん、してるよ。甘兎庵って言う抹茶と和菓子をメインにした所なんだけど」

 

瞬間、チノの胸に抱えられたウサギが険しい顔で、威嚇するような鳴き声を上げて暴れ始めた。

 

「ティッピー暴れるな!」

 

「おじい……ティッピーさん!突然どうしたんですか……!」

 

「甘兎庵は敵じゃ!仇討ちじゃ!合戦じゃ!」

 

……僕の気のせいだろうか。はたまた幻聴だろうか。それとも僕は不思議の国へといつの間にか迷い込んでしまったのか。僕アリスじゃないんだけど。

ともかく僕は目の前の白いウサギ、に見える何かを凝視する。今も興奮収まらぬ様子だが、しかし言葉は発していない。だけどさっきは確かに、この目で、ウサギが喋ってる……ように、見えた。

チノは冷や汗を流し(ているように見える)ながら、慌ててウサギを頭の上に乗せた。

 

「……これは私の腹話術です…!」

 

「……なるほど、それ凄いね……!もうオリンピック金メダルクラスなんじゃないの?」

 

 

「おい、金時が騙されてるぞ」

 

「まさかこれで通じるとは思いませんでした……」

 

おいそこ、聞こえてるんだけど。こんな近くで小声で会話しても何の意味も無いからね。

僕が敢えて信じたフリをしたのは、ただ単純にチノが全力で誤魔化そうとしてたのがバレバレ過ぎて、最早懐疑心を超えて哀れに思えてしまったからである。と言うか逆にあの下手な返事で良く僕が信じたと思ったもんだよ、こっちからすれば。

 

「……まあともかくだな。甘兎庵って具体的にどんな所なんだ?」

 

「えっと、そうですね。やっぱりお茶と和菓子がメインなので、店内もそれに合せた和風の内装になってますよ。あそうだ、クーポン券あるんで良ければどうぞ」

 

「クーポン券ですか……なるほど」

 

チノは僕の手渡したクーポン券を見つめて、何かに納得したような表情を見せる。もしかしてラビットハウスにもクーポン券が導入されるのだろうか。

 

「ほお……因みに何のクーポンなんだ?」

 

「桜餅一つサービスです、どうです?」

 

「そりゃいいな、今度行くからその時は宜しくな」

 

「はい!VIP対応で迎えさせて頂きますよ!満員でも無理矢理客を帰して席を空ける所存です!」

 

「頼むからそれは止めてくれ」

 

誠心誠意の篭ったおもてなしなのになあ、何がいけなかったんでしょうねぇ……。

冗談はともかく、リゼさんは近いうちに甘兎庵に来るそうだ……その時間がお姉ちゃんのシフトと被ってなければ良いけど。あの姉、何言うか分からないし。

 

僕がランチセットのサンドイッチ、最後の一切れを食べる終えると同時にチノが妙に力の入った声を上げた。

 

「決めました。ラビットハウスもクーポンを作ります……!」

 

「作るって言ってもチノ、チノのお父さんの許可がいるんじゃないのか?」

 

「大丈夫です……!お父さんは何とかします……!」

 

ラビットハウスのマスターってもしかしてチノのお父さんなのかな。にしても簡単にGOサインが出るのだろうか……?

 

「珍しい、チノが燃えている……!」

 

「やってみせます……!目指すは満員御礼です……!」

 

「……うおおお!何か私も燃えてきた!チノ、やるからには徹底的にだ!」

 

「はいリゼさん……!」

 

「はいじゃない!言葉の最後にはサーを付けろ!」

 

「イエッサー……!」

 

……何だかとても入れる空気ではなくなってしまった。

僕はお勘定をテーブルに置くと、パウンドケーキだけは食べず、そのまま気合いの入った二人に気付かれないようにそっと店を出た。この時店の外まで二人の声(主にリゼさんの声)が響いており、通りを歩く通行人が少々気味悪げにラビットハウスを見ていた事は余談である。

 

 




時々主人公の心情がおかしいのは仕様です。面倒くさい性格してるので。

千夜ちゃんの弟とか妹系のssって中々無いけど、自分で書くとなると文才無いから大変だし要約すると流行れ。
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