スイーツに砂糖は要りません、いや本当に   作:金木桂

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前回の続きです。

忘れた方にあらすじを書くと、ココアが来ました。終わり。


宝石箱に入った黒曜石

 

「それじゃあウチでホームステイをするのって……」

 

お客、もといホームステイ少女は癖毛になっている前髪を指でつまみながら。

 

「多分私かな……?そういえば自己紹介はまだだったよね!私は保登ココアだよ、よろしくね!」

 

「この店のマスターの娘の香風チノです、これからよろしくお願いします」

 

続いてチノも空気を読んで名乗る。

 

「私はアルバイトの天々座リゼだ!」

 

何故かリゼさんも堂々と名乗った。

 

「そして僕が客の宇治松金時です」

 

「部外者は黙っててください」

 

流れで僕も名乗るとすかさずチノはチクリと針を刺してきた。別にいいじゃんこの場にはどうせ4人と2匹しかいないんだから。年も近いし。

 お客、もといココアさんはニコリと笑うと。 

 

「何か面白い喫茶店だね!」

 

「面白くないです……!」

 

「だよね、何せお客さんが全然入りやしないんだから。まだ湖面に打ち立つ白波を眺めてる方が面白いよ」

 

「妙に詩的だな金時、似合わないぞ?」

 

「そうです、あと少し黙れです」

 

「それ敬語なの……?」

 

チノが気分を害したようにプイッとそっぽを向くと、再びココアさんがクスクスと楽しげに笑った。どうやらココアさんはジョークと受け取っているらしいが、如何せんコチラは割とマジである。何ならチノは今すぐ僕を出禁にしてきそうだし、リゼさんは……良く分からないけどシャベルを持って殴り掛かってきそうだ。

 

「そうだ!あのね、実は下宿させて頂く代わりにその家でご奉仕しろって言われてるんだ」

 

「奉仕……」

 

「金時、分かってるな?」

 

「サー、教官!不適切な発言は控えます!」

 

「宜しい三等兵」

 

かなり小声で呟いたつもりだったのだが、流石リゼさん。軍隊仕込みの地獄耳だ。いやでも別に邪な想像も妄想もインプレッションもしてないんだけどね、本当だよ。喫茶店員嘘ツカナイ。

 

「つまりウチで働くってことですね。でも人手は足りてるのでココアさんは何もしなくても結構です」

 

「いきなりいらない子宣言されちゃった……」

 

「あ、なら甘兎庵で働きます?給金は弾みますよ?」

 

「お前はいい加減に自重を覚えろよ……」

 

全くもって誤解である、僕はココアさんが落ち込んでたから励ましの為に冗談半分で声を掛けただけである。決して可愛い看板娘で集客率アップとかそういうのを狙った訳ではない、決して。

 

しかし意外にもココアさんは僕の発言に目をぱちくりとさせた。

 

「あまうさあん?何だか高級料亭みたいな名前だね……!」

 

「確かにここよりはベターな店ですけど基本的に普通の喫茶店です」

 

と、僕の発言が琴線に触れたのか目をぐわっとさせてチノが反応した。

 

「ラビットハウスの方が万倍良いです……!」

 

「そう言えるのも今の内だよチノソン君、何故ならこの街の喫茶店という喫茶店は全て甘兎の手中に置かれるんだからね!」

 

ついでに僕がCEOになったら世界の甘兎として抹茶業界を牛耳るまである。こういう夢一つとってもラビットハウスとは格が違うのさ格が。

 

「なにおう……ラビットハウスだってこれから大きくなります……!」

 

「その意気じゃチノ」

 

「二人って仲良いんだね!……ってアレ?今うさぎが喋ったような?」

 

「まあ仲は良いんじゃないか?多分。……後うさぎは気のせいだ」

 

「そっか〜流石にうさぎが喋るわけないもんね」

 

よく見るとリゼさんが微妙に冷や汗を流してるのはご愛嬌だろう。と言うかココアさんはこれからラビットハウスの住人になるんだし、それを隠し通すのは無理だと思うんだけど……。

 

「そうだ、こうなったら今度勝負です……!甘兎庵とラビットハウスの雌雄に決着を付けるんです……!」

 

「それは名案だね、これで漸く世間的に甘兎庵の方が優れた喫茶店と言うことを証明できるし」

 

「言ってれば良いです、何だろうと勝者はラビットハウスですから……!」

 

「僕は甘兎庵だよ!負けるわけない!」

 

「わ、私だってラビットハウスです……!負ける事は即ち閉店を意味します……!」

 

「もうこうなったら閉店をチップに勝負しよう、それなら公平でしょ?」

 

「望むところです……!」

 

「ワシは望んでおらん!」

 

ハッ!と、まるで人から咎められ肩を叩かれたようにチノは口をぽかんと開けた。もしかして無意識のうちにこの降りたら負けのチキンレースに参加していたのだろうか?それならば無滑稽にも程があるし何なら笑わざるを得ないんだけど。ハハハハ。

 

「やっぱウサギが喋ってる……!?」

 

「ち、違う!」

 

なんてしょうもないことを考えている内に今度はリゼさんにピンチが迫ってるようだ。流石に二度目となれば物事に鈍感そうなココアさんでも気付くらしい、と言うか実際ティッピーって何で喋るのだろうか?内蔵スピーカー?いやないか、アレでも一応本物のウサギだし。つまりはやはりティッピーは神の使いとか、そういう宗教的な何かなのでは……。

 

なんて思ってると、リゼさんは唐突に僕へアイコンタクトをパチパチと始めてきた。そして僕も仕方なく応じる。

 

『どうにかしろ』

 

『無理です』

 

『二秒で諦めるな!』

 

そう言われても無理なものは無理である、だって喋るんだもん。そのウサギ。ホントなんで?

 

『今だけで良いから頼む……そうだ!もし聞いてくれたら三等兵から一等兵に昇進させてやろう。二階級特進だ』

 

『それを価値ありげに言えるのはリゼさんだけですよ、しかも死んでるし。……まあ分かりました、この不肖金時。貸し1でどうにかしましょう、オーバー』

 

『恩に着る。オーバー』

 

アイコンタクトを終えると、僕は気配を薄めて数秒間身を潜める。つい先程まで会話を交わしてた相手とは言え、僕ならばそれは容易に行えた。まあ日頃から教室でやっているからだろう、ルーチンワークが初めて活きた瞬間だ。

 そして、チノに悟られることなくティッピーを奪取することに僕は見事成功した。

 

しかしチノが気づくのも時間の問題である。なんたって頭の上から約3kgの重みが消えたら誰でも気づく、なので僕はミッションを手早く遂行した。

 

「「……何をするのじゃ!離せ!」きんとってうぁぁぁ……」

 

これはティッピーが如何にも喋りそうなことを予想して、同時に声を当てることでさも僕がアテレコしてるように見せかける作戦である。僕の声真似レベルの高さゆえに出来る、非常に甘兎らしい優雅でスマートなそれである。……後半余計な事を言おうとしたので今思い切りもふもふ(という名の締め付け)をしてるけど。

 少々のハプニングはあったもののココアさんはえっ!と驚きの声を上げる。作戦は成功したようである。

 

「……もしかしてティッピー、金時くんが声当ててたの」

 

「あれ?バレちゃいました?これだけは僕の十八番だったのにな〜いや〜ココアさんは探偵に向いてますね」

 

「えっへん!捜し物から浮気調査までこのココアお姉ちゃんに任せれば間違いなしだよ!」

 

ここまで来ればバレることはこの場ではないだろう。まあどちにせよバレるのは時間の問題な気がするけど。

 

「……何だかココアさんは悪い人に騙されないか心配です」

 

「もう騙されてるぞ。詐欺師に」

 

助けてもらっといてなんだその発言は。おいリゼさん。いやリゼ。

 

「あ、そうでした……あとティッピー返して下さい」

 

「あ、うん」

 

ティッピーを再びチノの頭上にテイクオンさせる。思うんだけどこれのせいで身長が全然伸びないんじゃないだろうか。状態だけ言えば頭に漬物石乗せてるのと同じだし。

 忘れない内にリゼにもアイコンタクトすることにした。

 

『作戦成功、任務から帰還する』

 

『ご苦労だった金時一等兵』

 

『ところで貰った貸し1ですけどもう使いますね、これからリゼさんのこと胡桃かリゼちゃんかリゼのどれかで呼ぼうと思うんですけどどれが良いですか?』

 

『使うの早いし、まず誰だよ胡桃って!』

 

『蔓延る人間をバッタバッタと薙ぎ倒して通り道に血の運河を作るリゼさんと同じで可愛い女子高生です』

 

『何処の世界の女子高生だ!』

 

言わずもがな世紀末のJKである。世紀末だから仕方ない。

 リゼさんは逡巡もせず答えた。

 

『仕方ないな、リゼで良い。何なら敬語も使わなくて良いぞ』

 

『いえ敬語はチノと同じで僕の必需品なので。オーバー』

 

『まあ、ならしょうがないな。オーバー』

 

リゼはやれやれと言った様相で、一息ついて体を解すように腕を上に伸ばした。

 

……果たしてリゼさんにどう思われているのだろう、そんなことを偶に考えてしまう。それは今がそうであるように。リゼさんには悪いが、この感情の内側に恋愛感情などは含有されていない。そもそもこの感情に纏わりつかれるのはリゼさんに限らない、シャロさんや会ったばかりのココアさん、チノにだって抱いている。能動的ではなく受動的に、脳にチリチリとチラ付く。僕はその衝動の正体を知っていた。不安感である。

 

「ではココアさんは二階を上がった右の部屋に、ラビットハウスの制服がある衣装棚があるのでそこで着替えてからまた下りてきてください」

 

「うん、じゃあまた後でね〜」

 

しかしその不安は僕の本質にべっとりと障っているのではなく、その表面にペンキのようにブチ撒けられ、乾いて固まってしまったのだろう。どうしようもなく汚く、暗く、深く。

 

「どうしたんだ金時?そんな似合わない顔して」

 

「……いえ、何でもないです。リゼちゃん」

 

「リゼちゃんは止めろ」

 

僕は宝石のような眩しさを放つ彼女たちを見ながら、自分のそれを呪った。

 

 

 

 




実はほんのりシリアスがあるのよこの作品、誰も知らなかったかもしれないけど
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